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アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は中村医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カササギ殺人事件.jpg
2017年に原書が発売され、
2018年9月に翻訳版が出版されて、
本格翻訳ミステリーとして、
その年随一の評価を得た作品です。

翻訳物の長いミステリというのは、
一気に読まないと面白くないので、
なかなか時間が取れなかったのですが、
この連休に合わせて読了しました。

まあまあかな。

これは入れ子構造になった作品で、
主人公の女性編集者が、
1955年を舞台にした偽古典のようなミステリー小説の発表前の原稿を、
読み始める前からスタートして、
その後にその架空のミステリー小説が丸ごとあり、
その更に後に編集者とミステリー作家を巡る物語に移行して、
リアルと虚構の謎が交錯するという物語になっています。

こうした作品は日本人作家が比較的得意で、
メタミステリなどとも呼ばれ、
「ドグラマグラ」や「虚無への供物」から、
最近の三津田信三さんの諸作まで、
多くの作例があります。

ただ、幻想的で面白い反面、
結局現実と虚構両方の謎がすべて解き明かされる、
ということは稀で、
何処かに常に齟齬はあり、
謎の一部はそのままにされることが通常です。

一方でこの作品は、
それほどお話しとしてとんでもなくなることはなく、
奇想天外でも幻想的でもないので、
その点はやや物足りないのですが、
現実と虚構の2つの謎が完全に解決され、
その両者ともまずまず納得のゆく出来栄えで、
読後にもやもやした感じがないのが一番の特徴です。

虚構のミステリー小説として提示される作品は、
クリスティーとの類似が指摘され、
作者自身もモチーフにしているようなのですが、
どちらかと言えばパトリシア・モイーズや、
ルース・レンデルの本格趣味の傾向の作品に似ています。

まあまあ良くできていますが、
それほどビックリするようなものではないし、
描写もまどろっこしくて繰り返しが多いですよね。
それはリアルの部分の事件にも言えて、
長い手紙や小説の一部を、
長々と引用する部分があるのですが、
結果としてあまり必要性がない感じなので、
結構読んでいてストレスは感じました。

クリスティーを超えた、というような誉め言葉もあるのですが、
果たして何処がどう超えているのでしょうか?

クリスティーはもっと簡潔で凝縮力があり、
幻想味も外連味もありますよね。
この劇中作がクリスティーを超えているとは、
僕にはとても思えませんでした。

総じてとても面白く読みましたが、
正直多くの方が絶賛するほどではないかな、
というのが個人的な印象で、
少なくとも「今世紀最高」とか、
「50年後に残る」というのは、
大袈裟な意見のようにしか感じませんでした。

ミステリー好きにはそこそこお薦めですが、
これなら古典をそのまま読んだ方がいいかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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魚の良い脂と水銀との微妙な関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプトの事務作業をしています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オメガ3脂肪酸と鉛.jpg
2019年のBMJ Heart誌に掲載された、
魚に含まれる健康に良い脂の成分と、
同時に含まれるメチル水銀との関連についての論文です。

興味深いテーマですが、
研究自体の詰めは甘いという感じのする研究です。

青魚などの身に多く含まれる、
EPAやDHAなどの、
ω3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管系疾患のリスクを下げる作用が、
複数の研究で確認されています。

そのサプリメントとしての使用は、
必ずしも満足の行く結果に至っていませんが、
魚を多く摂る食生活が、
概ね健康的で長寿であり、
動脈硬化に関連する病気も少ない、
ということはほぼ確実で、
その大きな原因が、
このω3系多価不飽和脂肪酸にあると考えられています。

この点では、
どしどし魚を食べましょう、ということになります。

しかしその一方で、
魚には毒性の高いメチル水銀が、
非常に濃縮されて存在している、
という報告があります。

このメチル水銀はEPAやDHAとは反対に、
心血管疾患のリスクを増加させると報告されています。

つまり、魚は心血管疾患を予防する成分と共に、
それを促進するような成分も同時に含んでいる、
ということになる訳です。

それでは、より水銀の多い魚を摂ることによって、
良い脂による健康効果は、
相殺されてしまうのでしょうか?

