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コーヒーの骨粗鬆症予防効果(韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと骨粗鬆症リスク韓国.jpg
2016年のPLOS ONE誌に掲載された、
閉経後の骨粗鬆症リスクと、
コーヒーの摂取量との関連についての論文です。

コーヒーに心血管疾患や糖尿病、
パーキンソン病などの予防効果があり、
生命予後にも良い影響を与えることは、
ほぼ確立した事実です。

ただ、骨粗鬆症や骨量、
骨の健康についてのコーヒーの効果については、
良いという意見がある一方、
相反するような報告もあって一定していません。

先日ご紹介した、
2019年のJournal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に掲載された論文では、
カフェインやクロロゲン酸という、
コーヒーに含有される物質の代謝物の一部に、
骨量との相関が認められました。
コーヒーが骨に良いのではないか、
ということを示唆する結果です。

今回の研究は、
韓国の大規模疫学データを解析したもので、
アンケートによるコーヒーの摂取量と、
DXA(デキサ)法による骨量との関連を検証したものです。
対象人数は閉経後の女性トータル4066名です。

その結果、
コーヒーを全く飲まない人と比較して、
1日2杯以上コーヒーを飲む習慣のある人は、
骨量測定で骨粗鬆症と診断されるリスクが、
36%(95%CI: 0.43から0.95)有意に低下していて、
大腿骨頸部と脊椎の骨塩量も増加していました。

このように今回のデータからは、
コーヒーの骨粗鬆症予防効果が示唆されました。

それでは、
コーヒーの成分のうち何が骨に良い作用を持っているのでしょうか?

現状の仮説としては、
まずコーヒーに含まれる代表的なポリフェノールであるクロロゲン酸が、
抗炎症作用と抗酸化作用を持ち、
それが骨粗鬆症の進行を予防している、
という可能性が指摘されています。
骨粗鬆症は炎症により進行するという知見があり、
抗酸化剤は骨吸収を抑制するという知見もあるからです。
また、コーヒーに含まれるニコチン酸の前駆物質であるトリゴネリンが、
女性ホルモンの受容体に結合して女性ホルモン様作用を示し、
それが骨粗鬆症の予防に繋がっているという仮説もあります。

この結果はまだ確定的なものではありませんが、
最近の報告の傾向をみると、
1日3杯程度のコーヒーを飲む習慣は、
骨にも対して良い影響を与える可能性が高いと、
そう考えて大きな問題はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤と痛風リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤と痛風.jpg
2020年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
糖尿病の治療薬と痛風リスクとの関連についての論文です。

糖尿病の治療薬として、
最近注目され広く使用されているのは、
DPP4阻害剤やGLP1アナログといったインクレチン関連薬と、
尿への糖の排泄を増やすという、
新しいメカニズムのSGLT2阻害剤です。
特にSGLT2阻害剤とGLP1アナログの注射薬については、
血糖降下作用ばかりでなく、
長期的に心血管疾患リスクを低下させ、
生命予後についても良い影響があるとする、
複数の研究結果が発表されて注目を集めました。

高尿酸血症も2型糖尿病に多い合併症の1つです。
足の指の付け根などが赤く腫れる痛風発作が有名ですが、
尿酸値が高いだけでも心血管疾患のリスクになることが、
最近注目されています。

尿酸を低下させる薬剤は複数ありますが、
それぞれに特有の副作用や有害事象があり、
特に痛風発作を起こしていないような場合には、
薬物治療の施行にも多くの議論があります。

そこで1つ問題となるのは、
糖尿病の治療薬によっても、
痛風や高尿酸血症などのリスクが違う、
という可能性があることです。

SGLT2阻害剤は、
尿への尿酸の排泄を促し、
血液の尿酸値を低下させることについては、
複数の報告があります。

しかし、それが実際に痛風発作などの予防に、
結び付いているかどうかについては、
まだ明確なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの医療保険のデータを活用して、
2型糖尿病で新規にSGLT2阻害剤を開始した患者さんを、
新規にGLP1アナログを開始た患者さんと、
他の条件をマッチングさせて1対1で対比させ、
痛風の発症リスクを比較検証しています。

