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血圧を下げることで認知症は予防出来るのか?(SPRINT試験のサブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症と降圧治療.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
厳格な降圧治療による認知症発症予防効果を検証した論文です。

これは厳格な血圧コントロールの有効性を検証した、
有名なSPRINT試験のデータを活用したものです。

認知症は高齢化社会における最も深刻な健康上の問題ですが、
世界中で研究は進められていながら、
認知症そのものを治療するような治療法の開発は、
あまり進捗が見られていません。
アメリカのFDAが認可した認知症の治療薬は、
2003年以降存在していません。
15年以上足踏み状態が続いているのです。

そこでもう1つの認知症対策の柱となるのが、
認知症の予防です。

認知症はある日突然起こるような病気ではなく、
10年以上の期間を掛けて進行する病気です。
最初は全く症状がないうちに、
異常タンパクの蓄積などの脳の変化が起こり、
それから軽度認知障害(MCI)という、
認知機能の一部のみが低下した状態が出現します。
そこからまた数年以上を掛けて、
認知症への進行するのが一般的な経過なのです。

それでは、
まだ、異常タンパクの沈着が始まったくらいの段階や、
軽度認知障害の段階で、
その後の進行を予防することは出来ないのでしょうか?

動脈硬化と関連のある心血管疾患のリスクと、
認知症のリスクとの間には関連のあることが分かっています。

それが事実とすれば、
心血管疾患の代表的なリスク因子である高血圧を、
厳格にコントロールすることにより、
認知症の進行も予防出来るのではないでしょうか?

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。

平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

このSPRINT試験の延長として、
より厳密な降圧治療の認知症予防効果を検証しているのが、
今回の研究です。

SPRINT試験の観察期間のみでは、
認知症の進行を見るには短すぎるので、
試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、
トータルで6年近い経過観察を施行しています。

その結果、
観察期間中に認知症と診断されるリスクは、
通常降圧群と比較して厳格降圧群では、
17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。
(95%CI: 0.67から1.04)

ただ、軽度認知障害の発症リスクは、
厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、
軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、
厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、
それぞれ有意に低下していました。

このように、
より厳格な血圧コントロールを行なうことにより、
一定レベル認知症の発症を予防出来る可能性がありますが、
それは軽度認知障害以前の状態において、
より有効であるようです。

ただ、今回のデータでは、
観察期間中のコントロール状態は後半は一定ではなく、
有害事象のチェックも不充分ですから、
これをもって即座に厳格な血圧コントロールが、
認知症予防に有効とは言えません。

今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血圧測定は手動より自動血圧計が優れている?(2019年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
自動血圧計の精度.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
現状の自動血圧計を使用した血圧測定の精度を検証した論文です。

血圧は非常に重要な健康指標であることは間違いがありませんが、
その測定法についてはまだ多くの議論があり、
何が正しいのかという結論に至っていません。

正式な血圧測定の方法は、
現在でも腕を加圧して、
聴診器で医者や看護師が、
血管から生じる音を聴く聴診法ですが、
元々の機器自体が今は水銀の毒性の問題があって、
使用出来なくなっていますし、
実際にその音の実態が何であるのか、
という本質的な部分が実はよく分かっていません。

それに代わって、
今では多くの大学病院でも使用されているのが、
皆さんが自宅で測定に使用するような自動血圧計です。

ただ、これもその測定法には種類が多くあって統一はされておらず、
聴診法と一致させることを目標として、
あるアルゴリズムの元に測定値が算出されているものの、
その詳細はメーカーの企業秘密で公開されていないなど、
血圧測定のスタンダードとするには、
多くの問題を抱えています。

現状でも多くの臨床試験において、
外来での診察時の血圧値が活用されていますが、
患者さんの中には、
医者に行くだけで血圧が上がる、
というような人もいて、
必ずしも高血圧による患者さんのリスクを、
正確に反映していないという指摘があります。
測定者の手技やある種のクセによって、
数値が変動しやすいことも問題です。

一番その患者さんの状態を把握するのに有用な測定法は、
24時間の連続的な血圧測定ですが、
それを全ての高血圧の患者さんに行うことは、
現実的ではありません。

最近オシロメトリック法という、
血管の振動を感知して血圧を測定する方法を用いた、
自動血圧計が進歩を遂げ、
数回の連続測定を行ってそれを平均することにより、
通常より安定して正確に血圧を測定することが可能となりました。
この場合、患者さんを個室で1人にして、
静かな環境下で自分で測定を行ってもらいます。
そうすることにより、
医者の前で緊張して血圧が変動するような事態を、
回避することが可能となると考えられるのです。

