バレット食道の予後に対する高用量プロトンポンプ阻害剤の効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のLancet誌に掲載された、
バレット食道という食道の病変に対して、
胃酸の抑制薬とアスピリンの予後改善効果を検証した論文です。
バレット食道の説明のために、
まず胃カメラの画像を見て頂きます。
こちらです。
食道の出口の部分ですが、
胃の粘膜とほぼ同じ色合いの粘膜が、
部分的に食道粘膜に張り出しています。
青い矢印の先は、
胃の縦じわの終わりを示していて、
それより高い位置にも胃の粘膜様の変化があるのが、
異常な所見と言えるのです。
これが「バレット食道」です。
後天的に胃の入り口に近い食道の粘膜が、
あたかも胃の粘膜のように変性したものです。
バレット食道の定義には日本と海外では違いがあり、
海外でも色々な基準が存在して、
必ずしも統一されたものにはなっていません。
食道の全周性の病変があり、
それが3センチ以上の長さになっているものが、
日本における狭義のバレット食道の定義ですが、
そうした病変は実際には日本人には少なく、
多くのバレット食道は、
このように部分的に上へと伸びているものです。
これを日本ではSSBE(short segment Barett`s esophagus)と呼んでいます。
「短いバレット」のような意味合いですね。
それに対して、
狭義のバレット食道は、
LSBE(long segment Barett`s esophagus)と呼んでいます。
ただ、たとえばアメリカでは、
その長さには関わらず、
組織の検査において、
「特殊円柱上皮」という、
特有の変化のある粘膜の組織が証明されたものを、
バレット食道と呼んでいます。
つまり、バレット食道の診断のためには、
組織の検査をすることが必須なのです。
日本ではバレット食道のみのために、
組織の検査を行なうことは少なく、
この点が日米の大きな違いです。
では次を。
これもバレット食道(SSBE)です。
よく見るとバレット上皮の中に、
白っぽい食道の粘膜が島状に残っているのが分かります。
バレット食道の問題は、
そこから食道癌が生じるリスクが高い、
ということです。
ただ、日本とアメリカでは基準が違うので、
その癌の発症リスクについても、
議論のあるところです。
日本において特にSSBEの事例で、
どの程度の発癌のリスクがあるのかについては、
あまり明確なデータはありません。
次にこちらをご覧下さい。
これはバレット食道から生じた、
食道の腺癌の画像です。
こうした事例に時々遭遇するので、
その頻度は明確ではありませんが、
矢張り定期的な検査は必要だと実感します。
この方はかなり進行した状態で発見されたのですが、
そうならないために、
バレット食道を持つ方は、
定期的な胃カメラの検査が、
必須と考えられるのです。
定期的に胃カメラ検査をすることで、
バレット食道に起因する食道腺癌は早期発見が可能ですが、
何らかの方法によって食道癌の予防が可能であれば、
それに越したことはありません。
バレット食道は胃酸の食道への逆流に関連があり、
そのことからは、
プロトンポンプ阻害剤などの胃酸分泌抑制剤が、
バレット食道の予後改善に結び付く可能性が示唆されます。
またアスピリンは腺癌の予防に一定の効果が確認されていて、
この食道腺癌に対しても、
一定の予防効果が期待されます。
ただ、これまでに介入試験のような厳密な方法で、
プロトンポンプ阻害剤やアスピリンのバレット食道の予後への効果が、
検証されたことはありません。
そこで今回の研究では、
イギリスとカナダにおける複数の医療機関において、
18歳以上の2557例のバレット食道の患者さんを対象とし、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで4つの群に分けます。
内訳はプロトンポンプ阻害剤であるエソメプラゾール(商品名ネキシウム)の、
1日80ミリグラムという高用量群と、
ネキシウム1日20ミリグラムという低用量群、
ネキシウムの低用量とアスピリン300ミリグラム(もしくは325ミリグラム)の併用群、
ネキシウムの高用量とアスピリンの併用群の、
4つの群で、
何が選ばれたのか分からないように偽薬も使用されます。
観察期間の中央値は8.9年です。
その結果、
総死亡と食道腺癌の発症、そして高度異形成の発症までの期間は、
低用量のネキシウム継続群と比較すると、
高用量のネキシウム継続群で1.27倍(95%CI: 1.01から1.58)、
有意に延長していました。
これは要するに高用量の方が、
より予防効果に勝っていたことを意味しています。
アスピリンの上乗せ効果については、
低用量のネキシウムとの併用では有意に認められましたが、
高用量のネキシウムとの併用では、
より有用であった傾向はあるものの、
有意な差は得られませんでした。
かなり高用量のネキシウムが、
継続的に使用をされていますが、
低用量と比較して有害事象や副作用に、
特に有意に多いものはありませんでした。
今回のデータから計算すると、
1件の死亡もしくは食道腺癌や高度異形成を予防するのに、
34件のネキシウムの使用と、
43件のアスピリンの使用が必要、
と算出されました。
このようにバレット食道と診断された患者さんに対して、
高用量のプロトンポンプ阻害剤とアスピリンを使用することには、
長期的に一定の改善予後効果が期待されます。
臨床応用にはまだ慎重な検証が必要と思われますが、
