アスピリンの有効性と体重との関連について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のLancet誌に掲載された、
アスピリンの使用効果と体重との関連についての論文です。
これは結構ショッキングな結果になっていて、
正直「今更そんなことを言われても…」
というような気分になるのですが、
実際にアスピリンの処方を少なからず行っている医師の1人として、
素通りして済ますという訳にはゆきません。
アスピリンを少量で使用すると、
心筋梗塞や脳卒中の予防に有効性があるというのは、
皆さんもよくご存じかと思います。
この少量というのは通常1日81mgから100mgとなっています。
高用量ではアスピリンの持つ抗血小板作用は、
別個の作用により相殺されてしまうと説明されています。
この用量は世界的にほぼ統一されています。
特に体格や体重には関わりなく、
肥満でも痩せでも同じです。
本当にそれで良いのでしょうか?
この誰でもすぐに思いつくような疑問が、
実はこれまであまりしっかりとは検証をされていませんでした。
そこで今回の研究では、
これまでに心血管疾患の一次予防(まだ発症する前の予防)のために、
アスピリンを使用した臨床試験の個別データを用いて、
アスピリンの使用量と対象者の体重、
そして予防効果との関連を検証しています。
体重については10キロ刻みで階層化し、
アスピリンの使用量は75から100mgの低用量と、
300から325mgもしくは500mg以上の高用量で比較しています。
トータルで117279名の対象者を解析した結果として、
100mg以下のアスピリン服用による心血管疾患の予防効果は、
体重が70kg未満では、
トータルで23%(95%CI: 0.68から0.87)有意なリスクの低下が認められましたが、
体重が70kg以上で解析すると有意な差は認められなくなりました。
体重毎に見るとこの低用量のアスピリンの予防効果は、
体重が50から69kgにおいて、
25%のリスク低下と最も強く認められました。
一方で、
1日300から325mgのアスピリンは、
体重が70Kg以上では21%(95%CI: 0.70から0.90)、
有意に心血管疾患リスクを低下させ、
1日500mgのアスピリンは、
体重が90Kg以上で心血管疾患のリスクを、
55%(95%CI: 0.26から0.79)有意に低下させていました。
より深刻に思えることは、
体重が50Kg未満の体重においては、
1日100mg以下のアスピリンの内服により、
内服しない場合と比較して、
総死亡のリスクが1.52倍(95%CI: 1.04から2.21)と有意に増加していることと、
年齢が70歳以上では、
低用量のアスピリンの使用により3年間の癌発症リスクが、
体重70Kg未満で1.31倍(95%CI: 1.07から1.61)、
女性ではより高く1.44倍(95%CI:1.11から1.87)、
それぞれ有意に増加していたことです。
このようにアスピリンの心血管疾患予防効果は、
実は体格や年齢によって大きな差があり、
体重の少ない高齢者では、
むしろ使用することで予後を悪くすることも、
ないとは言えない、
という深刻でショッキングな結果です。
これは一次予防に限った話で、
これまでのデータの再解析に過ぎないものなので、
まだ確実な知見とは言えませんが、
アスピリンの効果がその用量と血液濃度に依存するものである以上、
それが体格や年齢によって影響を受けること自体は、
理屈に合った話で、
今後早急に検証され、
実臨床に適応されるような知見となることを、
アスピリンを日々患者さんに処方している臨床医の端くれとして、
専門団体などに強く求めたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のLancet誌に掲載された、
アスピリンの使用効果と体重との関連についての論文です。
これは結構ショッキングな結果になっていて、
正直「今更そんなことを言われても…」
というような気分になるのですが、
実際にアスピリンの処方を少なからず行っている医師の1人として、
素通りして済ますという訳にはゆきません。
アスピリンを少量で使用すると、
心筋梗塞や脳卒中の予防に有効性があるというのは、
皆さんもよくご存じかと思います。
この少量というのは通常1日81mgから100mgとなっています。
高用量ではアスピリンの持つ抗血小板作用は、
別個の作用により相殺されてしまうと説明されています。
この用量は世界的にほぼ統一されています。
特に体格や体重には関わりなく、
肥満でも痩せでも同じです。
本当にそれで良いのでしょうか?
この誰でもすぐに思いつくような疑問が、
実はこれまであまりしっかりとは検証をされていませんでした。
そこで今回の研究では、
これまでに心血管疾患の一次予防(まだ発症する前の予防)のために、
アスピリンを使用した臨床試験の個別データを用いて、
アスピリンの使用量と対象者の体重、
そして予防効果との関連を検証しています。
体重については10キロ刻みで階層化し、
アスピリンの使用量は75から100mgの低用量と、
300から325mgもしくは500mg以上の高用量で比較しています。
トータルで117279名の対象者を解析した結果として、
100mg以下のアスピリン服用による心血管疾患の予防効果は、
体重が70kg未満では、
トータルで23%(95%CI: 0.68から0.87)有意なリスクの低下が認められましたが、
体重が70kg以上で解析すると有意な差は認められなくなりました。
体重毎に見るとこの低用量のアスピリンの予防効果は、
体重が50から69kgにおいて、
25%のリスク低下と最も強く認められました。
一方で、
1日300から325mgのアスピリンは、
体重が70Kg以上では21%(95%CI: 0.70から0.90)、
有意に心血管疾患リスクを低下させ、
1日500mgのアスピリンは、
体重が90Kg以上で心血管疾患のリスクを、
55%(95%CI: 0.26から0.79)有意に低下させていました。
より深刻に思えることは、
体重が50Kg未満の体重においては、
1日100mg以下のアスピリンの内服により、
内服しない場合と比較して、
総死亡のリスクが1.52倍(95%CI: 1.04から2.21)と有意に増加していることと、
年齢が70歳以上では、
低用量のアスピリンの使用により3年間の癌発症リスクが、
体重70Kg未満で1.31倍(95%CI: 1.07から1.61)、
女性ではより高く1.44倍(95%CI:1.11から1.87)、
それぞれ有意に増加していたことです。
このようにアスピリンの心血管疾患予防効果は、
実は体格や年齢によって大きな差があり、
体重の少ない高齢者では、
むしろ使用することで予後を悪くすることも、
ないとは言えない、
という深刻でショッキングな結果です。
これは一次予防に限った話で、
これまでのデータの再解析に過ぎないものなので、
まだ確実な知見とは言えませんが、
アスピリンの効果がその用量と血液濃度に依存するものである以上、
それが体格や年齢によって影響を受けること自体は、
理屈に合った話で、
今後早急に検証され、
実臨床に適応されるような知見となることを、
アスピリンを日々患者さんに処方している臨床医の端くれとして、
専門団体などに強く求めたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。