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新型コロナウイルスの発症前感染リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの感染解析論文.jpg
Nature Medicine誌に2020年4月15日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染の仕方を分析した論文です。

中国の研究者によるもので、
77組の感染経路の明確な感染者のペアを解析して、
発症前後どのくらいの時期に、
その人から人への感染が起こるのかを数理的に解析しています。

これまでにも同様の研究は複数あるのですが、
さすがネイチャー・クオリティというのか、
例数も多く分析も緻密かつ的確で、
この問題はほぼこれで解決したと言って良いようです。

新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)は、
その名称の通りSARSコロナウイルスに、
遺伝子レベルでの相同性が高く、
その性質も同様なのではないかと、
そのウイルス同定当時には考えられていました。

それでは、SARS原因ウイルスの感染様式は、
どのようなものなのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
コロナウイルス感染様式SARSとインフルエンザ.jpg
これは上記文献にある図ですが、
上半分はSARSの感染様式を示し、
下半分は季節性インフルエンザの感染様式を示しています。

よく潜伏期(latent period)という言い方をします。
これはある患者さんが感染してから、
熱などの症状が出るまでの時間ですが、
ここでは2つの指標が重要視されています。
serial interval とincubation periodです。
これはあまり良い日本語がないのですが、
serial intervalというのはある患者さんが熱などの症状を出してから、
その患者さんから感染した別の患者さんの症状が、
出るまでの時間のことで、
incubation periodというのは、
感染が起こってから症状が出るまでの時間のことです。

上の図のSARSのケースでは、
incubation periodが4から5日であるのに対して、
serial intervalは10から11日です。
要するにSARSの場合、
人から人に感染するのは、
発熱などの症状が出てからのことで、
それも症状が発症してから10日目くらいがピークになります。
感染力がなくなるには14日くらいは待たないといけません。
従って、SARSの封じ込めは、
症状が発生したら隔離する、
という対応で問題がないのです。

一方で下のインフルエンザのケースを見ると、
incubation periodが2日であるのに対して、
serial intervalは2から4日です。
これはどういうことかと言うと、
インフルエンザは患者さんに熱などの症状が発症する、
2日くらい前には既に感染力があり、
熱の出た初日くらいが周囲に感染し易いピークで、
6から8日くらいで感染はしなくなります。

それでは、今回の新型コロナウイルスの場合はどうだったのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
コロナウイルス感染様式の仮定図.jpg
これは今回の新型コロナウイルス感染症の感染様式について、
3つのケースを想定したものです。
真ん中の2はSARSに近いパターンで、
当初想定されていたものです。
一番下の3はインフルエンザに近いパターンです。
そして一番上の1はその中間くらいのパターンです。

そして、実際の事例を解析した結果、
実際の感染パターンはこの図の3に近く、
incubation periodが5.2日であるのに対して、
serial intervalは平均で5.8日です。
感染は症状の出現する2.3日(95%CI:0.8から3.0)前から始まり、
ピークは症状出現0.7日前(95%CI:0.2から2.0)にあります。
二次感染の44%は症状出現前に起こっていることも推測されました。

これはもう結果論となってしまいますが、
今回の新型コロナウイルス感染が世界中に広がった一因は、
感染拡大当初に、
無症候の患者からの感染はあるとしても少ない、
という考えから、
症状出現後の患者の追跡や隔離に重点をおいてしまったことで、
実際にはその感染のピークは症状出現前にあり、
そのため多く感染が、
見えないところで拡大してしまったのです。

こうした状況になってしまうと、
有効な治療薬や予防薬、
ワクチンなどが利用可能となるまでは、
症状のあるなしに関わらず一定期間、
人間同士の接触を避けるという対策以外に、
一旦広がってしまった感染を収束に向かわせるのに有効な方法は、
存在しないというのが現実なのです。

これね、ここまで明確なことが分かっているのに、
今日本の保健所の対応は、
全てそうかは分かりませんが、
肺炎が確定しているか、
それが強く疑われないとPCR検査には廻さない、
という方針なんですよね。
昨日もはっきりそう言われたんですよね。

それはもうケースバイケースじゃないかしら。

自宅待機して様子を見られる状態の人ならそれでもいいですよ。
患者さんにも個別にそう説明してますよ。
「今の方針はこうなっているので、
申し訳ないのですが様子をみてもらうしかないんです」
と言っていますよ。
それで何か変化があれば、
すぐにクリニックに連絡をもらうように対応してますよ。

でも、
お願いしているのは施設に入所している認知症の高齢者で、
それも緊急ショートなので、
強制的に入所になったんですよ。
デイケアとか全て中止しているのに、
行政の指示で入所になった人なんです。
それが入所の翌日から発熱しているのですから、
それはもう困るでしょ。
主治医もいないんですよ。
施設に感染が広がったら一大事なので、
それで早期の検査を、とお願いしているのに、
それでも「駄目だ」と言うのですよ。

何故ですか?

ここまでされると、
もう本当に感染を広げたいのかしら、
というくらいに思ってしまいます。

すいません。愚痴でした。

それでは今日はこのくらいで。

1日も早くこの状況が収束に向かいますように。

石原がお送りしました。
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