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プッチーニ「トスカ」(2018年新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
明日月曜日まで夏期の休診期間となっています。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
トスカ2018.jpg
これももう先月になりますが、
新国立劇場のレパートリーの「トスカ」を、
聴いて来ました。

プッチーニの「トスカ」は、
上演時間も3時間弱と手頃ですし、
物語もドラマチックで分かり易くて、
テンポも早いので、
比較的初心者向けのオペラです。

音楽自体も、
もうミュージカルや映画が始まった時期とかぶる時代なので、
クラシックとは言っても、
映画音楽に近い馴染み深さがあります。
勿論実際には、
映画音楽の方がプッチーニの影響を強く受けて、
成立しているのです。

演出も時代背景とドラマが密接に結びついているので、
オーソドックスなものが多く、
安心して観ることが出来ます。

特にこの新国立劇場のプロダクションは、
あまりに保守的という感じはありますし、
ゼッフィレリ演出に似過ぎている、
という気もするのですが、
非常に豪華かつ緻密に出来ていて、
新国立劇場の演出の中でも、
最も成功したプロダクションであることは、
間違いがありません。

今回の上演は、
タイトルロールのネーグルスタットが、
期待通りの素晴らしい歌唱と演技で、
一部に物足りないところはあったものの、
これまでに聴いた多くのトスカの中でも、
最上位にランクする素敵な舞台でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「人間機械」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日ですが祝日のためクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
人間機械.jpg
これは1時間15分ほどのドキュメンタリーで、
インドの服飾工場の労働の風景と、
労働者と経営者に対するインタビューを、
個性的な映像表現でまとめたものです。

これは宣伝がちょっとずるくて、
前衛的で単なるドキュメンタリーを越えた、
これまでにない映像表現、
というようなニュアンスが強調されているのですが、
実際には無知につけ込む労働搾取を告発する、という、
メッセージ性の強い映画で、
描かれるのはごく一般的な工場の作業風景で、
映像は美しいと言えなくもありませんが、
それほどびっくりするようなものとは言えません。

正直イメージと違い落胆しましたが、
それは地味な社会派ドキュメンタリーを、
無理矢理かつてない映像表現のように売り込んだ、
誇大な宣伝戦略と、
それに臆面もなく協力した、
一部の批評家と称する人達の、
節操のなさにあるだけで、
この映画には何の罪もないのです。

真面目な社会派ドキュメンタリーとして、
お薦めの一本です。

それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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藤田貴大「BOAT」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは夏期の休診に入ります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
Boat.jpg
もう公演は終わっていますが、
マームとジプシーの藤田貴大さんが、
東京芸術劇場と協力して上演する、
マームとジプシー特別公演というような新作の舞台に、
先日足を運びました。

高校生の制服姿の団体が、
1階の客席の3分の2以上を占めていて、
僕は自分が学生だった頃から、
個人ではなく学校で行くこうした行事が、
大嫌いだったので、
これなら貸し切りにしてくれれば良かったのに…
と思いましたが特に事前の連絡などはないので、
仕方がありません。
幕前には大騒ぎだったので危惧したのですが、
観劇態度は極めて真面目でした。

ただ、それでは高校生の鑑賞に、
この舞台が適していたのかと言うと、
その点についてははなはだ疑問です。

内容はかなり抽象性の高いもので、
架空の島が舞台となり、
そこに昔からいる住民と、
新しくボートで流れ着いた人達との間に、
差別やトラブルが生じたり、
悲劇が起こったりしているうちに、
今度は大量のボートが現れて、
島は崩壊に導かれます。

ラストは差別意識のない主人公達が、
島をボートで離れるところで、
物語は終わります。

これだけでもお分かりのように、
島をメタファーにして、
今の日本の状況を、
かなり悲観的に描いたお芝居で、
最後に希望を残した感じはあっても、
それで何かが生まれる訳ではありません。

マームとジプシーのいつもの感じですから、
素舞台に本物のボートが置かれているだけで、
衣装も稽古着的なものです。

そのボートが吊り上げられるのが、
舞台上の最も大きな動きです。

台詞は不自然な棒読が基本ですが、
特徴的なリフレインは今回はあまりなく、
普通のお芝居に近づいている印象でした。

総じて、
昔のアングラ演劇の興隆期に、
一般の方がイメージしていた、
難解で意味不明のお芝居に、
ほぼ近いような、
過去の亡霊が甦ったような作品で、
個人的にはとても受け付けませんでした。

もう少し明るい話が見たいですよね。

それでは今日はこのくらいで。

今日も皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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飲酒量と認知症リスクとの関連について(2018年イギリスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

