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心不全に対する新薬(サクビトリル・バルサルタンナトリウム水和物)の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ネプリライシン阻害剤の心不全への効果.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心不全の新薬の治療効果についての論文です。

この新薬はネプリライシン阻害剤のサクビトリルと、
従来からあるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
のバルサルタンの合剤です。

ACE阻害剤やARBは以前から心不全の治療に使用され、
その有効性が確認されている治療薬です。

今回の新薬はそのARBの1つであるバルサルタンに、
別個のメカニズムのサクビトリルを一緒にしたものです。

ネプリライシンというのは、
内因性ナトリウム利尿ペプチドを分解する酵素で、
その分解を阻害することにより、
心臓の保護作用を強めることが、
ネプリライシン阻害剤であるサクビトリルの効果です。

この薬は、
心臓に害を与えるレニン・アンジオテンシン系の活性化を抑え、
防御的に働く内因性ナトリウム利尿ペプチドを増加させることで、
より強力に心不全を治療しようとする薬剤です。

まだ日本では未発売で、
臨床試験が施行されている段階ですが、
アメリカとヨーロッパにおいては、
2015年に心機能の低下した心不全の治療薬として承認され、
ガイドラインにも記載されています。

その根拠となっているのは、
主に2014年に発表された、
PARADIGM-HF試験によるものです。

この試験においては、
外来で心機能の低下した心不全の患者さんに、
ACE阻害剤であるエナラプリルを使用した場合と、
サクビトリル・バルサルタン水和物を使用した場合を比較したところ、
中間値で27ヶ月の経過観察期間において、
心血管疾患による死亡と心不全による入院を併せたリスクを、
エナラプリルと比較して新薬が有意に低下させていました。

今回の研究はPIONEER-HF試験と題されたもので、
心不全の急性増悪で入院した患者さんに、
入院中から新薬を開始した場合の有効性を、
矢張りエナラプリルと比較して検証したものです。

アメリカの129の専門医療施設において、
心不全の急性増悪で入院して病状の安定した881名をくじ引きで2つに分けると、
一方はACE阻害剤のエナラプリルを1日20ミリグラムで使用し、
もう一方は新薬を使用して、
8週間の経過観察を行っています。

その結果、
心不全の重症度の指標であるNTproBNPという検査値は、
エナラプリル群と比較して有意に低下していました。

これは実際の予後を比較しているのではないので、
敢くまで間接的なデータですが、
入院中の早期からこの新薬を使用することで、
従来より心不全のその後のコントールが、
良好となる可能性が示唆されたのです。

この薬は今後心不全治療の柱となる可能性があり、
日本においても早期の臨床導入を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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