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亜鉛濃度と脳卒中リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
亜鉛濃度と脳卒中リスク.jpg
2019年のStroke誌に掲載された、
血液の亜鉛濃度と脳卒中リスクとの関連を検証した、
中国の研究者による疫学データの論文です。

亜鉛は身体の健康を保つために必須のミネラルで、
貝類、魚、肉などに多く含まれ、
その欠乏は味覚障害や皮膚炎、脱毛や下痢など、
多くの症状の原因となり、
また免疫力の低下などを招くことも知られています。

身体で働く多くの酵素は、
亜鉛が欠乏するとその働きが低下するため、
そのことが亜鉛欠乏による健康影響の、
大きな原因であると考えられていますが、
その詳細は不明の点も多いのが実際です。

2018年には日本の研究者が、
生体の炎症や酸化ストレスなどの調整に、
重要な役割を果たしている細胞外ATP代謝が、
亜鉛の欠乏により影響を受けるのでは、
という仮説の元に、
ネズミの動物実験と培養細胞を用いた実験によって、
その関与を検証し、
一定の関連があるとの報告を論文化しています。
ただ、現状はこうした知見は仮説の域を出ていないものです。

これまでに心血管疾患や感染症など、
多くの病気が亜鉛の欠乏により起こりやすくなる、
というように考えられています。

ただ、その影響がどの程度であるかについては、
あまり精度の高いデータが存在していないので、
明確ではありませんでした。

今回の研究では中国において、
脳卒中の一次予防に関わる臨床試験のデータを活用して、
亜鉛濃度と脳卒中の発症リスクとの関連を検証しています。
599件の脳卒中の患者さんを、
年齢などをマッチングさせたコントロールと比較しています。
(a Nested Case-Control Study)

亜鉛濃度は一般住民の中央値である106.9μg/dL以下であるか、
より高いかで2分しての比較を主に行なっています。
ちなみに明確に亜鉛欠乏と判断されるのは、
日本では60から80μg/dL未満の時とされています。

中央値で4.5年の経過観察において、
新規発症の出血性梗塞のリスクは、
亜鉛濃度が標準以下と比較して、
標準以上では55%(95%CI: 0.21から0.94)有意に低下していました。
一方で虚血性梗塞についてはそうした関連は認められませんでした。
この亜鉛による出血性梗塞の予防効果は、
BMIが25.0以上の過体重で、血液の銅濃度が低値であると、
より高くなる傾向が認められました。

このように亜鉛濃度が低いことは特に肥満の患者において、
出血性梗塞のリスクになることが推測されました。
銅の低値との関連は、
過剰な亜鉛が銅の排泄を促すなどの関係から、
こじつけは出来ますがたまたまの所見であるかも知れません。

これはまだ検証の必要な知見ですが、
亜鉛の欠乏が色々な病気のリスクに関連していることは事実で、
今後より厳密な検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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