日本で主にこの方式による血圧計を販売しているのはオムロンで、
今回の検証でもオムロン907という自動血圧計の臨床データが活用されています。

今回の研究ではこのオムロン907を利用したデータを含めて、
これまでの自動血圧計を用いた外来での血圧測定のデータを、
まとめて解析するシステマティックレビューとメタ解析という手法を用いて、
外来における医師や看護師の手動の血圧測定と、
環境を整えた上での自動血圧計の計測をと、
比較検証しています。

その結果、
24時間血圧測定の昼間の数値により近かったのは、
医師や看護師による手動の血圧測定より、
環境を整えた上で患者さん本人が施行した、
自動血圧計の測定値となっていました。

ただ、たとえばオムロンの測定の場合、
1分間隔で3回の測定を平均していて、
それを静かな個室で時間を掛けてやるのが前提ですから、
常に臨床で実行可能な方法とは言い難い面もあります。

これまで長いこと外来で血圧を測定し続けている立場としては、
「お前なんかの測定より機械の方が役に立つんだよ」
と言われることは切ない思いもあるのですが、
今後血圧測定はその方法の議論はともかくとして、
自動測定がスタンダードとなる流れは、
どうやら止められないものであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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朝食を抜くと太る、は本当か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
朝食抜き生活と肥満.jpg
「朝食を抜くと太る」というのは、
比較的良く聞く食生活の常識的意見です。

そのために、
1日3食をしっかり摂るという食生活が推奨されます。

しかし、そこにはどれほどの科学的根拠があるのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
朝食抜き生活のリスク.jpg
これはその問題についての代表的な知見の1つで、
2013年のPublic Health Nutrition誌に掲載されたものです。
スウェーデンにおける16歳の年齢から27年という、
長期間の疫学データを活用して、
16歳時の朝食抜きの食生活が、
43歳時の肥満やメタボリックシンドロームと、
どのような関連があるのかを検証したものです。

その結果、朝食を食べないことは、
中年期のメタボリックシンドロームのリスクを、
1.68倍(95%CI: 1.01から2.78)、
中心性肥満のリスクを1.71倍(95%CI: 1.00から2.92)、
空腹時血糖のリスクを1.75倍(95%CI: 1.01から3.02)、
それぞれ相関は弱いものの有意に増加していました。

このように、朝食抜きの食生活は、
肥満やメタボの誘因になるというデータはあるのですが、
時間がかなり経ってから影響する、
というようなやや回りくどいもので、
差が付いていると言っても、
かなり微妙な差というレベルです。

今回の研究では、
これまでに報告された臨床データをまとめて解析する、
システマティック・レビューとメタ解析という手法を用いて、
この問題の検証を行なっています。

所得の高い地域で行われた、
これまでの13の介入試験をまとめて解析した結果として、
朝食を摂らない生活をする人は、
きちんと摂る人と比較して、
やや体重の多い傾向はあるものの明確ではなく、
朝食を撮るかどうかで比較した試験では、
朝食を撮ることによりトータルな摂取カロリーは増加し、
それは体重減少よりむしろ体重増加に結び付いていました。

このように、
朝食を撮る習慣自体は健康的なものですが、
朝食を撮らない人に摂るような指導を行うことは、
体重減少には逆効果である可能性が高いようです。

朝食を抜くと太る人もいるとは思いますが、
「朝食を抜くと太る」というのは、
科学的な事実とは言えないようなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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インフルエンザは湿度が低いと増える、は本当か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
インフルエンザ感染と湿度と温度.jpg
2019年のApplied and Environmental Microbiology誌に掲載された、
インフルエンザ感染における湿度や温度などとの関連を調べた論文です。

インフルエンザの大流行がクリニックの周辺でもまだ続いています。

A型は当初H1N1pdm09が大部分であったようですが、
最近はH3N2(A香港型)も検出事例が増え、
ほぼ半々となっているようです。

それに伴って症状も当初とは違い、
かなりバラエティに富んだものとなっています。

インフルエンザの流行とその予防については、
怪しげなものを含めて色々な意見があります。

そのうちで良く聞くものの1つが、
湿度が低いとインフルエンザに罹りやすい、というものです。

確かに空気が乾燥していると、
喉は常に少し痛い感じになり、
風邪を引くことも多いようには思います。
厚生労働省のサイトのインフルエンザについての記述でも、
湿度を50%以上に保つことが、
インフルエンザの予防になると、
特にその出典は示されていないものの明記されています。

そうなると、
湿度とインフルエンザ感染との関係は、
実証された事実のように思ってしまいますが、
実際にそうなのでしょうか?

