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認知機能の季節変動と認知症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症と季節.jpg
2018年のPLOS Medicine誌に掲載された、
高齢者の認知機能の季節変動を解析した疫学データの論文です。

認知機能や気持ちの高低が、
季節によって左右されるというのは、
これまでにも多くの知見があります。
有名なものでは「5月病」と呼ばれるように、
春先には気分の不調や不安定さが、
起こり易くなることが知られています。

ただ、こうした知見の殆どは高齢者を除外したものです。

認知症の発症が増える高齢者において、
季節の変動は認知機能にどのような影響を与えるのでしょうか。
また、それは健常者と認知症の患者さんとで差があるものなのでしょうか。

今回の研究はそのことを検証する目的で、
アメリカ、カナダ、フランスで、
70歳以上の高齢者住民の疫学データを活用して、
認知機能と季節との関連を検証していています。

対象となっているのは3つの国の高齢者、
トータル3353名です。

その結果、
認知機能は夏期に上昇して10月くらいにピークとなり、
その後冬にかけて低下して、
4月の頃に最も低くなってその後は上昇に転じる、
という傾向が認められました。
その差は年齢換算で4.8歳に達していました。

このサイクルは健常者でも認知症の患者さんでも、
同様に認められましたが、
認知症の患者さんではその変動はより小さい傾向がありました。

これは要するに、
脳の働きは何らかの刺激により、
夏期の時期には高まるが、
その刺激は冬の時期には低下する、
ということを示しているように思われます。
通常その刺激として、
想定されるのは甲状腺ホルモンの季節変動で、
甲状腺機能低下症は冬期に悪化することが知られていますから、
そこに符号するようにも思われますが、
今回のデータでは甲状腺機能の影響を除外しても、
認知機能の季節変動はなくならなかった、
と記載されています。

それでは、一体何がこの季節変動の原因なのでしょうか?

それについては、
まだ今後の検証を待つ必要がありそうです。

興味深いことには、
アルツハイマー病のバイオマーカーである、
髄液中のβアミロイドやタウ蛋白の濃度も、
同様の季節変動を示していました。

この季節変動は結構大きなものなので、
認知症の経過や治療効果の検証などにおいても、
この季節性を考慮しないと、
その判断を見誤る可能性もあるので、
注意が必要であると思います。

治療前の認知機能の検査を秋に行い、
治療後の検査を春に行うと、
その治療には何の効果がなくても、
見かけ上大きな変化が認められてしまうからです。

この問題は認知症医療の効果判定などにも、
思った以上に大きな影響を与えており、
今後その原因を含めて、
より詳細な検証の蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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