SGLT2阻害剤を開始した119530名の患者さんを、
同数のGLP1アナログを開始した患者さんと比較したところ、
観察期間中の痛風発作の発症率は、
GLP1アナログ使用者で年間1000人当たり7.8件であったのに対して、
SGLT2阻害剤使用者では年間1000人当たり4.9件で、
SGLT2阻害剤使用者はGLP1アナログ使用者と比較して、
痛風のリスクを36%(95%CI: 0.57から0.72)有意に低下させていました。

今回の研究では、
実際の臨床でもSGLT2阻害剤により、
痛風発作が他の糖尿病治療薬と比較して、
一定レベル予防出来る可能性が示唆されました。

これはまだ確定的なものではありませんが、
尿酸値が高めの患者さんであれば、
他剤よりSGLT2阻害剤を、
積極的に使用する1つの根拠とはなりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「カツベン!」(周防正行監督) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カツベン.jpg
周防正行監督の5年ぶりの新作は、
無声映画の黄金時代を舞台に、
おっちょこちょいで暗い過去を持ちながら、
活動弁士にあこがれた青年を主人公とした、
映画愛に満ちたコメディです。

これはなかなか良かったですね。

何故今「活弁」という感じはするのです。
80年代くらいの映画ならともかくなあ、
というようには思ってしまいます。

ただ、映画愛を強く感じる素敵な作品で、
考証も結構丁寧にされていると思いますし、
登場する無声映画を全部作ってしまうという、
こだわりも凄いと思います。
台本もなかなか完成度の高いもので、
キャストも主役の成田凌さんとヒロインの黒島由奈さんがフレッシュで良く、
脇も手練れで固めて良い芝居をしていました。

普通こうした映画だと、
すぐに「戦争の影」みたいなものが出て来るでしょ。
それを全くしなかったのも良かったと思います。

内容的には主人公の2人が子供時代に出会って、
「待っててね」と少年が言って結局戻れなくて、
10年後に再会するのですが、
結局同じ運命が待っている、
というのが周防監督らしいメロドラマで、
切なくて素敵でした。

ただ、観た多くの方が指摘しているように、
クライマックスのスラプスティックスがあまり盛り上がらず、
物語のほろ苦さが観客に伝わりづらかった、
というきらいがありました。
主人公がくすねたお金の行方や、
キャラメルの活かし方など、
台本はとても工夫されていると思いますし、
フィルムを悪党に滅茶苦茶にされてしまった主人公達が、
フィルムの残った断片を繋いで新しい作品を作り、
弁士の即興でドラマにする、
という趣向や、
映画館のスクリーンの裏の壁が壊れて、
そこから生身のラブシーンが見える、
という趣向など、
今までにない魅力的な場面も作っているのですが、
肝心の繋いだフィルムが、
どうもあまり面白くなかったのが残念でした。
これは大林宣彦監督が好きそうな趣向で、
大林監督ならもっと縦横無尽に遊んだと思うのですね。
それを同じようにやるべきだ、
とは決して思えないのですが、
繋げたフィルムの魔法に、
説得力がなかったのは、
ちょっと致命的であったようには感じました。

このように不満はあるのですが、
活弁を取り上げたこれまでの映画の中でも、
最も工夫された出色の1本であることは間違いがなく、
とても楽しい気分で劇場を後にすることが出来ました。

安定感のある良い映画で、
古くからの映画ファンにはお勧めの作品です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「パラサイト 半地下の家族」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
パラサイト.jpg
韓国の名匠ポン・ジュノ監督の新作で、
昨年のカンヌ映画祭でパルムドールを獲得した、
「パラサイト 半地下の家族」を観て来ました。

