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カフェインの摂取と慢性腎臓病の予後との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カフェインと慢性腎臓病.jpg
2018年のNephrol Dial Transplant誌に掲載された、
カフェインの摂取が、
慢性腎臓病の予後に与える影響についての論文です。

2012年のNew England…の疫学論文以降、
コーヒーを適度に飲むことに健康上のメリットがあり、
各種の疾患や死亡リスクを減少させるという知見は、
ほぼ確立されたという感があります。

コーヒーに含まれているカフェインは、
短期的には血圧を上昇させますが、
慢性の投与ではむしろ血圧を降下させ、
他に含まれるクロロゲン酸などの生理活性物質には、
抗酸化作用は抗炎症作用のあることが確認され、
それが心血管疾患の予防に繋がると想定されています。

慢性腎臓病は生命予後に大きな影響を与える内臓疾患で、
その成因は高血圧や動脈硬化など、
心血管疾患ともリンクする部分がありますが、
心血管疾患の予防のための戦略が、
必ずしも慢性腎臓病の予防には繋がらない、
という複雑な側面もあります。

以前ご紹介した2018年の韓国の疫学データでは、
それほど明瞭ではないものの、
コーヒーを飲む人の方が慢性腎臓病になりにくい、
という結果が報告されています。

ただ、実際に腎機能が低下している慢性腎臓病の患者さんでも、
コーヒーがその予後に良い影響を与えるかどうかと、
コーヒーの効果がその主な生理活性物質であるカフェインによるものか、
もしくはそれ以外の成分によるものなのか、
というような点については、
まだデータは乏しいのが実際です。

そこで今回の研究では、
アメリカの大規模疫学データを活用して、
慢性腎臓病の患者さんの生命予後に与える、
カフェインの摂取量の影響を検証しています。

対象となっているのは、
推計の糸球体濾過量が15から60mL/min/1.73㎡の、
軽度から中等症の慢性腎臓病で腎機能低下のある1283名で、
食事調査からカフェインの摂取量を計算し、
それを1日28.2mg未満と28.2から103.0mg、
103.01から213.5mg、213.5mgより高用量の4群に分けて、
中央値で60か月の観察期間における、
患者さんの生命予後との関連を検証しています。

その結果、
カフェインの摂取量が最も少ない群と比較して、
2番目の群では総死亡のリスクが26%(95%CI: 0.60から0.91)、
3番目の群では26%(95%CI: 0.62から0.89)、
最も多い群では22%(95%CI: 0.62から0.98)、
それぞれ有意に低下していました。
つまり、カフェインを摂っていた方が生命予後が改善した、
という結果です。
ただ、カフェインの摂取量が多いほど、
それだけ予後が良かった、という結果にはなっていないので、
その評価はちょっと微妙です。

このように従来はあまり良くないとされていた、
腎機能低下時におけるカフェインの摂取も、
中等度の腎機能低下までのレベルで、
コーヒー1日2杯程度の量であれば、
むしろ予後改善に結び付く可能性がある、
という今回の知見は、
その有効性の評価は今後の課題としても、
コーヒー好きにはまた1つ、
嬉しい話題が増えた、とは言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ω3系脂肪酸の不安軽減効果のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ω3脂肪酸による抗不安効果のメカニズム.jpg
2014年のNeuropsychopharmacology誌に掲載された、
青身魚の脂の成分であるω3系脂肪酸の、
抗不安効果のメカニズムについての動物実験による論文です。

昨日のメタ解析の論文でも認められているように、
青身魚の脂に含まれるEPAやDHAに、
外傷後ストレス障害などの不安を和らげるような効果のあることは、
臨床的にも確認をされている事項です。

しかし、それは何故でしょうか?

