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スタチンの飲み忘れが生命予後に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンの飲み忘れと生命予後.jpg
2019年のJAMA Cardiology誌に掲載された、
コレステロール降下剤を使用している患者さんの、
薬の飲み忘れが予後に与える影響についての論文です。

薬の有効性を評価する上で、
常に大きな問題となるのは薬の飲み忘れです。

特に脂質異常症の治療薬であるスタチンの場合、
長期の使用継続が必要である一方で、
飲み忘れがあっても、
特に身体の不調が起こるという訳ではありません。
血圧の薬であれば、
血圧が上昇することを確認出来るので、
飲み忘れは良くないと思うことが出来ますが、
スタチンの効果は血液の検査をしないと確認出来ませんから、
尚更飲み忘れが起こりやすいのです。

上記文献に引用されているデータによると、
スタチン治療を開始して1年後には、
患者さんは平均すると処方されている数の半分しかスタチンを飲んでおらず、
2年後には30%しか飲んでいませんでした。

スタチンの有効性は、
特に心筋梗塞などの心血管疾患に罹患した場合の、
二次予防(再発予防)に顕著です。

それではこうした場合に、
患者さんのスタチンの飲み忘れは、
どのような影響を及ぼすのでしょうか?

今回の研究では、
アメリカの退役軍人の臨床データを活用して、
心筋梗塞などの心血管疾患の二次予防目的で、
スタチンを継続使用しているトータル317104名を対象とし、
処方歴から治療期間における飲み忘れを計算し、
生命予後との関連を検証しています。
8割が白人種での検討です。

その結果、
9割以上の薬を忘れずに飲んでいる場合と比較して、
処方の遵守率が70から89%であると、
総死亡のリスクが1.08倍(95%CI: 1.06から1.09)、
遵守率が50から69%であると1.21倍(95%CI: 1.18から1.24)、
遵守率が50%未満であると1.30倍(95%CI: 1.27から1.34)、
それぞれ有意に増加していました。

つまり、
スタチンの飲み忘れが多いほど、
患者さんの生命予後に悪影響が生じる、
という結果です。

これはある意味では当たり前の結果ですが、
スタチンの二次予防の有効性を裏側から示すもので、
その飲み忘れという臨床上で極めて一般的な問題の、
実臨床に近い条件のデータとして、
非常に意義のあるものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「女王陛下のお気に入り」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
女王陛下のお気に入り.jpg
18世紀のイギリス王室における、
有名な女同士の権力闘争を題材にして、
ギリシャ出身でアクの強い映画を撮る、
ヨルゴス・ランティモス監督が演出し、
主役の3人にイギリスの演技派、
オリビア・コールマンとレイチェル・ワイズ、
アメリカの人気者エマ・ストーンが顔を揃えた、
米英・アイルランド合作映画を観て来ました。

これは映像が美しいですし、
3人のキャストの演技も抜群なので、
まずは面白く観賞することの出来る映画です。

ただ、物語にはあまり意外性のある展開などはなく、
ほぼ史実に沿った権力闘争が、
そのままに進んでゆくので、
あまり盛り上がる感じではありません。

ラストも心理描写に重きをおいた感じで、
明確な結論が出るという描写ではないので、
何となくモヤモヤする印象が残ります。

また、全裸の貴族に果物を投げつける趣向や、
女性が糞尿や泥まみれになったり、
兎を踏みつぶそうとする描写など、
かなりアクの強い、悪趣味ギリギリの表現が多く、
それがさほど効果的とも思えないので、
観ていて疑問に感じました。

悪趣味でグロテスクな映画は、
それはそれで良いと思うのですが、
この映画では物語自体はオーソドックスで、
あまり倒錯的な情熱などが描かれているという訳ではないので、
物語と演出とのバランスが、
やや悪いように感じたのです。

こうした演出を施すのであれば、
もっと物語の展開にも破天荒な部分が、
必要であったのではないでしょうか。

実際のアン王女はもっと聡明な指導者であったようですが、
抗リン脂質抗体症候群のために、
血栓症を繰り返し、
流早産を繰り返して多くのお子さんを失ったことや、
女官同士の権力闘争などは事実であるようで、
その辺りはほぼ史実に則った物語が展開されています。

ただ、結構リアルに18世紀の生活が描写されている一方、
ありえない振り付けのダンスがあったり、
イギリス王室の話の割には、
スケール感は地方の貴族のいざこざ程度にしか見えなかったりと、
疑問に感じるような点も多いことも確かです。