明日から8月13日(月)までは夏期の休診となります。
ご迷惑をお掛けしますがご了承下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコール量と認知症.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
飲酒量と認知症のリスクに関する疫学データの論文です。

アルコールに厳しいイギリスからの報告で、
その厳しい基準の妥当性を示す結果になっています。

23年という長い観察期間を設けて、
中年期の飲酒の習慣が、
後の認知症の発症に結び付くかどうかを、
時間軸に沿って分析しているのが今回の特徴です。

それではまずいつもの前置きです。

健康のために適切な飲酒量はどのくらいか、
というのは未だ解決はされていない問題です。

大量のお酒を飲んでいれば、
肝臓も悪くなりますし、
心臓病や脳卒中、高血圧などにも、
悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、
全く飲まない人よりも、
一部の病気のリスクは低くなり、
寿命にも良い影響がある、
というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、
日本のデータを元にして、
がんと心血管疾患、総死亡において、
純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、
全く飲まない人よりリスクが低い、
という結果を紹介しています。

その一方で、
2016年のメタ解析の論文によると、
確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、
機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、
1日1.3グラムを超えるアルコールでは、
矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、
というようなデータが紹介されています。

2017年に発表されたイギリスの大規模疫学データでは、
概ね多くの病気において、
全くお酒を飲まない人より、
1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、
その発症リスクは低く、
それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、
というものになっていました。

ただ、喉頭癌、食道癌、乳癌など、
一部の癌はより少ないアルコール量でも、
そのリスクが増加した、
というデータもあります。

これまでのデータを整理すると、
アルコールの摂取量が少なくとも、
ノーリスクとは言えないのですが、
その量が1日換算で20から23グラム未満程度であれば、
大きな健康上の問題は生じない、
と考えて良いように思います。

ただ、アルコールの脳への影響、
と言う点についてはそれほどクリアになっていません。

少量のアルコールは認知症のリスクを低下させた、
という報告がある一方で、
脳画像による同様の検証では、
こうしたアルコールの良い影響は確認されていません。

以前記事にしました2017年のイギリスのデータでは、
登録時の平均年齢が43歳の男女550名を、
アルコール摂取量を聞き取りした上で、
30年間の経過観察を行い、
その前後で脳のMRIを撮って、
その所見の比較も行っています。

その結果…

アルツハイマー型認知症の所見として見られる海馬の萎縮(右側)は、
アルコールの摂取量が多いほどその頻度が高く、
1週間のアルコールの摂取量が8グラム未満と比較して、
112から168グラム未満では3.4倍(95%CI; 1.4から8.1)、
168から240グラム未満では3.6倍(95%CI; 1.4から9.6)、
240グラム以上では5.8倍(95%CI; 1.8から18.6)と、
それぞれ有意に増加していました。

認知機能の検査については、
記憶の再生や、
野菜の名前をなるべく沢山言う、
というような意味流暢性の検査では、
アルコール摂取量との関連は認められませんでしたが、
「A」で始まる言葉をなるべく沢山言う、
というような文字流暢性の検査では、
アルコール摂取量が多いほど、
結果が低下しているという相関が認められました。

ただこの研究ではまだ、
認知症の事例が沢山発症する、
という年齢には至っていないので、
実際に認知症の発症リスクが、
アルコールの摂取量で高まるかどうかは確認されていません。

今回のデータはより大規模なもので、
登録の時点で35から55歳の9087名の男女を、
23年間に渡り経過観察しています。
その結果397名の新規の認知症の発症が認められています。

飲酒量と認知症発症リスクとの関連をみたところ、
1週間に1から14単位(アルコール量で1単位は8グラム)の飲酒と比較して、
14単位(1週間に112グラム)を超える飲酒習慣を、
中年期に持っていた人は、
その後の認知症発症リスクが1.47倍(95%CI: 1.15から1.89)
有意に増加していました。
1週間に14単位以上飲酒をしている人は、
飲酒量が7単位増える毎に認知症リスクは17%増加する、
という推算されています。

この週に112グラムというのは、
1日に換算すると16グラムですから、
日本で適正飲酒量とされる1日23グラム以下より、
かなり少ないということが分かります。

元々2016年のイギリスのガイドラインにおける適正飲酒量は、
1週間に112グラム以下で、
意外なことに日本より厳しいのです。
これがアメリカの男性の適正飲酒量は、
1週間に196グラムとなっています。

イギリス人は毎日パブでビールを飲んでいるようなイメージがありますが、
意外に飲酒に関しては厳格であるようです。
(これは以前は週に168グラムと、
日本でほぼ同一となっていたものが、
少量飲酒のリスクを重視して改訂されたのです)

