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SGLT2阻害剤による体重組成の変化 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤と体重組成の変化.jpg
2019年のBMC Cardiovascular Diabetology誌に掲載された、
体重減少効果のある糖尿病治療薬の、
体組成への影響を検証した論文です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目を集めている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させる薬です。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く異なるメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないようにも思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。
こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
これまでに殆ど存在していなかったからです。

この薬でもう1つ注目されるのは体重の減少効果があることです。

SGLT2阻害剤は利尿剤に近い働きをする薬ですから、
体液量の減少により体重が減ってもおかしくはありません。
心不全傾向のある人であれば、
体液量の減少は心不全の悪化を予防する効果が期待されますから、
それが心疾患の予後の改善に結び付いている、
という考え方も出来そうです。

ただ、もしそれだけのことであれば、
利尿剤と変わりはないということになります。

実際のところはどうなのでしょうか?

今回のドイツにおける研究では、
27名の2型糖尿病の患者さんにSGLT2阻害剤を6ヶ月間使用し、
それをサイアザイド系利尿剤を服用している14名と、
健康なボランティア16名と比較して、
その体重や細胞外液量、体組成の変化を検証しています。

例数は少ないのですが、
目の付けどころが良い研究です。

SGLT2阻害剤使用群では、
6ヶ月の使用により、
HbA1cは平均で0.8%(IQR 2.3;0.4)低下し、
体重は2.6キロ(IQR 1.5;9.3)、BMIも0.9kg/㎡(IQR 0.4; 3.3)、
それぞれ有意に低下していました。

体組成の変化を解析すると、
体重に伴い低下していたのは脂肪組織の重量のみで、
筋肉量には有意な変化はありませんでした。

細胞外液量は投与3日目には有意に低下しましたが、
投与3ヶ月以降においては投与前の水準に戻っていました。
SGLT2阻害剤使用開始1ヶ月において、
体液を維持するホルモンであるレニン活性は、
投与前の2.1倍(IQR 0.5; 3.6)に増加しましたが、
投与3ヶ月以降では元に戻っていました。

SGLT2阻害剤を半年投与した時点では、
その細胞外液量には健康ボランティアや利尿剤使用群との間で、
有意な違いはありませんでした。

このように、
SGLT2阻害剤を使用することにより、
その使用早期(3日から1ヶ月程度)においては、
脱水状態が生じてそれに伴いレニン活性は上昇しています。
しかし、その影響は概ね使用3ヶ月後には元に戻り、
細胞外液量の減少は起こらなくなります。
持続的な体重減少は脂肪の減少によっていて、
細胞外液量とは長期的には無関係で、
筋肉量の低下も伴っていません。

これは少数例の検証で、
6ヶ月という期間に限った結果に過ぎませんが、
当初想定されたような脱水による体重減少ではなく、
長期的には脂肪重量の減少による体重低下が見られる、
という今回の結果は大変興味深く、
今後より多数例で、
期間も長く観察した研究で、
この知見が確認されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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