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アルコール依存症の脳内メカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコール依存症のメカニズム.jpg
2018年のScience誌に掲載された、
アルコール依存症の脳内メカニズムを検証した、
ネズミの実験の論文です。

アルコール依存症というのは、
「大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態」
と厚労省のサイトには記載をされています。

その原因は多量飲酒ですが、
同じように多くのアルコールを飲んでいても、
全ての人が依存症になるという訳ではありません。

多量飲酒によって依存症になりやすい体質のようなものが、
あることは間違いがなさそうです。

それは一体どのようなものなのでしょうか?

この点については厚労省のサイトを見ても、
遺伝子がどうであるとか、性格的傾向がどうであるとか、
少し書いてはあるのですが、
あまり説得力のある記載ではありません。
この部分についてはどうもあまり明確なことが、
分かってはいないようです。

今回の研究はその点を明らかにする目的で、
ネズミに甘い液体とアルコールとを交互に飲ませ、
それから今度はアルコールか甘い液体かを、
ネズミに選ばせるようにして、
10週間というネズミの実験としては長い観察期間をおき、
ネズミの行動を観察しています。

本来はネズミは甘い物を好む筈なので、
多くのネズミはアルコールより甘い液体を選びましたが、
15%のネズミはアルコールの方を選ぶようになりました。

これはつまり、
大量飲酒の習慣のある人が、
アルコール依存症になるのと良く似た現象と、
考えることが出来ます。
本来より大事なものより、
アルコールの方を選ぶという性質がある、
ということを意味しているからです。

このアルコールを好むネズミの脳の遺伝子発現を調べたところ、
情動に関わる扁桃体という部分で、
抑制系の神経伝達物質であるGABAの濃度を調節する、
GABAトランスポーターのGAT-3というタイプの、
機能の低下が認められました。

このGAT-3の活性低下がアルコール依存症の原因と考え、
その遺伝子発現を抑える処置を行うと、
アルコールを選ぶ行動を取る確率が、
明確に増加しました。

死亡したアルコール依存症の患者さんの脳を調べてところ、
そうでない死亡者の脳と比較して、
例数は少ないものの、
GAT-3関連の遺伝子の発現の低下が認められました。

こうしたタイプの医学誌の論文では、
人間のデータはおまけ程度のものなので、
ほぼネズミの実験の知見ではあるのですが、
扁桃体のGABAトランスポーターの機能低下により、
アルコール依存症が生じるという知見は非常に興味深く、
今後本当に人間の依存症においても、
そうしたメカニズムが存在するものなのか、
研究の進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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