SSブログ

第37回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
37回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
11月17日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。
(画像の受付の日付が間違っています。
正しくは15日18時までです)

今回のテーマは「最新版食事と健康の基礎知識」です。

食べ物と健康との関係は、
テレビや週刊誌などの健康情報では、
お馴染みのテーマの1つです。

毎日のように、
「これこれの食材やその組み合わせが健康に良い」
というような情報が流布されています。

影響力のある番組で紹介されると、
その食品や商品は、
瞬く間にお店やスーパーの陳列棚から消えてなくなります。

この影響力の大きさが、
こうした番組がいつまでのなくならない理由です。

それでは、こうした情報には、
実際にどの程度の科学的裏付けがあるのでしょうか?

食材にもよりますが、
人間のまともなデータのあるものは、
極めて少数で、
殆どはせいぜい動物実験までの所見です。
それすらないものもあります。

私達は健康のために、
何を食べるべきなのでしょうか?

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
11月15日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

50歳以上の年齢における帯状疱疹予防ワクチンの有効性の比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト関連の事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
帯状疱疹ワクチンの有効性.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
2種類の帯状疱疹予防ワクチンの比較を行った論文です。

帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。

この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こします。

通常水ぼうそうのウイルスに感染したことがあるかどうかは、
血液の抗体の上昇で判断し、
抗体が上昇していれば、
再び水ぼうそうに感染することはないのですが、
身体に潜んでいるウイルスが、
帯状疱疹という形で再燃することは、
抗体が陽性であっても起こり得るのです。

水ぼうそう自体の予防は、
抗体があれば充分ですが、
帯状疱疹の予防には、
このウイルスの抗原に反応する、
CD4陽性のTリンパ球という、
免疫細胞の産生が必要と考えられています。

水ぼうそうに罹ってしばらくの間は、
こうした細胞も多く存在しているので、
帯状疱疹は予防されているのですが、
時間が経つと次第にその数は減り、
年齢と共にその産生能自体も低下するので、
帯状疱疹が発症し易くなる、
という理屈です。

さて、帯状疱疹を予防するには、
抗原刺激を与えて、
それに反応するリンパ球が増えれば良いということになります。

その方法として、
通常考えられるのはワクチンの接種です。

水痘ワクチンは生ワクチンで、
このウイルスを弱毒化したそのものです。

通常小さなお子さんに2回接種して、
水ぼうそう自体を予防することを目的としています。

それでは、
このワクチンを大人に打てば、
免疫は再び賦活され、
帯状疱疹が予防されるのではないでしょうか?

この目的で国産のワクチンより、
基準値としては10倍以上多い抗原量を持つワクチンが、
帯状疱疹予防用に開発され、
アメリカにおいて大規模な臨床試験が行われました。
商品名はZOSTAVAXです。
その結果は2005年のNew England…誌に発表されています。

それによると、
50から59歳の年齢層においては、
帯状疱疹用の強化水痘ワクチンの1回接種によって、
帯状疱疹の発症が70%抑制され、
60から69歳では64%、
70歳以上では38%の抑制が認められた、
という結果になっています。
打った場所の腫れや痛み以外には、
目立った副反応は見られていません。
ワクチンの有効性は接種後10年は維持されますが、
発症の抑制が有意に確認されているのは、
8年までというデータがあります。

このように、
強化水痘ワクチンを接種することによって、
ある程度の細胞性免疫の賦活が起こり、
帯状疱疹の発症が、
一定レベル予防されることは間違いがありません。

ただ、数字を見て頂くと分かるように、
満足の行く効果とは言えません。

日本においても1990年代の早い時期に、
国産の水痘ワクチンを高齢者に接種した場合、
50から69歳で約90%、
70歳以上で約85%で、
接種による細胞性免疫の上昇が認められた、
という研究結果が報告されています。

しかし、これは敢くまで細胞性免疫に動きがあった、
というだけのもので、
それが帯状疱疹の予防に充分なレベルであるのかを、
実際に確認しているものではありません。

日本においては、
従来から使用されている水痘生ワクチンが、
そのまま50歳以上の帯状疱疹予防への適応となり、
2016年の4月より承認され、
添付文書の改訂が行われました。

日本の文献には国産の水痘ワクチンの力価は、
欧米の帯状疱疹予防用の物より、
基準値としては低いけれど、
実際にはその力価はかなり幅のあるものなので、
平均するとほぼ同等の効果が期待出来る、
という記載が多く見られ、
今回改訂された添付文書においても、
海外の帯状疱疹予防ワクチンと同等のもの、
という考えから、
臨床的な有効性のデータは、
海外データがそのまま引用されています。
しかし、直接比較をして効果を検証しているものではないので、
その真偽は定かではありません。

要するに、
国産のワクチンを帯状疱疹予防に使用しても、
有効であるかどうかの、
精度の高いデータは存在していないのです。
(この点については、ほぼ確実と思うのですが、
全ての知見に目を通している訳ではないので、
もしデータが発表されているようでしたら、
優しくご指摘を頂ければ幸いです)

さて、前述の海外データでも分かるように、
水痘の生ワクチンを高齢者に使用した場合、
その効果は高齢になるほど減弱し、
70歳以降での接種の意義はあまり大きいとは言えません。
また、生ワクチンという性質上、
高度に免疫の低下した患者さんや、
骨髄幹細胞移植後の患者さんなどは禁忌となっています。