1週間の飲酒量を基準にするのは、
分かりにくいように思いますが、
イギリスの基準は1週間にワイングラスなら5杯分、
ビール中ジョッキが4杯分、
というように図示されていて、
1日1合くらいと言うより、
この方が分かりやすいというようにも感じます。

少量の飲酒に大きな健康上の害はない、
という常識に現状は大きな変化は起こっていないのですが、
より少量の飲酒でも、
認知症の発症には、
若干の関連がある可能性があります。

従って、
飲酒の楽しみを否定するつもりはありませんが、
健康のためには、
1週間単位でなるべくたしなむ程度にしておくのが、
まずは上策ではないかという気がします。

ただ、こうした飲酒に関してのイギリスのデータは、
初めから結果を決めているような感じがあり、
他の分野でもそうしたことはありますが、
あまり厳密な科学ではないと、
そうした印象を持つこともまた偽らざる気持ちなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アスピリンの効果と消炎鎮痛剤との併用について [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業員の面談などに都内を廻る予定です。

まだ地獄のレセプト作業も夜には待っています。

それでは今日の話題です。

今日は昨日取り上げた低用量アスピリンの仕組みの話を、
まとめておきたいと思います。

要するにアスピリンの基礎知識です。

アスピリンを少量で使用すると、
心筋梗塞や脳卒中の予防に有効性があるというのは、
皆さんもよくご存じかと思います。

アスピリンはそもそも解熱鎮痛剤です。

それで何故動脈硬化の病気の予防になるのでしょうか?

これは抗血小板作用があるからと、
そう説明されています。

血管の内側に損傷が起こると、
その部位には血小板が粘着します。
その血小板がトロンボキサンA2という物質を放出すると、
それによって血小板が沢山集まり、
「血栓」になり易くなります。
またトロンボキサンA2は血管を収縮させるので、
これら2つの作用により、
血管が詰まり易くなり、
脳卒中や心筋梗塞の発作を誘発する、
と考えられています。

この反応は出血を止めるために必要なものですが、
動脈硬化のように慢性に血管の損傷が進行するような病態では、
その進行を進め、悪化の要因になるのです。

そのために、
血小板の働きを、
弱めるような薬が予防のために必要になります。

こうした薬剤の中で、
最も歴史がありまた有効性が確認されているのが、
アスピリンです。

それではアスピリンは、
どのようにして血小板の働きを弱めるのでしょうか?

アスピリンは血小板の中にあって、
トロンボキサンA2の生成に不可欠な、
シクロオキシゲナーゼと言う酵素をアセチル化することで、
その働きをブロックする作用があります。

一旦結合したアスピリンは、
血小板からは離れません。
更には血小板には、
新しいシクロオキシゲナーゼを合成する能力がありません。
血小板には核がないからです。
そのため、この抗血小板作用は、
その結合した血小板に対しては、
ずっと続くのです。

アスピリンを予防目的で常時飲んでいる患者さんでは、
今では飲んだまま検査することが多いと思いますが、
以前は胃カメラなどの検査の前に、
アスピリンを1週間ほど中止することがありました。

これは血小板の寿命が9~12日程度であることから、
多くの血小板が入れ替わることが、
その理由です。

まあ、厳密に言えば、
1週間ではやや短いのです。

アスピリンは解熱鎮痛剤として用いる時には、
1日600mg から1000mg 程度を使用しますが、
通常心筋梗塞の予防には、
1日81mg から100mg という少量を用います。

これは一体何故でしょうか?

実はアスピリンが妨害するシクロオキシゲナーゼは、
血小板だけではなく、
血管の内側の細胞にも存在しています。

通常鎮痛剤として用いる量のアスピリンを使用すると、
血小板のみならず血管のシクロオキシゲナーゼも阻害されます。

すると、この血管の内側の細胞では、
PGI2 という血栓形成を予防する働きのある物質を、
トロンボキサンA2と同じ材料から作っているので、
その善玉のプロスタグランジンの産生も抑えられて、
アスピリンの血栓形成予防効果は、
相殺されてしまうのです。
これを「アスピリンジレンマ」と呼んでいます。

一方で少量のアスピリンを使用すると、
体循環に移行する前に、
その多くが活性を失ってしまうので、
血管のシクロオキシゲナーゼは殆ど阻害しないのです。
それでも体循環に廻る前に、
血小板にはある程度取り込まれるので、
血小板には取り込まれるけれど、
血管のPGI2 の産生は妨害しない、
という都合の良いことが成立するのです。

偶然の試行錯誤の産物とは言え、
非常に面白いことを考えたものですね。

さて、アスピリンはそもそもは、
解熱鎮痛剤で、
イブプロフェンやアセトアミノフェン、
ボルタレンなどと同系統の薬です。

それでは、
他の解熱鎮痛剤には、
アスピリンのような血栓形成抑制効果はあるのでしょうか?

