新型コロナウイルス感染と吸入ステロイド [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
American Journal of Respiratory and Care Medicine誌に、
2020年7月1日発表された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
吸入ステロイドの影響についての論文です。
新型コロナウイルス（SARS-CoV-2）の人体への感染では、
ウイルスの突起が細胞のACE2を受容体として結合し、
それからセリンプロテアーゼ（TMPRSS2）という酵素の働きを借りて、
細胞の中に入ります。
感染経路がこれだけなのか、
という点については別の知見もありますが、
いずれにしてもACE2とTMPRSS2が発現している細胞では、
感染が成立し得る、ということは間違いがありません。
当初下気道の細胞のみに主に感染が起こる、
という見解が主体でしたが、
その後上気道や腸管の感染が成立しないと、
説明の付かないような現象が認められ、
研究が重ねられて知見は修正されました。
ただ、そうしたデータの多くは、
ACE2受容体の発現のみを見ているものなので、
それが感染することと同じではありません。
新型コロナウイルス感染症の重症化は、
その多くが肺炎の進行を契機として起こっているので、
矢張り重要であると想定されるのは、
肺を含む下気道の細胞へのウイルスの感染です。
これは証明された事実ではありませんが、
下気道の細胞におけるACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量が多いと、
それだけ病状も重症化することが想定されます。
気管支喘息の患者さんは、気道の感染を併発し易く、
感染により喘息症状も重症化しますから、
新型コロナウイルス感染症の重症化も来しやすいと想定されます。
気管支喘息の治療には吸入ステロイドが基礎薬として使用されますが、
ステロイドはアレルギー性の炎症を抑制する一方、
免疫を抑えることによって、
感染はむしろ罹り易くなるという可能性も示唆されます。
しかし、シクレソニド（商品名オルベスコ）という吸入ステロイドは、
日本の一部の研究者が、
新型コロナウイルスの抗ウイルス作用があるとして、
患者に使用して一定の有効性があるとする症例報告もあります。
気管支喘息の患者さんの下気道のACE2とTMPRSS2とは、
喘息のない人と比較してその遺伝子発現量に違いがあるのでしょうか？
吸入ステロイドの使用は、
その発現量に影響を与えるのでしょうか？
そうした点はまだ結論が得られていないのです。
今回の研究では、
欧米で施行された気管支喘息患者の臨床研究のデータを活用して、
330名の気管支喘息の患者さんと、79名の健康なコントロール群とで、
喀痰の検体でACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量を比較検証しています。
また、代表的な風邪症候群の原因ウイルスである、
ライノウイルスの感染に必要な接着因子のICAM-1の遺伝子発現も、
併せて測定しています。
その結果、
喀痰の検体での遺伝子発現量は、
TMPRSS2よりACE2の方が少なく、
喘息患者でもコントロールでも差はありませんでした。
喘息患者の中では、
ACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量は、
男性に多く、アフリカ系アメリカ人に多く、
糖尿病があると多いという傾向が認められました。
以前ACE2の発現量が、
降圧剤のACE拮抗薬やARBの使用者で増加する、
という報告がありましたが、
今回の同様の検証では、
薬剤の使用の有無は遺伝子発現量に変化を認めていませんでした。
吸入ステロイドを使用している喘息患者では、
ACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量は、
未使用者と比較して低下していました。
一方で強力なステロイドであるトリアムシノロン（レダコート）使用者では、
発現量の低下は認められませんでした。
ライノウイルスの感染に関連するICAM-1遺伝子発現は、
喘息患者では増加していましたが、
吸入ステロイド使用などとの関連は明確ではありませんでした。
これは喘息患者のみの検証で、
喀痰の細胞成分における遺伝子発現量を調べただけのものなので、
実際に新型コロナウイルス感染症の患者において、
同じことが起こっているとは言えない点に注意が必要ですが、
仮にACE2とTMPRSS2が多いことが、
感染のしやすさや重症化と関連しているとすると、
吸入ステロイドの使用はその減少に結び付いているので、
感染のコントロールにも有用な可能性が高いということになります。