そこでより効果が高く、
高齢者や免疫の低下した患者さんにも、
使用の可能なワクチンの開発が、
海外においては進められました。

2015年のNew England…誌に、
その第3相臨床試験が発表されています。
それがこちらです。
50歳以上の帯状疱疹ワクチン.jpg

使用されたワクチンは、
日本でも製造販売承認が得られているグラクソ社のもので、
HZ/suワクチンと命名されています。

これは水痘・帯状疱疹ウイルスの一部の糖蛋白抗原に、
細胞性免疫の強い増強作用のある、
AS01Bという免疫増強剤(アジュバント)を添加したものです。

このワクチンを2ヶ月間隔で、
2回筋肉注射をして、
その後平均で3.2年の経過観察を行ない、
その間の帯状疱疹の発症を、
偽ワクチン接種群と比較しています。

トータルの事例数は年齢50歳以上の15411例で、
それを7698例のワクチン接種群と、
7713例の偽ワクチン群にくじ引きで振り分けます。

結果は全体と、
50から59歳、60から69歳、70歳以上という、
年齢毎に解析もされています。
これは勿論、
強化水痘生ワクチンの臨床試験の結果と比較するためです。

その結果…

トータルでは観察期間中に、
偽ワクチン群では210例(年間1000人当たり9.1例の発症率)
の帯状疱疹が発症したのに対して、
ワクチン接種群では6例(年間1000人当たり0.3例)に留まっていて、
ワクチンの有効率は97.2%(93.7から99.0)と算定されました。

これを年齢層毎に見ると、
50から59歳の有効率が96.6%、
60から69歳の有効率が97.4%、
70歳以上の有効率が97.9%で、
年齢に関わらずに高い有効率が維持されていることが分かります。

両群の有害事象の頻度は、
ワクチン接種群が高くなりましたが、
その多くは接種部位の腫れや痛みで、
自己免疫疾患の発症や死亡リスクなどについては、
両群で明らかな差は認められませんでした。

帯状疱疹の予防という観点では、
ここまで有効なワクチンはこれまでになく、
この結果はかなり画期的なものと言って良いと思います。

ただ、この試験結果では、
70歳以上の年齢層の対象者は、
ワクチン接種者で1809名、
コントロールを含めても3632名です。

これでは70歳以上の高齢者への、
効果と安全性を確認するには不充分ということで、
同一試験の延長として、
同じ第3相の臨床試験として、
ワクチン接種群が6950名、
コントロール群が同じ6950名、
平均年齢が75.6歳で、
全て70歳以上の高齢者においてのデータが発表されています。
平均の観察期間は3.7年です。
それがこちらです。
70歳以上の帯状疱疹ワクチンの効果.jpg

観察期間中に、
ワクチン接種群での帯状疱疹の発症率は、
年間1000人当たり0.9件(実数で23件)であったのに対して、
コントロール群では9.2件(実数で223件)で、
ワクチンの有効率は84.2%(84.2から93.7)と算出されました。

年齢別に見ると、
70代が90.0%で、
80歳以上が89.1%です。

これを2015年に発表された、
50歳以上の年齢層の試験と合わせて解析すると、
70歳以上の16596例のデータとして、
ワクチンの有効率は91.3%(86.8から94.5)で、
帯状疱疹後神経痛の予防効果は88.8%(68.7から97.1)でした。

重篤な有害事象は、
コントロール群との間で有意な差はありませんでした。

この結果を見る限り、
70歳以上の年齢層においては、
従来の水痘生ワクチンやその抗原量を調整したワクチンでは、
帯状疱疹予防効果は不充分で、
免疫増強剤を使用したサブユニットワクチンに軍配が挙がる、
ということになります。

ただ、これはZOSTAVAXとの直接比較ではありません。
両者の臨床データを確認してみると、
ZOSTAVAXのコントロール群の方が帯状疱疹後神経痛の頻度は多く、
より感染が悪化しやすいような対象が、
選ばれている、という可能性があります。

従って、全く同じ対象群で比較すれば、
サブユニットワクチンとそれほどの差はないのではないか、
という推測も可能なのです。

そこで今回の論文では、
ネットワークメタ解析という手法を用いて、
両者のワクチンの効果と安全性を比較検証しています。

5つの臨床試験のデータをまとめて解析した結果として、
50歳以降の全年齢で見ると、
強化型の生ワクチンは偽ワクチンとの比較で、
検査で確認された帯状疱疹の発症を、
明確に予防する効果が確認されませんでした。

一方で免疫増強剤を添加したHZ/suワクチンは、
偽ワクチンとの比較においても、
強化型生ワクチンとの比較においても、
明確な帯状疱疹の予防効果を示していました。

ただ、HZ/suワクチンは偽ワクチンとの比較において、
局所の腫れや発熱、関節痛などのワクチン接種に伴う有害事象が、
有意に多く認められていて、
強化型生ワクチンとの比較においても、
有意ではないものの有害事象が多く傾向を示していました。
重篤な全身的な有害事象や死亡リスクについては、
どちらのワクチンも明確な増加は認められませんでした。

このように、
ワクチンの有効性については、
間違いなく免疫増強剤を含むサブユニットワクチンが、
優れているのですが、
その一方で有害事象は多い傾向も否定は出来ず、
今後どちらのワクチンを第一選択として使用するべきか、
日本においても議論となるように思われます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(2) 

