SSブログ

スタチンが心血管疾患の予防に有効なのは何歳までなのか?(2018年スペインの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

ちょっとレセプトがギリギリで、
2日更新が間に合いませんでした。

レセプトも無事出せたので、
今日から通常運転に戻りたいと思います。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンの高齢者一次.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
スタチンの高齢者における心血管疾患予防効果についての論文です。

「65歳以上ではこの薬は飲んではいけない」
というような扇情的な記事が、
複数のメディアや一般向けの雑誌などを賑わしています。

そうした番組や記事の、
不安を煽るような大袈裟な表現は感心しませんが、
心血管疾患の予防薬とされるような薬の有効性が、
高齢者ではあまり検証をされていない、
ということ自体は事実で、
高齢化社会においては、
高齢者においても有効な治療薬や、
病気の予防法の研究が、
急務であることは間違いがありません。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
広く使用されている動脈硬化性疾患の予防薬です。

心血管疾患(主に心筋梗塞)を一旦起こした場合の、
再発予防(二次予防)としての効果は、
75歳以上の年齢においてもほぼ確認されていますが、
まだ心血管疾患を起こしていない場合の、
起こさないための予防(一次予防)効果は、
75歳以上ではトータルには明確には確認されていません。

2型糖尿病は心血管疾患の大きなリスク要因ですが、
糖尿病のあるなしが、
高齢者のスタチン使用による予防効果に、
どのような影響を与えるのかも、
それを検証するデータはまだ限られています。

今回の研究はスペインにおいて、
75歳以上で心血管疾患の既往のない、
トータル46864名を登録し、
スタチンの新規の使用が中間値で5.6年の経過観察期間中に、
新規の心血管疾患をどの程度予防したのかを、
糖尿病のあるなしや年齢によって検証しています。

その結果、
糖尿病を合併していない場合、
75から84歳の年齢層においては、
スタチンの新規使用はその後の心血管疾患のリスクを、
有意に低下させることはなく、
総死亡のリスクも有意には低下させていませんでした。
それは85歳以上の年齢層でも同じでした。

一方で2型糖尿病を合併している場合には、
75から84歳の年齢層において、
スタチンの新規使用はその後の心血管疾患のリスクを、
24%(95%CI: 0.65から0.89)有意に低下させ、
総死亡のリスクも、
16%(95%CI: 0.75 から0.94)有意に低下していました。
しかし、糖尿病を合併している場合にも、
年齢が85歳以上では有意なリスクの低下は認められませんでした。

このように75歳以上で開始されたスタチンの、
一次予防としての心血管疾患予防効果と生命予後の改善効果は、
糖尿病が合併していない場合には、
トータルでは明確には認められず、
糖尿病を合併している場合でも、
85歳以上では認められませんでした。

これは個人の持つリスク因子によっても、
変わりうるものなので、
週刊誌的に「スタチンを75歳以上で飲むのは無効」
と言うことは誤りですが、
少なくとも85歳以上から開始されるスタチンの有効性には、
あまり科学的な根拠はない、
とそう言っても誤りではないように思います。
そして、75歳以上の年齢で開始されるスタチンの適応についても、
糖尿病の合併の可否を含めて、
より慎重かつ個別な検証が必要であることは、
間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(8)  コメント(2)