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アルツハイマー型認知症とヘルペスウイルス感染との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘルペスウイルスと認知症.jpg
2018年のNeuron誌に掲載された、
殆どの人が小児期に感染するウイルスと、
アルツハイマー型認知症との関連についての論文です。

ヘルペスウイルス(herpesvirus )は、
正20面体の特徴的な構造を持つ、
DNAウイルスです。
哺乳類はそれぞれ固有のヘルペスウイルスに感染し、
鳥や魚も、
それぞれ固有のヘルペスウイルスに感染します。

ヘルペスウイルスの一番の特徴は、
一度感染すると、決して完全には消えてなくならない、
ということです。
結核菌と同じように、
人間の免疫の力は、
このウイルスを身体から完全に追い出すことは出来ないのです。
初感染で暴れまわったウイルスは、
免疫の防衛軍の手によって、
降伏し、もう悪さをしないことを誓うのですが、
だからと言って、完全に改心した訳ではなく、
少数ながら身を潜めて、
再び暴れまわる時を、
密かに窺っているのです。
これは概ね、免疫の防衛軍が、
その力を弱めた時に起こります。
これをヘルペスウイルスの再活性化、と言います。
ヘルペスの不思議さは、
初感染と再活性化の時の症状とが、
大きく違っていることです。

人間に感染するヘルペスウイルスは現在、
8種類が知られています。
これは見付かった順番に、
HSV1からHSV8という番号が付いています。

この中にはサイトメガロウイルス(HSV4)や、
EBウイルス(HSV5)のように、
別個に名前の付いているものもあります。

さて、通常は一時的な症状で自然に改善し、
感染自体は残存して時に再発を繰り返すことはあっても、
健康を大きく脅かすような事態にはならない、
ヘルペスウイルスの感染ですが、
ウイルスの遺伝子が長く体内に存在することが、
身体の遺伝子にも影響を与えて、
慢性の病気の原因になるのでは、
という考え方もあります。

今回の研究では、
アルツハイマー型認知症の発症に、
ウイルスの感染が関連しているのではないか、
という想定の元に、
亡くなったアルツハイマー型認知症の患者さんの脳を解析し、
そこに認められるウイルス遺伝子を検出したところ、
ヘルペスウイルス群のうち6Aと7というタイプのウイルス遺伝子が、
明確に増加を示していて、
アルツハイマー型認知症のないコントロールでは、
そうした傾向はないことが確認されました。

また、アルツハイマー型認知症の病因とされる、
βアミロイドという異常タンパクの蓄積に関連する、
遺伝子との関連を調べたところ、
βアミロイドに関連する遺伝子の変化と、
脳内に認められるウイルス遺伝子量との間にも、
関連のあることが確認されました。

要するにヘルペスウイルスの脳への持続感染に伴い、
βアミロイドの沈着に影響を与える、
身体の遺伝子の発現などが変化し、
それが認知症の発症につながっているという可能性が示唆されたのです。

ヘルペスウイルスのうちHSV6やHSV7というのは、
お子さんの突発性発疹などの原因ウイルスですから、
殆どの人が小児期に感染を受けていて、
その遺伝子量がなぜ個別に違っているのか、
という点を考えると、
単純に感染が原因とも言い切れないという気がしますが、
アルツハイマー型認知症の原因に繋がる新たな視点として、
今後の知見の蓄積を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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