この点については、あまり明確な知見がありません。

今回のデータはフィンランドにおいて、
動脈硬化のリスクを検証した男性のみの疫学データを解析したものですが、
運動負荷を行なって診断した心筋の虚血の有無を、
血液中のω3系脂肪酸の濃度と、
髪の毛のメチル水銀濃度と比較しています。

髪の毛の水銀濃度は、
主に食事由来のメチル水銀の摂取量を示し、
血液中のEPAやDHAの濃度も、
その摂取量を示しているという推測によるものです。

その結果、
血液中のEPAやDHAの濃度が高いほど、
心血管疾患の既往のある患者さんでの、
負荷検査の陽性率は低下していました。

つまり、動脈硬化が進行した人では、
EPAやDHAを多く摂ることで、
一定の病気の予防効果があるのでは、
ということを示唆する結果です。

その一方で髪の毛の水銀濃度は、
高いほど心筋虚血の陽性率が高くなっていて、
それは心血管疾患の既往によりませんでした。

この研究は必ずしも食事の摂取量を反映していませんし、
心血管疾患の既往のある人で、
負荷検査の陽性率が高いのは当たり前のことですから、
全てが間接的な所見のみで、
研究としては詰めが甘いという印象があります。

ただ、「魚を沢山食べましょう」
という指導があまり深い考えなく行われがちな医療現場において、
その一端にあるリスクを指摘した点が興味深く、
今後のより精度の高い検証を期待したいと思います。

論文の記載によれば、
マグロは水銀の含有が多く、
鮭は少ないのでお勧めのようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第43回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
第43回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
5月25日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。
都合により第4週土曜日の開催となります。

今回のテーマは「梅雨の時期と健康」です。

季節は不安定な状態が続いています。

気温差が大きく体調を崩すことが多い上に、
気温と湿度の上昇から、
熱中症も急増する時期でもあります。

湿度の高さは真菌など、
この時期特有の感染症の増加にも繋がります。
紫外線も強くなる時期で、
肌を守るために紫外線対策も必要です。

このようにこれからの梅雨の季節は、
1年のうちで健康管理に最も重要な季節であると言っても、
過言ではありません。

今回はこれまでと趣向を変えて、
この時期に多い病気や健康影響と、
それへの対策をなるべく分かりやすくご紹介したいと思います。

勿論今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
5月23日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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日焼け止めの成分の血液への移行について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
日焼け止めのリスク.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
日焼け止めの4種類の成分の皮膚からの吸収を検証した論文です。

内容は24名のボランティアで短期間の測定をしたもので、
アメリカのFDAが安全性のチェックのために行なったものです。
論文ではなく、短報という扱いです。

紫外線は皮膚を傷めてシミやそばかすなどの原因となり、
一部の皮膚癌のリスクを増加させます。

このため、以前は日焼けというのは健康のシンボルでしたが、
今では忌み嫌われるようになり、
紫外線の強い時期には日焼け止めが必須、
というのが世界的なトレンドになっています。

最近では多くの化粧品が日焼け止めの成分を含有していて、
その美肌効果が謳われているので、
ほぼ毎日日焼け止めの成分が使用されている、
といっても過言ではない状況が生じています。

その使用は生後6か月から、
場合によっては行われています。

日焼け止めには数多くの成分が含有されています。

古いタイプの日焼け止めは、
紫外線を反射する性質を持つ、
酸化チタンと酸化亜鉛が使用されていて、
こうしたタイプの化合物については、
通常の使用における安全性はほぼ確立しています。