そんな訳で結果的にはあまり乗れなかったのですが、
凝りに凝った映像は美しく、
3人のキャストの演技合戦は見応えがあるので、
一見の価値はある映画だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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フェルメール展(フェルメールと私) [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は中村医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フェルメール展.jpg
先日終了間近の東京のフェルメール展に足を運びました。

フェルメールの絵を初めて実際に観たのは、
1994年に循環器の学会でベルリンに行った時で、
今回も来日したベルリン国立美術館の「真珠の首飾りの女」でした。

今はどうか分かりませんが、
あの美術館は学校に併設されたようなギャラリーで、
結構のんびり鑑賞することが出来ました。
レンブラントやカラヴァッジオの作品も印象的な美術館でした。

その後でウィーンに行って、
ウィーン美術史美術館で「絵画芸術(画家のアトリエ)」を観ました。
この美術館は2日間掛けてじっくりと鑑賞しました。
ここも当時は特にフェルメールの絵の前が、
賑わっているという感じはありませんでした。

通常海外の美術館では、
多くの絵はガラスケースなどなくそのまま鑑賞することが出来ますが、
当時からフェルメールの絵に関しては、
ヨーロッパの美術館でもガラスケースに入っていて、
ガラス越しの鑑賞でした。

そんな訳で、
フェルメールは当時から伝説的な画家でしたが、
絵は小さいしガラス越しだしと、
あまり良い印象はありませんでした。

次は2度目に来日した「真珠の耳飾りの少女」の時で、
この時は勿論非常に混雑していたのですが、
1列に並んでゆっくり動きながら鑑賞する、
という様式で、
何度か列に並ぶことで、
比較的じっくりと鑑賞することが出来ました。

ガラスケースには勿論入っていたのですが、
一見では直に展示してあるように見えます。

この時はさすがに良かったですね。
とても感銘を受けました。

今回は一度に10点近いフェルメールの真作が一堂に会する、
という日本ではかつてない企画展で、
実際には小ぶりな美術館の、
一番最後の部屋のみにフェルメールが集められています。

勿論大混雑ではあるのですが、
日時と時間を指定したチケットを買うという方式なので、
それほどのストレスなく会場に入ることは出来ます。

ただ、フェルメールの部屋では、
ゆっくり動きながら鑑賞するという方式ではなく、
そのまま幾らでも絵の前に止まれるので、
いつまでも絵の正面で動かないような人がいると、
かなりストレスに感じてしまいます。
もともととても小さな絵ばかりなので尚更です。

当日は最後に飾られていた「牛乳を注ぐ女」の前に、
長身の外国の方が真正面に仁王立ちをしていて、
15分くらいねばりましたが、
ビクとも動かないので、
うんざりしてあきらめて帰りました。

今回もとても反射の少ないガラスケースが使われていて、
ちょっと見にはガラスがないように見えます。
鑑賞環境はまずまずだったと思います。

ヨーロッパの美術館はいいですよね。

それほど行っているという訳ではありませんが、
ウィーン美術史美術館もプラド美術館も良かったですし、
ウィーンもスペインも、
田舎にさりげなくあるような、
小さな美術館がまたムードがあって良いのです。

また行きたいな、とは思いますが、
今の仕事環境ではなかなか難しそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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腸内細菌と認知症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バクテロイデスと認知症.jpg
2019年のScientific Reports誌に掲載された、
認知症と腸内細菌叢との関連についての論文です。

これは国立長寿医療センターや久留米大学などの共同研究です。

腸内細菌と病気との間に関連がある、
という話は以前からあります。

ただ、少し前までの考え方では、
Biffidobacterium属の所謂ビフィズス菌や、
Lactobacillus属などの所謂乳酸菌が、
下痢などを改善して腸を快調に保つ作用から、
「善玉菌」として尊重され、
その一方で病原性の大腸菌やウェルシュ菌などが、
「悪玉菌」として捉えられて来ました。

大人では多数を占めている、
嫌気性菌であるBacteroides属や、
嫌気性連鎖球菌は、
「日和見菌」というような名称で呼ばれ、
悪玉でも善玉でもなく、
それほど大きな役割は果たしていない、
という半ば無視されているような扱いでした。

ところが最近になり、
実はBacteroides属(バクテロイデス)に代表される、
嫌気性腸内細菌が、
肥満や糖尿病に代表される生活習慣病において、
予防的な働きをしている、という知見が、
相次いで発表されるようになりました。

