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新型コロナウイルス感染症へのクロロキン製剤の治療効果(死亡リスク低下の肯定的データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
クロロキンは有効?論文.jpg
International Journal of Infectious Diseases誌に、
2020年7月1日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
クロロキン製剤の有効性を検証したアメリカ発の論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在している薬の1つが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用と、
ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、
抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、
併用されることがあるのは、
アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、
その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、
少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、
という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、
同様の結果は再現されていません。

その後幾つかの臨床データが報告され、
その多くはブログでも記事にしていますが、
いずれもクロロキン製剤の明確な有効性は証明されていません。
むしろ心疾患や不整脈など、
患者さんの予後に与える悪影響が大きい、
というような報告が複数あるほどです。
ただ、Lancet誌の論文は元データに、
捏造の可能性が指摘されて取り下げになっているように、
論文自体の問題もあるなど、
問題は複雑で一筋縄ではゆきません。

前回のクロロキンについての記事では、
「もうこの薬は新型コロナウイルス感染症に対する治療薬としては、
難しいのではないか」
という認識であったのですが、
今回アメリカから、
観察研究ですが肯定的なデータが発表されたのです。
それも入院中の死亡リスクが6割以上低下したという、
ビックリするような著明な効果です。

これはミシガン州の大規模な医療グループに属する、
6か所の病院で入院治療が行われた、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者データを、
後からまとめて解析したものです。

使用されたヒドロキシクロロキンは、
初日のみ1日800㎎で2日目から5日目まで400㎎が使用され、
併用もしくは単独でアジスロマイシンが、
初日は500㎎で2から5日目までは250㎎が使用され、
未使用との比較が行われています。

対象は18歳以上の2541名で、
入院期間の中央値は6日、
観察期間の中央値は28.5日でした。
患者のトータルな入院中死亡率は18.1%で、
クロロキンやアジスロマイシン未使用の死亡率は26.4%、
ヒドロキシクロロキン単独使用群の死亡率は13.5%、
アジスロマイシン単独群の死亡率は22.4%、
ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン併用群の死亡率は20.1%でした。

予後に影響する他の因子を補正した結果として、
未使用と比較して、
ヒドロキシクロロキンの使用は院内死亡率を66%、
ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンの使用は院内死亡率を71%、
それぞれ有意に低下させていました。

つまり、
ヒドロキシクロロキン単独もしくはアジスロマイシンとの併用を、
入院中に行うことにより、
新型コロナウイルス感染症の死亡リスクが有意に低下した、
という結果です。

それでは、
有効性が疑問視されていたヒドロキシクロロキンは、
矢張り新型コロナウイルス感染症に有効なのでしょうか?

個人的には、
これだけではちょっとなあ…
という感じはあります。

後からカルテを解析して比較しただけの観察研究ですし、
データの解析も荒いという気がします。
基本的に単独の医療グループのみのデータで、
かなり恣意的に治療群が設定された可能性もあり、
色々な意味でバイアスが掛かっているような気がします。
当該の薬剤が未使用の入院患者の死亡率が、
26.4%というのは、
あまりに高い数値ではないでしょうか?
一体どのような患者群にどのような治療が行われていたのか、
かなり懐疑的になる数値です。

そんな訳で、
仮にこのデータを元にクロロキンが再評価されるとすれば、
何か結論ありきのデータのようにも思えます。

個人的にはあまり期待は持てないように思いますが、
それでもなるべく予断は持たないようにしつつ、
慎重に今後の知見の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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