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ペニシリンアレルギーの既往と抗菌剤の選択傾向 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ペニシリンアレルギーと代替薬リスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に2020年6月29日にウェブ掲載された、
抗菌剤の使用傾向についてのレターです。

抗菌剤の乱用が問題となっていて、
その適正使用のガイドラインが発表されるなど、
国や学会、専門機関も、
この問題には最近非常に熱心です。

副反応や患者さんの予後への影響、
という観点から言うと、
抗菌剤としては狭域のペニシリンが、
多くの場合最も適正な薬と考えられています。
抗菌剤の乱用による環境への影響として、
問題となることが多いのが、
多くの抗菌剤が効かない、
多剤耐性菌の出現ですが、
その点においても、
狭域のペニシリンがその適切な使用においては、
最も耐性菌を生じることが少ないと、
そう考えられています。

たとえば、
溶連菌による扁桃炎や、
合併症のない尿路感染症、
手術後の感染予防などにおいて、
第一選択となるのはペニシリンの使用です。

ただ、ここで問題となるのは、
ペニシリンには特有のアレルギーがあり、
その使用により皮疹などが出現することがあることです。

一度でもペニシリンの使用により、
皮疹などが出現した場合には、
ペニシリンアレルギーの存在を疑って、
その後抗菌剤の使用が必要な場合には、
ペニシリン以外の薬が選択されることが一般的です。

ただ、発熱などの症状がある時には、
ウイルス性の湿疹や蕁麻疹なども発症しやすいので、
患者さんが「ペニシリンで湿疹が出た」と言ったり、
紹介状などの病歴のところに、
「ペニシリンアレルギー」と記載をされていても、
実際にはそうではない可能性もあるのが実際です。

上記のレターにおいては、
アメリカの複数の急性病院の入院患者データを活用して、
ペニシリンアレルギーの病歴の頻度と、
その場合の抗菌剤の処方動向を検証しています。

106の病院のトータル10992名の患者データを解析したところ、
その16%に当たる1741名には、
ペニシリンアレルギーの記録がありました。
その45%は皮膚症状のみの報告でした。

ペニシリンアレルギーの記録がない患者と比較して、
ペニシリンアレルギーの記録のある患者では、
ペニシリンが属するβラクタム薬以外の抗菌剤が使用される頻度が、
1.94倍(95%CI:1.74から2.17)有意に増加していて、
狭域のβラクタム系抗菌薬が使用される頻度は、
65%(95%CI:0.31から0.41)有意に低下していました。
βラクタム薬以外の抗菌剤としては、
クリンダマイシンの使用頻度が、
5.34倍(95%CI:3.99から7.13)と、
特に増加していました。

クリンダマイシンは薬剤耐性菌が出現し易い薬として知られていて、
デフィシル菌による腸炎のリスクを高めるとされています。

つまり、
ペニシリンアレルギーの既往があるとされた患者さんでは、
結果として不適切な抗菌剤の使用が、
行なわれる可能性が高い、
ということになります。

それでも、
実際にペニシリンアレルギーが間違いのないものであれば、
この選択はやむを得ない部分があるのですが、
実際には16%という高い頻度で、
ペニシリンアレルギーが発症するとは考えにくく、
その多くは、たまたまペニシリンを使用した際に、
皮疹などが出現したに過ぎない、
という事例ではないかと思われます。

薬剤に対するアレルギーを重要視して、
薬の選択を行なうことは、
患者さんを有害事象から守るために重要なことですが、
確実ではないアレルギーを重要視することにより、
却って不適切な抗菌剤の使用が増えるようでは、
それは本末転倒であるようにも思います。

この問題は簡単に解決されるものではありませんが、
今回の問題提起がより詳細に検証され、
ペニシリンアレルギーの病歴記載のある患者さんの、
抗菌剤の選択とアレルギーの確認における、
より適切な対処方針が検討されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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