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皮膚呼吸は存在しないのか? [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日は雑談です。

ネットを遊覧していたら、
専門家らしき方が、
「人間に皮膚呼吸は存在しない」と、
断定的にコメントをされていたので、
いやいやそんなことはないのではないかしら、
と思い少し調べてみました。

調べると他にもエッセイなどで、
「昔金粉ショーで皮膚呼吸が出来なくなり死亡した」
というような話がまことしやかに言われているけれど、
それは全くの非科学的な話で、
人間はミミズではないので肺呼吸だけで、
皮膚呼吸は一切していない、
というこれも断定的な記載が、
幾つかあるのが見つかりました。

本当でしょうか?

人間が肺呼吸を主体として、
ガス交換を行っている生物であることは間違いがありません。
ただ、ミミズは皮膚呼吸のみを行う生物ですし、
は虫類や両生類は皮膚呼吸と肺呼吸とを併用しており、
哺乳動物においても、
皮膚でのガス交換(すなわち皮膚呼吸)が、
一定の比率では行われていることは、
文献的に多くの記載があります。

要するに、
人間が皮膚呼吸を主体にしている、
と言えば勿論誤りで、
金粉ショーで死亡したとしても、
その死因が皮膚呼吸の障害である、
とすることは勿論誤りですが、
皮膚呼吸を全くしていない、
というのもまた、
かなり考えづらい事項であるように思われます。

そこで文献的に検索してみると、
人間がどの程度皮膚呼吸を行っているかの研究は、
主に1930年代から50年代に掛けて行われています。

良く引用されるその代表的な文献がこちらです。
人間の皮膚呼吸.jpg
1957年のPhysilo. Rev.誌の論文ですが、
ここでは全呼吸の1から2%で皮膚で行われている、
という記載があります。

また次のような論文もあります。
人間の皮膚呼吸2.jpg
the Journal of Investigative Dermatology誌の、
同じ1957年の論文ですが、
ここでは人間の皮膚を用いた実験において、
安静時に人間が呼吸するうちの、
表皮で4%、真皮で3%の酸素を消費し、
ガス交換を行っている、
という結論になっています。

これは結構皮膚呼吸の比率が大きい結果ですが、
概ね教科書的な記載としては、
最初の文献にある1から2%という数値が採用されているようです。

ただしこれは大人の場合で、
角質層が未発達である出生から間近の赤ちゃんでは、
より多くの皮膚呼吸が行われていることを、
示唆する報告があります。
極小未熟児においては、
皮膚呼吸のみで血液中の酸素分圧が、
35mmHg以上増加した、
というちょっとビックリするような報告もあります。

つまり、状況によっては、
人間においても皮膚呼吸が少なからず全身状態に影響する、
という可能性もあるのです。

面白いですね。

このように人間でも皮膚呼吸の能力はあって、
勿論肺呼吸主体の生物ですから、
大人におけるその関与はわずかですが、
赤ちゃんなどではその影響が、
人間においても意外に大きいことが報告されているのです。

今日は人間の皮膚呼吸の誤解についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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