その一方で最近の日焼け止めの主力となっているのは、
紫外線吸収剤と呼ばれるタイプの有機系科学物質で、
今では数十種類が混合され使用されています。

ただ、その安全性についてはまだ明確ではなく、
国や地域によってもその規制は様々です。

アメリカのFDAはこうした紫外線吸収剤について、
皮膚から吸収された際の血液濃度が、
0.5ng/mLを超えないことをその使用の条件としています。

これはその作用が特定出来ない化学物質において、
発癌性のリスクを一定レベル以下にすることを目標に、
算出されている指標です。

仮に発癌性の強い物質であっても、
この濃度以下であればその影響はほぼ許容範囲となる、
という意味です。

今回の検証は日焼け止めの成分の安全性を、
この指標を満たしているかどうかで検証したものです。

24名の健康なボランティアを4つの群に分け、
4種類の日焼け止め(2種類はスプレーで、残りはクリームとローション)を、
毎日4回4日間、身体の4分の3に使用し、
代表的な紫外線吸収剤の成分である、
アボベンゾン、オキシベンゾン、オクトクリレン、エカムスルの血液濃度を、
頻回に測定しています。

その結果、
外用1日目において、
4種類の外用剤の全てにおいて、
その4種類の成分全ての血液濃度は、
基準とされる0.5ng/mLを上回っていました。
オキシベンゼンに至っては、
使用期間を含む7日間の平均血液濃度が、
169.3から209.6ng/mLという高濃度となっていました。

このオキシベンゼンは、
母乳にも含まれていたという報告もあり、
生まれてから死ぬまで、
人によっては常にこの物質の曝露を受けている、
と言っても過言ではありません。

現状こうした紫外線吸収剤の成分が、
人間において明らかな毒性や健康影響を持つ、
という根拠は得られていませんが、
今後そうした検証も積み上げられていくと思われます。

現時点ではこうした日焼け止めの頻用に、
リスクはないとは言い切れず、
その使用は紫外線のリスクの高い状況に、
限って使用することが安全ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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低糖質ダイエットと心房細動リスクとの関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは本日より通常通りの診療に戻ります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
低糖質ダイエットと心房細動リスク.jpg
2019年のJournal of the American Heart Association誌に掲載された、
糖質制限のダイエットと心房細動という不整脈との関連についての論文です。

2018年のLancet Public Health誌に掲載された、
食事の糖質の比率と生命予後との関連についての論文です。

少なくとも短期的には、
低糖質のダイエットが、
体重の減少や血糖値の低下などにおいて、
良い影響を与えることは間違いがありません。

ただ、その長期的な影響については、
問題なく持続可能という意見がある一方で、
長期継続することはリスクがある、
という報告も複数見られます。

問題は糖質制限に伴い、
増加する蛋白質のカロリーと、
増加する動物性脂質と植物性脂質のカロリーとの、
バランスをどう考えるかという点にあります。

2017年のPURE研究という大規模疫学データの解析では、
カロリーにおける糖質の比率が高いほど、
総死亡のリスクは高くなっていましたが、
心血管疾患を発症するリスクや心血管疾患による死亡リスクについては、
そうした関連は認められませんでした。

2018年のLancet Public Health誌に掲載された、
大規模な疫学データとメタ解析を併用した論文では、
総カロリーにおける糖質の比率が、
50から55%が最も総死亡のリスクが低く、
糖質のカロリーが40%未満であるか、
70%を超えていると、
有意に総死亡のリスクが増加することが確認されました。

こうしたデータは食事の内容を細かく比較したものではないので、
糖質制限の全てにそうしたリスクがある、
というようには言えませんが、
一般の方があまり知識の裏打ちなく行うのであれば、
カロリーの40%を切るような糖質制限は、
生命予後に長期的に悪影響を与える可能性がある、
というようには考えておいた方が良さそうです。

今回のデータはこの2018年論文の元になっている、
ARICと名付けられたアメリカの一般住民13385名の疫学データのサブ解析で、
新規の心房細動という不整脈の発症リスクと、
カロリーに占める糖質量との関連を見たものです。

