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亜鉛欠乏のメカニズムとATP代謝 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
亜鉛欠乏とATP代謝.jpg
2018年のCommunications Biology誌に掲載された、
亜鉛欠乏症のメカニズムについての日本の研究グループによる論文です。

亜鉛は身体の健康を保つために必須のミネラルで、
貝類、魚、肉などに多く含まれ、
その欠乏は味覚障害や皮膚炎、脱毛や下痢など、
多くの症状の原因となり、
また免疫力の低下などを招くことも知られています。

身体で働く多くの酵素は、
亜鉛が欠乏するとその働きが低下するため、
そのことが亜鉛欠乏による健康影響の、
大きな原因であると考えられていますが、
その詳細はこれまであまり分かっていませんでした。

今回の研究では、
生体の炎症や酸化ストレスなどの調整に、
重要な役割を果たしている細胞外ATP代謝が、
亜鉛の欠乏により影響を受けるのでは、
という仮説の元に、
ネズミの動物実験と培養細胞を用いた実験によって、
その関与を検証しています。

ATPというのは、
人間の細胞内で主なエネルギー源として働く物質ですが、
このATPが刺激により細胞外に排出されると、
複数の酵素によって、
ADPからATP、更にアデノシンに分解され、
その過程で炎症や酸化ストレスの調整を行っているのです。

これを細胞外ATP代謝と言います。

細胞外ATP代謝に関連する酵素は多くの種類がありますが、
このうちALP、CD73、ENPPはいずれも亜鉛を必要とする酵素で、
そのために亜鉛の欠乏時にはその活性が低下する可能性があります。

今回の研究においては、
ネズミの実験と培養細胞において、
亜鉛が欠乏した際に、
細胞外ATP代謝に関わる酵素活性が低下し、
結果としてアデノシンの産生が低下していることが確認されました。
また、ネズミの実験では、
数日亜鉛欠乏食にしただけでその活性低下が認められると共に、
亜鉛の摂取を再開することにより、
1日で改善することも確認されました。

今回の研究では亜鉛の欠乏に伴う症状が、
実際に酵素活性の低下によりもたらされるかどうかは、
まだ明らかではなく、
亜鉛欠乏に伴う生体変化の主体が、
細胞外ATP代謝の障害によるものとも断定は出来ませんが、
これまで不明な点が多かった亜鉛欠乏のメカニズムに、
新たな光を当てた知見であることは間違いがなく、
今後の研究の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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