多くの解熱鎮痛剤は、
アスピリンと同様に、
血小板のシクロオキシゲナーゼに結合する働きは持っています。

しかし、その結合は緩く、
すぐに外れてしまうので、
アスピリンのような強い効果は期待し難く、
実際に有意な抗血小板作用は持たない、
とされています。

それでは、アスピリンと他の解熱鎮痛剤を一緒に使用した場合には、
どんなことが起こるのでしょうか?

アスピリンを普段飲んでいる人が、
風邪で熱を出し、
イブプロフェンを飲んだら、
アスピリンの効果は変わるでしょうか?
また、関節炎で普段ボルタレンを飲んでいる人が、
脳卒中の予防のためにアスピリンを飲むことには、
果たして意味があるのでしょうか?

それに関しての論文が、
2001年のNew England Journal of Medicine 誌に掲載されています。

それによると、
ボルタレンやアセトアミノフェンの使用は、
アスピリンの効果にそれほど影響はされませんが、
イブプロフェンに関しては、
1回イブプロフェンを飲んだだけで、
その後に使用するアスピリンの抗血小板作用は、
阻害されてしまいます。

つまり、イブプロフェンを使用すると、
アスピリンの効果はなくなってしまうのです。

この理由は構造的に、
アスピリンの結合部位に、
先にイブプロフェンがくっついてしまうと、
後からアスピリンが結合しようとしても、
結合出来なくなるからだ、
と説明されています。

つまり、アスピリンを普段飲まれている方が、
熱を出したようなケースでは、
イブプロフェンを使用するのは、
あまり適切なことではありません。

今日はアスピリンの効果と使用法の、
あれこれについての話でした。

昨日のトピックにもありましたように、
今後アスピリンの低用量での予防的な使用は、
その用量と体重や年齢との関係を、
見直すような流れになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アスピリンの有効性と体重との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの効果と体格.jpg
2018年のLancet誌に掲載された、
アスピリンの使用効果と体重との関連についての論文です。

これは結構ショッキングな結果になっていて、
正直「今更そんなことを言われても…」
というような気分になるのですが、
実際にアスピリンの処方を少なからず行っている医師の1人として、
素通りして済ますという訳にはゆきません。

アスピリンを少量で使用すると、
心筋梗塞や脳卒中の予防に有効性があるというのは、
皆さんもよくご存じかと思います。

この少量というのは通常1日81mgから100mgとなっています。

高用量ではアスピリンの持つ抗血小板作用は、
別個の作用により相殺されてしまうと説明されています。

この用量は世界的にほぼ統一されています。
特に体格や体重には関わりなく、
肥満でも痩せでも同じです。

本当にそれで良いのでしょうか?

この誰でもすぐに思いつくような疑問が、
実はこれまであまりしっかりとは検証をされていませんでした。

そこで今回の研究では、
これまでに心血管疾患の一次予防(まだ発症する前の予防)のために、
アスピリンを使用した臨床試験の個別データを用いて、
アスピリンの使用量と対象者の体重、
そして予防効果との関連を検証しています。

体重については10キロ刻みで階層化し、
アスピリンの使用量は75から100mgの低用量と、
300から325mgもしくは500mg以上の高用量で比較しています。

トータルで117279名の対象者を解析した結果として、
100mg以下のアスピリン服用による心血管疾患の予防効果は、
体重が70kg未満では、
トータルで23%(95%CI: 0.68から0.87)有意なリスクの低下が認められましたが、
体重が70kg以上で解析すると有意な差は認められなくなりました。

体重毎に見るとこの低用量のアスピリンの予防効果は、
体重が50から69kgにおいて、
25%のリスク低下と最も強く認められました。

一方で、
1日300から325mgのアスピリンは、
体重が70Kg以上では21%(95%CI: 0.70から0.90)、
有意に心血管疾患リスクを低下させ、
1日500mgのアスピリンは、
体重が90Kg以上で心血管疾患のリスクを、
55%(95%CI: 0.26から0.79)有意に低下させていました。