上記文献の記載によると、
湿度や温度などの環境要因と、
インフルエンザ感染との間に関連のあることは事実ですが、
報告によっても違いがあり、
またその地域の気候によっても違いがあるため、
あまり確実と言えるような知見は少ないようです。

湿度は通常、
その温度の空気中に存在出来る、
水分の最大量を100%とした時の比率である、
相対湿度が通常「湿度」として述べられていますが、
それ以外に絶対湿度という指標があり、
これは1キログラムの空気中に、
絶対値としてどれだけの重さの水分が、
含まれているのかを数値化した指標です。

科学的には重要視されているのは、
相対湿度より絶対湿度で、
絶対湿度が高いと、
インフルエンザウイルスを含む飛沫粒子が安定せず、
感染が起こりにくい、
とする複数のデータが存在しています。

一方で厚生労働省のサイトには、
粘膜の防御機能が相対湿度が低いと低下する、
という趣旨の説明がありますが、
それとは全く別個の考え方もある訳です。

そもそも熱帯地域では、
インフルエンザは雨期に流行しており、
温暖な地域でのみ、
低温で湿度の低い時期に流行しているので、
湿度とインフルエンザ感染との関連は、
これだけ見ても単純ではないのです。

今回の研究はカナダのトロントにおいて、
鼻腔や気道から採取された検体のうち、
インフルエンザウイルスが遺伝子検査で検出された事例の検証から、
絶対湿度、相対湿度、気温、風速それぞれのインフルエンザ感染に対する影響を、
検証したものです。

トロントにおいては、
寒い冬の時期にインフルエンザA型が流行し、
その後春先で気温が上昇する時期に、
インフルエンザB型が流行しているので、
日本と似通った流行状況であるのです。

検証の結果、
気温と絶対湿度は互いに関連していて、
気温が低く絶対湿度が低いほど、
A型とB型のインフルエンザはいずれも感染が活発化していました。

相対湿度については、
A型インフルエンザは高いほど感染が活発となり、
逆にB型インフルエンザは低いほど感染が活発になっていました。

また気温の変動が大きいほど、
B型インフルエンザの感染は活発になっていましたが、
A型インフルエンザについてはそうした関連は認められませんでした。

風速が早いほど、
インフルエンザ感染は起こりやすいとする過去データがありましたが、
今回の検証では風の強さと感染の起こりやすさとの間には、
関連は認められませんでした。

このように、
通常言われている相対湿度とインフルエンザ感染との関連は、
今回の検証ではインフルエンザB型のみに成り立つ現象で、
相対湿度が低いと感染が活発化するという常識は、
必ずしも常に成り立つものではなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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LDLコレステロールと中性脂肪低下との関連(アポB仮説) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コレステロールと中性脂肪降下療法の差.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
コレステロールと中性脂肪を下げることの、
それぞれの意義についての論文です。

コレステロール、
特に悪玉コレステロルと呼ばれることのある、
LDLコレステロールを、
低下させることが動脈硬化疾患の予防に繋がる、
という知見はほぼ確立されています。
特に心筋梗塞などの再発予防や、
心血管疾患のリスクの高い糖尿病の患者さんでは、
スタチンという薬剤によって、
血液中のLDLコレステロールを低下させることが、
有益な治療であることが、
各種のガイドラインにも記載をされています。

一方で中性脂肪に関しては、
中性脂肪が高値であると、
それだけでも動脈硬化進行のリスクとなることは、
疫学データや観察研究などでは多く報告されていますが、
薬剤などで中性脂肪を下げることにより、
コレステロールのように明確にそのリスクを下げる効果は、
確認をされていません。

