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新型コロナウイルス感染における免疫の持続期間 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスにおける抗体の持続期間.jpg
Nature Medicine誌に2020年6月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
抗体の持続期間を検証した論文です。

これはほぼ予想されていた現象ですが、
改めて提示されると矢張りショッキングで、
抗体を測定することで、
新型コロナウイルスに対する免疫の有無を推定しようという、
現状の考え方に大きな疑問を投げかける知見です。

ウイルス感染に対して人間の身体は、
そのウイルスに特異的に結合する抗体を産生し、
その抗体価が一定レベルに維持されると、
その後の再感染は阻止されます。

これがたとえば麻疹(はしか)のような病気の場合には、
一度感染して血液のIgG抗体が上昇すると、
基本的にはその後一生麻疹に罹ることはありません。
終生免疫が獲得されるのです。

一方でインフルエンザウイルスの場合には、
ある特定の型のウイルスに感染して抗体が上昇すると、
その後1から2年程度は、
同じ型のインフルエンザには罹りませんが、
その後は再び感染するようになります。
つまり抗体が感染を防御するレベルまで上昇している期間は、
麻疹のように長くはないのです。

実際には免疫には液性免疫と細胞性免疫とがあり、
抗体で確認出来るのは液性免疫だけですが、
上記の説明はその点を簡略化しています。

それでは、新型コロナウイルスに一度感染すると、
どのくらいの期間その抗体は、
感染防御レベルを維持するのでしょうか?

今回の研究では中国において、
濃厚接触者のRT-PCR検査で陽性となったものの、
その後2週間の病院隔離期間中に症状が見られなかった、
無症候性感染者37名を、
軽症で有症状の感染者37名と、
年齢性別などをマッチングさせて、
回復期の抗体上昇とその後の抗体価の経過を観察したものです。

感染確認からRT-PCRでウイルスが陰性となるまでの期間は、
有症状の感染者が中間値で14日に対して、
無症状感染者は19日で、
無症状である方が、
ウイルスが陰性になるまでの期間はより長くなっていました。
炎症性サイトカインなどの上昇は無症状より有症状の方が高く、
そのために免疫反応も無症状では低くなることが示唆されます。

ウイルス特異的IgG抗体は、
退院後8週間までには、
無症状感染者の93%、有症状感染者の97%で低下していました。
抗体価は中間値で、
無症状感染者は71.1%、
有症状感染者は76.2%低下していました。

退院後8週間までに、
無症候性感染者の40.0%、
有症状感染者の12.9%で、
IgG抗体は陰性化していました。

これをより感染防御の指標とされる、
中和抗体価で検証すると、
トータルなIgG抗体よりその低下幅は少なかったのですが、
それでも退院後8週までに、
無症状感染者の81%、
有症状感染者の62%で中和抗体の低下が認められました。
その抗体価の低下率の中間値は、
無症状感染者で8.3%、
有症状感染者で11.7%低下していました。

このように回復後2か月というかなり早期の時点で、
感染者の多くの抗体価は低下していて、
特に無症状感染者の4割では、
その時点でIgG抗体は陰性化していました。

勿論免疫は抗体価のみで判断出来るものではなく、
抗体が低下しても、
感染自体は一定レベル防御されている可能性はあります。
中和抗体の低下はトータルなIgG抗体より少ないという点も考えると、
回復後2か月で完全に免疫がなくなる、
というようには考えない方が良さそうです。

ただ、同じβコロナウイルスでも、
SARS原因ウイルスやMERS原因ウイルスでは、
同様の検証でIgG抗体は1年程度は陽性化していることが、
確認されていますから、
それと比較しても、
今回の新型コロナウイルスに対する人間の抗体産生は、
如何にも弱く持続も短い、
ということは間違いがなさそうです。

先日スイスで経時的に抗体価を測定したデータを、
ご紹介しましたが、
そこでは3週まで上昇した抗体価が、
4週目には低下して5週目には再度上昇する、
という奇異な動きをしていました。
抗体価が無症状感染者では早期から低下する、
という現象が起こっていると考えると、
このデータも説明が可能になりそうです。

現行不特定多数の住民の抗体価を測定して、
ウイルス感染の広がりを評価しようという試みや、
抗体価が陽性である無症状者であれば、
もう免疫があるので再感染はすぐにはしない、
というような判断がされていますが、
仮に今回のデータが間違いのないもので、
回復後2か月以内に抗体が陰性化する事例も少なくはないとすると、
そうした試みや判断は、
大きな誤りである可能性があります。

個人的には今回のデータは事実に近く、
新型コロナウイルスの免疫は特に無症状感染者では、
長くは持続しないという印象を持っていますが、
これは多くの風邪症候群のウイルスと同じ性質を持っているということです。
何度も繰り返し感染することにより、
症状はより軽度になり、
免疫は徐々に強化されて、
罹りにくくなるのだと思います。
ただ、厄介なことはこの病気が軽視出来ない重症化率と致死率を、
持っているということで、
どうやら有効で安全なワクチンの開発に成功するまでは、
現状の古典的なマスクなどの予防法と、
その良し悪しは置いておくとして、
感染者の経路や接触者をトレース出来るような、
社会生活の管理化でしのぐしかないのが、
現状であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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