今回の研究ではそのことを明らかにする目的で、
ネズミに様々な比率で、
EPAやDHAというω3系脂肪酸を、
アラキドン酸などのω6系脂肪酸より、
強化した食事を摂取させて、
恐怖体験の抑制効果を比較検証しています。

その結果、
ω3系脂肪酸の多い飼料で飼育したネズミは、
そうでないネズミと比較して、
恐怖体験によって惹起される反応を、
より強く抑制していました。
(実際には電気ショックを与えて、
その後の同じ環境下での反応を見ています)

そして、この恐怖体験の抑制効果は、
カンナビノイドCB1受容体を遮断することにより、
消失することが確認されました。

カンナビノイドというのは脳内麻薬で、
情動の中枢である偏桃体において、
この経路の刺激が脳内麻薬を放出して、
心的外傷などの強いストレスを抑制していると考えられています。

どうやらω3系脂肪酸の摂取増加は、
この経路を刺激することによって、
不安を緩和するような作用を持っているようです。

何故脂肪酸が脳内麻薬を刺激するのか、
その詳細はまだ不明ですが、
ただの脂が感情をコントロールしているという、
この知見はとても興味深く、
この後のこの分野の進歩に、
大きな期待を寄せたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ω3系脂肪酸の不安軽減効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ω3脂肪酸と不安障害.jpg
2018年のJAMA Network Open誌に掲載された、
青身魚の多く含まれる脂の成分が、
不安を和らげる効果があるとする、
メタ解析の論文です。

日本語の紹介記事には、
国立がん研究センターなどの研究のように書かれていますが、
トップネームは台湾の研究者で、
台湾で主な研究は行われたようにも読めます。
共同研究ということなのでしょうか。
詳細はよく分かりません。

青身の魚の油が健康にいい、
という話は、
皆さんもよくお聞きになることだと思います。

その代表が「エイコサペンタエン酸」ですね。
略して「EPA」と呼ばれています。
鯖や鰯などの魚の油に、
多く含まれる成分です。

EPAは油の分類上は、
「不飽和多価脂肪酸」という区分に入ります。

脂肪酸というのは、身体の中の油の総称で、
タンパク質のように窒素は含まず、
炭素と水素、酸素だけからなる、
シンプルな構造物です。
リン脂質や糖脂質、コレステロールやステロイドのような、
脂肪酸から由来する物質も多く、
この中には窒素を含むものもあります。

その大元である脂肪酸は、
二重結合のない飽和脂肪酸と、
二重結合のある不飽和脂肪酸に分かれます。

原子は他と繋がる手を、
決まった数だけ持っていて、
その手がそれぞれ別のものと繋がっているのが、
飽和で、2つの手が同じものと繋がっているのが、
不飽和ということになります。

分子量の大きい「不飽和脂肪酸」は、
その二重結合の位置が端から3番目のものと、
6番目のものとに分かれます。
「EPA]は、その3番目の位置のものに分類されるので、
n-3脂肪酸とか、ω‐3系多価不飽和脂肪酸、などと、
呼ばれているのです。

アラキドン酸という油があります。
レバーや卵黄、うになどに多く含まれています。
これはn-6もしくはω‐6のタイプの多価不飽和脂肪酸です。
これも人間に不可欠な油の1つです。

つまり、ω3系脂肪酸の代表がEPAやDHAで、
ω6系脂肪酸の代表がアラキドン酸です。

ω3系脂肪酸とω6系脂肪酸のどちらが多いかというバランスが、
身体の健康にとって重要であることは、
これまでの多くの疫学データや動物実験のデータで、
ほぼ明らかになっています。

データが多いのは心血管疾患ですが、
不安を抑え心的外傷後ストレス障害(PTSD)を予防するような効果が、
ω3系脂肪酸にあるという報告も、
最近複数論文化されています。

ただ、実際にEPAやDHAなどを補充することで、
不安障害が改善するかどうかは、
それほど精度の高いデータがないこともあって、
まだ明らかではありません。

今回の研究はこれまでの、
ω3系脂肪酸のサプリメントを、
偽薬のコントロールと比較した臨床試験のデータを、
まとめて解析したメタ解析ですが、
トータルで1203名のサプリメント使用者のデータを、
まとめて解析した結果として、
臨床的な不安症状を、
ω3系脂肪酸のサプリメントが改善することが認められました。

このサプリメントの抗不安効果は、
ω3系脂肪酸の量が1日2000mg以上に限って認められ、
また不安障害などの臨床的な診断を受けている事例で、
より高い効果が認められました。

このようにω3系脂肪酸の補充には、
比較的高用量において一定の抗不安効果が認められることは、
ほぼ間違いがなさそうです。

それでは何故脂肪酸にそのような効果があるのでしょうか?