このトレンドの裏には、
遺伝子検査により、簡便かつ正確に、
腸内細菌の分布状況が検査可能になったことが、
大きく影響しています。
それまでのデータは、
検出が簡単な菌が、
より多く分布しているという誤解があったからです。

また腸内細菌の分類自体も、
16SrRNA遺伝子の種別により行われるようになり、
腸内細菌は、
グラム陽性のフィルミクテス門と、
グラム陰性のバクテロイデス門とに、
大きく二分されて理解されるようになりました。

最近の知見においては、
小児と成人のいずれにおいても、
また動物実験においても、
その比率的にバクテロイデス門が減少し、
フィルミクテス門が増加すると、
肥満やそれに伴う血糖の上昇などが生じ易い、
という報告が集積されています。

従来善玉菌とされていたラクトバチルス(乳酸菌の1つ)は、
フィルミクテス門に属し、
その増加は関節炎や血糖上昇のリスクを増加させる、
という報告があります。

善玉菌の代表のように言われるビフィズス菌は、
乳児期には腸内細菌の主体であるのですが、
5歳以降くらいのデータでは、
その比率が多いと肥満や血糖上昇に結び付きやすい、
という報告があります。

これはシンプルに考えると、
乳児期には当然母乳のみで栄養を賄うことが想定されているので、
乳糖を分解するビフィズス菌が主体で良いのですが、
その時期を過ぎて色々な食品を摂取するようになると、
それに応じて乳酸菌の比率は下がるのです。
この比率がそのままであると、
むしろ肥満などの病気に結び付くのです。

つまり、どうやらバクテロイデスなどのバランス的な増加が、
肥満に関連する病気の予防には、
最も相関があるようなのです。

このように、
肥満と腸内細菌叢との関連については、
ほぼ結論が得られつつありますが、
認知症と腸内細菌叢との関連については、
あまり明確なことが分かっていません。

そこで今回の研究では、
2016年からの1年間に国立長寿医療センターのもの忘れセンターを受診した、
60代から80代の128人の腸内細菌叢の検査と、
認知症の診断のための検査を施行して、
腸内細菌叢と認知症との関連を検証しています。

その結果、
腸内細菌叢がバクテロイデス優位(30%を超える)であると、
少ない場合と比較して、
認知症のリスクが有意に抑制されていました。
この認知症リスクとバクテロイデス優位の細菌叢との関連は、
多変量解析において、
他の認知症関連因子と独立しており、
アポEの遺伝子変異などより、
強い関連が認められました。

要するに、
バクテロイデスが多いと、
認知症になりにくい、
ということを示唆する結果です。

バクテロイデスが多いと肥満にもなりにくく、
認知症にもなりにくいというのですから、
「バクテロイデス最強」というのが、
最近の腸内細菌のトレンドであるようです。

ただし…

上記文献の記載でもあるように、
多変量解析をするには例数が不足しており、
必ずしも適切な結果とは言えないようですし、
腸内細菌叢と認知症リスクに関連があると言っても、
たとえば性別が女性であることの方が、
今回の検証ではより強い関連が認められているので、
この結果を信用することはまだ時期尚早だという気がします。

今後より症例数を増やした検証に期待をしたいと思いますし、
より精度の高い検証によって、
腸内細菌叢と認知症との関連が解明されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
コメント欄でご指摘を受け、
一部記載を修正しました。
(平成31年2月19日午後4時修正)
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心不全に対する新薬(サクビトリル・バルサルタンナトリウム水和物)の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ネプリライシン阻害剤の心不全への効果.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心不全の新薬の治療効果についての論文です。

この新薬はネプリライシン阻害剤のサクビトリルと、
従来からあるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
のバルサルタンの合剤です。

ACE阻害剤やARBは以前から心不全の治療に使用され、
その有効性が確認されている治療薬です。

今回の新薬はそのARBの1つであるバルサルタンに、
別個のメカニズムのサクビトリルを一緒にしたものです。

ネプリライシンというのは、
内因性ナトリウム利尿ペプチドを分解する酵素で、
その分解を阻害することにより、
心臓の保護作用を強めることが、
ネプリライシン阻害剤であるサクビトリルの効果です。

この薬は、
心臓に害を与えるレニン・アンジオテンシン系の活性化を抑え、
防御的に働く内因性ナトリウム利尿ペプチドを増加させることで、
より強力に心不全を治療しようとする薬剤です。

