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第42回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談と事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
第42回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
4月20日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「最新版血管年齢と生活改善」です。

血管年齢が何歳です、
というような話は最近良く聞きます。

これはテレビ番組などでも芸能人の血管年齢を測って、
あれが悪いとかこれが良いとかと言った話に、
繋げることがよくあります。

また、医療機関でも両手両足で血圧を測るような機械で、
血管年齢を測定し、
それを元にして生活改善の指導などが行われることがあります。

そもそも血管年齢とはどのようなもので、
どの程度の意味があるのでしょうか?

僕は大学の研究室にいた時に、
この血管年齢の元になる研究をしていたことがあって、
一応論文にもなっています。

心臓から血液が拍動の度に全身に送り出されますが、
これを脈波という波としてとらえると、
脈波が心臓から全身へと送られる速度を、
脈波伝播速度として測定することが出来ます。

これをPWVと言っています。

年齢と共にこのPWVは増加することが分かっていて、
それは血管(この場合は大動脈などの大血管)が動脈硬化で固くなり、
進展性がなくなることによって起こる現象と考えられています。

この原理を応用して数値化したのが、
所謂「血管年齢」です。

ただ、僕が研究していた当時の機械と、
今のものとは大きな違いはあるものの、
基本的な原理には違いはなく、
研究していた時の印象としては、
計測の度にかなりの差があって、
正直あまり役に立たないのではないか、
と言うのが正直な感想でした。

今回はそんな話を含めて、
より広い意味で健康と血管との関連を考えたいと思います。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
3月14日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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プロトンポンプ阻害剤と認知症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIと認知症リスク.jpg
2019年のClinical Pharmacology and Therapeutics誌に掲載された、
プロトンポンプ阻害剤の使用と認知症の発症リスクとの関連についての論文です。

プロトンポンプ阻害剤は、
ネキシウムやタケキャブ、ランソプラゾールやパリエット、
などがそれに当り、
強力に胃酸の分泌を抑制することにより、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎の治療として、
また抗血小板剤など、
消化管出血のリスクの高い患者さんの予防的使用としても、
広く使われている薬です。

この薬は最も有用性の高い胃薬ですが、
その一方で特に高齢者の長期の使用により、
消化管の感染症や骨粗鬆症、
急性の腎障害など、多くの有害事象が報告されています。

また、現時点で明確な結論が付いていない有害事象として、
認知症リスクの増加があります。

長期のプロトンポンプ阻害剤の使用者で、
認知症の発症リスクが高いというデータは幾つかありますが、
それほど精度の高いものではなく、
また関連がないという報告も同様に認められています。

今回の検証は台湾において、
1万人を超える高齢者のプロトンポンプ阻害剤の使用と、
認知症の発症との関連を検証しています。

その結果プロトンポンプ阻害剤の短期使用と比較して、
その長期使用による認知症リスクの有意な増加は認められませんでした。

今回のデータはこの問題については大規模なもので、
現状認知症とプロトンポンプ阻害剤との関連については、
まだ確実なものはないと、
そう考えておいた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病と癌との関連について(日本でのメンデル遺伝子解析による検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病とがんリスク日本.jpg
2019年のInternational Journal of Cancer誌に掲載された、
2型糖尿病の癌リスクについての、
日本の大規模疫学データを元にした論文です。

2型糖尿病の患者さんでは、
多くの癌の発症リスク、
特に膵臓癌、肝細胞癌、大腸癌のリスクが増加する、
ということが知られています。

この現象自体はほぼ事実と考えられていますが、
それが2型糖尿病自体の発症原因とリンクしているのか、
それとも血糖上昇が続くことによる影響や、
内臓脂肪増加やインスリン抵抗性など、
不随する代謝異常などと関連しているのかなどの詳細は、
まだ殆ど分かっていないのが実際です。

今回の研究は日本の代表的な大規模疫学研究である、
多目的コホート研究(JPHC)のデータを活用して、
メンデル無作為化解析という手法により、
2型糖尿病の発症に関わる遺伝子変異と、
癌の発症リスクとの関連を検証しています。

32949名の一般住民を中間値で15.9年の経過観察を行い、
その間に3541例の新たな癌の事例が診断されています。

癌の発症と2型糖尿病の発症に関わる遺伝子変異との関連を検証したところ、
トータルな癌、膵臓癌、肝細胞癌、大腸癌のいずれにおいても、
糖尿病と癌との間に有意な関連は認められませんでした。

