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新規インフルエンザ治療薬パロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)の臨床試験データ [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ゾフルーザの臨床データ.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
インフルエンザの新薬である商品名ゾフルーザの、
発売前の臨床試験データをまとめた論文です。

インフルエンザの治療薬には、
世界中で広く使用されている、
オセルタミビル(商品名タミフル)、
吸入薬のザナミビル(商品名リレンザ)以外に、
使用が1回で済む吸入薬のラニナミビル(商品名イナビル)、
注射薬のペラミビル(商品名ラピアクタ)、
ファビビラビル(商品名アビガン)があります。

注射薬のイナビルは日本以外では殆ど使用されておらず、
注射薬のラピアクタは日本以外では、
重症時やハイリスク時のみの使用が一般的です。
アビガンはそれまでとはメカニズムの異なる治療薬で、
現状はパンデミック時など国がその使用を許可した場合のみ、
その使用が可能となる医薬品という特殊な位置づけとなっています。

そこに更に今回、
また新たなメカニズムを持つインフルエンザ治療薬として、
ゾフルーザが加わりました。

メカニズムから見ると、
タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタは、
いずれもノイラミニダーゼ阻害剤で、
感染した細胞内で増殖したウイルスが、
他の細胞に感染することを防ぐ仕組みの薬です。

一方でアビガンは、
感染細胞内でウイルスが増殖するのに必要な、
RNAポリメラーゼの阻害剤です。

そして今回のゾフルーザは、
アビガンとは別個の、
細胞内でウイルスが増殖するのに必要な酵素である、
キャップ依存性エンドヌクレアーゼの阻害剤です。

ゾフルーザは通常より早いペースで日本では承認が進み、
2018年の3月に発売されました。
当初はアビガンと同じように、
パンデミック時などの使用とする方針もあったようですが、
実際に発売されてみると、
特にそうした制限はなく、
製薬会社の担当の方のお話を聞いても、
現行どのような場合に使用するべきという指針はなく、
自由に処方して問題はないというお話でした。

この薬剤は感染細胞でのウイルスの増殖を抑えるので、
タミフルやリレンザより効果が迅速で、
体内で49から91時間という長い半減期を持っているため、
内服で1回のみの使用で充分という特徴があります。

今回発表された第3相臨床試験の結果では、
12から64歳のインフルエンザ症状の患者に対して、
ゾフルーザ使用群と、
タミフルを1日150mgの5日間使用群、
そして偽薬群の3群に分けて、
その予後を比較検証しています。
最終的に解析された人数は1064名で、
その8割は日本での登録者です。

その結果、
症状改善までに要する時間は、
偽薬で80.2時間であったのに対して、
タミフル群では53.8時間、
ゾフルーザ群で53.7時間となっていました。
つまり、ゾフルーザを使用することにより、
インフルエンザの発熱などの症状が、
タミフルと同様に1日程度短縮する効果があります。
ウイルスが検出されなくなるまでの期間は、
タミフルよりゾフルーザがより短くなっていました。

ただ、ゾフルーザの効果が減弱するような遺伝子変異も、
9.7%に認められていました。
仮にこうした変異のあるウイルスの感染に対して、
ゾフルーザをすると、
使用しない場合と比較して、
むしろウイルスの排泄に時間の掛かることが想定されます。

本来こうした薬剤の有効性は、
重症化予防や生命予後の改善効果などで判断されるべきですが、
通常健常者の感染の予後は良いインフルエンザの場合、
こうした臨床試験で当面の判断はせざるを得ず、
現状はその効果はタミフルと同等と、
そう考えるのが妥当であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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