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無症候性心筋梗塞の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務仕事などする予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
無症候性心筋虚血.jpg
British Medicl Journal誌に2020年5月7日ウェブ掲載された、
急性期には診断されなかった心筋梗塞の、
予後に与える影響についての論文です。

心筋梗塞というのは、
心臓を栄養する冠動脈という血管が、
血栓や解離などによって閉塞し、
その末梢の領域に血液が流れなくなるという病気です。
急性期に発見されれば、
緊急のカテーテル治療を行い、
血流が再開することも可能ですが、
一定時間以上血液が流れない状態が持続すれば、
その部位の心臓の筋肉は壊死してしまい、
その部位によっては命に関わることもあります。

通常心筋梗塞はその発症の時に、
持続する強い胸の痛みを生じますから、
その発生に気付かないことはないように思います。
しかし、実際には典型的な症状がなく、
心筋梗塞を発症することがしばしばあり、
報告によると心筋梗塞の3分の1から2分の1は、
本人がそうと気付かないうちに起こっている、
というデータもあります。
特に糖尿病の患者さんや高齢者では、
自律神経障害などのため、
痛みを感じにくい状態となっており、
そのためこうした気付かないうちに発生する、
心筋梗塞の頻度が高いと考えられています。

こうした急性期に診断されなかった心筋梗塞は、
その後に別の理由で測定された心電図において、
異常Q波と呼ばれる所見があって発見されることがあり、
最近では心臓の造影MRI検査によって、
心筋梗塞による障害部位が、
後から見付かることもあります。

通常急性心筋梗塞に罹患すると、
その後の再発のリスクや、
心血管疾患による死亡のリスクなどは高まるとされています。
そのために、
心筋梗塞に一度罹った患者さんでは、
長期の医学的管理や、
予後改善のための治療が必要となります。

それでは、こうした罹患後のリスクの増加は、
急性期に気付かれなかった心筋梗塞においても、
同じように認められるものなのでしょうか?

その点については、
これまでにあまり明確なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
システマティック・レビューとメタ解析という手法を用いて、
この問題の検証を行っています。

これまでの30の臨床研究に含まれる、
トータルで253425名の患者データをまとめて解析した結果、
急性期に診断されず、後から心電図で判明した心筋梗塞は、
その後の総死亡のリスクを1.5倍(95%CI: 1.30から1.73)、
心血管疾患による死亡リスクを2.33倍(95%CI:1.66から3.27)、
その後の心血管疾患発症リスクを1.61倍(95%CI: 1.38から1.89)、
それぞれ有意に増加していました。

急性に診断されず、後からMRIで診断された心筋梗塞は、
その後の総死亡のリスクを3.21倍(95%CI:1.43から7.23)、
心血管疾患による死亡リスクを10.79倍(95%CI:4.09 から28.42)、
その後の心血管疾患発症リスクを3.23倍(95%CI: 2.10から4.95)、
それぞれ有意に増加していました。

このように、
心電図とMRIのお診断能には差があるので、
その結果には違いがありますが、
急性期に診断される心筋梗塞と同等のリスクが、
急性期には診断されずにその後に無症状で見付かる心筋梗塞にも、
存在していると考えた方が良いようです。

ただ、現状ではそうした心筋梗塞に対して、
どのような予防的介入が有効であるのか、
という点についてのデータは殆どありませんし、
健診などで気付かれなかった心筋梗塞を発見することが、
本当に意味のあることであるかどうかも、
証明はされていません。

今後そうした点についての検証が急務であるように思いますし、
その上で急性期に診断されなかった心筋梗塞の、
今後の対応についての指針が示されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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