明日はそのメカニズムについての論文を、
ご紹介したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カンニング竹山単独ライブ「放送禁止2018」 [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カンニング放送禁止2018.jpg
もう1ヶ月ほど前になりますが、
毎年恒例のカンニング竹山さんの単独ライブに足を運びました。

このライブは6年くらい前からは、
気に入って毎年足を運んでいます。

このライブは鈴木おさむさんが構成をしていて、
いつも一ひねりあるんですね。
最初に見たのが結構完成度の高い回で、
行き当たりばったりに話を広げているように見えて、
最初から随所に伏線が引かれ、
それが最後に収斂して、
意外なクライマックスに結び付くのです。
その良く出来たミステリーのような舞台に、
なるほど、たった1人のトーク・ライブを、
こうして構造化することが可能なのだ、
と感銘を受けたのです。

当時のそこまでビッグではないけれど、
芸能界の一角にはしっかりと踏みとどまっている、
でもそれほどしがらみはないので、
言いたいこともまだ言えるし、
一般の人との距離も、
それほど開いていない、
という感じの竹山さんの立ち位置が、
またとても良い感じではあったのです。

ただ、ここ数年の内容は、
正直付け焼き刃的なものが多くて、
以前であれば1年がかりで準備をして、
という感じであったのに、
最近のものはちょこちょこ取材しただけ、
というようなものが多くて、
お忙しいので仕方がないのかな、
と思うものの、
少しガッカリすることが多かったのが、
正直な感想です。

特に今回は、
実際に準備されたアクションが、
3日だけの張り込みというもので、
それから1つのインタビューのみから構成されていたので、
それは幾ら何でも手抜きではないかしら、
と感じてしまったのと、
インタービューも敵対するべき相手に、
簡単に丸め込まれているような感じがあったので、
個人的には「それはないだろう」
という気分になってしまいました。

この落胆というのは、
おそらくは竹山さんがそれだけ以前よりビッグになり、
ステイタスが上がっていることの証明なのだと思います。

だから、竹山さんにとっては良いことなので、
1人のファンとしては素直に、
「良かったですね」と言うべきなのだと思います。

こうしたことは以前にも何度かあって、
中学生から高校生くらいまで、
タモリのオールナイトニッポンが大好きで、
毎回テープに録音して何度も聴いていたのですが、
ある時から「素晴らしい人に会った、感激した」
みたいな普段は毒舌ばかりなのに、
社会的にステイタスのある人に対して、
素直に感激して崇拝する、みたいな感じの話が多くなって、
それから今度は自分の自慢というのか、
「俺は金はあるんだ」みたいなことを、
勿論ギャグとして言うのですが、
聞いている方はそうは感じないので、
だんだんその自分との距離感に嫌になって、
聞くのを止めてしまったことがありました。

また、高校から大学にかけての時期は、
ビートたけしのオールナイトニッポンが大好きで、
これもつらい生活を乗り切るために、
これだけが楽しみ、という感じで心の支えであったのですが、
フライデイ事件の前くらいの時期は、
矢張り「俺は偉いんだ、お前らには見えない世界を見ているんだ」
というような感じが漂うようになって、
少し「兄さんも遠くに行ってしまったのね」
という残念さはあったのでした。

ファンにも卒業はあるものですから、
これはこれで世の常ではあるのですが、
人生に一度くらい、
そうした段階を乗り越えて、
一生のファンであるようなあり方が、
あればいいのに、とは思うのです。

でもこれは、僕の側の成長が未熟なためかも、
知れませんね。

多分来年はもう行かないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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「アントマン&ワスプ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アントマン&ワスプ.jpg
マーベル・コミックのヒーロー映画の1本、
「アントマン&ワスプ」を観て来ました。

その昔最初の「スーパーマン」や「バットマン」が、
テレビシリーズを最新のSFXで映画化した辺りでは、
毎回劇場に足を運んでいました。
ただ、その頃からそれほど好みの世界、
という感じではありませんでした。
その頃はマーベル・コミックの映画というのはあまりなくて、
確か「ハルク」などは映画化されましたが、
当時の技術ではコミックの世界の再現は、
難しかった感じでした。
「スパイダーマン」の映画は最初の2本は観たのですが、
とても乗れるような感じではなくて、
それからは足が遠ざかったという感じです。
その後はマーベルのシリーズものが、
ガンガン公開されていますが、
時々観るという感じです。