ミルタザピンのSSRIやSNRIへの上乗せ効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ミルタザピンのSSRIへの上乗せ効果.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
難治性のうつ病に対して、
2種類の抗うつ剤を組み合わせて使用した場合の、
単剤と比較しての有効性を検証した論文です。

うつ病の薬物治療の第一選択は、
脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンを、
増加させる働きを持つ抗うつ剤である、
SSRIやSNRIといったタイプの薬剤です。

日本で使用されている薬剤としては、
SSRIにはパロキセチン(パキシル)、ジェイゾロフト(セルトラリン)、
エスシタロプラム(レクサプロ)、フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)、
があり、
SNRIにはデュロキセチン(サインバルタ)、ミルナシプラン(トレドミン)、
ベンラファキシン(イフェクサー)があります。

こうした抗うつ剤には一定の有効性が認められていますが、
それでも少なからぬ患者さんが、
単剤による治療では充分な治療効果を得られていません。

国際的な臨床試験のデータによると、
単剤の抗うつ剤による12から14週間の治療によって、
うつ病の症状が50%以上低下したのは、
半数の患者さんに過ぎませんでした。

単剤の抗うつ剤でその充分量を使用しても、
その効果が不充分である場合には、
どのような方法があるでしょうか?

薬物療法に限って考えると、
リチウムなどの気分安定剤や、
抗精神病薬を併用するような方法、
別のタイプの抗うつ剤への切り替え、
そして、2種類以上の抗うつ剤の併用、
などの対応が考えられ、
実際にそうした処方が行われていますが、
そうした治療が抗うつ剤の単剤の治療と比較して、
明確に有効性が高いという科学的な根拠は、
あまりないのが実際です。

今回の検証はその中で、
SSRIやSNRIとは別個の機序で、
セロトニンやノルアドレナリンの放出を促進するとされる、
ミルタザピン(商品名リフレックス、レメロン)を、
SSRIもしくはSNRI単剤の治療で十分な効果の得られなかった、
治療抵抗性のうつ病の患者さんに対して、
上乗せして使用した効果を検証しています。

イギリスの複数の医療機関において、
18歳以上のうつ病の患者さんで、
第一選択の抗うつ剤であるSSRIもしくはSNRIを、
6週間以上使用して十分な効果の得られなかった480名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方はミルタザピンを上乗せして使用し、
もう一方は偽薬を同様に使用して、
52週間の治療効果を比較検証しています。

ミルタザピンは1日15ミリグラムで開始し、
2週間後に30ミリグラムに増量にして持続します。

その結果、
治療開始12週の時点で、
ミルタザピンの上乗せ群でうつ尺度は改善する傾向を示しましたが、
偽薬と比較して有意な差は認められませんでした。
眠気などの副作用や有害事象は、
ミルタザピン群で有意に増加していました。

このように、
今回の検証においては、
SSRIもしくはSNRIへのミルタザピンの上乗せは、
明確なうつ症状の改善に結び付きませんでした。

ただ、無効であるという結果ではなく、
現状こうした併用が一般に行われているという現状を考えると、
個別にはその使用を否定するというものではありません。

ただ、現状経験的にこうした治療が行われている点には、
その有効性が実証されていない、という問題があり、
今後どのような選択肢がより有効であるのか、
科学的な検証が行われる必要性が高いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

心不全に対する減塩の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心不全に対する減塩の効果.jpg
2018年のJAMA Internal Medicine誌のレビューですが、
心不全の予後改善のために減塩が良いという、
どの教科書にも書いてある当たり前のアドバイスが、
実はあまり明確な根拠に乏しいという、
興味深い内容の論文です。

食事の塩分を制限することが健康に良いという考え方は、
高血圧や心臓病、腎臓病などにおいて、
ほぼ確立された事実と考えられています。

ただ、1日10グラムを超えるような、
明らかな食塩過多が悪いということであって、
1日5グラムを切るような厳しい塩分制限が、
本当に健康的なのか、と言う点については、
その見解は一定していないのが実際です。

たとえば高血圧症においても、
一応ガイドライン上では1日6グラム未満の減塩が、
推奨されてはいますが、
強い塩分制限はむしろ高血圧の患者さんの予後を悪化させる、
という報告もあります。

心臓の機能が低下して、
身体に水が溜まったり、呼吸が苦しくなったりする心不全では、
体液量が体内のナトリウム量で規定されるという考えから、
極力塩分を制限した方が、
心臓への負担が減り予後の改善に繋がる、
という考え方があります。

その見地から現行の日本のガイドラインでは、
慢性の心不全の患者さんでは、
1日6グラム未満の塩分制限が推奨されています。

ところが、
実際にはより強力な塩分制限により、
心不全の予後に悪影響があり、生命予後も悪化した、
というような報告もまた認められます。

今回のレビューでは、
これまでに行われたこの分野の主だった臨床データを、
メタ解析の手法でまとめて解析していますが、
それによると評価に値するデータは、
全体で9つの研究のトータル479名のものしかなく、
個々の研究の症例数は、
いずれも100例に満たない小規模な研究ばかりでした。