今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のLancet誌に掲載された、
バレット食道という食道の病変に対して、
胃酸の抑制薬とアスピリンの予後改善効果を検証した論文です。
バレット食道の説明のために、
まず胃カメラの画像を見て頂きます。
こちらです。
食道の出口の部分ですが、
胃の粘膜とほぼ同じ色合いの粘膜が、
部分的に食道粘膜に張り出しています。
青い矢印の先は、
胃の縦じわの終わりを示していて、
それより高い位置にも胃の粘膜様の変化があるのが、
異常な所見と言えるのです。
これが「バレット食道」です。
後天的に胃の入り口に近い食道の粘膜が、
あたかも胃の粘膜のように変性したものです。
バレット食道の定義には日本と海外では違いがあり、
海外でも色々な基準が存在して、
必ずしも統一されたものにはなっていません。
食道の全周性の病変があり、
それが3センチ以上の長さになっているものが、
日本における狭義のバレット食道の定義ですが、
そうした病変は実際には日本人には少なく、
多くのバレット食道は、
このように部分的に上へと伸びているものです。
これを日本ではSSBE(short segment Barett`s esophagus)と呼んでいます。
「短いバレット」のような意味合いですね。
それに対して、
狭義のバレット食道は、
LSBE(long segment Barett`s esophagus)と呼んでいます。
ただ、たとえばアメリカでは、
その長さには関わらず、
組織の検査において、
「特殊円柱上皮」という、
特有の変化のある粘膜の組織が証明されたものを、
バレット食道と呼んでいます。
つまり、バレット食道の診断のためには、
組織の検査をすることが必須なのです。
日本ではバレット食道のみのために、
組織の検査を行なうことは少なく、
この点が日米の大きな違いです。
では次を。
これもバレット食道(SSBE)です。
よく見るとバレット上皮の中に、
白っぽい食道の粘膜が島状に残っているのが分かります。
バレット食道の問題は、
そこから食道癌が生じるリスクが高い、
ということです。
ただ、日本とアメリカでは基準が違うので、
その癌の発症リスクについても、
議論のあるところです。
日本において特にSSBEの事例で、
どの程度の発癌のリスクがあるのかについては、
あまり明確なデータはありません。
次にこちらをご覧下さい。
これはバレット食道から生じた、
食道の腺癌の画像です。
こうした事例に時々遭遇するので、
その頻度は明確ではありませんが、
矢張り定期的な検査は必要だと実感します。
この方はかなり進行した状態で発見されたのですが、
そうならないために、
バレット食道を持つ方は、
定期的な胃カメラの検査が、
必須と考えられるのです。
定期的に胃カメラ検査をすることで、
バレット食道に起因する食道腺癌は早期発見が可能ですが、
何らかの方法によって食道癌の予防が可能であれば、
それに越したことはありません。
バレット食道は胃酸の食道への逆流に関連があり、
そのことからは、
プロトンポンプ阻害剤などの胃酸分泌抑制剤が、
バレット食道の予後改善に結び付く可能性が示唆されます。
またアスピリンは腺癌の予防に一定の効果が確認されていて、
この食道腺癌に対しても、
一定の予防効果が期待されます。
ただ、これまでに介入試験のような厳密な方法で、
プロトンポンプ阻害剤やアスピリンのバレット食道の予後への効果が、
検証されたことはありません。
そこで今回の研究では、
イギリスとカナダにおける複数の医療機関において、
18歳以上の2557例のバレット食道の患者さんを対象とし、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで4つの群に分けます。
内訳はプロトンポンプ阻害剤であるエソメプラゾール(商品名ネキシウム)の、
1日80ミリグラムという高用量群と、
ネキシウム1日20ミリグラムという低用量群、
ネキシウムの低用量とアスピリン300ミリグラム(もしくは325ミリグラム)の併用群、
ネキシウムの高用量とアスピリンの併用群の、
4つの群で、
何が選ばれたのか分からないように偽薬も使用されます。
観察期間の中央値は8.9年です。
その結果、
総死亡と食道腺癌の発症、そして高度異形成の発症までの期間は、
低用量のネキシウム継続群と比較すると、
高用量のネキシウム継続群で1.27倍(95%CI: 1.01から1.58)、
有意に延長していました。
これは要するに高用量の方が、
より予防効果に勝っていたことを意味しています。
アスピリンの上乗せ効果については、
低用量のネキシウムとの併用では有意に認められましたが、
高用量のネキシウムとの併用では、
より有用であった傾向はあるものの、
有意な差は得られませんでした。
かなり高用量のネキシウムが、
継続的に使用をされていますが、
低用量と比較して有害事象や副作用に、
特に有意に多いものはありませんでした。
今回のデータから計算すると、
1件の死亡もしくは食道腺癌や高度異形成を予防するのに、
34件のネキシウムの使用と、
43件のアスピリンの使用が必要、
と算出されました。
このようにバレット食道と診断された患者さんに対して、
高用量のプロトンポンプ阻害剤とアスピリンを使用することには、
長期的に一定の改善予後効果が期待されます。
臨床応用にはまだ慎重な検証が必要と思われますが、
今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。