最近のSFXは本当に見事で凄いですよね。
でも、あまりに凄くて、しかもやたらめったら公開されますから、
有難みがないというか、
どうでも良いような気分にもなるのが、
これは贅沢な悩みかも知れません。

今回はタイム・スケジュール的な都合で観たのですが、
結構面白かったです。

大きくなったり小さくなったりするヒーローというのが面白くて、
縮小してバッグくらいのサイズになった研究所を、
皆で取り合うというのが馬鹿馬鹿しくていいですよね。
2時間弱という上演時間も手ごろです。
キャラクター設定も定番でお約束でうまいと思います。

ただ、悪役は何かとても貧弱で弱くて、
ゴーストという怪人が出て来ますが、
最初から死にかけですし、
後はギャングとのカーチェイスですから、
ヒーロー側が勝つに決まっているような戦いで、
あまり盛り上がる感じにはなりません。
展開にも意外性はあまりないのですが、
その分手ごろでほのぼのとしていて、
気楽に見られる感じが良いとも言えます。

シリーズを知らないと分かりにくい場面もありますが、
まあ、大体は補足出来ますから、
マーベル初心者の方でも、
それなりに楽しめる1本に、
仕上がっていたと思います。

マニアックな映画との二択で迷った場合には、
こちらの方が元は確実に取れますよ、
という言い方はして良いと思います。

そこそこのお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
バッド・ジーニアス.jpg
2017製作の日本公開は珍しいタイ映画ですが、
とても評判が良かったので新宿武蔵野館で観て来ました。

高校生のアメリカ留学の権利に絡む、
試験のカンニングを扱った映画で、
中国で実際に起こったカンニング事件を元にして、
それを舞台をタイに置き換えてドラマ化したものです。
確か結構話題になって報道もされた事件ですね。

これはとても面白いですよ。

全編軽快かつスリリングに展開して、
130分という結構長尺を、
少しの緩みもなく一気に見せきる構成力が素晴らしく、
メインとなる高校生4人のキャラクターが、
とても練り上げられていて趣きがあるのです。

単純にカンニング事件を扱った、というものではなく、
少年少女が資本主義の世の中の「毒」に接触し、
それと向き合うという物語です。
その「毒」は4人を深く蝕んでゆくのですが、
そのうちの1人だけが、
それを乗り越えようとするところで、
物語は終わります。

最後までハラハラドキドキで、
先の読めない展開が続きますが、
ラストの処理はおや、という感じもあります。
父親の情愛のようなものが出て来るのは、
アジアン・テイストであるのかも知れません。

主人公の天才少女がいいですよね。
美人でも何でもない(失礼!)のですが、
その無愛想さが次第に魅力的に見えてくるのが素敵です。
ちょっとした感情表現が良く、
物語の中での成長が、
感じられるような演出も上手いのです。
最初と最後の印象が全く違うでしょ。
これが映画ですよね。

もう1人苦学生の相手役の男の子が、
また良い味を出しています。
窮屈な正義感が、不幸によって屈折する感じが、
これもとても素敵です。

こういう映画はハリウッドでも、
日本映画でも、韓国映画や中国映画でも、
素材としては同じように出来そうですし、
似た映画も既にあると思いますが、
そのテイストも対象との向き合い方も、
役者さんの感じもまた少し違っていて、
それがとても新鮮なのです。
その物語の裏打ちとなっている深層の倫理観のようなものも、
また今の日本の空気とはかなり違っていて、
それもとても興味深く鑑賞しました。

そんな訳でとてもとても面白い映画で、
凡百の日本映画の10本分は楽しめる快作です。

皆さんも是非ご覧下さい。

惹き付けられ、ハラハラし、
ちょっぴり切なくて、
そしてこの世界の残酷さと生きづらさについて、
少し深く考えさせる映画です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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認知機能の季節変動と認知症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症と季節.jpg
2018年のPLOS Medicine誌に掲載された、
高齢者の認知機能の季節変動を解析した疫学データの論文です。

認知機能や気持ちの高低が、
季節によって左右されるというのは、
これまでにも多くの知見があります。
有名なものでは「5月病」と呼ばれるように、
春先には気分の不調や不安定さが、
起こり易くなることが知られています。

ただ、こうした知見の殆どは高齢者を除外したものです。

認知症の発症が増える高齢者において、
季節の変動は認知機能にどのような影響を与えるのでしょうか。
また、それは健常者と認知症の患者さんとで差があるものなのでしょうか。