減塩の効果を入院中の患者さんで見ると、
減塩の明確な効果は認められませんでした。
一方で外来のみの検証では、
4つの研究のうち2つでは明確な予後の差はなく、
残りの2つでは一定の心不全のレベルの改善効果が認められました。

つまり、入院しているような、
比較的重症の事例では、
過度の減塩はむしろ患者さんに悪影響を与える可能性がある一方、
比較的軽症の外来の心不全の患者さんでは、
減塩には一定の予後改善効果がありそうです。

この場合の減塩というのは、
概ね1日2から3グラムという高度のものなので、
免疫力を落とし、生命予後を悪化させることも、
充分に想定出来ます。
入院では厳密な減塩が可能となる一方、
外来では実際にはそこまでは出来ないので、
それが結果の違いとなったようにも思われます。

いずれにしても、
1日5グラムを切るような減塩が、
心不全においても予後改善に結び付くという根拠は乏しく、
ガイドライン上の常識ではあっても、
今後は再検証が必要な事項ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

スタチンの卵巣癌予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンの卵巣癌予防効果.jpg
2018年のInternational Journal of Cancer誌に掲載された、
コレステロール降下剤の卵巣癌予防効果についての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
その心血管疾患の予防効果は確立されています。

それ以外にスタチンには抗炎症作用や、
免疫調整作用などの作用があるとされていて、
それが抗癌剤の作用増強や癌の進行予防に、
一定の効果があるのではという考え方があり、
それを示唆するデータも発表されています。
ただ、この点についてはまだ、
確立されたものとは言えません。

今回の研究はアメリカにおいて、
卵巣癌を発症した患者さん2040名を、
年齢などをマッチさせた2100名のコントロールと比較して、
卵巣癌のリスクに対するスタチン使用の影響を検証しています。

その結果、
スタチンの使用は未使用と比較して、
卵巣癌の発症リスクを32%(95%CI:0.54から0.85)
有意に低下させていました。

ここでスタチンを、
組織移行などにおいて差のある、
水溶性スタチン(プラバスタチン、ロスバスタチン)と、
脂溶性スタチン(シンバスタチン、アトルバスタチン、
ピタバスタチン、フルバスタチン)とに分けて分析すると、
卵巣癌の有意な低下は脂溶性スタチンにおいて、
著明に認められ、水溶性スタチン単独では、
有意には認められませんでした。
また、このスタチンの予防効果は、
49歳以降で使用した場合で、
使用期間は2から4.9年において最も顕著に認められました。

このように、
スタチンの使用により、
今回の疫学データにおいても、
卵巣癌の有意な低下が認められました。

ただ、結果は使用期間が5年を超えると有意ではないなど、
明確な用量依存性がなく、
今回の検証でもその効果は、
明確に実証されたとは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0) 

BCGヒ素問題を考える [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は休み中に飛び込んで来た、
このニュースについてです。

BCGワクチン出荷停止 ヒ素検出、安全性問題なし
2018/11/3 18:11(日本経済新聞より引用)

子どもの結核予防のため乳児を対象に接種しているBCGワクチンを溶かすための生理食塩液から、定められた基準を超えるヒ素が検出され、製造業者の日本ビーシージー製造(東京)が8月からワクチンと共に出荷を停止していることが3日までに、厚生労働省への取材で分かった。 ごく微量で、この量以下ならば一生の間、毎日注射しても健康に悪影響が出ないとされる国際的な許容量の数十分の1だったため、ワクチンの安全性に問題はないという。食塩液を入れるガラス製の容器からヒ素が溶け出したのが原因で、11月中に別の容器に取り換えて出荷が再開される見込み。 厚労省は、今月5日に開かれる有識者の会合で報告する。「安全性に問題はなく、他に代替品がないことから回収はせず、すぐには公表しなかった」と説明している。 厚労省によると、8月9日に食塩液の基準の0.1PPMを超える0.26PPMのヒ素が検出されたとの報告がビーシージー製造からあり、ワクチンの出荷を停止した。 このワクチンは、国内では同社だけが供給。1歳未満の乳児が定期接種の対象となっており、毎年100万人近くが接種している。停止後も出荷済みのものが流通しており、基準値超えのワクチンが接種されている可能性がある。新しい製品での出荷が再開すれば、ワクチンは不足しない見込み。〔共同〕

BCGワクチンというのは、
牛の結核菌を元にした特殊な結核の生ワクチンで、
日本では特殊な「判子注射」という方法で、
生後5から8ヶ月の時期(標準)に、
乳幼児結核の予防目的で定期接種されています。

これは日本のみの特殊な接種法で、
その継続には色々と議論があります。
ただ、現状BCGに代わる結核ワクチンは世界的にもなく、
乳幼児結核の予防のためには、
一定の有効性があると考えられることから、
定期接種が継続されているのです。

ワクチンは日本ビーシージーという1社で独占的に製造されていて、
その会社はBCGの製造販売のみを、
その生業としている、という特殊性があります。

今回明らかになった問題は、
BCGの溶解液に基準を上回るヒ素が、
混入していたというもので、
今年8月から製造と出荷を停止しているという事実が、
11月2日に明らかになった、というものです。

