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軽症脳卒中に対するt-PA製剤とアスピリンの効果比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルテプラーゼとアスピリン.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された解説記事ですが、
軽症の脳梗塞に対する治療薬の効果を、
アスピリンと比較して検証した論文についての解説です。

脳梗塞は最終的に脳内の結果に血栓が詰まって、
脳の一部に血液が流れなくなるために、
脳の細胞が死んでしまうという病気で、
脳卒中の1つです。

原因としては、
脳の血管の動脈硬化が進行して起こるものもありますし、
心房細動などの原因により、
別の場所から飛んできた血の塊(血栓)が、
血管を詰まらせて起こることもあります。

急性期の脳梗塞の治療の進歩において、
現時点で最大のトピックは、
静脈からrt-PA(アルテプラーゼ)という血栓溶解剤を、
注射して詰まった血栓を溶かしてしまう。
という血栓溶解療法の開始です。

アメリカでは1996年に適応されましたが、
日本で保険適応として施行が可能となったのは、
2005年の10月のことです。
色々と理由はあったのですが、
如何にも遅すぎる決定で、
「失われた10年」という言い方がされることもあります。

この血栓溶解療法は非常に有用性の高い治療で、
それまで回復が困難とされたような患者さんが、
劇的に回復されるというケースが多く報告されました。

ただ、この治療は全身的に出血の合併症を伴うので、
その適応は有効性のあるケースに限定されます。

脳出血を起こすリスクが高いような患者さんや、
血糖や血圧が非常に不安定であるようなケース、
前回の脳梗塞から3ヶ月以内などのケースでは適応となりません。

そして、発症から時間が経った血栓は溶解が難しく、
出血の合併症も多くなることから、
この治療は脳梗塞の症状の発症から、
4.5時間以内(発売当初は3時間以内)に治療を開始することが、
適応の要件となっています。

rt-PAによる血栓溶解療法により、
多くの患者さんの予後が改善したのですが、
その一方で問題点も浮上するようになりました。

現状のガイドラインにおいては、
臨床症状の程度には関わらず、
t-PAは適応となっています。
しかし、軽症の脳梗塞においては、
t-PAの治療を行っても、
元々の予後が良いので、
それほどの効果は期待を出来ません。
その一方で、出血系の合併症は、
軽症例でも同じように起こります。
そのために現行のガイドラインにおいても、
軽症の脳梗塞は慎重投与と記載されていますが、
その具体的な線引きは明らかではありません。

そこでPRISMSと呼ばれた臨床試験が行われ、
その結果が2018年のJAMA誌に公表されました。

症状が軽症(NIHSSスコアが0から5点)で、
発症から3時間以内に治療が可能な虚血性脳血管障害患者を、
多施設で登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はt-PA製剤のアルテプラーゼを使用し、
もう一方は代わりにアスピリンを使用して、
治療開始後90日の時点での予後を比較検証しています。
アルテプラーゼは体重1キロ当り0.9ミリグラムを使用し、
アスピリンは325ミリグラムを使用しています。
どちらが選ばれたか分からないように、
偽の薬と偽の注射が使用されています。

その結果、
治療開始後90日の時点での症状には、
アスピリン群とt-PA群との間で、
明確な違いは認められませんでした。
その一方で頭蓋内出血はアスピリン群では0であった一方で、
t-PA群では3.2%に認められました。

このように、
軽症の虚血性脳血管障害では、
t-PAがアスピリンに勝るという根拠は乏しく、
今後t-PAの適応について、
より厳密な議論が必要となるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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