大変興味深いデータで今後の検証を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
American Journal of Respiratory and Care Medicine誌に、
2020年7月1日発表された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
吸入ステロイドの影響についての論文です。
新型コロナウイルス（SARS-CoV-2）の人体への感染では、
ウイルスの突起が細胞のACE2を受容体として結合し、
それからセリンプロテアーゼ（TMPRSS2）という酵素の働きを借りて、
細胞の中に入ります。
感染経路がこれだけなのか、
という点については別の知見もありますが、
いずれにしてもACE2とTMPRSS2が発現している細胞では、
感染が成立し得る、ということは間違いがありません。
当初下気道の細胞のみに主に感染が起こる、
という見解が主体でしたが、
その後上気道や腸管の感染が成立しないと、
説明の付かないような現象が認められ、
研究が重ねられて知見は修正されました。
ただ、そうしたデータの多くは、
ACE2受容体の発現のみを見ているものなので、
それが感染することと同じではありません。
新型コロナウイルス感染症の重症化は、
その多くが肺炎の進行を契機として起こっているので、
矢張り重要であると想定されるのは、
肺を含む下気道の細胞へのウイルスの感染です。
これは証明された事実ではありませんが、
下気道の細胞におけるACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量が多いと、
それだけ病状も重症化することが想定されます。
気管支喘息の患者さんは、気道の感染を併発し易く、
感染により喘息症状も重症化しますから、
新型コロナウイルス感染症の重症化も来しやすいと想定されます。
気管支喘息の治療には吸入ステロイドが基礎薬として使用されますが、
ステロイドはアレルギー性の炎症を抑制する一方、
免疫を抑えることによって、
感染はむしろ罹り易くなるという可能性も示唆されます。
しかし、シクレソニド（商品名オルベスコ）という吸入ステロイドは、
日本の一部の研究者が、
新型コロナウイルスの抗ウイルス作用があるとして、
患者に使用して一定の有効性があるとする症例報告もあります。
気管支喘息の患者さんの下気道のACE2とTMPRSS2とは、
喘息のない人と比較してその遺伝子発現量に違いがあるのでしょうか？
吸入ステロイドの使用は、
その発現量に影響を与えるのでしょうか？
そうした点はまだ結論が得られていないのです。
今回の研究では、
欧米で施行された気管支喘息患者の臨床研究のデータを活用して、
330名の気管支喘息の患者さんと、79名の健康なコントロール群とで、
喀痰の検体でACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量を比較検証しています。
また、代表的な風邪症候群の原因ウイルスである、
ライノウイルスの感染に必要な接着因子のICAM-1の遺伝子発現も、
併せて測定しています。
その結果、
喀痰の検体での遺伝子発現量は、
TMPRSS2よりACE2の方が少なく、
喘息患者でもコントロールでも差はありませんでした。
喘息患者の中では、
ACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量は、
男性に多く、アフリカ系アメリカ人に多く、
糖尿病があると多いという傾向が認められました。
以前ACE2の発現量が、
降圧剤のACE拮抗薬やARBの使用者で増加する、
という報告がありましたが、
今回の同様の検証では、
薬剤の使用の有無は遺伝子発現量に変化を認めていませんでした。
吸入ステロイドを使用している喘息患者では、
ACE2とTMPRSS2の遺伝子発現量は、
未使用者と比較して低下していました。
一方で強力なステロイドであるトリアムシノロン（レダコート）使用者では、
発現量の低下は認められませんでした。
ライノウイルスの感染に関連するICAM-1遺伝子発現は、
喘息患者では増加していましたが、
吸入ステロイド使用などとの関連は明確ではありませんでした。
これは喘息患者のみの検証で、
喀痰の細胞成分における遺伝子発現量を調べただけのものなので、
実際に新型コロナウイルス感染症の患者において、
同じことが起こっているとは言えない点に注意が必要ですが、
仮にACE2とTMPRSS2が多いことが、
感染のしやすさや重症化と関連しているとすると、
吸入ステロイドの使用はその減少に結び付いているので、
感染のコントロールにも有用な可能性が高いということになります。
大変興味深いデータで今後の検証を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
