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アジスロマイシンとクラリスロマイシンの出血系合併症比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アジスロマイシンとクラリスロマイシンの出血系合併症比較.jpg
2020年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
抗菌剤の使用が抗凝固剤の使用に与える影響についての論文です。

心房細動というのは、
生涯で5人から3人に1人は発症する言われるほど、
年齢と共に多く見られる不整脈です。

この不整脈が持続することによる一番の問題は、
心臓の中で血栓が出来やすくなり、
それによって起こる脳塞栓症などの塞栓症の発症です。

この脳塞栓症などの予防のために、
抗凝固剤と呼ばれる薬剤が使用されています。

また、下肢などの静脈の血栓塞栓症があると、
こちらは肺の動脈に血栓が飛んで、
肺塞栓症という病気になり呼吸困難などが起こることがあります。
このため、こうした病気の時にも抗凝固剤は使用されます。

経口抗凝固剤というのは、
血液が固まる仕組みの一部を抑えることによって、
脳塞栓症や肺血栓塞栓症などの、
血栓塞栓症を予防するために使用されている薬です。

歴史があり現在でも使用されているのがワルファリンで、
最近では直接作用型経口抗凝固剤として、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンなど多くの薬剤が、
その利便性から広く臨床で使用されています。

こうした薬のリスクとして、
最も注意するべきなのは、
消化管出血や脳内出血などの出血系の合併症です。
特に高齢者では入院を要するような重篤の事例になることが多く、
75歳を超えると2倍に増えるという報告もあります。

この出血系の合併症のリスクは、
薬の代謝に影響を与えるような、
他の薬剤の使用で増加することが知られています。

直接作用型経口抗凝固剤の代謝は、
肝臓のCYP3A4という薬物代謝酵素と、
小腸や肝臓にあるP糖タンパク質(Pgp)という、
薬剤を細胞外に汲み出す薬物排出トランスポーターによって、
主に行われています。
直接作用型経口抗凝固剤のうち、
ダビガトランはCYP3A4では代謝を受けず、
主にPgpで代謝されます。
アピキサバンとリバロキサバンはCYP3A4で主に代謝されます。

クラリスロマイシン(商品名クラリス、クラリシッドなど)は、
上気道感染やピロリ菌の除菌などに、
広く使用されているマクロライド系の抗菌剤ですが、
CYP3A4とPgpの両者の阻害作用を持ち、
触接作用型抗凝固剤と併用すると、
その代謝を抑制することが知られています。
クラリスロマイシンの併用により、
抗凝固剤の血液濃度は、
20から100%増加した、というデータもあります。

そして、実際に抗凝固剤とクラリスロマイシンの併用により、
出血系の有害事象が増加することを示唆するデータも、
これまでに複数存在しています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)は、
クラリスロマイシンと同じマクロライド系抗菌剤で、
ほぼ同じ用途に使用されますが、
その代謝はCYP3A4やPgpには拠らない、
という特徴があります。

仮にクラリスロマイシンの併用による出血リスクの増加が、
抗凝固剤の代謝を妨害しているためだとすると、
そうした作用のないアジスロマイシンの使用では、
そうしたリスクの増加はない筈です。

そこで今回の研究では、
カナダのオンタリオ州において、
66歳以上で直接作用型経口抗凝固剤の、
ダビガトラン、アピキサバン、リバロキサバンのいずれかを内服中に、
クラリスロマイシンを使用した6592名と、
アジスロマイシンを使用した18351名を抽出し、
その使用後30日以内の、
入院を要した消化管出血もしくは脳内出血の発症リスクを、
比較検証しています。

その結果、
抗凝固剤使用中にアジスロマイシンを使用した場合と比較して、
クラリスロマイシンを使用すると、
その後の出血系合併症で入院するリスクは、
アジスロマイシン群が0.43%に比較して、
クラリスロマイシン群は0.77%で、
クラリスロマイシン使用群の方が1.71倍(95%CI:1.20から2.45)
有意に増加していました。

このように、
それほど明確な差と言えるかは微妙ですが、
アジスロマイシンの使用と比較して、
クラリスロマイシンの使用は、
抗凝固剤による出血系合併症のリスクの増加に繋がっており、
その併用には今後はより慎重である必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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