その結果、
カロリーに占める糖質の割合を4つの群に分けて見ると、
最も糖質の比率が低い群(平均で37.2%)と比較して、
最も糖質の比率が高い群(平均で60.8%)では、
心房細動の発症リスクは36%(95%CI: 0.49から0.84)
有意に低下していました。

つまり、この範囲においては、
糖質が低いことが心房細動発症リスクの増加に繋がると、
言っても良いような結果となっています。
このリスクの増加は、
糖質の低下に伴って増加した、
脂質や蛋白質の組成にはよらない変化でした。

このように今回の疫学データの解析では、
糖質制限が心房細動のの新規発症リスクの増加と関連していたのですが、
この問題はより詳細な検証が必要であると思いますし、
また別の疫学データにおいても、
同様の検証が積み重ねられることによって、
心血管疾患のリスクと糖質制限との関連が、
より明確になることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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長楽寺秘仏准胝観音 [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日までクリニックは連休の休診です。
明日は通常通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
長楽寺 秘仏准てい観音看板.jpg
京都の未公開文化財特別公開の、
今年春の目玉の1つとして、
長楽寺の御本尊で、
改元の時にしか開扉されないという、
かなり特殊な秘仏である、
准胝観音菩薩がめでたく御開帳されました。

特に文化財指定などは受けておられない仏様なので、
こうした場合は、
文化財としての仏像マニアとしては、
あまり感銘を受けるようなものではないのだろうなあ、
とは思いながらも、
滅多にない機会であるので、
お参りをして来ました。

この仏様は、
最澄が唐に行く際に嵐に遭い、
危うく波の呑まれかけた時に、
2体の龍にまたがるこの観音様が忽然と現れて、
最澄を救ったことがきっかけとなり、
最澄自らが彫った仏像である、
という説明になっています。

ただ、実際に拝見したそのお姿は、
明らかにかなり時代の下るもので、
光背と台座はほぼ近世のものと思いますし、
仏様自体も古く見積もって室町時代は遡らない、
と思われます。
一緒に祀られている御前立の仏様の方が、
より古いのではないか、
という印象です。

その厨子は江戸時代初期の細工のほどこされた豪華なもので、
おそらくはその厨子と一緒に、
御本尊自体も新調されたのではないかと推測されます。

ただ、これは別に特殊なことではなくて、
仏像は所詮は偶像に過ぎないのですから、
その魂はその場所にあるとして、
新しい形を作った、
ということなのだと思います。

従って、その文化財的な価値のみを見れば、
江戸時代の厨子の方が、
優れていると言って良いように思います。

御本尊の祀られたお堂は、
そう古くはないもののなかなか風情のある建築で、
混み合っている割には、
じっくりと拝観も出来、
鑑賞もすることが出来ました。

御朱印もこの時期だけのものなので、
まあ大変な人気で、
最初に番号札を渡されて朱印帖を預け、
その間にお参りをするという段取りの良いもので、
お坊さんが6人がかりで書かれていましたが、
それでも1時間くらいはお待ちしました。

今の御朱印人気にはまあビックリで、
1時間待つのはざらで断念することもしばしばありました。
ただ、長楽寺はお坊さんだけで6人で書かれていて、
非常に良心的で感心しました。

そんな訳で美術品としての仏像を鑑賞するという意味合いでは、
あまり感銘はありませんでしたが、
素朴な信仰の場所としてはなかなか素晴らしく、
無理を押して拝観する価値はあったと思えたのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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安祥寺十一面観音立像 [仏像]

こんばんは。
北品川藤クリニックの石原です。

明日までクリニックはゴールデンウィークの休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
安祥寺特別公開.jpg
今回休みを利用して京都、奈良に足を運びました。