これは個人的な好みとしては、
それほど好きな映画ではないのですが、
ともかく完成度は素晴らしくて、
中段はちょっと長いな、という気はしますが、
ややあざといやり過ぎの部分も含めて、
娯楽性も充分で、
カンヌのパルムドールにはふさわしい作品だと思います。

カンヌはこういう「やり過ぎ感」のある映画が好きですね。

この映画は極力内容を知らずに観た方が面白いので、
以下の文章は本編鑑賞後にお読みください。

今年観て損はない1本です。

これはパルムドールも納得の見事な作品で、
半地下に身を寄せ合って暮らす4人の家族が、
丘の上の大豪邸の娘の家庭教師に、
ひょんな伝手で身分を偽って入り込み、
それからあの手この手で金持ち家族に取り入って…
というあらすじを聞くと、
古典ミステリーの「銀の仮面」などに親しんだ身には、
「何かありきたりだな」と思うのですが、
オープニングの語り口の見事さだけで、
既にその虜になり、
そこから本当にあれよあれよと、
ジェットコースターのような怒涛の展開に、
口があんぐり、という感じになります。

この構成力というか、
伏線の張り方にしても、
人物の作り方にしても、
映像の精度にしてもただ事ではありませんし、
大邸宅の見事なセットや、
大雨による冠水シーンなど、
そのお金の掛け方も凄いと思います。

内容はクドカンに似ていますから、
こうした映画やドラマは日本でも作れなくはないと思いますが、
こんなにお金は掛けられませんし、
このリアリティを再現することは無理だと思います。

ただ、後はもう好みの問題になりますが、
後半の展開はちょっとくどくて建設的でないと言うか、
結局そういう殺し合いで決着してしまうしかないのなら、
あまりに救いがなさすぎるのではないかしら、
生き残る人と死ぬ人とのバランスや、
その理由があまりに即物的過ぎやしないかなあ、
という思いには囚われてしまいます。
ラストが非常にきれいでうまいでしょ。
そこがまた、ちょっとずるい感じがするんですよね。
悪人をいい人に巧妙にすり替えるような感じと言うか、
それがちょっとフェアでない、
という気がしてしまいました。

この映画の構造はちょっと童話的なところがあるんですよね。
ただ、童話になりきれていない、と言うか、
せっかくここまで緻密な世界を構築したのだから、
ああいう惨劇ではなくて、
他に何かありようがなかったのかな、
もっと笑ってしまうような、
馬鹿馬鹿しい解決でも良かったのではないかしら、
というようには思ってしまいました。

あの殺し合いがね、必然であればいいのですが、
あまり段取り的にも、
必然にはなっていないと思うんです。
強引に殺し合いにもっていった、という感じでしょ、
そこがちょっと引っ掛かるのです。
タランティーノの殺し合いは、
これはもう必然なんですよね。
あれしかない、という感じだから良いのですが、
この作品の惨劇はそうではない、
と僕は思います。

ただ、繰り返しになりますが、
それはもう本当に好みの問題で、
この映画が傑作であること自体は、
まぎれもない事実だと思います。

皆さんはどうでしょうか?

こういうの好きですか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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早産児や低出生体重児のBCGワクチン接種時期について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BCGワクチンの接種時期.jpg
2019のJAMA Pediatrics誌に掲載された、
早産児や低出生体重児のBCG接種時期についての論文です。

BCGワクチンは牛の結核菌由来の生ワクチンで、
日本では1歳未満の月齢において、
剣山のような針を接種するという日本独自の方法で、
定期接種として行われています。

しかし、アジアなどの結核の流行地域では、
同様の接種が通常の注射として行われていますが、
欧米諸国では定期接種としては行われていません。
その有効性は肺外結核については認められていますが、
肺結核については臨床試験では不十分な効果しか認められず、
BCGを接種することで結核感染時にその診断が難しくなる、
というような点が問題として指摘されているからです。

BCGワクチンの効果は、
事例によっては50年以上持続する、
という報告があるほど持続性のあるものです。
結核の予防以外に、
BCGには膀胱癌の治療効果や、
免疫調整効果も報告されています。

