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新型コロナウイルスの重症化と遺伝子との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナ重症化リスクと遺伝子.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年6月17日ウェブ掲載された、
呼吸不全を来した重症の新型コロナウイルス感染症と、
遺伝子多型との関連についての論文です。

今非常に注目されている知見の1つです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の初期には、
この病気の8割は軽症、
というような言い方が良くされました。
その後無症候性の感染者が水面下には多く存在している、
というような知見が明らかになり、
それほど感染の重症化という問題は、
簡単ではないというのが現状の認識かと思います。
ただ、この病気が大多数は軽症か無症状でありながら、
一部が重症化して急性の呼吸不全を来し、
そうなると高い致死率を呈するというのは、
一貫した特徴であると言えます。

それでは、
同じように感染しても一部が重症化するのは何故でしょうか?

小児が重症化しにくいことは間違いがありませんが、
同じ年齢層でも重症化は一部です。
年齢のみでは説明困難です。

ウイルスの一部が強毒性に変異したのではないか、
というような説もありますが、
今のところ証明はされていません。

そこで1つ想定されるのは、
患者の側の体質などの因子です。

今回の検証では、
SNPと呼ばれる点遺伝子変異を広範に検証することにより、
新型コロナウイルスの重症化と、
患者の遺伝子背景との関連を比較しています。

対象となっているのは、
イタリアとスペインで新型コロナウイルスに感染し、
重症化して呼吸不全に至った,
イタリアの835名とスペインの775名で、
それぞれ1255名と950名のコントロールと比較して、
大規模な遺伝子変異の解析を行なっています。

その結果、
有意な重症感染リスクの増加が認められたのは、
第3染色体短腕のrs11385942という変異と、
第9染色体長腕のrs657152という変異でした。

このうち第3染色体の変異は、
重症感染のリスクを1.77倍(95%CI:1.20から1.47)、
第9染色体の変異は、
重症感染のリスクを1.32倍(95%CI:1.20から1.47)、
それぞれ有意に増加していました。

第3染色体の変異については、
複数の遺伝子に関連があり、
その中にはウイルスが感染する際の受容体となるACE2に関連する遺伝子や、
サイトカインの産生に関連する遺伝子などが認められました。

第9染色体の変異については、
ABO血液型の遺伝子と同じ部位の変異で、
血液型毎の解析を行うと、
A型は他の血液型と比較して、
重症感染のリスクが1.45倍(95%CI:1.20から1.75)有意に増加しており、
逆にO型は他の血液型と比較して、
重症感染のリスクが35%(95%CI:0.53から0.79)有意に低下していました。

この血液型の新型コロナウイルスの感染リスクについては、
別個の臨床データや疫学データもあり、
A型が罹り易く、O型が罹り難い、
と言う点においてはほぼ一致しているので、
そのメカニズムはともかくとして、
そうした傾向のあること自体は間違いがなさそうです。

この遺伝子変異の多型と感染の重症化との関連が、
どの程度の重要性があるかは、
今のところはまだ不明ですが、
こうした検証の中から、
感染予防や治療への知見が得られる場合もあるので、
今後の検証の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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