より深刻に思えることは、
体重が50Kg未満の体重においては、
1日100mg以下のアスピリンの内服により、
内服しない場合と比較して、
総死亡のリスクが1.52倍(95%CI: 1.04から2.21)と有意に増加していることと、
年齢が70歳以上では、
低用量のアスピリンの使用により3年間の癌発症リスクが、
体重70Kg未満で1.31倍(95%CI: 1.07から1.61)、
女性ではより高く1.44倍(95%CI:1.11から1.87)、
それぞれ有意に増加していたことです。

このようにアスピリンの心血管疾患予防効果は、
実は体格や年齢によって大きな差があり、
体重の少ない高齢者では、
むしろ使用することで予後を悪くすることも、
ないとは言えない、
という深刻でショッキングな結果です。

これは一次予防に限った話で、
これまでのデータの再解析に過ぎないものなので、
まだ確実な知見とは言えませんが、
アスピリンの効果がその用量と血液濃度に依存するものである以上、
それが体格や年齢によって影響を受けること自体は、
理屈に合った話で、
今後早急に検証され、
実臨床に適応されるような知見となることを、
アスピリンを日々患者さんに処方している臨床医の端くれとして、
専門団体などに強く求めたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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リバーロキサバンの実臨床における効果と安全性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リバーロキサバンのリアルワールドでの効果.jpg
2018年のJournal of the American College of Cardiology誌に掲載された、
リバーロキサバンという抗凝固剤の、
実臨床の世界各地のデータを、
まとめて解析した論文です。

心房細動という非常に頻度の高い不整脈があり、
左心房という部分に血栓が発生しやすくなるため、
脳塞栓というタイプの脳卒中を起こす原因となります。

そのために抗凝固剤という血栓を出来にくくする薬が、
脳卒中の予防のために使用されます。

この目的で広く使用されて来た薬剤がワルファリンです。

ワルファリンの脳卒中予防の有効性は確立されていますが、
ビタミンKの関連する経路を妨害するという性質から、
納豆などビタミンKを多く含む食品の制限が必要で、
他の薬剤との相互作用も非常に多いため、
その効果が不安定になりやすいという欠点があります。

その調節はPT-INRという血液検査の数値を、
概ね2.0から3.0を目標として量の調整がされますが、
微調整は意外に難しく、
数値が低ければ効果が充分発揮されない一方で、
数値が高ければ有害事象としての出血のリスクが増加します。

2010年以降相次いで発売された、
直接作用型抗凝固剤(呼び名は他にもあり)は、
ワルファリンとは別の機序で同等の効果を得られる薬剤で、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、エドキサバン(商品名リクシアナ)が、
現在日本でも使用可能です。

ワルファリンと比較すると薬物相互作用が少なく、
ビタミンKにも影響されないので
食事や併用薬の制限が殆どありません。
また効果が安定しているので使用量の調節も、
殆ど必要ありません。
臨床試験の段階では、
出血系の有害事象もワルファリンより少ないと報告されました。

このように発売時はいいことづくめと思われた新薬ですが、
実際に使用が拡大してみると、
出血系の有害事象は決してワルファリンより少ないとは言えず、
報告によってはむしろ多いというものもありました。
効果は安定していると思われましたが、
腎機能が低下するとその影響を受け、
有害事象が重篤化する傾向も認められました。
有効性についても、
コントロールが良好のワルファリンより優れているということはなく、
薬の値段としては新薬が格段に高いということを考えると、
医療経済的にもどちらを選ぶのが適切かは、
難しい選択になります。

またもう1つの問題は複数の直接作用型抗凝固剤のうち、
どの薬を選択することが、
その効果と安全性の面で最善であるのか、
それともどの薬でもそれほどの差はないのか、
ということです。

2017年の多くの臨床データを複合的に解析した、
ネットワークメタ解析の論文によると、
ワルファリンと比較して特に生命予後や出血系合併症のリスクについては、
直接作用型抗凝固剤の方が優れている可能性が高く、
脳卒中予防効果については、
エドキサバンとリバーロキサバンはやや落ちると見られ、
出血系の合併症が通常用量においてもワルファリンより低いのは、
アピキサバンとエドキサバンと言って良い、
という結果になっていました。

つまり、リバーロキサバンにとっては、
やや分の悪い結論となっています。

これ以外にも、
リバーロキサバンは他の同種の薬よりも、
その予防効果において劣るのではないか、
というものや、
脳出血などの重症の出血のリスクが高いのでは、
というようなデータが発表されていて、
発売当初は1日1回使用という利便性から、
評価が高かったリバーロキサバンですが、
最近ではあまり良い評判がありません。