さて、結核の流行地域においては、
BCGワクチンの接種は出生後速やかに、
具体的には7日以内に行われることが推奨されています。
日本においても、
周辺での流行など、
リスクが高いと想定された場合には、
出生直後からの接種が可能ですが、
一般的には生後5から8か月での接種が標準とされています。

ただ、早産児や低出生体重児においては、
その免疫機能が未熟であることで、
BCGワクチンの効果が充分に得られなかったり、
重篤な副反応が生じるという可能性が否定出来ず、
通常より遅らせての接種が行われることが国外でも通常でした。

今回の研究はこれまでの疫学データや臨床データをまとめて解析する、
メタ解析とシステマティックレビューという手法を用いて、
この問題の検証を行なっています。

その結果、
早産児や低出生体重児に対し、
生後7日以内にBCG接種を行なっても、
それ以降に行った場合と比較して、
お子さんの生命予後や、
BCGワクチンの有害事象には、
明かな差は認められませんでした。

従って、
これまでのデータからの推定として、
30週以降で出産された早産児と、
体重が1500グラム以上の低出生体重児に関しては、
通常の新生児と同様に、
生後7日以内にBCGワクチンを接種しても、
大きな問題はないと結論されています。

BCGワクチンの接種については、
その接種法においても、
接種時期の判断においても、
国内外でかなりの考え方の違いがあり、
単純にどちらが良いと即断出来るようなものではありませんが、
その違いを知っておくことは意義のあることであると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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体内時計と皮膚の紫外線予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
体内時計と皮膚の免疫.jpg
2017年のCell Rep.誌に掲載された、
食事時間の違いにより皮膚の防御機能が変化する、
という興味深い報告です。

人間の身体にはほぼ24時間のリズムで周期的に時を刻む、
体内時計があることが知られています。

個々の細胞には時計遺伝子と言われる複数の遺伝子があって、
それが日内リズムに同期して時を刻んでいます。

その一方で細胞が集合した組織により構成された人体にも、
体内時計の司令塔があり、
脳の視交叉上核という部分にあることが分かっています。
この脳の時計は太陽などの光刺激に反応して、
身体が光を感知した時間で時計を合わせ、
朝と認識して1日を開始するのです。

要するに身体全体としても時計があり、
それを構成する個々の細胞も、
それぞれの体内時計を持っている、
ということになります。

この体内時計によって、
人間の身体の代謝がコントロールされています。
昼と夜とでは主に肝臓において、
活性化される酵素に違いがあり、
それによって代謝の違いが生じているのです。

睡眠障害は体内時計を狂わせ、
健康に多くの影響を与えることは広く知られていますが、
上記論文の著者らの研究グループが着目しているのは、
食事をする時間による体内時計への影響です。

昼の時間帯に食事をすることによって、
体内時計は正常に調節されますが、
たとえば夜中にスナック菓子を食べたり、
ラーメンを夜食に食べたりすれば、
それも体内時計に少なからぬ影響を与えるのです。

哺乳類の皮膚の細胞は、
日光の紫外線によるダメージを受け、
それが皮膚癌などの発症に繋がっています。

それでは、こうした紫外線による皮膚のダメージに、
体内時計は影響しているのでしょうか?

今回の研究はネズミにおいて、
生理的で通常の夜間帯に食事をした場合と、
昼間の時間帯に食事をさせた場合とを比較したところ、
体内時計により調節される皮膚細胞の遺伝子発現には、
変化は見られなかった一方で、
皮膚の紫外線によるダメージを、
修復する作用を持つ遺伝子の発現は、
昼間の時間帯の食事では抑制されていた、
という結果が得られた、というものです。

やや強引ですが、
これを人間に置き換えて考えると、
通常の状態である昼に食事を摂る習慣を、
夜中のお菓子やラーメンなどに変えることにより、
体内時計が乱れて、
皮膚の紫外線防御機能が低下し、
肌荒れや皮膚癌の原因となる可能性がある、
というのが上記文献の著者らの指摘です。

