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高齢者の潜在性甲状腺機能低下症への甲状腺ホルモン治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サイロキシン療法の潜在性機能低下症への効果.jpg
Annals of Internal Medicine誌に2020年5月5日ウェブ掲載された、
潜在性甲状腺機能低下症に対する、
甲状腺ホルモン(T4)製剤の有効性についての論文です。

甲状腺機能低下症には、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇していても、
甲状腺ホルモンであるT3とT4は低下していない、
潜在性甲状腺機能低下症と、
TSHの上昇とともに、
T3やT4も低下している、
顕在性甲状腺機能低下症とがあります。

比較的軽症の状態では、
潜在性甲状腺機能低下症になり、
それがより進行すると、
顕在性甲状腺機能低下症になる、
と考えると分かり易いかも知れません。

顕在性の甲状腺機能低下症においては、
甲状腺ホルモン剤による治療を行うことで、
心疾患などのリスクを低減させ、
その予後の改善に繋がることが確認されています。

ただ、潜在性甲状腺機能低下症の状態において、
甲状腺ホルモン製剤の治療が必要であるかどうかについては、
まだ議論の余地があるところです。

通常TSHが10を超えないような甲状腺機能低下症は、
治療を要さないという基準があります。
この場合その大多数は潜在性甲状腺機能低下症です。

年齢によって甲状腺機能低下症の意味合いは異なる、
という見解もあります。
高齢者においては、
TSHは徐々に増加して、
潜在性甲状腺機能低下症の基準を満たすことが多いのですが、
むしろTSHが高めの方が、
その人の生命予後は良いというデータもあるからです。

このように、
どちらかと言えば高齢者の潜在性甲状腺機能低下症では、
甲状腺ホルモン製剤による治療は必要ない、
というのが今の一般的な考え方なのですが、
その一方で軽度の甲状腺機能低下症であっても、
だるさやしびれなど、
体調不良を訴える患者さんが多いことも事実で、
実際の臨床においては、
患者さんの訴えに応じて、
ホルモン剤が使用されることが多いことも、
また事実なのです。

上記文献の記載によれば、
アメリカでは61歳を超える年齢層の、
15%以上が甲状腺ホルモン剤を処方されている、
という統計もあるようです。

近年高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対する、
甲状腺ホルモン(T4)製剤の有効性に対する臨床試験が施行され、
その結果は患者さんにとっての有用性はない、
という結果でした。

しかし、トータルにはそうでも、
より強い症状の見られる高齢者に限って使用すれば、
一定の有効性はあるのではないか、
という見解は根強く存在しています。

そこで今回の研究では、
アメリカで潜在性甲状腺機能低下症の高齢者に対する、
甲状腺ホルモン製剤の有用性を検証した、
TRUSTという介入試験のデータを二次解析して、
この問題の検証を行っています。

対象はスイス、アイルランド、オランダ、スコットランドにおいて、
潜在性甲状腺機能低下症(TSHが4.6から19.9mIU/L)が持続している、
65歳以上の高齢者638名です。
そのうち、甲状腺機能低下に伴うことが想定される症状が、
非常に強かった対象者に限って解析を行いましたが、
1年間の甲状腺ホルモン治療は、
偽薬と比較して明確な症状の改善をもたらしませんでした。

これは高齢者に限った分析であることには注意が必要で、
より若年層ではまた別の結果が得られる可能性があります。

ただ、高齢者に限って考えると、
潜在性甲状腺機能低下症はむしろ加齢に伴う生理的な状態であり、
それを補正することの、
自覚症状を含めた健康上のメリットは、
ほぼないと考えて良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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