癌と2型糖尿病との間に関連のあること自体は事実ですが、
それは2型糖尿病の遺伝子素因とは、
どうやら関連のないものであるようです。

今後こうした検証が積み重ねられることにより、
糖尿病の関連するどのような変化と、
癌の発症とが関連しているのかの解明に、
繋がることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「スパイダーマン スパイダーバース」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スパイダーバース.jpg
今年のアカデミー賞のアニメーション部門を受賞した、
スパイダーマンの新作アニメーション映画を観てきました。

これはスピード感に溢れた、
とてもポップで楽しい映画で、
クライマックスが予定調和的で、
単純な悪党との対決から大団円となってしまうのが、
大人の観客としては少々物足りないのですが、
トータルにはとてもワクワクしながら観ることが出来ました。

映像のクオリティは非常に高くて、
演出もとても自由度の高い面白いものです。
音楽との連携がまた良いのです。
エンドクレジットの映像だけでも、
ずっと見ていたいような気分にさせられます。
とてもとても心地良いのです。

今のSF映画は実写でもほぼCGですから、
CGアニメとの境はあまりないという気がします。
背景も演出もほぼ同一であるのですから、
後は実際の役者さんが演じるかどうかのみの違いということになり、
そうなるとむしろアニメの方が、
ミスキャストはそもそもないですし、
背景との融和度も高いので、
適しているとも言えそうです。

ある意味アニメ原作の実写映画というのは、
そもそも意味をなさない時代になっているのかも知れません。

今回の作品などは、
どう考えても、
これまでのスパイダーマンの全ての映画の中で、
最も面白くかつクオリティも高いので、
もう実写映画という枠組み自体が、
時代遅れであるようにすら感じたのです。

その昔、「ルパン三世カリオストロの城」を、
銀座の小さな映画館で封切りで観て、
あまりの面白さとクオリティの高さに仰天したのですが、
その時に近いような興奮を、
少なくともこの映画の前半には感じることが出来ました。

スパイダーマンのことを何も知らずに観ても、
特に内容に支障はありませんし、
現在のアニメーション映画の1つの到達点を示す金字塔として、
是非多くの方に観て頂きたい傑作です。

僕はアイマックスの3Dで観て、
観る前はアニメに大画面の3Dは無駄遣いかな、
というくらいに思っていたのですが、
そのぶっ飛びの高揚感は抜群で、
御覧になるのであればこちらがお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ダンボ」(2019年実写版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ダンボ.jpg
ティム・バートン監督の手により、
ディスニーでダンボが実写化されました。

これは移動サーカスが舞台ですから、
バートン監督が好きな素材で、
かなり奇妙奇天烈なイメージの氾濫が見られるのではないかしら、
と思って映画館に足を運びました。

結果的にはそこそこは楽しめましたが、
最近のバートン作品の「今ひとつ」感が、
割とはっきり出てしまっていた、
という印象はありました。

バートンの作品は、
監督が偏愛するフリークス達が沢山登場し、
そのキャラはそれぞれに思い入れがあって魅力的なのですが、
結局それで尺を沢山取られてしまって、
対立する悪役にはあまり魅力がないので、
お話としては意外に盛り上がらないことが多いと思います。

この作品では、
ディズニー映画なのに、
ディズニーランドみたいな遊園地を経営する大富豪が敵役で、
最後はその遊園地が壊滅してしまう、
というかなり毒のある設定なのですが、
台本がかなり杜撰な感じで、
最後は勝手に自滅して遊園地を壊してしまうので、
まるで盛り上がらず脱力してしまいました。
これじゃ駄目だよね。

象が大きな耳で空を飛ぶというのも、
ビジュアルとしてとても面白そうなのに、
あまり意外性のある描写にはなっていません。

総じて同じような素材としては、
「グレーテストショーマン」の方が、
数段面白くワクワクする出来映えだったと思います。

ティム・バートンは大好きなので、
不出来な作品でも見逃せない、
というマニアの方以外には、
あまりお薦めでは出来ない作品です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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多発性硬化症におけるだるさに対するココアの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ココアのだるさへの効果.jpg
2019年のJ Neurol Neurosurg Psychiatry誌に掲載された、
多発性硬化症の患者さんにおける、
ココアのだるさ改善効果についての論文です。

多発性硬化症というのは、
神経を守る髄鞘と呼ばれる部分が障害される神経難病で、
視力低下や手足のしびれや痛み、言葉がしゃべりにくくなるなど、
多彩な症状が再発と寛解を繰り返しながら進行します。
そのため、初期には診断が付かず、
不定愁訴のように言われることもしばしばです。