ヒ素の含有量自体はごく微量で、
BCGワクチンは1回のみの接種ですから、
それがお子さんの健康上に害を及ぼすとは、
ほぼ考えられません。

ただ、今回の一番の問題は、
本来検出されない筈のヒ素が検出されたという事実が、
誰にも伝えられることなく事後処理が行われ、
現場で接種をおこなっている僕のような医師にも、
全くその情報は伝えられないままに、
接種が継続されていたという事実です。

今年の8月以降出荷が停止されている、
と記事には書かれていますが、
8月以降もBCGの入荷は安定していて、
保健所からも医師会からも、
それについての通知などは何1つありません。

現状流通しているワクチンに、
基準を超えるヒ素が混入されているのかどうか、
そのことすら全く明らかにされていないのですから、
これはあまりに現場の医療者に対して、
そして何より接種されるお子さんに対して、
不誠実な対応であるように思われてなりません。

どうやら日本ビーシージー社と厚労省の担当部署以外には、
情報は伝えられないままに処理されていた、
ということのようですが、
本来は健康被害はないような事例であっても、
そうしたことで忖度するのではなく、
基準値を超えた場合には、
きっちりと報告し、
末端の医療者にも情報を迅速に伝えることが、
医療行政のあるべき姿ではないでしょうか?

迅速かつ明確な情報開示を、
是非求めたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0) 

「旧燈明寺蔵 五観音像」 [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

11月2日から奈良に行っていて、
今戻って来たところです。

今日はそんな訳で奈良・京都の話題です。

奈良では興福寺の中金堂が再建され、
一般拝観も始まっています。

真新しく無機的な感じで、
緑も多く伐採されて消えましたから、
あまり良い印象はありませんが、
1つの方向性として、
仕方のないことなのかも知れません。
お寺というのは昔は近代建築の都市であった訳で、
自然とはむしろ拮抗する存在であった部分も、
特に興福寺のような大寺ではあったので、
それが長い年月の中で次第に朽ちて、
自然と一体化したような雰囲気を、
僕達はかつての昭和の時代に興福寺において、
愛していたのですが、
お寺さんとしてはかつてのような「都市」に、
復活させたいというようなお気持ちを持つのも、
それもまあ無理からぬところなのかな、
というようには思います。
しかし、かつてのような政治や文化の中心には、
勿論なり得ないのですから、
あの昭和の懐かしい雰囲気が、
ほぼ一掃されたような今の興福寺を観るのは、
切ない思いがするのもまた確かなことなのです。

中金堂には少し前まで南円堂に安置されていた、
運慶の工房によると思われる見事な四天王像が、
1つの目玉として安置されています。

この仏様は僕は大好きで、
鎌倉期の四天王像としては、
仏像としても藝術作品としても技術的にも、
最高の仏様と思っているのですが、
明るい日差しの中で細部まで観られるのは嬉しい反面、
この無機的な空間にはあまりに場違いな感じがすることと、
須弥壇に配置されてしまうと、
後方の2駆の仏様が見づらくなってしまうので、
今回は少し残念に感じました。

まあこの興福寺の「薬師寺化」は、
もうストップは利かないものなのだと思いますから、
なるべく良い点に目を向けるようにして、
あまりにつらい感じになれば、
足を向けなければ良いのかな、
というようには思います。

さて、今日の話題は極めて地味な仏様です。
京都南方、奈良北方の木津川流域、南山城と呼ばれる地域には、
多くの人知れぬ社寺があり、
国宝から全く無名の地方仏まで、
仏像の宝庫のような場所です。

毎年秋には秘宝秘仏特別開扉という企画が、
木津川市の肝いりで行われていて、
多くの社寺がその時だけ、
文化財や仏様の一般拝観を許しています。

今回はその中から、
旧燈明寺の観音様を観て頂きます。

燈明寺(東明寺)は奈良時代に開山されたと伝わる古寺ですが、
紆余曲折を経て昭和27年に廃寺となっています。

本堂と三重塔が横浜の三渓園に移築されていて、
5駆の観音様の仏像(いずれも鎌倉期)が、
本堂跡に建てられた収蔵庫に保管されています。
ただ、通常の一般公開はされていません。
今のところ今回のような特別拝観時のみに、
周辺の方々の協力で公開されているようです。

こちらをご覧下さい。
旧燈明寺千手観音.jpg
こちらが旧燈明寺の本尊であったとされる、
鎌倉時代後期の千手観音様のお姿です。
収蔵庫の前で売られていた、
ブロマイド(絵はがき)の画像です。

この仏様のみ金箔が貼られていて、
特別だということが分かります。
当時の水準作という感じで、
文化財指定を受けてもおかしくはない出来映えですが、
かなり補修が入っていて、
しかもかなり適当な補修であるようなので、
そうならないのが地方仏の悲しさでもあり、
魅力でもあります。
「人知れぬ美」というようなものです。

次にこちらをご覧下さい。
旧燈明寺不空羂索観音.jpg
こちらは不空羂索観音のお姿です。
こちらは如何にも地方仏というスタイルで、
金箔はなく木の素地を活かした仏像です。
画像はお示ししませんが、
他の3駆の観音様も同じスタイルです。

完成度はそう高いものではないのですが、
素朴な良さが地方仏の魅力です。
こうした地味な(失礼)仏様が、
地方でしっかり守られているのが、
日本の仏教美術の素晴らしさなのです。

今日はあまり話題にされることのない、
珍しい地方仏を観て頂きました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

nice!(2)  コメント(2) 

