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メトホルミンの妊娠中の安全性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メトホルミンの妊娠中の安全性.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
最も世界的に評価の高い糖尿病治療薬の、
妊娠中の安全性についての論文です。

メトホルミン(商品名メトグルコなど)は、
インスリン感受性を改善して血糖値を低下させる薬で、
2型糖尿病の第一選択の治療薬として、
その評価は世界的に確立しています。

ただ、妊娠されている女性の使用については、
まだ議論のあるところです。

メトホルミンは胎盤を移行する性質があり、
大量の薬剤を使用した動物実験においては、
催奇形性が認められています。
ただ、常用量の使用による催奇形性については、
人間、動物問わずに実証はされていません。
妊娠中の女性はメトホルミンの副作用である乳酸アシドーシスを、
起こしやすいのではないか、という報告もあります。

このため、現行の日本の添付文書においては、
妊娠および授乳中のメトホルミンの使用は、
禁忌の扱いとなっています。
つまり、どんな理由があっても使用は出来ません。

しかし、上記文献の記載によれば、
イギリスにおいては、
2008年以降妊娠糖尿病の患者さんや、
2型糖尿病の患者さんで、
そのメリットがリスクを上回る場合には、
その使用が認められています。

メトホルミンはまた多囊胞性卵胞という病気においては、
そのインスリン感受性改善作用を期待して、
妊娠を希望する女性にも使用されています。

実際問題として、
メトホルミンを使用している患者さんが、
妊娠する可能性は非常に高い訳ですから、
妊娠中はいかなる理由があろうと、
その使用を中止するという考え方には無理があります。

メトホルミンの妊娠中の使用についての、
これまでに報告された3つのメタ解析の論文では、
いずれも未使用と比較して、
明確な胎児奇形の増加は認められなかった、
という結果になっています。

一方で2018年に392名の妊娠女性への調査結果では、
糖尿病におけるメトホルミンの使用においてのみ、
有意な胎児奇形の増加が認められています。

このように、
メトホルミンの妊娠中の影響については、
まだ確実と言える根拠が存在していません。

今回の研究はヨーロッパ11カ国の胎児先天異常のデータを活用して、
50167件の先天異常発症事例と、
妊娠初期のメトホルミンの使用との関連を検証しています。

その結果、
先天異常をトータルで見ると、
妊娠初期のメトホルミンの使用と、
胎児の先天異常の発症率との間には、
明確な関連は認められませんでした。

個別の先天異常について見ると、
肺動脈弁閉鎖症のみに弱い相関が認められました。

このようにメトホルミンの妊娠中の使用については、
先天異常の関連ではそれほどのリスクはない、
というのが現状の認識と考えて良いようで、
まだ確定的なものではありませんが、
日本の現状の「禁忌」という扱いも、
今後は見直される必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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