今回の研究は、
世界各地で実臨床に近い形で行われた、
複数の臨床試験の結果をまとめて解析したもので、
そのアジアやヨーロッパなど、
地域毎の特性も比較されています。

ただ、アジアでは韓国、台湾、香港、フィリピン、シンガポール、
などがエントリーしていますが、
日本は含まれていません。

トータルで11121名の心房細動の患者さんに対して、
リバーロキサバンを年間使用した治療の結果をみたところ、
脳出血などの重症の出血のリスクは、
年間100人当り1.7件(95%CI: 1.5から2.0)で、
低かったのは南アメリカで、
高かったのはヨーロッパ、カナダ、イスラエルでした。

総死亡のリスクは、
年間100人当り1.9件(95%CI: 1.6から2.2)で、
低かったのはヨーロッパで、
高かったのは南アメリカ、中東、アフリカでした。

また脳卒中と全身の血栓症のリスクは、
年間100人当り1.0件(95%CI: 0.8から1.2)で、
最も低いのは南アメリカで高いのは東アジアでした。

この結果は比較がないので分かりにくいのですが、
良くコントロールされたワルファリンや、
他の直接作用型抗凝固剤と遜色のない予防効果があり、
出血系の合併症も低いレベルになっています。
そして、1日1回という用法のために、
飲み忘れが少なく治療の継続もしやすいという利点があります。

今回のデータはリバーロキサバンの有効性と安全性とを、
再確認する性質のものですが、
これまで発表されたデータとの比較など、
その確かさについては、
また更なる検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「カメラを止めるな!」(ネタバレ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カメラを止めるな!.jpg
今年一番の邦画の話題と言えばこの作品、
という感じになっています。

演劇ファンには馴染みの深い、
ENBUゼミナールが製作した、
いわば卒業制作的な自主映画が、
口コミからあれよあれよと大ヒットして、
8月3日からは100館で拡大上演となりました。

アンテナの高い方からお聞きして、
その時点で見ようと思ったのですが、
ネットで予約は取れず、
並ばないと常に完売、という感じであったので、
映画に並ぶような元気もなく、
8月3日の拡大ロードショーの初日に、
トーホーシネマズ新宿で観て来ました。

このシネコンでも最も大きなスクリーンを使用していて、
それがほぼ満席の盛況でした。

これは確かに面白いので、
ご興味のある方はまずは一見されることをお勧めします。

損はありません。

ただ、
映像のクオリティは昔のビデオムービーや、
16ミリの自主映画のレベルなので、
大きな映画館向きの作品ではないのと、
映画マニアと演劇マニア向きの作品なので、
所謂「質の高い映画」や「良い映画」、
「完成度の高い娯楽作品」といったものを期待すると、
失望されるかも知れません。

また、
仕掛けのある作品なので、
何度も見て仕込みの段階で反応したり、
笑ったりするような、
嫌な観客と一緒になると、
不快な思いをすることになるかも知れません。

仕掛けを隠しているような作品ではないのですが、
これはもう何の予備知識もないで観た方が、
絶対に面白いので、
以下少しネタバレめいた感想になりますので、
必ず鑑賞後にお読みください。

事前に読むと後悔します。

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よろしいでしょうか?

それでは続けます。

これはゾンビ映画と見せかけて、
要するに「ショー・マスト・ゴーオン」の、
シチュエーションコメディなんですよね。

普通は演劇の素材で、
日本では三谷幸喜さんが、
このタイプの作品を多く書いていますし、
海外の芝居にもこうしたものは結構あります。
最近ではアガリスクエンターテイメントの作品にも、
ありましたね。
要するに演劇では1つの定番です。

三谷幸喜さんはこうした趣向を映画でもやろうとはしていて、
幾つか作例はあるんですよね。
ただ、正直映画ではあまり成功していませんでした。

一方で映画マニアにはワンカット信仰みたいなものがあって、
要はカットを割らずに、
なるべく長い場面を、
演劇のようにそのまま進行させるのですね。
昔はフィルムの1巻が15分くらいと決まっていたので、
ワンカットの最長は15分くらいで、
ウェルズの「黒い罠」の巻頭のワンカットなどが、
伝説的で有名です。

今回の映画の一番の創意は、
この2つを結び付けて、
ワンカットの生中継映像作品で、
映画の「ショー・マスト・ゴーオン」をやる、
というところにあります。
その素材になっているのが「ゾンビ映画」で、
ゾンビというのは世界に通じる素材でしょ、
それが一番のミソだと思います。
普通のドラマであれば、
ワンカットでも全然いけそうで面白くありませんが、
ゾンビ映画で次々と人が襲われて、
首がちぎれたリ、手が飛んだりして、
死んだ人がまたゾンビになったりするのを、
ワンカットで撮るのは相当ハードルが高そうです。