「ゴキブリコンビナートの見世物ナイト」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
見世物ナイト.jpg
日本最後のアングラ劇団ゴキブリコンビナートは、
日本最後の見世物小屋興行も、
同時に委託され行っているのですが、
その前夜祭的な企画として、
阿佐ヶ谷ロフトAで「見世物ナイト」と題する公演が、
10月28日に一夜限りで行われました。

こうしたものが恥ずかしながら大好物なので、
頑張って出掛けて来ました。

内容は7時開演の9時半頃終演で、
まず障碍者バンドのスーパー猛毒ちんどんのギグが、
30分ほどあり、
その後で見世物小屋とほぼ同じ演目が、
以前花園神社で観た時より、
じっくりと時間を取って上演されます。

まず鼻と口を鎖で繋ぐ小ネタがあって、
強靱な身体を持つ原人の荒技があり、
狂ったOLが皮膚にホチキスを刺しまくる芸があり、
Drエクアドルさんが串刺しの名人として登場して、
あっと言う間に長い鉄串で頬を貫通させます。
トリはお馴染みゲジゲジみたいな虫が大好物のヤモリ女で、
言うことを聞かずにいつもの3倍は暴れまくり、
美しい段取りで生きた虫を食べまくります。

もう1つエクアドルさんの新作芸として、
細いゴムのカテーテルを、
素っ裸になって尿道に差し込むというものがあったのですが、
おそらく膀胱までは挿入して、
男の潮吹きのようなものをお見せになるつもりであったようですが、
10分近く悪戦苦闘するも挿入は出来ず、
残念な結果に終わっていました。

多分前立腺に引っかかったのではないかと思います。
エクアドルさんもそうしたお年にさしかかったのでしょうが、
緊張すると前立腺が収縮して尿道が閉まり、
そこでカテーテルが跳ね返されてしまうのです。
医療者なら誰でも経験のあるところです。
舞台に上がってお手伝いをしてあげたくなったのですが、
勿論思い直して何もせず見守っていました。

その後、D-Stageという、
BMIが35以上はありそうな体格の良い女性3人組の、
バーレスクがあって、
その後にゴキブリコンビナートのミニミュージカルがあり、
ラストはエクアドルさんを含む3人が、
串刺しで繋がる「団子三兄弟」で締めくくられます。

盛りだくさんの内容で、
変化に富んだ構成も良く、
なかなか楽しめました。
演劇ファンとしては、
こうしたイベントも良いのですが、
もっと演劇に傾斜した過激で前衛的な舞台も、
また観たいと思います。

そうした期待の持てる現役の劇団は、
もうゴキブリコンビナート以外には存在しないからです。

それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

心血管疾患リスクと認知症発症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。
明日11月3日は祝日のため連休の形となりますので、
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症と14年前の心血管疾患リスク.jpg
2018年のJAMA Psychiatry誌に掲載された、
認知症の発症における心血管疾患リスクの関与についての論文です。

認知症の予防に有効な手段は何でしょうか?

現状その有効性が確認されているのは、
心血管疾患のリスク因子を管理することです。

具体的には、
肥満にならないように体重をコントロールし、
血圧や脂質、血糖値を正常に保つことで、
血管性認知症のみならず、
アルツハイマー型認知症の発症も、
一定レベル予防可能であることが分かっています。

ただし、それはまだ認知症に結び付く脳の変化が、
それほど進行していない場合の話です。

概ね40代から50代くらいの時期において、
体重や脂質、血圧や血糖を正常に保つことは、
その後の認知症の発症を予防することが確実です。

それでは、65歳以上くらいの年齢で、
同様のリスク管理を行うことは、
認知症の発症予防に結び付くでしょうか?

この点についてはまだ明確な結論が得られていません。

少なくとも認知症が発症した時点では、
生活改善の効果はそれほどないことはほぼ明らかです。

しかし、認知症というのは発症の15から20年前には、
既にその初期の兆候は、
脳には認められるという知見があるほど、
発症までに時間の掛かる病気です。

その間のどの時点までリスク因子の管理は、
意味のあるものなのでしょうか?

この問題を明らかにする目的で、今回の研究では、
フランスの3つの都市で65歳以上の一般住民を、
長期間観察した疫学データを活用し、
785例の経過中の認知症の発症事例を、
年齢などの条件をマッチさせた、
3140名のコントロール群と比較して、
経過中の認知症の発症と、
肥満や血圧、脂質や血糖との関連を検証しています。

認知症発症14年前の時点でのリスク因子が、
認知症の発症とどの程度の関連があるのかを、
主に検証している点が一番のポイントです。

その結果、
診断14年前の体格の指標であるBMIと血圧の数値は、
より低いほどその後の認知症の発症と結び付いていました。
コレステロールや中性脂肪の脂質の数値と、
認知症の発症との間には明確な関連はなく、
血糖値のみは診断14年前においても高いほど、
その後の認知症リスクの増加と結び付いていました。

つまり、診断の14年前においては、
もう既に認知症に結び付く変化は起こっていて、
その時点での血圧の低下やBMIの低下は、
その後の発症予防には、
結びつかない可能性が高いのです。
唯一血糖値に関しては、
認知症診断からその14年前までのいつの時点においても、
高いほど認知症リスクの増加と関連を持っていました。