確かに夜更かしや夜の大食いは肌荒れなどの原因となり、
だるさなどの体調不良にも繋がることは、
誰でも実感として事実と感じているところだと思います。

そのメカニズムとして、
代謝やホルモンの影響などが想定されていましたが、
体内時計の研究の進歩により、
また別個のメカニズムも想定出来る、
ということなのだと思います。

いずれにしても、
人間は生物としては、
昼間に食事を摂るような生活が、
健康のためには良いことは、
最新の研究結果でも動かない事実であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「孤独」を病気として捉える [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
孤独のインパクト.jpg
2015年のAmerican Journal of Public Health誌に掲載された、
孤独の健康面での影響を検証した論文です。

正直この論文単独では、
それほどの内容はないのですが、
特に先進国を蝕む大きな問題として、
問題提起的な意味で取り上げてみました。

ここに1つの病気があります。

伝染性のものではありませんが、
あたかも空気感染する感染症のように急激に増加していて、
パンデミックのように世界を襲っています。

その病気は2018年の統計によれば、
アメリカ人のほぼ半数が罹患していて、
その病気に罹ることにより、
死亡のリスクは26%も増加しています。

これは1日15本の喫煙に匹敵するような影響です。

この病気になることにより、
心血管疾患や肥満、高血圧、脂質異常症などのリスクは増加し、
精神疾患やうつ病、自殺などのリスクも増加します。

ここまで恐ろしい病気であるにも関わらず、
医者は概ねこれを病気として認識せず、
検診も行われていませんし、
有効な治療薬も開発されていません。

この病気の名前が「孤独」です。

日本でも「孤独死」のような言葉が、
クローズアップされたこともありましたね。

これは言わば「孤独」という病気の1つの症候です。

「孤独」は人間が作り出した病気です。

家族や地域社会、職場、町や国家というような、
集団に物語が用意され、
それが必要であるという意味付けが与えられて、
人間個人より集団の方がより重要である、
という価値観の元に、
その集団が迷いなく運営されていた時代には、
そうした「孤独」という病気は、
一部の集団から追放された人のみにしか、
存在しないものであったのですが、
個の価値が強調され、
個人という物が集団より尊いものだ、
というような考え方が広まると、
人間は所詮身勝手で利己的な生き物ですから、
集団の価値を否定するようになって、
多くの集団はその価値を低下させ、
崩壊に向かっているのです。

そこで増加するのが「孤独」という病であるのは、
理の当然と言えるのかも知れません。

さて、今回の文献では、
アメリカで60歳以上の一般住民に対して、
2008年と2012年に2回施行された、
健康調査のデータを活用して、
医療機関への外来通院と「孤独」との関連を検証しています。

この場合の「孤独」は、
単純に1人暮らしというだけではなく、
対面調査における複数の質問事項で推定されたものですが、
4年の間隔をおいた調査でいずれの場合にもみとめられた「孤独」は、
医療機関への通院の増加と結びついていました。

このように、
現代社会においての「孤独」が、
公衆衛生的な観点からは、
立派な病気であることは間違いがなく、
そうした観点でその予防や治療を考えることが、
もう必要である段階に至っているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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急性の疼痛管理におけるトラマドールの安全性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トラマドールの慢性使用リスク.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
最近広く使用されている弱いオピオイド系鎮痛剤、
トラマドールの短期使用の安全性を検証した論文です。

腰痛や膝などの関節炎の痛み止めとして、
最近使用されることが多いのが、
オピオイド系鎮痛薬のトラマドールです。

単独の製剤がトラマールとして、
消炎鎮痛剤のアセトアミノフェンとの合剤が、
トラムセットという商品名で日本では使用されています。

トラマドールは麻薬のモルヒネと同じ、
オピオイド受容体に弱く結合する薬で、
モルヒネより副作用が少ないために、
癌性疼痛以外にも難治性の痛みに対して、
幅広く使用されています。