ネットの感想で、
三谷幸喜さんが悔しがっているだろう、
というようなものがあったのですが、
僕はそうは思わないのですよね。

三谷さんはポリシーとして、
メタフィクションや楽屋落ち的なものは嫌いなのだと思うのです。
今回の映画の成功はそれからゾンビを扱っていることで、
「なんだ、そんなことでいいのか」
「今の観客はそのレベルのものに面白がるのか」
という感じなのではないかと思うんですよね。
三谷さんは元ネタには、
もう少し高級なものを選ぶと思うのですが、
それが意外に受けないというのが、
皮肉に思えなくもありません。

前半のホラーフィルムの部分は、
ウェス・クレイヴンの「鮮血の美学」とか、
「死霊のはらわた」とか、
「死体と遊ぶな子供たち」や、
H.G.ルイスの「血の魔術師」などの諸作などの、
チープなゴア・フィルムのテイストを、
非常にうまく咀嚼していて、
そのざらついた映像の質感を含めて、
こだわりを感じる出来栄えです。

これはこうした映画をある程度観ていないと、
そのこだわりの質が分からないので、
こうした点も今回の映画がマニア向きと思える所以です。

ただ、その一方で主人公の映画監督の一家を描く、
ドラマの部分になると、
演技の質も低く、いかにもチープで、
あそこはもう少しまともにならなかったのかな、
とそれは少し残念な気がします。
ただ、じゃあ、その部分に、
もっと売れてる役者さんを使えば良いのかと言うと、
それでは作品の肝の部分が台無しになる可能性が高いので、
これはこれで良かったのかな、
と思わなくもありません。

この映画では役者さんの演技などは、
とてもプロのレベルではなく、
演出も物凄く稚拙な部分があるのに、
トータルで見るとそのバランスが大成功、
という辺りが奇跡的で、
これはもう同じスタッフが意図的に作ったとしても、
もう同じバランスの作品は、
決して生まれないのではないかと思います。

その意味で、
これは1回性の奇跡であるような気がします。

そんな訳で何故か大ヒットのC級映画ですが、
今だけのお楽しみで、
1年後くらいに見直したら、
もう誰も面白くはなくなっている、
と思えなくもないのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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谷賢一「1961年:夜に昇る太陽」(福島三部作・第一部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも、
石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
1961夜に昇る太陽.jpg
劇団DULL-COLORED POPが、
2年間の緻密な取材を元に、
福島原発事故に至った福島県双葉町の歴史を、
福島三部作として描くシリーズの第一作が、
今こまばアゴラ劇場で上演されています。

これはなかなか気合いの入った作品で、
内容の細部には首肯しかねる部分もあるのですが、
トータルにはとても感心しましたし、
ラストには胸の熱くなるような思いを受け取りました。

双葉町の町長を勤めることになる一家の物語で、
今回上演された第一作は、
双葉町の議会で原発の誘致が決定された、
1961年の出来事が描かれ、
今後上演される第二作は1986年が、
そして第三作では2011年が描かれる予定とのことです。

始まりでは福島に向かう列車の車中で、
東電の誘致担当者の男が、
科学者を志す里帰り途中の東大生と、
故郷と日本の未来についての対話をします。
それがスムースに物語に繋がり象徴的な意味を持つ辺り、
構成が極めて巧みです。

その後は子役を、
その父親や大人になった本人が、
人形劇で二役で演じるという、
児童劇風の趣向が導入されます。

ここは好みが分かれるところで、
演出にメリハリが付いて面白い反面、
もっと抑制的な演出でリアルであっても、
良かったのではないかとも思えます。

子役を芝居で登場させると、
通常は大人が演じますから、
かなり違和感のある感じにはなります。
この演出はそれを回避しているのです。
また、ずっと主役の1人である子供を演じていた黒子が、
ラストでその人物の大人になった姿を、
2011年に演じるというような趣向を見ると、
なるほどという感じはあるのですが、
その一方で人形を投げて笑わしたり、
2役の切り替えをそのまま見せて、
慌てるのをギャグにしたりするのは、
大して面白くもありませんし、
いささかやり過ぎで、
舞台自体の格を下げてしまったと感じました。

物語は東京の大学に行って、
地元と決別するために戻って来た一家の長男を主軸に展開し、
そこではからずも、
原発の誘致における、
決定的な瞬間に立ち会うことになります。
東電の担当者を演じた青年団の古屋隆太さんの見事な演技もあって、
この場面は凄みと迫力がありました。
ただ、締め括りに一家の長老が大学生に向い、
「お前は反対しなかった」
と3回異常に力んで繰り返すのは、
いくら何でもくど過ぎる、
とは感じました。