これは降圧剤を使用して血圧を下げるような、
介入試験のデータとは違うので、
血圧を持続的に下げることの効果を、
否定している訳ではありませんが、
少なくとも平均的に認知症を発症する14年以上前の時点において、
血糖値が高いことは将来の認知症のリスクとして判断出来ても、
それ以外の指標をそのために使うことは、
あまり有効とは考えられない、
というようには言えるように思います。

おおざっぱに言って、
加齢に伴い発症する認知症の予防のためには、
50代くらいまでの時期には、
血圧や体重、脂質を正常に保つことが重要ですが、
65歳を超えたくらいの時期以降では、
その意義はあまり明確ではなく、
血糖の管理のみが重要になる、
というように考えて、
現状は対応することが良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0) 

ワクチン導入に伴う日本の肺炎球菌感染症の変化 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
日本の肺炎球菌感染症のサーベイランス.jpg
2018年のEmerging Infectious Diseases誌に掲載された、
日本における肺炎球菌ワクチン導入の、
入院を要するような重症の肺炎球菌感染症に与える影響を、
2010年から2016年の期間で検証した論文です。
慶應義塾大学などの研究チームによる研究です。

肺炎球菌は特に小さなお子さんや高齢者において、
肺炎や髄膜炎、敗血症などの重篤な感染症の原因となる細菌です。

その治療にはペニシリンなどの抗菌剤が有効ですが、
近年耐性菌の増加が大きな問題となっています。

そこで抗菌剤に頼らない重症肺炎球菌感染症
(侵襲性肺炎球菌感染症という用語が用いられます)
の予防のために使用されるのがワクチンです。

この肺炎球菌に対するワクチンには、
現行高齢者に使用されている、
ニューモバックスという商品名の、
23価肺炎球菌ワクチンと、
主に2歳未満の小児に接種されている、
プレベナー13(以前はプレベナー7)という商品名のワクチンがあります。

この2種類のワクチンにはどのような違いがあるのでしょうか?

ニューモバックスは、
その原型は1911年には既に存在していた、
非常に古い製法によるワクチンで、
23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン
と呼ばれています。
略してPPV23 です。

肺炎球菌は莢のような構造に包まれており、
その莢の成分により、
90種類以上の莢膜型に分類されています。

その型によってどのような病気になり易いかが概ね決まります。
また、大人に病気を起こし易い型もあり、
逆に大人には病気を起こし難く、
子供に病気を起こし易い型もあります。
更には日本で流行している型と、
海外で流行している型では、
若干の違いがあることも知られています。

ニューモバックスは、
そのうち肺炎や髄膜炎などの原因になり易い、
23の型を選んで、
その莢膜の成分をワクチンとしたものです。

その型を順番に並べると、
1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、33F
ということになります。
基本的にはこの23種の型に対して、
ニューモバックスを一本打てば、
ある程度の予防が可能だ、
ということになります。

このワクチンの適応は、
原則2歳以上とされています。

現状の対象者は主に高齢者です。

それは何故でしょうか?

このワクチンは蛋白質を抗原としていません。
そのために、
T細胞というリンパ球による免疫は誘導せず、
IgM抗体という種類の抗体を、
上昇させる効果しか持ちません。

これはどういう意味かと言うと、
まずこのワクチンはブースター効果を持ちません。
つまり、ワクチンの効果が薄れた時点で、
肺炎球菌による感染が起こっても、
過去の感染を記憶していて、
より強い免疫反応が起こる、
というようなことはないのです。

従って、抗体が減少した時点で、
その効果は全くなくなりますし、
たとえば1ヶ月毎に接種を2回しても、
副反応が強くなることはあっても、
免疫の持続がそれにより長くなることはありません。

つまり、インフルエンザのワクチンのようなものとは、
基本的に性質が違うのです。

ワクチンというよりも、
免疫グロブリンを打つような治療に、
どちらかと言えばその効果は似ているかも知れません。

ただ、その代わり、打った場所の腫れ以外には、
重症の副反応は殆どありません。
ワクチン接種後に亡くなった、というような報告も、
このワクチンに関しては、
現時点で一切ありません。

免疫グロブリンの注射の効果は数ヶ月で消失しますが、
このワクチンにより誘導される抗体は、
4~5年はその有効性が確認されています。

このワクチンは更には粘膜の免疫は誘導しません。

肺炎球菌が定着するのは、
人間では主に鼻や口の粘膜です。

しかし、それを排除する力はこのワクチンにはなく、
従って、中耳炎や咽頭炎、副鼻腔炎などの予防効果はないのです。
このワクチンが効果を現わすのは、
あくまで肺炎球菌が大量に身体で増殖し、
貪食細胞が出動するような場合のみです。

2歳未満の子供では、
免疫系が未成熟のため、
このワクチンの誘導するような抗体を、
充分に産生出来ないことが分かっています。

従って、このワクチンは2歳未満の予防効果はないのです。

それでは、
高齢者に対してこのワクチンはどの程度の効果があるのでしょうか?

