SSブログ

n-3脂肪酸サプリメントの糖尿病に対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
EPAと糖尿病の予後.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
糖尿病の患者さんに対して、
n-3脂肪酸と呼ばれる青身魚の脂の成分を、
サプリメントとして使用することの、
心血管疾患予防効果についての論文です。

青い魚の油が健康にいい、
という話は、
皆さんもよくお聞きになることだと思います。

魚、特にサバやイワシなどの青身魚には、
EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、
などの多価不飽和脂肪酸と呼ばれる脂質が多く含まれていて、
疫学研究などから、
魚を多く摂る人の方が、
心臓病や脳卒中の発症率が低い、
などの報告があり、
このEPAやDHAが、
動脈硬化の病気の予防や予後改善に、
効果があるのではないか、
という推測があります。
EPAやDHAのことを、
色々な呼び方がありますが、
上記論文ではn-3脂肪酸と呼んでいます。

EPAには中性脂肪を下げ、
血管の内皮障害や炎症の抑制など、
動脈硬化の進展抑制に結び付くような、
多くの作用が実験的には報告されています。

しかし、このEPAやDHAを、
薬やサプリメントとして使用することにより、
他の有効性を確認された薬剤と同じような、
臨床的な効果があるかどうかについては、
まだ意見が割れています。

日本ではEPAやEPAとDHAの合剤が、
薬として使用されていますが、
これは世界的にはかなり特殊で、
通常はサプリメント的な扱いです。

2007年にLancet誌に発表された、
JELISと呼ばれる日本人のみを対象とした、
大規模臨床試験があり、
これは商品名エパデールという、
高純度のEPA製剤を、
コレステロールの高い患者さんに、
通常のコレステロール降下剤に上乗せして使用したところ、
心筋梗塞などの発症が有意に抑えられ、
特に脳卒中の発症は、
相対リスクで20%程度低下した、
という結果でした。

ただ、海外でサプリメントを使用した試験では、
このような明確な心血管疾患予防効果は再現されていません。

以前ブログでも紹介しました。
2018年のJAMA Cardiology誌に掲載されたメタ解析では、
JELISを含むこれまでに施行されたn-3脂肪酸の臨床試験のうち、
対象者が500名以上で1年以上の観察を行なった、
心血管疾患予防についての10の介入試験をまとめて解析した結果として、
観察期間の中央値が4.4年において、
EPAに換算して1日226から1800mgのn-3脂肪酸のサプリメントは、
虚血性心疾患の発症リスクや死亡のリスク、
心血管疾患の発症リスクや死亡のリスクに対して、
有意な影響を与えていませんでした。

問題は個別の病気の患者さんに対するn-3脂肪酸の効果です。

動脈硬化が進行する病気の代表は糖尿病ですが、
これまでの観察研究のデータでは、
これもあまりはっきりした結果が得られていません。

今回の研究はイギリスにおいて、
年齢が40歳以上で顕性の心血管疾患のない糖尿病患者、
トータル15480名を対象者にも分からないようにくじ引きで2つに分け、
一方はn-3脂肪酸を840mg含むカプセルを使用し、
もう一方は偽のサプリメントとしてオリーブオイルのカプセルを使用して、
平均で7.4年間の経過観察を行っています。

その結果、
観察期間中の心血管疾患
(非致死性心筋梗塞と脳卒中、一過性脳虚血発作、
心血管疾患による死亡、脳内出血は除く)は、
n-3脂肪酸群では689名(8.9%)、
偽カプセル群では712名(9.2%)に発生していて、
両群に有意差はありませんでした。
同様に総死亡のリスクにも有意な差はありませんでした。

このように今回の糖尿病の患者さんを対象とした検証においても、
n-3脂肪酸の心血管疾患の予防効果や、生命予後には、
明らかな差は認められませんでした。

いつも問題となることですが、
日本で薬として使用されている純度の高いEPA製剤の効果が、
精度の高い臨床試験として再検証されることが、
実際に動脈硬化の進行予防のために、
臨床で広く使用されている日本においては、
必要不可欠ではないかと思われるのですが、
色々な事情(主にはお金)もあって、
それは実際には難しいことであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0)