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「コンテイジョン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
今は朝からレセプト作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
コンテイジョン.jpg
もう御覧になった方も多いと思いますが、
映画史上最もリアルなパンデミック映画「コンテイジョン」です。

これね、医療サイトで映画評論みたいなことをしていて、
それで一度記事にしているのです。
それがこちら。
https://epilogi.dr-10.com/articles/3395/

以下少しここからの引用もあります。
いいよね。元々自分の文章だから。

公開が2011年でしょ。
日本じゃそれどころじゃなかったし。
さほど話題にならなかったんですよね。

映画としても淡泊な作りなんですよ。
もっと盛り上げることは出来るし、
今の娯楽映画の感覚だと、
これだけの素材だから、
もっと長くしたいところでしょ。
それをとてもタイトにドライに仕上げているんですよね。

今観るとそれが胸に響きますよね。

本当に凄い映画です。

今になってみるとね…

監督は、
「トラフィック」や「オーシャンズ11」など、
娯楽性のある群像劇映画を得意とするスティーブン・ソダーバーグです。

2002年のSARSと、
2009年の「新型インフルエンザ」騒動を下敷きとして、
感染すると25%以上が死に至る、
新型のパラミクソウイルスのパンデミックをリアルに描いています。

題名の「contagion」は、
接触感染を意味する言葉です。

これも当時はこのタイトル何のこっちゃと思ったけど、
今になってみると凄いでしょ。

凄いな、凄いしか言葉が出て来ません。

オープニングは「2日目」というクレジットで始まり、
最初の感染者であるグウィネス・パルトロウが、
香港のカジノで体調不良を感じる場面が、
最初に描かれます。

そこから新種のウイルスによる感染が、
瞬く間に世界中に広がる状況が描写され、
勘の良い方にはお分かりのように、
ラストで「1日目」が描かれるという趣向です。

グウィネス・パルトロウ以外にも、
マリアン・コティヤール、マット・ディモン、
ジュード・ロー、ケイト・ウィンスレット、
ローレンス・フィッシュバーンと、
充分ヒット作の主役を張れるスターが揃っています。

しかし、
グウィネス・パルトロウは最初に感染してすぐに死んでしまい、
その夫のマット・ディモンは、
感染を疑われてすぐに隔離されてしまいます。

いつもは人間離れをしたヒーローを演じていて、
ウイルス感染症など1人で退治出来そうなマット・ディモンが、
全くの無力で他のキャストと同じ扱い、
という辺りに、
この映画の基本的なコンセプトを感じることが出来ます。

パンデミックの前には、
スターも一般の観客の1人1人も、
何ら変わることはないという訳です。

この趣向もねえ、
当時は「ふーん」という感じだったんですけれど、
今になってみるととても重いでしょ。

同じことが起こっていますよね。

現代社会において一番の権力者は、
要するに芸能人を代表とするインフルエンサーでしょ。

感染症みたいな存在なんだよね。

今の社会の帝王は、
結局感染症なんだ。

人間の権力者のウイルスみたいな存在が、
本当のウイルスに侵されて、
「平等に死んでゆく」という皮肉。

死なないで生還するインフルエンサーは、
それでも病室からSNSを発信したりして、
その影響力を誇示しようとするでしょ。

あれはさあ、結局自分の感染力を誇示している、
ということでしょ。

ある種の人間の業というか、
言葉は悪いけれど、権力への執着のようなものを、
強く感じますね。

注目されない方が死ぬより怖いんでしょ、あの人達は。

そんなことを思います。

この映画はおそらくパンデミックを扱った作品の中で、
史上最もリアルな1本ではないかと思います。

複数の視点で描かれた群像劇ですが、
専門家の監修の元に、
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の内側が、
勿論実際には僕も知りませんが、
非常に「それらしく」描かれています。

科学者同士がしのぎをけずり、
CDCが許可していない施設で、
無許可でウイルス培養に成功する科学者がいたり、
ウイルスの臨床試験をする余裕がないからと、
自分を実験台にしてワクチンの効果を確認する科学者がいたりと、
現実にもありそうなエピソードが多く描かれています。

感染経路からウイルスの存在を推測して検体を採取。
紆余曲折があってウイルス培養に成功すると、
遺伝子配列を決定して、
立体構造を解析。
そこから抗ウイルス剤やワクチンの開発に進むも、
コウモリの体内で遺伝子が変異して、
ウイルスの性質が変わるなど、
その過程までリアルに描出されているのがさすがで、
ここまで詳細かつ正確に感染症が映画の中で扱われたことは、
かつてなかったと思います。

基本的には肯定的に描かれている科学者達ですが、
CDCの指導的な立場の人物が、
内部情報を恋人に漏らしてしまったり、
ワクチンの優先順位を変えてしまったり、
といった、
規則より感情を優先する人間の弱さもまた、
しっかりと描かれています。

ただ、
日本であればもっと非難され袋叩きにされるような行為が、
ある意味肯定的に捉えられている印象もあります。

一匹狼のフリージャーナリストが、
民間療法の有効性を示すフェイクドキュメンタリーを作って、
それがSNSで拡散され、
大きな影響力を持つというのも、
いかにもありそうな展開です。

後半ワクチンが開発されると、
その争奪戦が始まります。

接種はくじ引きで、
生年月日を選び、
その順番に接種が行われます。

この辺りもなるほど、
と思うリアルさです。

多分実際そんな風になるよね。

ワクチンは当初は遺伝子工学の技術を活用した、
不活化ワクチンの可能性を模索するも、
なかなか成功せず、
結局弱毒化ウイルスを使用した生ワクチンを、
実験動物で試すという原始的な方法で成功に至ります。

この辺りもきちんと段取りが踏まれているのがさすがです。

これもね、
その通りになりそうだよね。

凄いなあ、と思う反面、
要するにここまでのことが、
2011年にはもう分かっていたっていうことなんですよね。

こうした未来があるという推測が、
出来ていたんですよね。

それでも同じか、
予見したより悪い現在があるという皮肉。

人間は如何に愚かな生き物であるのか、
ということをつくづく感じますよね。

凄いなあ。

10年後にその真価が分かるという奇跡!

これこそが創作というもの、
フィクションというものの神髄ではないかしら。

フィクションというのはさ、力があるんだよね。

演劇人や芸術家と称する方も、
ステレオタイプな文句を言ったり、
自分の生活を守れと主張したりするのじゃなくて、
こういうのを見習ったらいいのじゃないかな。

藝術の力を見せてよ!

僕も今回この作品をまた観直したのですが、
1つ思うことはね、
現実は映画より幻想的というか、妄想的というか、
逆説的な言い方ですが、
より現実離れしていて嘘臭いですね。

何だろう。
肥大した自我が暴走して、
妄想を見せるんだね。

魑魅魍魎みたいなものが町を跋扈していて、
それには実態がない筈なのに、
ウイルス以上にそれを怖がっているでしょ。

そんな必要ないのに。

そんな風に感じました。

いずれにしても、
今是非観るべき1本であることは確かで、
勿論観ることでトラウマになる危険はありますが、
現実はこの映画の中にあって、
現実世界のテレビやネットの中にはないということ、
今テレビのワイドショーを見るよりも、
この映画を観直した方が、
よりよく現実を理解出来るということだけは、
強く言いたいと思います。

これこそがフィクションの力だよ。

それでは今日はこのくらいで。

1日も早くこの状況が落ち着きますように。

石原がお送りしました。
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