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オピオイドによる副腎機能低下 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オピオイドによる副腎不全.jpg
2019年のBMJ Case Rep.誌に掲載された、
痛み止めとして広く使用されているオピオイドによる、
見逃されがちな副作用についての症例報告です。

オピオイドというのは、
オピオイド受容体に結合して、
強い鎮痛効果を示す一連の薬剤の総称で、
その代表は麻薬でもあるモルヒネですが、
医療用としては多くの薬剤が鎮痛目的で使用され、
以前はその用途は癌の痛みに限られていましたが、
オピオイドとしての作用が比較的弱い薬剤は、
癌の痛み以外にも使用されるようになっています。

その副作用として多いのは、
便秘、吐き気、呼吸抑制などですが、
頻度は少ないものの無視出来ない副作用の1つが、
副腎皮質の機能低下です。

オピオイドには脳下垂体のACTHというホルモンの、
分泌を抑制するような作用があると指摘されています。
ACTHは副腎皮質刺激ホルモンですから、
その分泌が低下することにより、
副腎からのステロイドホルモンであるコルチゾールの分泌が低下し、
副腎機能が低下すると考えられているのです。

副腎皮質機能低下症は、
通常はだるさ程度の症状のみですが、
身体に強いストレスが加わると、
血圧低下などの強い症状を呈します。
食前の低血糖症状も、
副腎皮質機能低下症の症状の1つです。

事例は18歳の女性で、
Hollow visceral myopathyという難病に苦しんでいました。
このあまり適当な翻訳語のない病気は、
消化管の運動機能異常による腸閉塞症の1つです。
腸の平滑筋細胞に変性が起こり、
広汎な消化管の運動障害により腸閉塞を繰り返し、
食事を摂ることが困難となるのです。

患者は急性の小腸閉塞のため入院となり、
手術が予定されたため強いオピオイドである、
フェンタニルが注射で投与されました。
それからトラマドールという飲み薬のオピオイドが、
術後に6日間投与されました。

すると、その間に2回の食前低血糖発作が出現しました。

血糖は異常低値を示しましたが、
血液中のインスリン濃度は感度以下で、
朝8時の血液のコルチゾール濃度は3.95μg/dLと低値で、
ACTHも10pg/mlと低下していました。
迅速ACTH試験でACTHの注射によるコルチゾールの反応をみたところ、
コルチゾールの反応は正常で、
このため低血糖の原因は副腎皮質機能低下で、
その原因は副腎ではなく下垂体の可能性が高い、
というように想定されました。

そこでトラマドールの使用を中止したところ、
24時間後にはコルチゾール濃度は正常化し、
低血糖発作の発症もなくなりました。
そして、フェンタニルを再度注射したところ、
コルチゾールの低下が再び認められました。

こうした検査結果より、
今回の食前低血糖は、
オピオイドによる副腎機能低下によるものと、
診断されました。

オピオイドによる副腎機能低下は、
投与後早期に起こる一方で、
原因薬剤を中止すれば、
速やかに改善するという特徴があります。

日本での症例報告では、
オピオイドを中止せずに、
コルチゾール製剤の補充で経過をみた、
という事例が報告されていますが、
個人的にはそれはあまり適切な対応とは言えず、
矢張りはっきりと副腎機能低下の兆候が認められた場合には、
他剤への変更を含めて、
オピオイドを中止するのが望ましいように考えます。

今日はオピオイドの、
あまり知られていない副作用の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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