理屈から言えば、
有効性があるのは23種類のタイプの、
肺炎球菌の感染による肺炎のみです、
更には「菌血症性肺炎」と言って、
血液中に細菌が増殖し検出されるような、
特殊な重症のタイプの肺炎が、
その主なターゲットと考えられます。

これまでの観察研究のデータをまとめて解析した文献によると、
ニューモバックスは高齢者の菌血症を伴うような重症化した肺炎に対しては、
50%の予防効果を示しています。
その一方で全ての肺炎に対する予防効果や、
全ての肺炎球菌性の肺炎に対する予防効果は、
統計的に有意なものとは確認されていません。

ニューモバックスは肺炎の重症化予防に有効、
というのは、
主にこうした結果を元にした言説です。

それに対して、
2000年にアメリカで認可され使用が始まったのが、
プレベナーというワクチンです。

これは肺炎球菌多糖体蛋白結合型ワクチン
と呼ばれています。
最初に開発されたのは7価のもので、
PCV7と呼ばれています。

このワクチンは莢膜のポリサッカライドに、
人工的に無毒性変異ジフテリア毒素を、
くっつけて製造されています。
つまり、人工的に蛋白質をくっ付けているのです。
このため、このワクチンは、
T細胞にも認識され、
通常のワクチンと同じように、
ブースター効果も持つことが推定されます。
更には粘膜の免疫を、
誘導する作用も確認されています。

このワクチンを打つと、
その有効な型の肺炎球菌は、
鼻や咽喉の粘膜に、
定着することが出来ません。
つまり、ニューモバックスとは異なり、
感染自体を予防する効果があるのです。

7価というのは7種類の型のことで、
4、6B、9V、14、18C、19F、23Fの7種類です。
基本的にはニューモバックスに含まれている型のうち、
7つをセレクトした、
という格好になっています。

ただ、このワクチン特有の問題も存在します。

その最大のものは、
このワクチンを使用すると、
そこに含まれる7つの型の肺炎球菌は、
人間の粘膜に定着出来なくなるので、
それ以外の菌の感染が却って増える結果になる、
ということです。

実際にこのワクチンの使用後、
含まれていない19A という型の感染が、
増加しているとの複数の報告が存在します。

そうした指摘を受けて、
2010年からアメリカで導入され、
日本でも今使用されているのが、
プレベナー13という、
プレベナーと同様の効果を持つ、
13価のワクチンです。

これはプレベナーの7つの型に加えて、
1、3、5、6A、7F、19Aの6つの型の抗原を、
追加したタイプのワクチンです。

ポイントは問題になった19Aが追加された点と、
ニューモバックスにも含まれていない、
6Aが追加されていることです。

ただ、6Aは6Bと交差免疫が確認されていて、
不要視する意見もあります。

日本においては、
2010年に5歳未満の年齢における、
プレベナー7の接種が承認され、
2013年から定期接種となりました。
同年の11月からはプレベナー13に切り替わって接種が継続されています。
高齢者においては以前からニューモバックスは承認されていましたが、
公的接種の対象ではないため、
接種者は少数にとどまっていました。
そこで2014年の11月から、
65歳以上の高齢者は1回に限り、
ニューモバックスの接種が推奨されることになりました。
現状プレベナー13の高齢者への接種も、
認められてはいますが、
公的な補助の対象とはなっていません。

それでは、このワクチン導入により、
日本ではどのような変化が起こったのでしょうか?

今回の研究では研究グループの協力医療機関(341施設)において、
2010年以降侵襲性肺炎球菌感染症の事例が登録されていて、
それを2010年度、2011から2013年度、2014年から2016年度の三期に分けて、
その違いを比較検証しています。

この区分けは、
2011年からプレベナー7の導入の影響があり、
2014年からプレベナー13の導入の影響がある、
という想定で行われています。

その結果、
2010年度には小児の患者数や300例で、成人の患者数は275例であったのに対して、
2011から2013年度では小児が357例で成人が695例、
そして2014から2016年度では小児が349例で成人が880例となっていました。

これは登録事例のみですから、
単純比較は出来ないのですが、
2010年1年で300例であった小児の重症肺炎球菌感染症が、
2011年以降は3年間で350例程度ですから、
小児の重賞事例は明らかに減少していると、
そう考えて間違いはないように思います。

肺炎球菌のタイプで見るともっと劇的な変化が起きていて、
プレベナー7に含まれているタイプの肺炎球菌の重症感染症は、
2010年には全体の73.3%を占めていたのが、
2013年には7.4%と著明に減少しています。
つまり、ワクチンはそこに含まれているタイプの肺炎球菌の重症感染症を、
劇的に減少させる効果があります。

興味深いことに成人においても、
ワクチン導入以降には、
小児のワクチンに含まれるタイプの重症肺炎球菌感染症は、
明らかに減少が認められていて、
小児にワクチンを接種することにより、
高齢者の同じタイプの細菌による重症化も、
一定レベルは阻止されることが分かりました。

ただ、それではトータルに重症肺炎球菌感染症が、
減少しているのかと言うと、
そうも言えないデータになっています。

成人に関しては、
むしろ増加が認められているからです。

これはワクチンでカバーされていない菌を原因とするものと思われますが、
ワクチンを接種しても重症肺炎球菌感染症自体は増加するのでは、
成人のワクチン接種の有効性には懐疑的にならざるを得ません。

ただ、高齢者におけるワクチン接種は、
まだかなり限定的にしか行われていないので、
この結果をもってワクチンは効かない、
と判断するのも早計であるように思います。

今後よりトータルな状況を反映するような、
データの蓄積を期待したいと思いますし、
今後も注視してゆきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0)