現行の国内外のガイドラインにおいても、
慢性疼痛の治療の第一選択は非ステロイド系消炎鎮痛剤ですが、
それで痛みのコントロールが困難な場合には、
次に推奨されているのはトラマドールなどのオピオイド系鎮痛剤です。

実際に腰痛や肩、膝などの痛みで、
皆さんが医療機関を受診すると、
それが手術などの治療が必要な痛みではなければ、
最初は湿布やロキソプロフェンなどの痛み止めが使用されますが、
あまり効果が認められない時には、
比較的簡単にトラマドールなどの弱オピオイドが処方されます。

しかし、
他のモルヒネやオキシコドンなどの、
同じような短期作用型のオピオイドと比較して、
トラマドールの使用が身体に与える影響に、
どのような違いがあるのかについては、
「弱い作用のオピオイドであるので、理屈の上では副作用も軽い筈だ」
という大雑把な考え方があるだけで、
あまり実証的な研究はされていませんでした。

それが最近になって、
トラマドールのような弱オピオイドにも、
少なからずオピオイドにあるような副作用があり、
身体依存や乱用に結び付くこともある、
という報告が寄せられるようになっています。

トラマドールの安全性に、
疑問符が付くようになったのです。

今回の研究はアメリカの医療保険のデータを活用して、
手術後の疼痛に対して短期的に使用されたトラマドールが、
身体依存や乱用としてのその後の慢性使用に結び付くリスクを、
それまで同様の目的に主に使用されて来た、
短期作用型のオピオイドである、
モルヒネやオキシコドンと比較して検証しているものです。

手術後の疼痛に対してオピオイドを短期使用した患者さんが、
術後90日から180日の間に超える同種薬剤の処方を、
1回以上受けている場合を追加使用(additional opioid use)とし、
術後180以内の同種薬剤の使用が90日以上に及ぶ場合を、
持続的使用(persistent opioid use)と定義します。
更に以前の臨床研究において、
オピオイド慢性使用の基準として定義されている、
CONRORT基準も活用しています。
これは術後180以内の90日以上のオピオイド使用で、
回数が10回以上もしくは処方量が120日分以上のもの、
としています。

今回特定の手術を受けた、
それまでにオピオイド使用歴のない、
トータル444764名の患者さんのうち、
357884名は退院時にオピオイド系鎮痛剤の処方を受けていました。

処方薬剤の内訳は、
ヒドロコドンが53.0%、オキシコドンが37.5%、
トラマドールは4.0%でした。
術後のオピオイドの慢性使用は、
上記の定義による追加使用が7.1%(31431例)、
持続的使用が1.0%(4457例)、
CONSORT基準が0.5%(2017例)でした。

これをオピオイドの種類毎にみると、
ヒドロコドンやオキシコドンの使用と比較して、
トラマドールを使用した場合の慢性使用のリスクは、
追加使用基準で6%(95%CI: 1.00から1.13)、
持続的使用基準で47%(95%CI: 1.25から1.69)、
CONSORT基準で41%(95%CI: 1.08から1.75)、
それぞれ有意に増加していました。

要するにモルヒネなどの従来のオピオイドより、
弱オピオイドで安全性が高いと想定されていたトラマドールの方が、
急性使用後に身体依存や乱用に結び付きやすかった、
という予想外の結果です。

ただ、今回のデータではトラマドールの使用比率はかなり低いので、
その点が結果に影響にしているという可能性はあります。
しかし、少なくともモルヒネと同程度の身体依存が、
トラマドールにおいても生じる可能性がある、
という今回の指摘は重く受け止める必要があり、
今後の検証が必要であるとともに、
トラマドールのような弱オピオイドを、
慢性疼痛において積極的に使用するという現行の治療の考え方は、
再検討される必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「野生の証明」(1978年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
野生の証明.jpg
1978年に角川映画の第三作として公開された、
「野生の証明」を、
今回レセプトをしながらyou tubeで、
初めて全編を通して見ました。

