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集団平均から有病率は推測可能なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
集団平均と病気との関連.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
集団平均と病気のリスクとの関連についての論文です。

これはある医学系のサイトで、
この論文が紹介されていたのですが、
その解説を読んでもちんぷんかんぷんで、
ほとんど日本語にすらなっていなかったので、
原文を読んでみたものです。
意外に分かりやすい内容でした。

血圧にも体格の指標であるBMIにも基準値が存在しています。
これは多くの疫学データから、
病気のリスクや生命予後などを勘案して決定されたものです。

その一方で病気のあるなしに関わらず、
一般住民を対象として血圧やBMIを測定すると、
通常それは正規分布といって、
ほぼ左右対称の大きな山型を描きます。
こちらをご覧下さい。
正規分布の図.jpg
これが血圧値の正規分布です。

この山の頂上に当たる部分が、
この集団における平均値です。
正規分布の場合にはこれが全ての数値の真ん中である、
中央値に一致しています。
この図には2つの平均値の違うグラフが描かれていますが、
調べる集団が異なればこうした平均値の違いがある訳です。

それではこの平均値の数値から、
何か言えることはないのでしょうか?

世界中の多くの疫学データを解析することで、
それを検証した論文が、
1990年のBritish Medical Journal誌に掲載されています。
それがこちらです。
集団平均のローズ論文.jpg
この論文においては、
ある集団における健康上の連続的な数値が、
ほぼ正規分布のパターンを取るときには、
その集団の平均値が、
その集団における病気の発生率と関連があるのではないか、
という推測の元に、
その検証を行っています。

こちらをご覧下さい。
集団平均と病気との関連の図.jpg
これは上の図が収縮期血圧で、
下がBMIを俎上に挙げたものです。

たとえば上の図で見ると、
横軸がその集団の収縮期血圧の平均値を示し、
縦軸がその集団での高血圧症の有病率を示しています。

これを見ると、
集団平均の血圧が高いほど、
高血圧症の有病率も高いという、
相関関係のあることが分かります。

このように集団の健康指標を測定することで、
ある程度その指標に関わる病気の有病率を、
ある程度推測することが可能となるのです。

これは直感的には、
何となく当たり前のことのようにも思えますが、
実際にそれを証明することは、
結構難しいことなのです。

こうした集団平均値と病気との関連は、
主にその数値が高いことと関連のある病気において、
検討されて来ました。

血圧と高血圧、
BMIと肥満症や肥満に伴う病気など、
いずれも平均値より数値が高い場合の関係です。

それでは、
平均値が低い場合に、
矢張り病気との関連はあるのでしょうか?

今回の研究では世界65カ国の疫学データを活用して、
血液のヘモグロビン値と貧血との関連、
そしてBMI値と病的な低体重や栄養失調との、
関連があるかどうかを検証しています。

その結果、
平均値より高い場合の病気と比較して、
平均値より低い場合の病気の貧血や低体重には、
それほどの明確な相関は認められませんでした。

このように、
正規分布自体は左右対象的なものですが、
同じ正規分布を示していても、
平均値が高ければ病気との関連が示唆されても、
平均値が低い場合の関連は、
それほど明確に推測はされないものであるようです。

BMIに関して言えば、
ある集団でその平均値が高ければ、
それだけ肥満の病気は多いと推測されますが、
平均値が低くても、
それだけ低体重や病的な痩せが多いと、
同じように推測することは出来ないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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