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超音波で認知症が治る? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
超音波で認知症が治る?.jpg
2018年のBrain Stimulation誌に掲載された、
低出力パルス波超音波を照射するだけで、
認知症の症状のみならず脳の病的所見も改善した、
というかなりビックリするような動物実験の論文です。

2018年の6月に東北大学が、
アルツハイマー型認知症に対する超音波治療の、
プレスリリースを発表しました。

その内容は、
世界で初めての認知症に対する超音波治療の治験を、
日本医療研究開発機構の支援の元に実施する、
というものです。

日本医療研究開発機構の、
革新的医療技術創出拠点プロジェクトというものがあって、
東大や京大、成育医療センターや国立がん研究センターなど、
日本の主だった医療の研究拠点が選ばれています。
そこで毎年今後の革新的医療技術に結び付く様な研究テーマを出し、
そこに研究費を出そうという趣旨であるようです。

サイトを見ると色々な研究が選ばれていますが、
「革新的」とか「画期的」という文言は踊っているものの、
すぐに実用化は難しそうな、
大変失礼な言い方をすれば、
ちょっとした思いつきに過ぎないような感じのテーマが多い、
という印象です。

ここで東北大学の同じ研究グループが、
重症狭心症に対して画期的な超音波治療を行う、という研究と、
今回の認知症に対して同じ超音波治療を行う、
という研究を申請して、
いずれも支援に値すると評価されているようです。

これは元々循環器領域で開発された技術のようで、
低出力パルス波の超音波を心臓に照射すると、
血管内皮細胞の機能を改善し、
血流を改善して狭心症の治療に結び付く、
という理屈であるようです。

カテーテル治療などを行わなくても、
仮に超音波を当てるだけで血管が新生して血流が改善し、
狭心症が治るのであれば、
それはもう画期的な治療で、
世界に広める意義のあるものだと思います。

と言いますか、
本当にそんなことが可能であれば、
これはもう世界の医療界から引く手あまたで、
世界中で瞬く間に普及する技術となることは必定です。

しかし、現時点ではまだそうはなっていないようです。

プレスリリースには3編の論文が紹介されていますが、
いずれも動物実験のもので、人間の臨床データはありません。
研究費の対象となっているように、
これはまだ今後の技術であるようです。

上記研究グループは更に、
同じタイプの超音波を、
今度は脳に照射するというアイデアをひねり出しています。

それが今回のプレスリリースです。

心臓の血管に起こるような動脈硬化性の変化と、
認知症のリスクとの間に関連のあることは広く知られています。

それであるなら、
脳に超音波を照射することにより、
認知症も改善する可能性があるのではないでしょうか?

その治験のプレスリリースに際して、
引用されている唯一の論文が、
最初にご紹介したものです。

これはネズミの動物実験ですが、
首の血流を手術で遮断した、脳血流低下のモデルマウスと、
アルツハイマー病のモデルマウスを利用して、
脳全体に低出力パルス波超音波の照射を何クールか行い、
その後に認知機能や脳の血流の状態、
脳の代謝や認知症に関わる、
遺伝子マーカーなどの変化を見たものです。

その結果はかなり驚くべきもので、
1クールで20分の照射を3回、
それを時間を置いて何度か繰り返しただけで、
認知機能は有意に改善し、
血流も改善が認められています。
更には1回の治療により、
その効果は1ヶ月以上持続しています。

更にはアルツハイマー病のモデル動物においては、
脳のアミロイドβの蓄積自体も、
超音波治療をしただけで有意に減少していました。

ただ、超音波を脳全体に照射するだけで、
本当に血管が若返り、血流が改善し、
脳が若返るような効果が期待出来るのでしょうか?

これがもし本物なら、
全身に照射を繰り返せば、
全身の血管の老化は改善し、
全ての病気が治ってしまってもおかしくはありません。

勿論それが嘘であるとは言えません。
ただ、かなり現実離れがしているように、
直感的には思いますし、
臨床医学の知見というよりは、
よくある低周波治療器の宣伝に、
似通っているような気もします。
ああした機器も、
宣伝の上ではそうした画期的な治療効果があるからです。

こうした研究を重ねること自体は、
勿論有意義なことであると思います。
ただ、今回のプレスリリースの内容を読むと、
実験データとして示されているのは動物実験のみで、
それをもって画期的な治療として、
認知症の患者さんを対象とした臨床試験を、
公的機関の支援の元に行うというのは、
かなり時期尚早で拙速ではないかと、
個人的にはそのように思えます。

仮に数十分照射するだけで、
脳の血流の状態や代謝の状態が、
ダイナミックに変化するとすれば、
その治療が認知症の患者さんに対して、
安全であるとは簡単に判断出来ないと思いますし、
安全性の検証は、
まずなされるべきではないかと思います。

そんな訳で、
個人的にはこの治療法は眉つばと思えるのですが、
勿論それは僕の見識の低さ故かも知れません。

10年後に果たしてどのような進捗が見られるのか、
まずはその点を見定めたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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