まだ日本では未発売で、
臨床試験が施行されている段階ですが、
アメリカとヨーロッパにおいては、
2015年に心機能の低下した心不全の治療薬として承認され、
ガイドラインにも記載されています。

その根拠となっているのは、
主に2014年に発表された、
PARADIGM-HF試験によるものです。

この試験においては、
外来で心機能の低下した心不全の患者さんに、
ACE阻害剤であるエナラプリルを使用した場合と、
サクビトリル・バルサルタン水和物を使用した場合を比較したところ、
中間値で27ヶ月の経過観察期間において、
心血管疾患による死亡と心不全による入院を併せたリスクを、
エナラプリルと比較して新薬が有意に低下させていました。

今回の研究はPIONEER-HF試験と題されたもので、
心不全の急性増悪で入院した患者さんに、
入院中から新薬を開始した場合の有効性を、
矢張りエナラプリルと比較して検証したものです。

アメリカの129の専門医療施設において、
心不全の急性増悪で入院して病状の安定した881名をくじ引きで2つに分けると、
一方はACE阻害剤のエナラプリルを1日20ミリグラムで使用し、
もう一方は新薬を使用して、
8週間の経過観察を行っています。

その結果、
心不全の重症度の指標であるNTproBNPという検査値は、
エナラプリル群と比較して有意に低下していました。

これは実際の予後を比較しているのではないので、
敢くまで間接的なデータですが、
入院中の早期からこの新薬を使用することで、
従来より心不全のその後のコントールが、
良好となる可能性が示唆されたのです。

この薬は今後心不全治療の柱となる可能性があり、
日本においても早期の臨床導入を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第40回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
40回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
2月23日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

原則第3土曜日に開催していますが、
今回は都合により第4土曜日に開催をさせて頂きます。

今回のテーマは「最新版糖尿病と合併症の基礎知識」です。

糖尿病をテーマにするのは久しぶりですが、
最近のトピックと言えば、
SGLT2阻害剤の華々しい登場と、
GLP1アナログの再評価、
高齢者の糖尿病のコントロールについての見解の変化、
低糖質ダイエットの有効性についての議論、
といったところでしょうか。

また24時間持続の血糖測定が、
昨年12月から保険適応され、
まだその適応は非常に限られていますが、
その適応がより拡大すれば、
糖尿病コントロールを巡る環境は、
大きく変わるという可能性もはらんでいます。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
2月21日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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電子タバコの禁煙に対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
e-シガレットとニコチン補充療法の効果.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
電子タバコの禁煙に対する有効性についての論文です。

タバコの代替品として、
急速にその利用が広まっているのが、
非燃焼・加熱式タバコや電子タバコです。

非燃焼・加熱式タバコというのは、
葉タバコを燃焼させる代わりに、
加熱して吸引することにより、
その煙による害を和らげようという商品で、
基本的にはタバコとその性質は同じです。

一方で電子タバコは、
タバコに似た匂いのある液体を、
専用の器具で蒸気にして吸引するもので、
タバコとは基本的に別物です。
その液体には少量のニコチンが含まれている場合とない場合があり、
日本ではニコチンを含む商品は認められていません。

非燃焼・加熱式タバコに有害性のあることは、
間違いがありませんが、
電子タバコにどの程度の有害性があるのかについては、
まだ結論が出ていません。

2017年に日本呼吸器学会が発表した見解では、
非燃焼・加熱式タバコのみならず、
電子タバコも健康に悪影響がもたらされる可能性があり、
使用者から拡散するエアロゾルが、
周囲に悪影響を与える可能性があるので、
飲食店や公共の場所、公共交通機関での使用は認められない、
とされています。

現在一般に電子タバコが使用されるのは、
喫煙者が禁煙のために切り替えることが多いと思います。

しかし、国内外を問わず、
現状公的機関で推奨されている禁煙治療は、
カウンセリングなどの支持療法と、
ニコチンのガムやパッチなどのニコチン補充療法、
そしてバレニクリンや抗うつ剤のブプロピオン(日本未承認)などに限られ、
電子タバコは日本でもアメリカでも容認はされていません。

今回の検証はイギリスにおいて、
禁煙プログラムに参加する成人喫煙者トータル886名を、
くじ引きで2つに分けると、
一方はニコチンのガムやパッチの提供を3ヶ月まで行い、
もう一方は電子タバコのスターターパックと、
使用するニコチンを低用量含むリキッドを提供して、
更に両群で週1回の行動支援を4週間以上提供して、
1年後の禁煙の達成率を比較しています。