毎年春と秋の時期に、
非公開文化財の特別公開があり、
今回は令和への改元もあって、
天皇家と関連の深い寺院の公開が多い、
という特徴があります。

そのうちの幾つかに足を運びました。

安祥寺もそうしたお寺の1つで、
今は山科の小さな山寺ですが、
往時を物語る幾つかの優れた文化財を今に伝えています。

今年国宝指定となった平安時代の五智如来様はその代表で、
今は京都国立博物館に収蔵されていますが、
今回一般公開されたご本尊の十一面観音様も、
奈良時代に遡ることが明らかになって、
重要文化財の指定を最近受けた注目の仏様です。

実際に大混雑の堂内で拝観させて頂くと、
2メートルを超える木造漆箔の堂々たるお姿で、
南山城の観音寺の十一面観音や、
桜井の聖林寺の十一面観音という、
高名な天平仏と非常に似通ったその美しいフォルムは、
確かに奈良時代の仏像であることを感じさせます。

ただ、聖林寺や観音寺の観音様の、
完成度の高い見事な造形と比較すると、
やや緩みが感じられるのは、
おそらく後年の修復が、
かなり加わっていることを感じさせます。

それでも素晴らしい仏様であることは間違いなく、
それがお寺のご本尊として、
本堂の厨子の中にしっかり守られている、
というのは奇跡に近いことで、
とても楽しい充実した気分で拝観を終えることが出来たのです。

五智如来様も、
本当はお寺で拝観したいところです。
保存のことを考えれば博物館の管理は、
やむを得ないと思うのですが、
京都国立博物館は照明がとても悪くて、
お寺で拝観するより数段悪条件なのです。
せめてライティングの良い、
奈良国立博物館か東京国立博物館にして欲しいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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トム・ストッパード「良い子はみんなご褒美がもらえる」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
良い子はみんなご褒美.jpg
イギリス演劇界の巨匠トム・ストッパードが、
1970年代に執筆し、
アンドレ・プレヴィンが作曲した、
オーケストラと役者の芝居が競演するという異色作が、
今イギリスの演出家の演出で本邦初演されています。

これはソ連を舞台に、
精神病院に幽閉された政治犯の男と、
同じく入院していて、
自分がオーケストラを指揮していると信じている男が、
途中で入れ替わることによって自由の身になる、
という皮肉で奇妙な作品です。

1時間15分ほどの短い芝居ですが、
舞台奥には本物のオーケストラが陣取っていて、
音楽を演奏しながらその前で芝居が行われる、
という面白い趣向です。

ある男の妄想の中にしか登場しないオーケストラを、
舞台上に実際に登場させ、
それが常にお話の中央に存在している、
という訳で、
明らかに新時代のオペラを目指しているのです。

ただ、発想は面白くても、
実際に上演するのはかなりハードルの高い作品です。

基本的には登場人物の少ない地味な作品なので、
小劇場で上演するのが妥当な感じがするのに、
その一方でオーケストラを舞台に上げないといけないので、
大きな舞台が必要となります。
作品の背景となっているのは1970年代のソ連ですから、
それを今の日本の観客に見せて、
作者の意図を感じさせようというのも、
かなり無理のある試みです。

今回の上演は海外の演出家の手によるもので、
かなり真面目に作品世界を表現しようとしたものですが、
良質な上演ではあったものの、
結果として娯楽性のある芝居にはなっていませんでした。

アンサンブルのダンスが矢鱈とフィーチャーされていて、
如何にも欧米の演出家という感じですが、
個人的には説明過剰で退屈に感じました。
ラストに2人の主人公が入れ替わって釈放されるのは、
一種のギャグだと思うのですが、
その面白さは活かされていたとは思えません。

これは本当はケラさん辺りが演出した方が、
日本の観客の心には響く作品となってように感じました。

演技陣で特筆するべきは、
オーケストラの妄想を生きる青年を演じた橋本良亮さんで、
やや滑舌に難がありましたが、
この難しい役柄を、
説得力と熱量を持って演じていたと思います。