今回の研究はそのことを検証する目的で、
アメリカ、カナダ、フランスで、
70歳以上の高齢者住民の疫学データを活用して、
認知機能と季節との関連を検証していています。

対象となっているのは3つの国の高齢者、
トータル3353名です。

その結果、
認知機能は夏期に上昇して10月くらいにピークとなり、
その後冬にかけて低下して、
4月の頃に最も低くなってその後は上昇に転じる、
という傾向が認められました。
その差は年齢換算で4.8歳に達していました。

このサイクルは健常者でも認知症の患者さんでも、
同様に認められましたが、
認知症の患者さんではその変動はより小さい傾向がありました。

これは要するに、
脳の働きは何らかの刺激により、
夏期の時期には高まるが、
その刺激は冬の時期には低下する、
ということを示しているように思われます。
通常その刺激として、
想定されるのは甲状腺ホルモンの季節変動で、
甲状腺機能低下症は冬期に悪化することが知られていますから、
そこに符号するようにも思われますが、
今回のデータでは甲状腺機能の影響を除外しても、
認知機能の季節変動はなくならなかった、
と記載されています。

それでは、一体何がこの季節変動の原因なのでしょうか?

それについては、
まだ今後の検証を待つ必要がありそうです。

興味深いことには、
アルツハイマー病のバイオマーカーである、
髄液中のβアミロイドやタウ蛋白の濃度も、
同様の季節変動を示していました。

この季節変動は結構大きなものなので、
認知症の経過や治療効果の検証などにおいても、
この季節性を考慮しないと、
その判断を見誤る可能性もあるので、
注意が必要であると思います。

治療前の認知機能の検査を秋に行い、
治療後の検査を春に行うと、
その治療には何の効果がなくても、
見かけ上大きな変化が認められてしまうからです。

この問題は認知症医療の効果判定などにも、
思った以上に大きな影響を与えており、
今後その原因を含めて、
より詳細な検証の蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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リバーロキサバンの退院後使用の血栓症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リバーロキサバンの血栓症予防効果.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
抗凝固剤を心不全や肺炎などの内科的疾患で入院後の患者さんに、
血栓症予防として短期使用した効果を検証した論文です。

これは些細な研究にようにも思えますし、
結果としてあまり有効性は確認されなかったのですが、
実臨床においては常に問題となる疑問に対して、
一定の回答を与えているという意味で、
臨床的には非常に意義のある研究ではないかと思います。

有名な権威のある医学誌に、
時々「なんでこんな大したことないような研究が載るんだろう」
と思えるような論文が掲載されますが、
それは多くの場合、
臨床的に意義のある知見であるからで、
僕のような凡人では、
その価値を見いだせないために、
そうした感想を抱くことが多いように思います。

長いフライトで同じ姿勢を取っていたり、
入院して数日間以上寝たままでいたりすると、
特にそれまで病気のなかった人でも、
足の静脈などに出来た血栓が、
肺の動脈に詰まる、
肺血栓塞栓症などのリスクが高まります。

そのために入院中であれば、
足の血行を促すような治療を施したり、
検査で血栓傾向が認められれば、
抗凝固剤を使用するなどの対応が行われます。
適切な抗凝固療法により、
血栓症のリスクは50から60%低下する、
と報告されています。

ただ、これは敢くまで入院中に限った話です。

入院中に血栓症のリスクがある場合、
退院後も6週間はそのリスクは高い状態が続く、
と指摘されています。
ただ、それでは退院後にも一定期間抗凝固剤を使用することが、
そのリスクの軽減に繋がるかどうかは、
まだ結論が出ていません。
これまでに行われた臨床試験においては、
退院後の抗凝固剤の使用は出血系の合併症を増やした一方で、
症状のない血栓症を減らしただけでした。

そこで今回の研究では、
世界36カ国の671の専門施設において、
静脈血栓塞栓症のリスクが高いか、
血栓症の指標の1つであるDダイマーが軽度上昇していて、
心不全や肺炎などの内科的疾患で3日以上入院している、
トータル12019名の患者さんを登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は直接作用型経口抗凝固剤であるリバーロキサバン(商品名イグザレルト)を、
退院時から1日10mgで継続使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
退院後45日間の経過観察を行っています。