ただ、コレステロールも中性脂肪も、
形は違えど身体で利用される脂質であることには違いはなく、
同じアポ蛋白という一種の乗り物に乗せられて、
リポ蛋白という構造で血液中を運ばれている、
という点では同じです。

このアポ蛋白にも種類があって、
その役割が異なり、
コレステロールや中性脂肪の数値自体よりも、
それを運んでいるアポ蛋白の方に、
より大きな意味があるのではないか、
という考え方もあります。

アポ蛋白A1が主にHDLコレステロールを運び、
アポ蛋白Bが主にLDLコレステロールを運んでいるので、
LDLやHDLの数値の代わりに、
アポBとA1の比率を用いるという指標が、
推奨されたこともありました。

こうした指標の有用性が決してなくなった訳ではありませんが、
最近はあまりそうした報告を目にしません。
現状LDLコレステロール値の有用性が確立しているので、
それに代わる指標としての重要性が、
一般臨床においては見出し難いことが、
その主な理由であるように思います。

ただ、LDLコレステロールを充分に低下させても、
それだけでは脂質異常症の患者さんにおける心血管疾患のリスクを、
正常と同じにすることは出来ないので、
そこに付加される指標が必要であることも、
また事実ではあるのです。

今回の研究では、
北アメリカとヨーロッパにおける、
63の疫学データをまとめて解析して、
中性脂肪が低くなる遺伝子素因と、
LDLコレステロールの低くなる遺伝子素因の、
心血管疾患リスクとの関連を比較検証しています。

中性脂肪を低下させる遺伝子素因も、
LDLコレステロールを低下させる遺伝子変異も、
いずれもアポ蛋白Bを低下させるので、
その低下と心血管疾患リスクの低下との関連を検証しているのです。

その結果どちらの遺伝子素因も、
心血管疾患リスクの低下に結び付いていましたが、
それは同じレベルのアポ蛋白Bの低下と結び付いていて、
アポ蛋白Bの変動で補正すると、
その心血管疾患リスクの低下は消失してしまいました。

要するに、
LDLコレステロール低下療法も、
中性脂肪の低下療法も、
その有効性はLDLコレステロールや中性脂肪の数値よりも、
アポ蛋白Bを低下させることが、
その効果の本質である可能性がある、
ということを示唆する結果です。

アポ蛋白Bの増加はそれ自体の血管内皮への接触が、
動脈硬化の誘因となるという仮説もあり、
今後はアポ蛋白Bの測定が、
一般臨床においてもより重要な役割を果たすことになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「バハールの涙」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
バハールの涙.jpg
名作「パターソン」で主人公の妻を演じたゴルシフテ・ファラハニが、
クルド人の女性兵士のみの部隊の隊長を演じ、
捕らわれた自分の息子を取り戻すため、
ISと戦闘を繰り広げるという、
現代ならではの物語を、
リアルに描出した話題作を観て来ました。

ハリウッド製では、
とても実現しないような企画ですが、
フランス・ベルギーなどの合作で、
現地の言葉とフランス語、英語の入り交じるリアルな作劇の、
観客に中東の戦争を体感させるような映画になっています。

全体のタッチはただ、
かなり映画的に誇張はされていて、
ご都合主義的な展開も多い一方で、
詩文を朗読したり、
闇の中に兵士の顔が浮かんでは消えたりと、
「地獄の黙示録」を思わせるような、
象徴的な表現も多く見られます。

物語自体も、
最後にあっさり主人公の女兵士が息子と出会ってしまうのは、
あまりに虚構に過ぎるような気がしますし、
リアルな戦闘シーンもありながら、
女性兵士は意外にへっぴり腰であったり、
善悪が極めて荒っぽく二分されていて断定的に描かれているなど、
内容的にも疑問に感じるところも少なくありません。

テロや戦争に家族を奪われて、
自身も片目を失った女性ジャーナリストが、
狂言回しになっているのですが、
隻眼のその姿とたたずまいは、
むしろ一番の凄腕兵士のように見えてしまいます。
この点にもやや計算違いがあったように感じました。
その描き方も、
戦地のジャーナリストを、
あまりに英雄的に捉え過ぎているように感じました。