このプログラムは基本的に、
禁煙治療初期の介入のみを行い、
その後は個々の判断に任せている点が特徴です。

その結果、
呼気中一酸化炭素濃度で診断した禁煙成功率は、
ニコチン補充療法群では9.9%であったのに対して、
電子タバコ群では18.0%で、
電子タバコが1.83倍(95%CI: 1.30から2.58)有意に高くなっていました。

ただ、ニコチン補充療法群では、
禁煙成功者44名のうち、
ニコチンのガムやパッチなどを1年後の時点でも使用していたのは、
9%に当たる4名のみでしたが、
電子タバコ群では、
禁煙成功者79例のうち、
80%に当たる63名が、
1年後の時点でも電子タバコを使用していました。

これは実際には電子タバコに、
かなりの依存性があることを、
示唆しているようにも思われます。

今回の検証では、
ニコチンのガムやパッチと比較して、
電子タバコにはより禁煙の成功のために、
利するものがあるようです。

ただ、実際にはタバコは止めていても、
電子タバコは続けていることが多く、
仮に電子タバコに無視出来ない健康影響があるとすれば、
仮に有効性が高いとしても、
選択するべき方法ではないように思われます。

今後電子タバコの有害性について、
より厳密な検証が必要であると思いますし、
今後電子タバコの禁煙治療への活用を検討するとすれば、
それに加えて、
どのくらいの期間使用を行ってどのように中止するかを含めて、
しっかりとした禁煙プログラムの確立が、
不可避であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「マスカレード・ホテル」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マスカレードホテル.jpg
東野圭吾さんの「マスカレード・ホテル」が、
木村拓哉さんを初めとする豪華キャストで、
フジテレビ映画ならこの人という、
鈴木雅彦監督のメガホンで映画化され公開されています。

この作品は東野圭吾さんのミステリーとしては、
一般のあまりミステリーには馴染んでいない読者を対象とした、
かなり通俗的な部類のもので、
ガリレオシリーズのようなマニア向けの作品とはスタイルが違います。

内容的にも、
高級ホテルで警察が大規模な潜入捜査をするという、
かなり荒唐無稽なものなので、
むしろ映画向きと言って良いかも知れません。

ただ、原作の犯人の設定は、
かなり人工的で映像化するのが難しい性質のものなので、
これをどうやってそのまま映画にするのだろう、
というその一点に興味があって映画館に足を運びました。

これは悪くなかったです。

ほぼ原作の通りに映像化されているのですが、
犯人の設定も、ほぼギリギリの感じですが、
どうにか力技で成立させていました。
もう少し真相を分かりにくくして欲しかった、
というようには思いましたが、
及第点ではあると思います。

主役の木村拓哉さんと長澤まさみさんは、
はっきり言えばどちらもミスキャストと思いますが、
色々事情もあるのでしょうから仕方がありません。
合わない中では頑張っていたと思いますし、
それを周囲を固める多くの個性的で豪華な面々が、
巧みに支えていたと思います。

そんな訳で原作も映画も通俗的な娯楽作ですが、
その枠組みの中ではまずまず楽しめるミステリーに、
仕上がっていたと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「十二人の死にたい子どもたち」(ネタバレ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
12人の死にたいこどもたち.jpg
沖方丁(うぶかたとう)さんの小説を、
倉持裕さんが脚本を書き、
堤幸彦さんが監督した話題の映画が今公開中です。

12人の集団自殺を希望する少年少女が、
廃病院に集まるという話で、
キャストは杉咲花さん、新田真剣佑さん、北村匠海さん、
橋本環奈さんと、
人気者が顔を揃えています。

以下少しネタバレがありますが、
鑑賞後は多分多くの方がガッカリしますので、
先に読んで判断して頂いても、
特に問題はないかも知れません。

これは原作を先に読んでいたのですが、
原作は正直とても詰まらなくて、
読み続けるのが苦痛でした。

冲方丁さんは歴史小説の名手で、
「天地明察」などはとても面白かったのですが、
この作品はこの作者にとって初めての現代物ミステリーという触れ込みです。
ただ、この作者は正直ミステリーというものが、
分かっていないと思います。

この話は基本ラインは「12人の怒れる男」で、
そこに萩尾望都さんの名作「11人いる」が混ざっているのですが、
その余分の1人がどうやって病院の中に入ったのかが、
一番のミステリーの謎になっています。