その結果、
症候性や致死性の静脈血栓塞栓症を併せたリスクには、
両群で有意な差は認められませんでした。
重篤な出血のリスクについても、
リバーロキサバン群で高い傾向はあったものの、
頻度は0.28%と低く、
両群で有意差はありませんでした。
ただ、症状のある非致死性の静脈血栓塞栓症のリスクについては、
リバーロキサバン群で56%(95%CI: 0.22から0.89)と、
こちらは有意な低下が認められました。

このように、
退院後一定期間の抗凝固剤の使用は、
一定の有効性はあるものの、
患者さんの生命予後を左右するまでのものではなく、
出血系の合併症のリスクもあることを考えると、
その使用の判断は難しいというのが、
現状であるようです。

悩ましいですね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第36回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
36回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
10月20日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「最新版認知症治療の基礎知識」です。

認知症についての話題は、
健康教室でも過去に何度か取り上げています。

今回は現在ある治療薬や治療法の概説と、
その効果についてのデータを検証するとともに、
今研究中の薬や治療、
その将来についても解説する予定としています。

現行の治療は基本的に認知症の原因に対するものではなく、
抜本的な治療効果が期待出来るというものではありません。
それでは、近い将来に、
より根本的な認知症の治療薬が使用可能となるのでしょうか?

アミロイドβやタウ蛋白の蓄積自体をターゲットとした新薬が、
少し前から話題になっていますが、
その臨床試験の結果は、
今のところあまり満足のゆくものではないようです。

週刊誌などでは、点鼻のインスリンであるとか、
脳に超音波を照射するだけで認知症が改善するなど、
にわかには信じがたいような治療を、
意外に権威のある研究機関の研究者が、
画期的な治療であるとして宣伝していますが、
それは本当に期待するに価する治療と言えるのでしょうか?

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
10月18日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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亜鉛欠乏のメカニズムとATP代謝 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
亜鉛欠乏とATP代謝.jpg
2018年のCommunications Biology誌に掲載された、
亜鉛欠乏症のメカニズムについての日本の研究グループによる論文です。

亜鉛は身体の健康を保つために必須のミネラルで、
貝類、魚、肉などに多く含まれ、
その欠乏は味覚障害や皮膚炎、脱毛や下痢など、
多くの症状の原因となり、
また免疫力の低下などを招くことも知られています。

身体で働く多くの酵素は、
亜鉛が欠乏するとその働きが低下するため、
そのことが亜鉛欠乏による健康影響の、
大きな原因であると考えられていますが、
その詳細はこれまであまり分かっていませんでした。

今回の研究では、
生体の炎症や酸化ストレスなどの調整に、
重要な役割を果たしている細胞外ATP代謝が、
亜鉛の欠乏により影響を受けるのでは、
という仮説の元に、
ネズミの動物実験と培養細胞を用いた実験によって、
その関与を検証しています。

ATPというのは、
人間の細胞内で主なエネルギー源として働く物質ですが、
このATPが刺激により細胞外に排出されると、
複数の酵素によって、
ADPからATP、更にアデノシンに分解され、
その過程で炎症や酸化ストレスの調整を行っているのです。

これを細胞外ATP代謝と言います。

細胞外ATP代謝に関連する酵素は多くの種類がありますが、
このうちALP、CD73、ENPPはいずれも亜鉛を必要とする酵素で、
そのために亜鉛の欠乏時にはその活性が低下する可能性があります。

今回の研究においては、
ネズミの実験と培養細胞において、
亜鉛が欠乏した際に、
細胞外ATP代謝に関わる酵素活性が低下し、
結果としてアデノシンの産生が低下していることが確認されました。
また、ネズミの実験では、
数日亜鉛欠乏食にしただけでその活性低下が認められると共に、
亜鉛の摂取を再開することにより、
1日で改善することも確認されました。

今回の研究では亜鉛の欠乏に伴う症状が、
実際に酵素活性の低下によりもたらされるかどうかは、
まだ明らかではなく、
亜鉛欠乏に伴う生体変化の主体が、
細胞外ATP代謝の障害によるものとも断定は出来ませんが、
これまで不明な点が多かった亜鉛欠乏のメカニズムに、
新たな光を当てた知見であることは間違いがなく、
今後の研究の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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