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新型コロナウイルス感染症の軽症事例における味覚嗅覚障害 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスと味覚嗅覚障害.jpg
JAMA誌に2020年4月22日にウェブ掲載された、
小論文(レター)ですが、
新型コロナウイルス感染に比較的特徴的とされる、
味覚嗅覚障害の臨床的特徴についての論文です。

味覚嗅覚障害は、
日本でもプロ野球選手や芸能人の事例などが報道され、
一般にも新型コロナウイルス感染症の症状として、
広く知られるようになりました。
ただ、その発症率などを科学的に検証したデータは、
実際にはあまり存在していません。
比較的信頼のおけるデータとしては、
入院患者の34%に認められた、
というものがあるだけです。

そこで今回の研究ではイタリアにおいて、
PCR検査で陽性が確認されるも、
症状が軽症が軽症で自宅観察の扱いとなった、
18歳以上の新型コロナウイルス感染症の患者、
トータル374名に症状の聞き取りを行い、
その結果を解析しています。

患者の年齢の中央値は56歳で、
52.0%は女性でした。
軽症を含めると64.4%に味覚嗅覚障害が認められ、
そのうちの34.6%は鼻閉を伴っていました。
他に多い症状は全身倦怠感が68.3%、
咳が60.4%、発熱が55.5%でした。
味覚嗅覚障害が唯一の症状であったのは3.0%でした。
味覚嗅覚障害と他の諸症状との関連をみると、
11.9%の事例では味覚嗅覚障害が先行して現れ、
22.8%では同時に出現し、
26.7%では遅れて出現していました。
味覚嗅覚障害は女性に多い傾向が認められました。

他の風邪症候群などと比較して、
今回の新型コロナウイルス感染症で味覚嗅覚障害が多い、
ということはほぼ間違いのない知見であると思います。

ただ、今回のデータは軽症事例に限ったもので、
味覚嗅覚障害のみが認められたのは3%というと、
如何にも少ない気はするのですが、
イタリアにおいても国民全員にPCR検査が行われている、
という訳ではないですから、
何等かの振り分けで疑い事例に検査がされているとすれば、
少ないのは当然と思わなくもありません。

味覚嗅覚障害の出現時期を見ると、
他の症状の前もあれば後もありとまちまちで、
特定の傾向は認められないようです。

味覚嗅覚障害とは言われますが、
その原因についても一定の知見があるのは、
嗅皮質周辺に炎症がありそうだ、
という嗅覚についてのものだけで、
味覚についての情報は全くありません。
個人的には嗅覚障害があるので、
「味が分からない」という症状が伴いやすく、
実際には味覚障害はないのではないか、
というように考えますが、
それが事実かどうかは現時点では分かりません。

いずれにしても新型コロナウイルス感染症の臨床診断において、
一定の意義のある所見であることは間違いがありませんが、
それで事例を振り分けたりすることに、
現時点であまり意味があるとは思えず、
特に単独で味覚嗅覚障害のみがある場合の判断は、
現時点で定まったものはないと、
そう考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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