そんな訳で、
何処までこれがリアルなのかしらと、
あまり知識もないだけに、
疑問に感じるところも多い映画でしたが、
ハリウッド製では絶対に実現しないタイプの作品であることは確かで、
ご興味のある方には一見の価値はあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「天才作家の妻 40年目の真実」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
40年目の真実.jpg
ジョナサン・プライスとグレン・クローズが、
ノーベル文学賞を受賞した天才作家とその妻を演じ、
熟年夫婦の危機に作家の創作の秘密を絡めた、
渋い大人の映画が今ロードショー公開されています。

これは傑作ですよ。

スウェーデンとアメリカ、イギリスの合作ですが、
ハリウッド製とは明らかに肌合いの違う、
ヨーロッパ映画のテイストです。

要するに熟年夫婦の夫婦げんかを、
延々と見せられるような映画なのですが、
それが夫婦という関係そのものの本質的な不条理さや危うさにまで、
深く深く到達しているところが見どころです。

そのままでも充分映画として成立するのですが、
舞台をストックホルムのノーベル賞授賞式に設定して、
作家の創作の秘密を絡めることで、
格調と華やかさを加えています。

夫婦げんかを藝術にする、
というとベルイマンが頭に浮かびます。

この映画はスウェーデンも制作に加わっていますし、
ベルイマン映画を意識したようなところがありますよね。
ベルイマン映画を観るように観ることが出来る映画です。

この映画は練り上げられた脚本が素晴らしいのですが、
舞台劇的な脚本を、
立体的に美しく構成して舞台臭を感じさせない演出が、
また完成度が高いと思います。

そして夫婦2人の演技がまた抜群です。
ジョナサン・プライスの俗物的表現の濃厚さも凄いですし、
グレン・クローズの後半の繊細かつダイナミックな感情表現も、
素晴らしいと思います。

そんな訳でとてもとても素晴らしい作品なのですが、
夫婦で一緒に観ることはお薦め出来ません。
鑑賞後に2人の間に不穏な空気が流れることが必定だからです。
そのくらいに夫婦という危うい関係に、
深く食い入った名作なのです。

ご夫婦は1人ずつでご覧下さい。
大人の観客の全てに絶対のお薦め品です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アスピリンの一次予防の予防効果と有害事象とのバランス [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの一次予防の有効性とリスクのバランス.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
アスピリンの有効性と有害事象とのバランスについての論文です。

1日80から100mg程度のアスピリンを継続的に飲むことに、
心血管疾患や腺癌というタイプの癌の、
予防効果のあることは、
多くの疫学データや精度の高い臨床試験においても、
実証されている事実です。

ただ、その一方でアスピリンには出血系の合併症があり、
使用を継続することで、
消化管出血や脳出血などのリスクは増加します。

従って、アスピリンを服用することが、
その人にとって有益であるかどうかは、
その作用と有害事象とのバランスに掛かっています。

その有効性は一度そうした病気になった人の、
再発予防効果としては確立されていますが、
まだ病気にはなっていない場合の、
一次予防効果については、
どのような対象者を選ぶかによっても、
その結果は様々で統一した見解とはなっていません。

2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
糖尿病の患者さんにおけるアスピリンの一次予防効果を検証した論文では、
アスピリンを使用することにより、
心血管疾患は12%減少し、
その一方で出血系の合併症は29%増加していました。

今回の研究はこれまでの主な臨床データをまとめて解析した、
システマティック・レビューとメタ解析ですが、
これまでの13の介入試験のトータル164225名のデータをまとめて解析した結果として、
心血管疾患のリスクを相対リスクで11%(95%CI: 0.84から0.95)、
絶対リスクで0.38%(95%CI: 0.20から0.55)、
それぞれ有意に低下させていました。
これは265人にアスピリンを使用することで、
1人の心血管疾患を予防出来る、
という確率と推計されます。

一方でアスピリンを使用することによる、
重篤な出血系合併症のリスクは、
相対リスクで1.43倍(95%CI: 1.30から1.56)、
絶対リスクで0.47%(95%CI: 0.34から0.62)、
それぞれ有意に増加していました。
これは210名にアスピリンを使用すると、
1人が出血系の合併症を発症する、
というくらいの確率と推計されます。

このように、
一次予防でアスピリンを使用することは、
確率としてはより大きな出血系合併症のリスクを生むこととなり、
矢張り心血管疾患の一次予防目的でのアスピリンの使用は、
より条件を絞り施行することが必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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