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新型コロナウイルス感染症に伴う嗅覚障害のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後はレセプト作業に明け暮れる予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの嗅覚障害論文.jpg
これは2020年3月27日にmedRxivに掲載された査読前の論文です。
medRxivというのはまだ査読前の論文を保存しているサイトで、
今回のものはその重要性から、
その時点で公開されているものです。

最近新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の症状として、
注目されているのが嗅覚障害と味覚障害です。

新型コロナウイルスに感染すると、
通常の気道感染症状に加えて、
臭いを感じなくなったり、
味を感じなくなったりするような症状が認められ、
それは他に症状のない不顕性感染でも、
認められることがしばしばあることが、
最近世界中で報告されています。

日本でも野球選手にそうした症状が出たことが、
話題になりましたね。

この件についてはまだあまりまとまった研究のようなものは、
発表されていないようなのですが、
内容がまとまっていてしばしば引用されているのが、
英国耳鼻咽喉科学会(ENTUK)が出したステートメントです。
それがこちら。
コロナウイルスの嗅覚障害のステートメント.jpg
これによると、
ドイツでは新型コロナウイルス感染症と診断された患者さんのうち、
3分の2以上に嗅覚障害が認められたと報告されています。
非常に多くのPCR検査を施行している韓国では、
検査が陽性の患者の3割に嗅覚障害が認められ、
軽症の事例では唯一の症状であったとされています。
(後に15%に訂正されているようです。論文化はされていません)

ウイルス感染などの後に嗅覚障害が生じること自体は、
以前から良く知られている知見です。
嗅覚障害の40%以上はウイルス感染後の嗅覚障害である、
という推計もあります。

ただ、そうした過去の事例と比較しても、
今回の新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度は異常に高く、
他の症状が認められない事例で、
嗅覚障害のみが認められることが多い、
という特異性があります。

一体何故こうした現象が起こるのでしょうか?

その疑問を検証しているのが上記の論文です。

ここではこれまでの嗅上皮や呼吸上皮といった、
鼻腔の細胞の遺伝子データを解析することで、
新型コロナウイルスの感染に必要な、
ACE2とセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)の発現が、
嗅覚に関わる上皮細胞に認められるかどうかを検証しています。

その結果、
嗅神経とその関連する上皮細胞には、
ウイルス感染に必要な遺伝子の発現は認められない一方で、
呼吸上皮と嗅上皮の支持細胞や幹細胞には、
遺伝子発現が認められることが明らかになりました。

つまり、
直接嗅上皮の周辺にウイルスの感染が起こり、
それが嗅覚障害の原因となる可能性が、
示唆された、というデータです。

この問題はまだまだ不明の点が多く、
今回の新型コロナウイルス感染症に嗅覚障害が高い頻度で認められることは、
ほぼ事実と言って良い反面、
その意味合いやメカニズムについては、
殆ど分かっていない、というのが実際であるようです。

また、嗅覚障害と味覚障害が、
並列してメディアの記事になっていることが多いのですが、
今回調べた範囲で、
味覚障害については殆ど明確な検証がありませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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