角川映画は最初の「犬神家の一族」は、
中学生の同級生同士で観に行ったのですが、
それ以降は「時をかける少女」を名画座で観たくらいで、
あまり映画館では観ていません。

この映画はねえ、割と凄いんですよ。

ただ、これを映画館で観たらどう思ったかと考えると、
まあ「金返せ!」という気分にはなったと思います。
テレビやネットで見るくらいで、
丁度良い感じの仕上がりですね。

以下ネタバレがあります。

ただ、話は意味不明のところが多いので、
むしろあらすじを読んでから映画を見た方が良いくらいです。
原作を是非先入観なく読みたいという、
コアな方以外はお読みになって頂いても問題はないと思います。

これね、
高倉健演じる主人公が自衛隊の秘密部隊の一員で、
訓練中に連続殺人鬼を殺してしまうんです。
それで事件は隠されたまま、自衛隊も除隊になります。
その犯人の娘が薬師丸ひろ子で、
記憶喪失になっているのを、
自分の娘と偽って健さんは引き取ります。

そして、
これも殺人鬼の犠牲になった女性の、
双子の妹の中野良子さんを見守るために、
中野さんが地方紙の記者をしているある田舎町に、
健さんは保険の調査員として勤務するのです。

その田舎町が、
土建屋と暴力団に結託して支配されている暗黒の町で、
その悪事を暴こうと無謀な挑戦をしている中野さんは、
すぐに睨まれて殺されそうになり、
そこに当然の如く健さんが巻き込まれてゆくのです。

まあ、ここまでなら、道具立てがゴタゴタはしているものの、
普通のハードボイルドアクションのパターンですよね。

ただ、町の悪のボスが三國連太郎で、
その不良息子で暴走族のヘッドが舘ひろし、
配下の暴力団を仕切っているのが成田三樹夫で、
その子分に梅宮辰夫という濃いメンバーなので、
その抗争を見ているだけでもうただ事ではありません。

更に後半になると、
健さんの元職場の自衛隊が、
健さんを抹殺しようと牙を剥きます。
その大ボスが丹波哲郎で、
健さんの元上司の隊長に松方弘樹ですから、
こちらも敵に不足はありません。

要するに自衛隊全部対健さん1人という、
壮絶なことになるのです。

凄いでしょ。

抗争では舘ひろし、梅宮辰夫、成田三樹夫、松方弘樹が、
次々と壮絶に最後を遂げてゆきます。

三國連太郎が駄目息子を溺愛していて、
危険からはなるべく遠ざけようとしているのに、
舘ひろしの馬鹿息子はわざわざ健さんにちょっかいを出して、
それであっさり殺されてしまって三國連太郎が大狂乱、
という辺りは定番ですが上手い趣向です。
悪の方にも強い絆を用意しておくのが、
こうした作劇の定番ですね。
それがとても活きています。

ただ、予告編には、
戦車部隊と薬師丸ひろ子を背負った健さん1人が、
対峙しているという場面が登場するのですが、
実はこれがラストシーンなんですよね。
「対決するぞ!」というところで終わってしまうんですね。
これじゃ映画館で観れば、
「金返せ!」って言いたくなりますよね。

それがこの映画がテレビで充分という主な理由です。

これね、雰囲気は「マッドマックス怒りのデスロード」みたいなんですよね。

自衛隊の車両がバンバン走るところなんて、
砂漠を悪の車列が大行進するみたいでしょ。
これで大ボスの丹波哲郎と健さんが対決して、
悪の自衛隊を全滅させたら、
歴史に残るカルト大傑作になったと思いますが、
まあ予算的にも内容的にも無理だったのだと思います。