この謎が全く読者の興味を惹くようなものではありません。

どうでもいいですよね。

このどうでもいい謎を、
本格ミステリー風に矢鱈とボリュームを使って、
ああだ、こうだ、と議論するのですが、
退屈で読むに耐えません。

そもそもミステリーというのは、
「悪」を描くジャンルだと思うのです。

それが冲方丁さんのこの小説には、
「悪」の要素が1つもなく、
皆が良い人で良い行いしかしていません。

勿論こうした小説があっても良いですし、
ラストのある種爽やかな感じなどは、
冲方さんならではのものだと思うのですよね。

決して悪くはないのです。
ただ、これはミステリーではありません。
ミステリーでないのに、
ミステリーもどきの議論を、
長々とやっているのがまずいと思うのです。

さて、この退屈な原作を、
映画版はほぼ忠実に再現しています。

原作のリライトという意味で、
倉持さんの脚本は良く出来ていると思います。

堤幸彦さんはご存じのように職人肌で多作で、
作品にはかなりのムラがあり、
三池崇史監督ほど極端ではないですが、
好きで作っている作品以外に、
やる気も興味も熱意も感じられない、
お仕事と割り切って作っているような作品が少なからずあり、
面白いものもある一方で、
落胆を覚える作品も多いのが実際です。

この作品に関しては、
あまり乗り気な仕事であったとも思えず、
多分監督自身も、
この原作が上出来とは、
思っていなかったと思いますが、
それでもかなり根気良く、
丁寧に仕上げていたと思います。

この作品が詰まらないのは、
従ってその多くが原作にあると思います。

ただ、橋本環奈さんの役に関しては、
せっかくある種の仕掛けがあるのですから、
もっと上手く活かして欲しかったな、
とは思いました。
原作の通りなのですが、
後半ほぼ出番なしという感じなのが物足りません。
ここは原作を変えて、
もっと見せ場を増やして欲しかったな、
と思いました。

そんな訳で詰まらない映画でしたが、
思ったほど映画としての落胆はありませんでした。
あの原作では仕方がありません。

でも、予告編はずるいですね。
あれじゃバタバタ殺し合いが起こりそうでしょ。
そんな話では全くありません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「タンホイザー」(2019年新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
今日は東京も雪ですね。
受診予定の方はお気を付け下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
タンホイザー.jpg
新国立劇場の2018/2019シーズンのレパートリーとして、
ワーグナーの「タンホイザー」が上演されました。

「タンホイザー」はワーグナーの作品の中では、
比較的上演時間が短く、
それでいてワーグナーらしい聴き所も豊富で、
ワーグナーの思想が、
簡明に表現されているようなところもあるので、
初めてワーグナーを聴く方にはお薦めの作品です。

これまでに生で聴いたのは、
新国立劇場のレパートリーで2回くらい、
ドイツの歌劇場の引っ越し公演で3パターンくらい、
東京オペラの森とその後継の東京春音楽祭の公演と、
都合7回くらいで、
今回が多分8回目くらいになります。

演出として印象に残っているのは、
ロベルト・カーセンが演出した東京春音楽祭の舞台と、
鬼才コンヴィチュニーが、
それほど前衛的でなかった時期に演出した、
バイエルン歌劇場(そうでなかったかも…)の舞台です。
カーセンの舞台は魔女は殆ど全裸で登場して、
白い布のセットを赤いペンキで塗りたくるような舞台。
コンヴィチュニーのものは、
大人の童話という雰囲気の、
彼としては前衛に走りすぎない、
見やすい舞台でした。

今回の新国立のプロダクションは、
新国立らしい比較的オーソドックスで、
セットや美術は構想は悪くないものの、
大味で細部が雑なものでしたが、
あまり変わったことはしていないので、
まあまあ音楽を聴くには支障のないものです。

オケは最初の管楽器の響きなど、
何とかならないものかな、とガッカリするレベルでしたが、
その後は堅実で後半はまずまずでした。
歌手陣はメインの3人がなかなか頑張っていて、
ビジュアルも役柄に合っていましたし、
声が美しいので良かったと思います。

例によって良い演奏でも観客は終わるとすぐに帰り出して、
アンコールをじっくり待たない慌ただしい新国立クオリティですが、
今や日本のオペラの屋台骨は、
新国立劇場のみが支えているので、
応援は是非し続けたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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