この台詞がとても重要であることは分かりますが、
真面目に舞台を観ている観客であれば、
それは1回言われれば分かります。
それを執拗に繰り返すのは、
よりテーマを強調しているようで、
却って逆効果ではないかと感じました。
終わりの2回を正面を向き、
観客に対して繰り返すのも、
「お前は何様だよ」
とちょっと感じてしまうのです。
観客に訴えたい熱意は分かりますが、
こうした部分こそ抑制的にした方が、
より観客の心に届くのではないでしょうか?

総じて、
場面のおしりが長く、
対話の台詞がどれも長すぎるのが、
このお芝居の一番の欠点で、
言いたいことが沢山あるのは分かるのですが、
それを敢えて8割くらいにして、
おしりの2割をカットした方が、
観客により感銘を与える作品に、
なったのではないかと思います。
その言外の2割を想像する方が、
最初から全部言われるより、
より心に響き、
忘れがたく心に刻まれるのではないでしょうか?

いずれにしても力感溢れる快作で、
小劇場的な演出と演技の過剰さは、
やや空回りしている感はあるものの、
その緻密な取材にも頭が下がりますし、
純粋に感動する1本となっていました。
そして、何より改めて福島の悲劇について、
一体誰が何処で何を間違ったのかと、
深く考えさせる作品となっていました。

これからの2部、3部も本当に楽しみです。

頑張って下さい。応援しています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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納豆アレルギーとそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
納豆アレルギー.jpg
2004年のJ Allergy Clin Immunol誌に掲載されたレターですが、
納豆による遅発性のアナフィラキシーを、
初めて発表した1例報告です。

症例は36歳の男性で、
原因不明の重症のアレルギー反応である、
アナフィラキシーを繰り返していました。

アナフィラキシーというのは、
通常はその原因となるアレルゲンへの曝露から、
30分以内に生じることが一般的です。
しかし、食物アレルギーにおいては、
ごく稀に急性反応なしに、
数時間以上の時間が経ってから生じることが報告されています。

この事例では、
早朝の目覚める前の時間帯に、
アナフィラキシーの症状が繰り返されていました。
通常はそれを夕食と結びつけて考えるということはしません。
夕食後10から12時間が経っていたからです。

しかし、アナフィラキシーを起こす前日の夕食では、
必ず納豆を食べていたことが分かり、
その関連が疑われるようになりました。

納豆の主成分は大豆ですが、
大豆の抗原に対する特異的IgEの増加は認められず、
皮膚反応も陰性でした。
ところが、納豆自体からの抽出物を使用して、
皮膚反応を施行すると、
今度はアレルギーの陽性反応が認められました。

つまり、大豆には含まれず、
その後の発酵などの行程による生成物が、
アレルゲンであった可能性が高いと思われたのです。

それでは、
何故通常はすぐに起こるアナフィラキシーが、
この納豆アレルギーでは10時間も経ってから起こったのでしょうか?

現状の仮説は次のようなものです。

納豆には特有の粘りけがあり、
これはポリガンマグルタミン酸という粘調成分によるものですが、
このポリガンマグルタミン酸が、
納豆由来のアレルゲンを包み込んで、
薬の徐放剤のように、
ジワジワとアレルギー反応を生じさせるのではないか、
と考えられているのです。

この納豆アレルギーについては、
最近更に興味深い知見があります。

納豆アレルギーの患者さんには、
サーフィンなどのマリンスポーツをしている人が多く、
その原因としてクラゲによる刺傷が、
影響しているという仮説があります。

これはどういうことかと言うと、
クラゲの触手内で、
納豆の粘液成分に似たポリガンマグルタミン酸が産生され、
その抗原に反応することが前段階となり、
次に納豆を食べた時に、
アナフィラキシーが誘導されると想定されるのです。

この考えでは、
納豆アレルギーの抗原は、
ポリガンマグルタミン酸の構造の一部にあって、
それがゆっくり体内で分解されることにより、
遅発性のアナフィラキシーを引き起こすのでは、
というメカニズムが想定されています。

この現象は大変興味深いものですが、
実際には納豆はほぼ日本のみの食品なので、
海外での研究はない、ということと、
日本においても一部の研究グループのみで、
報告されているので、
現状そのメカニズムも抗原の正体も、
まだ1つの仮説に過ぎない、
という点には注意が必要です。

今後のより幅広い検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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