この映画は自衛隊を完全に悪の軍団として描いていて、
勿論自衛隊の協力など得られないので、
アメリカの戦車を使って、
アメリカロケで撮影しているんですよね。
そこまでして悪の自衛隊を描きたかったのかしら、
と今思うとちょっと不思議な感じもするのですが、
そういう時代であったのだと思います。

その後角川映画は「戦国自衛隊」で、
少し別の方向に舵を切ることになります。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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英国ロイヤル・オペラ日本公演2019 [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

1月10日の深夜に、
ヒイヒイ言いながらレセプトをオンラインで提出し、
昨日も昨日で結構バタバタしていたので、
今はちょっと放心状態という感じです。

今日は日曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
英国ロイヤルオペラ.jpg
昨年大物の海外歌劇場として、
英国ロイヤル・オペラが来日公演を行いました。

演目はヴェルディの「オテロ」とグノーの「ファウスト」です。

「オテロ」はこれまでに何度も聴いていますが、
フランスオペラの「ファウスト」は、
生で通しの上演を聴くのは今回が初めてでした。

演出はかなり対象的で、
「ファウスト」が古典的で豪華なものだったのに対して、
「オテロ」はキース・ウォーナーによる、
かなり前衛的なものでした。

「オテロ」はヴェルディの作品の中でも、
完成度の高い代表作の1つであると思いますが、
満足のゆく実演はそれほど多くはありません。

個人的にはクラシックな演出であるべきだと思うのですが、
シェイクスピア原作というのを意識するのか、
最近は殆どが時代を変えたり設定を変えたりする読み替え演出で、
それも殆どが不発に終わっていてガッカリします。
更には主役のオテロが、
強いカリスマ性と迫力と表現力の必要な難役で、
名テノール、プラシド・ドミンゴが当たり役として以来、
当代随一のオテロ、と言えるような歌手は、
未だ現れてはいない、という気がします。

今回の上演は、
これまでに何度もオテロを歌っている、
アメリカのグレゴリー・クンデのタイトルロールで、
これまでにも何度かクンデのオテロは聴いていますが、
その堂々とした押し出しと言い、
表現力と迫力を兼ね備えた歌声と言い、
勿論ドミンゴのような輝きはありませんが、
現在望みうる最高のオテロ歌手の1人と言って、
間違いはないところだと思います。
今回は演技も良かったですし、
歌も第一声などは少し弱いと感じましたが、
2幕以降は迫力充分の歌唱で堪能しました。

ただ、ウォーナーの演出は、
現代に読み替えているのではないのに、
妙に抽象的なセットで、
歌手の役者としての生理を全く無視したものなので、
彼の悪いところが出たな、
という印象がありました。
1幕の酒場での揉め事も、
全くそうした感じになりませんし、
イアーゴが寝転がってアリアを歌うような必要が、
一体何処にあるのでしょうか?

キャストはメインの3人は結構頑張っていたのに、
アンサンブルが悪い原因の殆どは、
この滅茶苦茶な演出にあったように思います。

酷いよ!

一方の「ファウスト」は一転クラシカルで、
これはこれでもう一工夫欲しいな、
という気はするのですが、
如何にもフランスのグランドオペラという雰囲気が豪華で、
なかなか良い舞台に仕上がっていました。

タイトルロールを歌ったヴィットリオ・グリゴーロが素晴らしくて、
僕は以前彼のリサイタルを聴きに行って、
声を張り上げるだけの雑な歌唱に、
何じゃこりゃ、とガッカリしたことがあるのですが、
今回は表現力も迫力も繊細さもある素晴らしい演技と歌唱で、
おみそれしました、という感じでした。

オペラ歌手の中には、
オペラの舞台は抜群に良いのに、
リサイタルは雑で適当という人もいますね。
勿論反対の人もいます。
グリゴーロは典型的に前者ですね。
ドタキャンした公演もあったようなので、
今回聴けたことは幸運でした。

このところ来日オペラは
比較的質の高い公演が多く、
一時と比べるとかなり予算は削減され、
大スターの来日も減りましたが、
これからも時々は足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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