SSブログ

ヒドロキシクロロキンの新型コロナウイルスへの有効性(中国での単独施設臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスに対するヒドロキシクロロキンの効果.jpg
これは2020年3月22日にmedRxivに掲載された査読前の論文です。
medRxivというのはまだ査読前の論文を保存しているサーバーで、
今回のものはその重要性から、
その時点で公開されているものです。

今1日に100本以上の新型コロナウイルス関連の論文が、
世界中からこのサーバーにじゃんじゃん蓄積されています。

その集合知が少しでもこの難局の打開に繋がればと思います。

日本発の論文もちょこっとあるのですが、
ほぼ疫学や公衆衛生的なもののみですね。
臨床や基礎実験のデータを、
是非出して欲しいと思います。

ただ、これは査読を受けてチェックされた論文ではないので、
その内容の信頼性は、
現時点ではそれほど高いものではない、
という点には注意が必要です。

皆さんもその点はよくご理解の上お読み下さい。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在しているのが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用によると考えられています。

言わば免疫調整剤的な効果です。

新型コロナウイルスが重症化する時、
その引き金を引いている要素の1つが、
免疫系の過剰な活性化(サイトカインストーム)である、
というように考えられています。

仮にそうであれば、
適切なタイミングでクロロキンを使用することにより、
新型コロナウイルス肺炎の重症化を、
防ぐことが出来るのではないでしょうか?

その着眼点から、
クロロキンを単独もしくは、
同じように免疫調整作用を持つとされる、
マクロライド系抗菌薬との併用で、
新型コロナウイルス感染症による肺炎に、
試験的な投与が行われているのです。

上記文献の著者らによれば、
病院の長期ヒドロキシクロロキン使用中の80名のSLEの患者さんのうち、
新型コロナウイルス感染症と診断されたり、
それを疑わせるような症状が認められた人は、
1人もいなかったとのことです。
更にその病院で新型コロナウイルス肺炎と診断された178名の患者さんのうち、
ヒドロキシクロロキンを使用継続している人は、
こちらも1人も居ませんでした。

こうした観察を元に、
今回の研究では、
中国の単独施設において、
CTにて肺炎像が確認されている新型コロナウイルス肺炎の患者さん、
トータル62名をくじ引きで2群に分けると、
一方は通常の治療(抗ウイルス剤、ステロイド剤、抗菌剤、酸素療法など)
に加えて、
ヒドロキシクロロキンを1日400mg5日間使用し、
もう一方は未使用として、
使用終了翌日での評価を行っています。

その結果、
体温解熱や咳の改善までに掛かる時間は、
ヒドロキシクロロキン群で2日程度短縮し、
CTにおける治療前と比較した肺炎の改善率は、
ヒドロキシクロロキン使用群で80.6%に対して、
未使用群では54.8%で、
ヒドロキシクロロキンの使用により、
短期間で肺炎が改善することが示唆されました。

これは少数例の短期の成績で、
患者さんの予後自体が改善したとは言い切れないので、
まだヒドロキシクロロキンの有効性は推測の域に留まっています。

4月10日にはクロロキンと抗菌剤のアジスロマイシンを併用した、
臨床試験の報告もあり、
その結果はアジスロマイシンの併用では、
心血管疾患や不整脈のリスクが増加した、
というものになっていました。

また4月11日に報告された、
ブラジルでのクロロキンを使用した、
第二相(Ⅱb)臨床試験の結果では、
トータル量で12グラムと27グラム使用され、
27グラムの高用量では予後が悪かったとされています。

アメリカのFDAは緊急医薬品として、
新型コロナウイルス感染症に対する、
クロロキンの使用を許可しており、
複数の臨床試験も進行中です。

日本でも報告は数例レベルのものしかありませんが、
試験的な使用は行われています。
有効とされたものもありますが、
いずれにしても他の複数の薬剤が併用されているので、
その評価はなかなか難しいところです。

ヒドロキシクロロキンに関しては、
少なくとも単独の使用であれば、
その使用量も現時点でSLEに使用されているものと違いはなく、
その意味では一定の安全性は確立していると思います。

その最も有効性の高い使用のタイミングや適応の選択を含め、
今後の知見の蓄積に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0)