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降圧剤3者併用療法の効果(2018年スリランカの臨床データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高血圧の3者併用療法.png
2018年のJAMA誌に掲載された、
3種類の降圧剤を1錠としたもので、
最初から高血圧の治療を行なう、
という試みについての論文です。

高血圧の薬物治療というのは、
患者さんの状態などからまず1種類の薬からスタートし、
その量を維持量まで増量した上で、
血圧の目標値に達しない時には、
2剤、それで駄目なら3剤と、
段階的に増量をしてゆくのが、
ガイドラインなどで通常推奨されている方法です。

ただ、こうした方法では、
患者さんは薬の数や量が増えることを不安に感じ、
飲み方が変わることにも混乱しますし、
薬が増えるほど支払う医療費の負担も増えるので、
増量や薬の数が増えることにあまり肯定的な感情を持たず、
血圧はまだ高いのに薬を増やすことを拒否したり、
処方されても指示通りには飲まないことが往々にして生じます。

特に医療コストをあまり掛けられない、
発展途上国においては、
この問題はより深刻で、
受診の機会自体はあっても、
治療の継続率は低く、
投薬量も充分ではないので、
目標の血圧には達する比率も低い、
というような事態が指摘をされています。

この問題の1つの解決策として、
3種類の降圧剤(カルシウム拮抗薬、ARB、利尿剤)を1剤にして、
1日1回の内服で、
その低用量と高用量の2種類を作り、
その2種類の剤型のみで、
高血圧の初期治療を行なってしまおう、
という考え方が生まれました。

本来は最初から3種類の薬剤を使用するというのは、
降圧治療の理想から言えばあるべき姿ではないのですが、
発展途上国で医療資源が限られているような場合には、
その方が結果的に効率的なのではないか、
というように考えたのです。

しかし、通常の降圧治療と比較して、
本当にこうした方法でも問題はないのでしょうか?

今回の研究はスリランカにおいて、
通常の治療と最初から3種類の薬剤を同時使用した場合の効果を、
半年間の治療で比較検証しています。

スリランカの11の一般診療をする医療機関の外来で、
血圧が持続的に140/90を超えているか、
もしくは糖尿病か慢性腎臓病があって、
130/80を超えている患者さんで、
医師が安定した状態にあって3者併用療法が可能と判断した場合に、
登録した上でくじ引きで2つの群に分け、
一方は通常の治療を行ない、
もう一方は最初から3者併用療法を施行して、
半年間の経過観察を行ない、
目標である140/90未満、
糖尿病や慢性腎臓病のある場合は130/80未満を、
達成した比率を比較しています。

3者併用療法で使用するのは、
カルシウム拮抗薬アムロジピンの2.5ミリグラムと、
ARBのテルミサルタンの20ミリグラム、
そして利尿剤クロルハリドンの12.5ミリグラムの合剤で、
効果不充分の場合は、
それぞれの量を2倍にした合剤への、
ステップアップも認められています。

その結果、治療半年の時点で、
目標の血圧を達成したのは、
通常治療群で55%であったのに対して、
3者併用治療群では70%で、
3者併用治療群の達成率が、
通常治療群を有意に上回っていました。
両群の有害事象には有意な差はなく、
途中でドロップアウトする頻度にも差はありませんでした。

この研究は主治医の裁量で、
3者併用療法が可能かどうかの振り分けをしているので、
そのバイアスが結果に影響した可能性を、
否定出来ないのですが、
通常ややリスクが高いと思われる、
初期治療からの3剤併用療法が、
意外に有用性が高かった、
という結果は非常に興味深く、
今後の検証の蓄積に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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