SSブログ

アメリカにおけるヒドロキシクロロキンの処方動向 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
クロロキンの処方増加.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2020年7月6日に掲載されたレターですが、
2020年2月以降のアメリカにおける。
ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンの処方動向を見たものです。

まだ治療の確立していないような病気の場合、
「この薬に効果があるかも…」というような報道や発表があると、
どうしても一般の方は、
「その薬が欲しい」という気持ちになりますし、
医療者もそうした報道に振り回されてはいけない、
というようには思いながらも、
結局は右往左往するという事態になりがちです。

日本においても、
ステロイド吸入剤のオルベスコや、
インフルエンザ治療薬のアビガンが、
「新型コロナウイルス感染症に効果があるらしい」
というような報道があり、
その直後には「あの薬が欲しい」というような患者さんが、
医療機関の外来には列をなすという感じになりました。

今に至るまで、
結果としてオルベスコもアビガンも、
「ひょっとしたら効果があるかも」という程度を超える知見はなく、
報道も出なくなると、
一般の方の熱意も薄れるという結果になります。

日本においては患者さんが医療機関に殺到したとしても、
話題になった薬は、
直ちに医療品の仲卸のレベルで、
ストップが掛かるような格好になり、
たとえ注文しても手に入らない状態になります。
アビガンは元々規制が掛かっていましたし、
オルベスコも一時は市場から消えました。

これが良いことであるのか悪いことであるのかは、
何とも言えないところがあるのですが、
皆保険制度の日本においては、
少なくとも医療保険の範囲においては、
簡単にそうした統制と管理が掛かるような仕組みになっているのです。

その点アメリカは皆保険ではなく、
もっと薬の処方は経済的な動向に左右されるので、
報道されたような薬や治療は一気にその需要が高まります。

今回のデータは、
新型コロナウイルスの特効薬の可能性があるとして、
一時期非常に注目された、
抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンと、
抗菌剤のアジスロマイシンの、
2020年2月から3月に掛けての処方動向を解析したものですが、
2つの薬剤とも2020年の2月までは、
ほぼ毎月同じ量の処方が継続されていたものの、
2020年の2月から3月の1ヶ月においては、
ヒドロキシクロロキンの処方量は30万人分普段より増加し、
ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンの両方が処方された人も、
およそ93000人増加していました。

これが報道の効果なのです。

ヒドロキシクロロキンの新型コロナウイルス感染症に対する有効性は、
ブログでも何度もご紹介しているように、
少数の肯定的データと多くの否定的なデータがあって一定しておらず、
現時点で明確にガイドラインなどで推奨されている、
ということもありません。
その使用は敢くまで臨床研究のレベルを超えるものではないのですが、
実際には報道につられた多くの患者や医療者が、
その薬に群がり、
処方は無防備に拡大してしまったのです。

これは日本でも当然起こり得る事態で、
アメリカより統制経済的な部分が日本の医療にはあるので、
そこまで顕在化はしていませんが、
他山の石とするべき事例ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(1)