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新型コロナウイルス感染症とインフルエンザ肺炎の違いについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスとインフルエンザ肺炎の比較.jpg
Chest誌に2020年4月11日ウェブ掲載された、
重症化してARDSを来した、
新型コロナウイルス肺炎と、
インフルエンザ肺炎の特徴を比較した論文です。

新型コロナウイルス肺炎が報告され始めた頃、
同じ時期に流行していたインフルエンザと比較して、
肺炎になった時の重症度や予後は、
インフルエンザの方が重い、
というような指摘がありました。

新型コロナウイルス肺炎も、
流行性感冒の一種だ、
というニュアンスがあったのですが、
その後新型コロナウイルス感染症が、
世界的なパンデミックになるに至って、
「インフルエンザより軽い」というような意見は影を潜めました。

しかし、以前は新型コロナウイルス感染症が、
実際より軽く見られがちであった反面、
今は重く考えられすぎている、
というきらいもなくはありません。

この2つの感染症の重症型を、
直接比較してみるとどのような違いがあるのでしょうか?

今回の研究は中国の2つの病院において、
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という重症の呼吸不全を発症した、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)肺炎の患者73名と、
同じくARDSを来した季節性インフルエンザ(H1N1)肺炎の患者75名を、
比較検証しています。

その肺炎像にはそれなりの違いがあります。
こちらをご覧下さい。
コロナウイルス肺炎CT.jpg
こちらは新型コロナウイルス肺炎の患者さんのCT画像です。
上のAは60歳の男性患者で、
典型的なすりガラス様の病変が、
両肺に複数認められています。
下のB(画像のクレジットが誤っている)は75歳の男性患者で、
すりガラス様の変化が肺全体に及んでいます。

次に季節性インフルエンザ肺炎の画像です。
こちらをご覧下さい。
インフル肺炎のCT画像.jpg
上のCは46歳の女性患者で、
内部に気管支の透亮像のある浸潤性陰影が、
比較的広い範囲に認められています。
陰影はすりガラス様陰影より濃くクッキリとしています。
少し肺の間に水も溜まっています。
下のDは66歳の男性患者で、
こちらはすりガラス様の陰影が主体ですが、
一部に胸水の貯留も認められます。

このように、
新型コロナウイルス肺炎ではすりガラス様陰影が、
インフルエンザ肺炎では浸潤性陰影が、
比較的その特徴で、
新型コロナウイルス肺炎では94.5%にすりガラス様陰影が見られ、
インフルエンザ肺炎では45.3%に留まっているのに対して、
浸潤性陰影はインフルエンザ肺炎で多くなっていました。
ただ、勿論画像のDのように、
インフルエンザ肺炎なのに画像の特徴は新型コロナウイルス肺炎様、
ということもあるのです。

症状として新型コロナウイルス肺炎では、
乾いた痰の絡まない咳が多く、だるさが強く、
下痢などの消化器症状も多い、
という特徴が見られます。
その一方でインフルエンザ肺炎では、
痰がらみが強いという特徴があります。

そのARDSでの予後については、
意外にもインフルエンザ肺炎の方が生命予後が悪く、
新型コロナウイルス肺炎での死亡率が28.8%であるのに対して、
インフルエンザ肺炎の入院中の死亡率は34.7%でした。

臓器障害の重症度を示すSOFAスコアは、
新型コロナウイルス肺炎よりインフルエンザ肺炎でより高く、
インフルエンザ肺炎の方が臓器の合併症がより重くなっていました。

この臓器障害のスコアを補正しても、
新型コロナウイルス肺炎より、
その重症度はインフルエンザ肺炎の方が高くなっていました。

今回のデータは条件を合せた適正な比較とは言い難いものですが、
インフルエンザ肺炎が重症化した場合と比較して、
その生命予後は必ずしも新型コロナウイルスでより高い、
ということはなく、
新型コロナウイルスへの恐怖感から、
多くの人はインフルエンザより重い病気と捉えがちですが、
その肺炎の重症度に関しては、
むしろインフルエンザより軽い可能性もあるという知見は、
今だからこそ押さえておいた方が良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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