この病気の症状の1つとして、
高頻度に見られるのが疲労感や疲れやすさです。

多発性硬化症の症状としてのだるさは、
原因が必ずしも明確ではなく、
有効な治療がないという問題があります。
ステロイドやインターフェロン、免疫抑制剤などの治療は、
このだるさに対しては無効と考えられています。

唯一効果が確認されているのは、
薬ではなく運動療法です。

そこで今回このだるさへの治療として、
試みられているがココアです。
ダークチョコレートやココアに多く含まれるココアフラボノイドには、
だるさを改善するような効果のあることが確認されていて、
慢性疲労症候群に有効であったという報告もあります。

そこで今回の研究では、
多発性硬化症に対するココアの効果を検証しています。

対象となっているのは多発性硬化症と診断されている40名で、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は毎朝通常のココアを飲み、
もう一方は味は同じでココアフラボノイドを減らしたココアを飲んで、
6週間の経過観察を行なっています。

その結果、
ココアフラボノイドを減らしたココアと比較して、
通常のココアを飲んだ方が、
だるさの指標が僅かながら有意に改善し、
疲れやすさの指標にも有意な改善が認められました。

このように、
ココアがだるさや疲れやすさに有効であることは、
ほぼ事実と考えて良く、
今後そのメカニズムの探求と共に、
有効な飲み方を含めた使用法の検討にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コプリック斑の診断能はどのくらいか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コプリック斑の診断能.jpg
2019年のFrontiers in Microbiology誌に掲載された、
麻疹(はしか)の初期診断において、
重要な所見とされている「コプリック斑」が、
実は他のウイルス感染症でもしばしば見られる所見であった、
という日本発の知見です。

麻疹はウイルス感染症の中でも、
感染力が強く重症化することも多い病気です。
そのためワクチン接種が予防のために行われていますが、
様々な事情があって年齢層によりワクチンの接種率には大きな差があり、
散発的な流行を招いていることは、
皆さんもご存じの通りです。

麻疹はまず発熱や鼻水、咳といった、
通常の風邪と変わりのない症状で始まり、
一旦熱が下がってから、
全身に皮疹が出現して再度の発熱に至るのが特徴的な経過です。

そのため、特徴的な湿疹が出現しないと、
診断が付かないことが多いのです。

初期には高熱のため、
インフルエンザなどが疑われることもあります。

それでは、皮疹出現の前に、
麻疹を疑うような兆候はないのでしょうか?

この点において昔から有名なのが、
コプリック斑です。

コプリック斑というのは、
1896年にアメリカの医師であるコプリックにより初めて報告された、
麻疹の初期の所見の1つで、
皮疹出現より数日前に見られる、
口の頬の辺りの粘膜の、
発赤を周囲に伴う白い盛り上がりです。

この所見は麻疹のみで見られるものとされ、
病初期に麻疹の存在を疑うと言う意味で、
臨床的に非常に重要な所見とされています。

ただ、他のウイルス疾患での発生の報告もあり、
実際に麻疹の事例においてどのくらいの比率で、
コプリック斑が生じるのかというデータも、
信頼のおけるものはあまり存在していません。

今回の報告は横浜市立大学や国立感染症研究所などの共同研究ですが、
麻疹もしくはその疑いとして報告された事例、
トータル3023例を解析して、
その原因ウイルスとコプリック斑との関連を検証しています。

その結果、麻疹疑いの3023例中、
遺伝子検査で麻疹ウイルスが検出されたのは421例で、
風疹ウイルスが検出されたのは599例でした。
つまり、臨床的に麻疹が疑われる事例の中でも、
実際には風疹が多かったのです。
一方でコプリック斑は全体の24%に当たる717件で検出されています。
つまり、コプリック斑が認められた事例の中でも、
麻疹以外の病気のケースが多かったのです。

麻疹の事例におけるコプリック斑の陽性率は28.2%で、
風疹における陽性率はそれに次いで17.4%でした。

このように、
確かにコプリック斑は麻疹で見られやすい所見ではあるのですが、
風疹でも少なからず認められるなど、
それほど麻疹に特異的な所見ではなく、
その麻疹における出現率は、
今回の検証では3割弱という程度でした。

今回のデータは、
単純に各医療機関からの報告をまとめたものなので、
コプリック斑の診断能は報告者により様々で、
統一されたものとは言えないので、
そのバイアスがかなりあると思われます。

今度どのような臨床所見が、
最も麻疹の診断に有効であるのか、
より包括的な検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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変形性関節症に対するトラマドール使用の生命予後への影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので外来は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トラマドールの生命予後への影響.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
最近整形外科などで頻用されている痛み止めの、
生命予後への影響についての論文です。

