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「パンク侍、斬られて候」(2018年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
パンク侍.jpg
町田康さんのぶっ飛んだ時代小説を、
宮藤官九郎さんが脚本を書き、
石井岳龍さんが監督した映画版が、
今ロードショー公開されています。

これは原作は僕くらいの世代的には、
筒井康隆さんの焼き直し的な感じのものなんですよね。
ただ、筒井さんの作品は今読むと矢張りとても古めかしくて、
何と言うのかな、
個人の自我がとことん肥大化して、
大衆とマスメディアという化け物が全てを支配して、
高度に情報化され退廃化した社会を、
ある意味予言したような作品群であった訳ですが、
今は実際に筒井さんが妄想する100倍くらい凄まじく、
そうした世の中になってしまっているので、
「今さらそんな当たり前のことを言われても…」
という気分にどうしてもなってしまうのです。

少し前に筒井さんの作品を読み直してみて、
昔はゲラゲラと腹がよじれるくらいに笑えたのに、
全然ただの現実を描いているだけなので、
ちっとも笑えないことに愕然としたことがあります。

その点町田さんのこの作品は、
筒井さんの世界を現代にフィットするように、
巧みに読み替えたような感じがあって、
オリジナルとは到底思えないものの、
まずは面白く読むことが出来ます。

ヘンテコな新興宗教は「ドグラマグラ」を意識したもので、
それほどの新味はありませんが、
後半猿回しから猿が舞台の前面に登場する辺りの不気味さは、
なかなかのもので、
ラストで世界を終わらせてしまう辺りに、
町田さんのある種の覚悟を感じる思いがあります。

ただ、ハチャメチャなこの原作を、
実写で映画化するのは相当ハードルが高そうに思われるところ、
脚本のクドカンはほぼ原作のままに台本を作り、
石井岳龍監督もほぼ原作の通りにイメージを尊重して、
愚直なまでに原作をリスペクトした一作に仕上げています。

正直相当感心しました。

石井監督はカルトもアクションも、
独自の拘りがあるのだと思いますが、
前作の「蜜のあわれ」もなかなかの美意識に裏打ちされていて、
見応えがありましたし、
今回の作品でも、
ビジュアルの統一感がなかなかに素晴らしく、
魅力的なキャストの大芝居を、
130分に過不足なく綺麗にまとめ上げた手腕は、
これも凡手ではありません。

原作を読まれないで映画を観られた方は、
時代劇なのに時代考証無視のカタカナ交じりの台詞や、
寒いギャグや自我の肥大した若者同士のじゃれ合いを、
クドカンの趣向だと思われたかも知れませんが、
実はほぼほぼ原作そのままの台詞なのです。

唯一の不満はクライマックスが、
やや拙いCGまみれであることと、
レイティングをG(制限なし)にするために、
人間や猿がバンバン爆発するという残酷シーンを、
抽象的な処理で逃げていることです。
ただ、猿をリアルに爆発させるのは、
動物愛護的に叱られてしまうのだと思いますし、
興行的な観点から、
レイティングは避けるという事情があったとは推察されます。
でも、これはやらないとこの作品を映像化する意味が、
あまりなくなるという気がしますから、
ちょっと残念ではありました。
ただ、転んでもただでは起きないというのか、
原作の人間と猿の爆発を花火にして、
石井輝男さんの「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」のオマージュにしている、
という辺りなど、
マニア心をくすぐるような感じがあります。

いずれにしてもこの空中分解必死の企画を、
このレベルでまとめ上げたことは、
控えめに言っても賞賛に値する力技で、
僕は大好きな作品です。

考え抜かれたキャスティングが成功していて、
役者は皆抜群に良いのですが、
染谷将太さんの狂気と、
豊川悦司さんの愛らしい悪党ぶりは、
中でも繰り返し見たくなる至芸でした。

あまり評判は良くないのですが、
個人的にはこれまでに観た今年の日本映画の中では、
「万引き家族」と共に最も優れた作品だと、
大真面目に思っています。

どちらも間違いなく今僕達が生きているこの地獄さながらの世界を、
想像力を駆使して描ききった傑作なのです。

皆さんも是非。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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