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中高年からの筋力トレーニングの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高齢からの運動の効果.jpg
2019年のFrontiers in Physiology誌に掲載された、
高齢になってから開始された運動の効果についての論文です。

世界的に進行している高齢化社会において重要となるのは、
高齢になっても、
身の回りのことが自力で出来るような健康状態を、
可能な限り長く保つということです。

そのために必要なことは認知症の予防など多くありますが、
筋肉量(骨格筋の量)を維持するということが非常に重要です。

運動などをあまり意識せずに生活していれば、
中年以降筋肉量は減少してゆきます。
これをサルコペニアと呼び、
50歳以降では年に0.5から1%筋肉量は減少し、
筋力はその3から5倍大きく低下するとされています。

筋肉量が低下すれば、
呼吸や消化、嚥下や歩行などの機能は低下し、
転倒して骨折なども起こりやすくなりますし、
食事量も低下するので、
それがより筋肉量の低下に拍車を駆けてしまいます。

それでは、サルコペニアを予防するには、
どうすればいいのでしょうか?

筋力トレーニングのような運動は、
筋肉に負荷を掛けることによって、
その後筋肉量の増加に結び付くシグナルを活性化させます。

それが運動により筋肉量が増加する仕組みです。

しかし、筋肉量が減少し続けている高齢者では、
若い人と同じように筋トレをしても、
その効果はより少ないものになることが知られています。

それでは、この高齢者が筋トレをした時の筋肉の増加反応は、
全く運動習慣のないような高齢者と、
プロのアスリートのように、
普段から運動を継続している高齢者との間では、
差があるものでしょうか?

アスリートの方がより筋肉の増加反応は大きい、
というのが従来の定説ですが、
その根拠となるデータはそれほど多くはありませんでした。

そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
運動経験のない60から80歳の高齢者8人と、
年齢などをマッチングさせた、
自転車競技などを行っていた引退したアスリート7名に、
同じ筋トレをやったもらい、
その前後で筋生検を行って、
筋肉の増加につながる、
筋原線維蛋白質の合成率を比較しています。

その結果、筋肉の合成に繋がる反応には、
アスリートでも運動経験のない人でも、
同じ高齢者であれば差はありませんでした。

つまり、筋トレの効果というものも、
年齢とともに低下する性質のものなので、
60歳以上の高齢者においては、
運動初心者であってもアスリートであっても、
その筋肉増加につながる反応には差はなく、
同程度の効果しか期待は出来ないということになり、
言い方を変えれば、
たとえ運動経験のない高齢者であっても、
筋トレをすることで、
アスリートと遜色のない効果が期待出来る、
ということになります。

加齢により低下する筋肉の機能が何であり、
運動習慣の継続によりそのうちの何が予防可能なのか、
といった点についてはまだ不明の点が多く、
互いに相反する結果もあるので、
1つの研究だけで軽率な結論には至れませんが、
今回の結果は運動経験のないまま年を重ねた方にとっては、
勇気づけられる結果ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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