腰痛や膝などの関節炎の痛み止めとして、
最近使用されることが多いのが、
オピオイド系鎮痛薬のトラマドールです。

単独の製剤がトラマールとして、
消炎鎮痛剤のアセトアミノフェンとの合剤が、
トラムセットという商品名で日本では使用されています。

トラマドールは麻薬のモルヒネと同じ、
オピオイド受容体に弱く結合する薬で、
モルヒネより副作用が少ないために、
癌性疼痛以外にも難治性の痛みに対して、
幅広く使用されています。

現行の国内外のガイドラインにおいても、
慢性疼痛の治療の第一選択は非ステロイド系消炎鎮痛剤ですが、
それで痛みのコントロールが困難な場合には、
次に推奨されているのはトラマドールなどのオピオイド系鎮痛剤です。

しかし、
非ステロイド系消炎鎮痛剤と比較して、
トラマドールの使用が生命予後に与える影響に、
どのような違いがあるのかについては、
あまり明確なことが分かっていません。

そこで今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの医療データを活用して、
50歳以上で変形性関節症と診断された患者さんに対して、
非ステロイド系消炎鎮痛剤が使用された場合と、
麻薬のコデインが使用された場合、
そしてトラマドールが使用された場合との、
1年間の生命予後を比較検証しています。

トータルで88902名の患者さんが登録され、
その内訳はトラマドール使用者が44451名、
非ステロイド系消炎鎮痛剤のナプロキセン使用者が12397名、
ジクロフェナク使用者が6512名、
セレコキシブ使用者が5674名、
エトリコキシブ使用者が2946名、
麻薬のコデイン使用者が16922名となっています。

観察期間中のトラマドール使用者の総死亡のリスクは、
ジクロフェナクと比較して1.88倍(95%CI: 1.51から2.35)、
ナプロキセンと比較して1.71倍(95%CI: 1.41 から2.07)、
セレコキシブと比較して1.70倍(95%CI: 1.33から2.17)、
アトリコキシブと比較して2.04倍(95%CI:1.37から3.03)、
それぞれ有意に増加していました。
一方でコデインとの比較においては、
総死亡に有意な差は認められませんでした。

この結果は1年という短期間のもので、
非ステロイド系消炎鎮痛剤が使用されるよりも、
より重症度の高い疼痛に対して、
コデインやトラマドールが使用されることが多いと考えると、
その基礎疾患が予後に影響をしているという可能性も否定は出来ません。

従って、
この結果のみをもってトラマドールの予後が、
非ステロイド系消炎鎮痛剤より悪いとは言い切れません。
ただ、その可能性が示されたことは事実で、
今後の知見の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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橋本病に対する甲状腺全摘術の効果(ノルウェーの介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
橋本病に対する甲状腺切除の効果.jpg
2019年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
橋本病の手術治療についての論文です。

橋本病は甲状腺に慢性の炎症が持続して甲状腺が腫れる病気で、
Tリンパ球に関連する免疫系の異常があり、
甲状腺のペルオキシダーゼやサイログロブリンに対する、
自己抗体が炎症の原因となる、
自己免疫疾患であると考えられています。

無痛性甲状腺炎と呼ばれる炎症を繰り返し、
徐々に甲状腺の予備力が低下して、
甲状腺機能低下症に移行するのが一般的な経過で、
現状は機能低下になった時点で、
甲状腺ホルモン製剤(通常はT4製剤)で治療を行うことが一般的です。

しかし…

橋本病には全身倦怠感や口渇、ドライアイ、
睡眠障害、関節や筋肉の痛みなど、
日常生活に影響を与える多くの症状があることが知られていますが、
甲状腺ホルモン剤によって、
見かけ上機能低下が改善されても、
そうした症状の改善には、
繋がらないことがしばしばあります。

この現象の解釈は単一ではありませんが、
そのうちの1つは、
自己抗体の上昇自体が症状の原因であるというものです。

甲状腺機能が正常化しても、
橋本病の自己抗体が正常化するという訳ではないので、
仮にそうであれば症状は改善しなくてもおかしくはありません。

それでは、
自己抗体による症状を改善する方法はないのでしょうか?

上記文献の著者らが検討しているのは、
甲状腺の全摘出を行うことにより、
自己抗体を甲状腺ごと排除してしまおう、
というやや乱暴とも思える方法です。

確かに無痛性(時には有痛性)の甲状腺炎を繰り返して、
そのコントロールが困難であるようなケースでは、
やむを得ず甲状腺の摘出が検討されることはありますが、
症状のみがあるからと言って、
それで甲状腺を切除してしまうのは、
あまりにリスクが大きすぎるようにも思います。

実際にはどうなのでしょうか?