そんな訳で良質な舞台ではありましたが、
面白い芝居とは言い難く、
多分もう再演されることもないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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蓬莱竜太「母と惑星について、および自転する女たちの記録」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日から6日の月曜日までは、
クリニックは休診を頂きます。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
母と惑星.jpg
2016年に初演されて高い評価を得た、
蓬莱竜太さんの女性のみの4人芝居が、
キャストを一部入れ替えて再演されました。

演出は初演と同じ栗山民也さんです。

奔放な母親の3人の個性的な娘が、
母親の死後にその骨を散骨するために、
中東を旅するという物語で、
独白の多いかなり文学に傾斜した芝居です。

栗山さんの演出は例によって地味で、
色彩感に乏しく僕は苦手なのですが、
今回に関しては女優さんの語りを前面に押し出す、
という意味では成功していたと思います。

こうした芝居は4人のキャストの演技が、
どれだけ個性的で膨らみを持っているかが勝負、
という気がします。

今回の座組は鈴木杏さん、田畑智子さん、
芳根京子さんにベテランのキムラ緑子さんというカルテットで、
愛らしく可憐な芳根さんは華がありますし、
鈴木杏さんはもうベテランの風格で汚れ役もこなせる幅の広さがあります。
田畑さんの陰のある屈折した感じもアクセントになって、
なかなか個性的な演技のお競演で見応えがありました。
女そのもののような母親役には、
キムラさんはちょっとイメージが違うかな、
というようには感じました。

作劇は海外戯曲のようで、
なかなか面白かったのですが、
せっかく異国を舞台にした割には、
だまされて高価なペルシャ絨毯を買わされるなど、
エピソードは如何にもありきたりの物が多く、
ちょっと物足りなさも感じました。

ただ、語りと演技に主眼を置いたこうした芝居は、
なかなか意欲的で面白く、
これからもキャストを変えながら、
上演される価値のある芝居だと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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飲み薬でインスリン、は可能となるか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SOMAの論文.jpg
2019年のScience誌に掲載された、
これまで注射でしか使用出来なかった薬を、
飲み薬で可能とする器具についての論文です。

薬というのは色々は方法で使用されますが、
矢張り一番簡単で馴染みがあるのは、
錠剤や粉などの形で口から飲み込む、
内服というタイプの薬です。

しかし、たとえば糖尿病の治療薬では、
飲み薬で使用出来るものがある一方、
インスリンのように、
注射でなければ使用出来ないものもあります。

何故インスリンが注射でしか使用出来ないのかと言うと、
アミノ酸が幾つかくっついただけの構造をしているので、
飲み薬の形で使用すると、
消化酵素などの働きで簡単に分解されてしまい、
そのままの形で血液の中に入ることが出来ないからです。

それでは、こうしたすぐに分解されてしまう成分を、
飲み薬の形で、
そのまま血液に届けるような方法はないのでしょうか?

色々な方法が考案はされていますが、
まだ決め手となるものはありません。

今回の開発品は数ミリの小さなカプセルで、
中に薬が入っていて、
それが胃の粘膜に結合することにより、
薬剤を直接血液に届けることを可能としたものです。

その解説記事にある図がこちらです。
SOMAの図.jpg

このような小さな針とスプリングが内臓されたカプセルを、
口から飲み込むと、
蠕動運動で自然と胃の内側に装着され、
そこで内側から針が出て、
それを通して粘膜筋層に薬剤が注入されます。
そして一定の時間が経つと自然にカプセルは粘膜から外れ、
そのまま便に交じって排泄されるのです。

インスリンを装填したカプセルでの実験では、
ラットや豚において、
皮下注射でインスリンを使用するのとほぼ同等の効果が、
カプセルを飲み込むことで達成されました。

これは人間での検証はまだなので、
すぐに実用化されるという段階ではありません。

原理的にも食道や他の場所で引っ掛かったらどうするのかしら、
など気になる点はあります。

それでも今後を期待させる発明であることは確かで、
研究の進捗やその発表を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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