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「カメラを止めるな!」(ネタバレ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カメラを止めるな!.jpg
今年一番の邦画の話題と言えばこの作品、
という感じになっています。

演劇ファンには馴染みの深い、
ENBUゼミナールが製作した、
いわば卒業制作的な自主映画が、
口コミからあれよあれよと大ヒットして、
8月3日からは100館で拡大上演となりました。

アンテナの高い方からお聞きして、
その時点で見ようと思ったのですが、
ネットで予約は取れず、
並ばないと常に完売、という感じであったので、
映画に並ぶような元気もなく、
8月3日の拡大ロードショーの初日に、
トーホーシネマズ新宿で観て来ました。

このシネコンでも最も大きなスクリーンを使用していて、
それがほぼ満席の盛況でした。

これは確かに面白いので、
ご興味のある方はまずは一見されることをお勧めします。

損はありません。

ただ、
映像のクオリティは昔のビデオムービーや、
16ミリの自主映画のレベルなので、
大きな映画館向きの作品ではないのと、
映画マニアと演劇マニア向きの作品なので、
所謂「質の高い映画」や「良い映画」、
「完成度の高い娯楽作品」といったものを期待すると、
失望されるかも知れません。

また、
仕掛けのある作品なので、
何度も見て仕込みの段階で反応したり、
笑ったりするような、
嫌な観客と一緒になると、
不快な思いをすることになるかも知れません。

仕掛けを隠しているような作品ではないのですが、
これはもう何の予備知識もないで観た方が、
絶対に面白いので、
以下少しネタバレめいた感想になりますので、
必ず鑑賞後にお読みください。

事前に読むと後悔します。

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よろしいでしょうか?

それでは続けます。

これはゾンビ映画と見せかけて、
要するに「ショー・マスト・ゴーオン」の、
シチュエーションコメディなんですよね。

普通は演劇の素材で、
日本では三谷幸喜さんが、
このタイプの作品を多く書いていますし、
海外の芝居にもこうしたものは結構あります。
最近ではアガリスクエンターテイメントの作品にも、
ありましたね。
要するに演劇では1つの定番です。

三谷幸喜さんはこうした趣向を映画でもやろうとはしていて、
幾つか作例はあるんですよね。
ただ、正直映画ではあまり成功していませんでした。

一方で映画マニアにはワンカット信仰みたいなものがあって、
要はカットを割らずに、
なるべく長い場面を、
演劇のようにそのまま進行させるのですね。
昔はフィルムの1巻が15分くらいと決まっていたので、
ワンカットの最長は15分くらいで、
ウェルズの「黒い罠」の巻頭のワンカットなどが、
伝説的で有名です。

今回の映画の一番の創意は、
この2つを結び付けて、
ワンカットの生中継映像作品で、
映画の「ショー・マスト・ゴーオン」をやる、
というところにあります。
その素材になっているのが「ゾンビ映画」で、
ゾンビというのは世界に通じる素材でしょ、
それが一番のミソだと思います。
普通のドラマであれば、
ワンカットでも全然いけそうで面白くありませんが、
ゾンビ映画で次々と人が襲われて、
首がちぎれたリ、手が飛んだりして、
死んだ人がまたゾンビになったりするのを、
ワンカットで撮るのは相当ハードルが高そうです。

ネットの感想で、
三谷幸喜さんが悔しがっているだろう、
というようなものがあったのですが、
僕はそうは思わないのですよね。

三谷さんはポリシーとして、
メタフィクションや楽屋落ち的なものは嫌いなのだと思うのです。
今回の映画の成功はそれからゾンビを扱っていることで、
「なんだ、そんなことでいいのか」
「今の観客はそのレベルのものに面白がるのか」
という感じなのではないかと思うんですよね。
三谷さんは元ネタには、
もう少し高級なものを選ぶと思うのですが、
それが意外に受けないというのが、
皮肉に思えなくもありません。

前半のホラーフィルムの部分は、
ウェス・クレイヴンの「鮮血の美学」とか、
「死霊のはらわた」とか、
「死体と遊ぶな子供たち」や、
H.G.ルイスの「血の魔術師」などの諸作などの、
チープなゴア・フィルムのテイストを、
非常にうまく咀嚼していて、
そのざらついた映像の質感を含めて、
こだわりを感じる出来栄えです。

これはこうした映画をある程度観ていないと、
そのこだわりの質が分からないので、
こうした点も今回の映画がマニア向きと思える所以です。

ただ、その一方で主人公の映画監督の一家を描く、
ドラマの部分になると、
演技の質も低く、いかにもチープで、
あそこはもう少しまともにならなかったのかな、
とそれは少し残念な気がします。
ただ、じゃあ、その部分に、
もっと売れてる役者さんを使えば良いのかと言うと、
それでは作品の肝の部分が台無しになる可能性が高いので、
これはこれで良かったのかな、
と思わなくもありません。

この映画では役者さんの演技などは、
とてもプロのレベルではなく、
演出も物凄く稚拙な部分があるのに、
トータルで見るとそのバランスが大成功、
という辺りが奇跡的で、
これはもう同じスタッフが意図的に作ったとしても、
もう同じバランスの作品は、
決して生まれないのではないかと思います。

その意味で、
これは1回性の奇跡であるような気がします。

そんな訳で何故か大ヒットのC級映画ですが、
今だけのお楽しみで、
1年後くらいに見直したら、
もう誰も面白くはなくなっている、
と思えなくもないのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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