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BMIと体脂肪量と死亡リスクとの関連について(身体組成からの検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMIと脂肪組成の論文.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
身体の脂肪組成とBMIから見た、
内臓脂肪と生命予後との関連についての論文です。

BMIというのはキログラムで表示した体重の数値を、
メートルで表示した身長で2回割り算して得られる数字で、
この数値が25以上であると過体重と判断され、
世界的にも30を超える状態は肥満と診断されます。

一般住民や心血管疾患の既往のない集団での疫学データにおいては、
BMIが20から24.9の間が最も死亡リスクが低く、
25を超えると総死亡のリスクも、
心血管疾患の発症リスクもいずれも増加に転じます。

しかし、その一方で心血管疾患を持つ患者さんの集団では、
BMIが20から24.9より高い、過体重や軽度の肥満の方が、
死亡リスクが低いという、
かなり意外な結果が複数報告されています。

これをBMIパラドックスと呼ぶこともあります。

何故、心血管疾患の患者さんでは、
体重が重い方が予後が良いのでしょうか?

以前ご紹介した論文では、
もう心筋梗塞などを発症したような状態においては、
内臓脂肪がある程度あった方が、
生命予後には良い影響があるのではないか、
という推論になっていました。

ただ、BMIが同じ数値であっても、
脂肪や筋肉の組成には差がある筈で、
それを測定すればまた別の結果が出るのではないか、
という推測もまた成り立つように思います。

今回の研究は医療関係者の男性の、
大規模な疫学データを活用して、
身体計測から体脂肪量や除脂肪体重を推計し、
平均で21.4年という長期の観察期間における、
死亡リスクとの関連を検証しています。

対象者は登録の時点で40から75歳の38006例で、
そのうちの12356名が観察期間中に死亡しています。

その結果、
総死亡のリスクは推定の脂肪量が21キロまでは、
有意な変化はなく、
それを超えると脂肪量が多いほど、
リスクは増加していました。
一方で筋肉量などを反映する除脂肪体重は、
それが56キロまでは多いほど総死亡のリスクは低下し、
それを超えると総死亡リスクは増加に転じていました。
BMIについて見ると、
これまでのデータとほぼ一致して、
25くらいを超えると総死亡リスクは増加していました。

その結果を図示したものがこちらになります。
BMIと死亡リスクと体脂肪量.jpg
一番上のAのグラフでは、
推計の脂肪量と総死亡リスクとの関係を見ています。
これを見るとほぼ線形に、
脂肪量が多いほど総死亡のリスクは増加しています。

その一方でBのグラフは、
除脂肪体重と総死亡のリスクとの関連を示していますが、
こちらは56キロくらいまでは、
増加するほど総死亡のリスクは低下し、
それを超えるとリスクは増加に転じています。

一番下のCのグラフは、
BMIと総死亡のリスクとの関係で、
これはお馴染みのU型のグラフになっています。

要するにBMIと総死亡との関係は、
内臓脂肪の量によって決まっているのではなく、
脂肪量自体は多いほどリスクは増加するのですが、
筋肉などの量の変化により、
総死亡のリスクが変化しているのではないか、
という結果になっているのです。

死亡の原因別に見てみると、
心血管疾患による死亡と癌による死亡は、
除脂肪体重が多くても少なくても増加しましたが、
呼吸器疾患による死亡のみは、
除脂肪体重が多いほどリスクが低下していました。

このようにBMIと死亡リスクとの関連が、
内臓脂肪によるものではなく、
むしろ筋肉量と関連しているという結果は大変興味深く、
今後肥満と健康との関連についても、
新たな考え方の端緒になる可能性を秘めているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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