今回の研究ではノルウェーの単独施設において、
18歳から79歳の橋本病で、
甲状腺ホルモンの使用により甲状腺機能が正常化していても、
倦怠感や睡眠障害などの症状が持続していて、
抗ペルオキシダーゼ抗体が1000IU/mLという高値を示している、
150名の患者さんをくじ引きで2つに分けると、
一方は甲状腺の全摘を行い、
もう一方は甲状腺ホルモンによる治療のみを行って、
18ヶ月の経過観察を施行しています。

その結果、
患者さんのADLと全身倦怠感は、
甲状腺ホルモンのみの治療と比較して、
全摘術で有意に改善が認められました。

この結果は注目すべきものではありますが、
倦怠感などの不定愁訴的な症状の、
何処までが橋本病によるものかの特定が困難な現状で、
甲状腺の全摘を施行するというのは、
かなりラディカルな解決法で、
患者さんにはより長期の検証が不可欠だと思いますし、
今後のより詳細な検証の結果を待ちたいと思います。

ただ、橋本病の患者さんが多くの症状を訴えても、
甲状腺機能が正常であれば、
それのみで治療の選択肢はないという現状は、
患者さんにとって望ましいものではないことは明らかで、
今後対処療法を含めて、
多くの治療が検討されるべきであると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アレルギー疾患と癌リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アレルギー性疾患と癌リスク.jpg
2019年のCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌に掲載された、
アレルギー性疾患と癌リスクとの関連についての論文です。

花粉症が少しピークは過ぎたものの、
まだ症状に苦しんでいる人は多い状態が続いています。
スギ花粉だけでしたらもうじきですが、
ヒノキ花粉もあると連休以降も症状は続きますし、
通年性のアレルギーに苦しんでいる人も少なくありません。

このように今やアレルギーは国民病という感があります。
花粉症などのアレルギー性鼻炎に蕁麻疹、
喘息、アトピー性皮膚炎などは、
広い意味ではアレルギー性疾患として総称され、
世界的にその患者さんは増加していますが、
その理由については色々な説はあるものの、
まだ明確な結論は得られていません。

アレルギーは免疫反応の一部が過剰反応したものですから、
全身の免疫系にも少なからず影響を与える可能性があります。

それでは免疫とも密接な関連のある癌と、
アレルギー性疾患との間にはどのような関係があるのでしょうか?

アレルギーは粘膜などに慢性の炎症を起こしますから、
それが持続することによって遺伝子の傷が生じ、
それが積み重なることによって、
癌の発生に繋がるという可能性が示唆されます。

その一方でアレルギーは、
外部の異物に対する過剰な免疫反応という言い方が出来ますから、
免疫の作用により癌の発症も予防されるのでは、
という可能性もまた示唆されるのです。

このどちらが正しいのかについても、
まだ結論が出ていません。

今回の研究ではアメリカの大規模な疫学データベースを活用して、
アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹の3種類のアレルギー疾患と、
各種の癌の発症リスクとの関連を検証しています。

癌と最初に診断された1744575名を、
癌を発症していない10万名と比較して、
アレルギーと癌の発症との関連を検証しています。
コントロール群では、8.4%にアレルギー性鼻炎が、
気管支喘息が3.45%、蕁麻疹が0.78%に認められています。

アレルギー性鼻炎は、
下咽頭癌、食道扁平上皮癌、
子宮頸癌、扁桃咽頭癌、膣外陰部癌の、
それぞれの発症リスクを有意に低下させていました。
(44%から21%のリスク低下)

喘息は肝臓癌のリスクを、
18%(95%CI: 0.75から0.91)有意に低下させましたが、
それ以外の種類の癌ではそうした予防効果は確認出来ませんでした。

蕁麻疹はT細胞リンパ腫のリスクを、
逆に4.12倍(95%CI: 3.43から4.95)有意に増加させていました。
他の癌については効果はまちまちでしたが、
少なくとも明確な予防効果は認められませんでした。

このようにアレルギー性鼻炎のあることは、
多くの癌において予防的に働く可能性があり、
喘息も肝臓癌においては予防効果のある可能性がありますが、
蕁麻疹はそれとは異なり、
血液由来の癌のリスクを増加させていました。

この現象が一体何を意味しているのか、
現時点では何とも言えませんが、
鼻炎のあることが粘膜周囲から発症する癌の、
リスク低下に結び付いていることは、
免疫の調節に関連している可能性を想像させますし、
蕁麻疹は他のアレルギー素因とは、
別個に発症することもありますから、
癌の発症リスクとの関連が別個である、
という知見は非常に興味深く、
今後の検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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