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原発性胆汁性胆管炎へのベザフィブレートの上乗せ効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PBCの治療.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
原発性胆汁性胆管炎という胆道の病気の、
新しい治療の効果についての論文です。

原発性胆汁性胆管炎という病気があります。
これは自己免疫疾患の一種で、
肝臓の中の小さな胆管に、
リンパ球系の炎症が進行性に起こり、
肝硬変や肝不全に移行することもある、
という難病の1つです。

以前は原発性胆汁性肝硬変(PBC)と呼ばれていましたが、
元々小さな胆管に起こる病気で、
肝硬変になる方は比率的には少ないので、
2015年に国際的な取り決めにより、
原発性胆汁性胆管炎という病名に変更となりました。
ただ、難病指定されている関係もあり、
日本ではまだ原発性胆汁性肝硬変という病名も使用されています。

この病気の根本的な治療は未だありませんが、
1991年にウルソデオキシコール酸(商品名ウルソなど)という胆汁酸の一種に、
この病気による検査値を改善する効果のあることが発表されました。
臨床報告自体は1980年代よりあり、
それが精度の高い臨床試験により確認されたのです。
New England…誌に載ったその文献がこちらです。
PBCへのウルソの効果.jpg
文献によれば2年間のウルソの使用(体重kg当たり13から15ミリグラム)により、
偽薬と比較して病状や検査値にはトータルな改善が認められました。

その後も同様の研究結果が複数報告され、
ウルソデオキシコール酸は原発性胆汁性胆管炎の、
標準治療となりました。

ただし、病気の性質上、
肝硬変に以降する患者さんが明確に減ったり、
生命予後が明確に改善した、
というような結果は殆ど得られませんでした。
また、4割の患者さんでは、
この治療による充分な反応は認められませんでした。

つまり、ウルソデオキシコール酸の治療が、
不充分な場合の別の治療が必要なのです。

その1つの候補として開発され、
アメリカでは2016年に採用されているのがオベチコール酸です。 

胆汁酸は脂肪の消化吸収を助ける作用を持つ物質ですが、
最近の研究により、細胞核の核内受容体である、
FXRという受容体に結合して、
様々な細胞応答を行なう、
という別個の作用も持っています。

このFXRを強く活性化する胆汁酸として誘導された物質が、
オベチコール酸です。

ウルソデオキシコール酸の原発性胆汁性胆管炎に対する効果も、
その一部はFXRを介したものと想定されていますから、
オベチコール酸はより高い有効性が想定されるのです。
そして、既に非アルコール性脂肪肝炎においても、
一定の有効性が確認されています。

2016年のNew England…誌に掲載された、
オベチコール酸の第三相臨床試験においては、
ウルソデオキシコール酸で効果の不充分か副作用などのために使用が困難な、
原発性胆汁性胆管炎の患者さん217名を、
患者さんにも主治医にも分からないように3つの群に分け、
第1のグループは1日10ミリグラムのオベチコール酸を使用し、
第2のグループは1日5ミリから10ミリグラムのオベチコール酸を使用し、
第3のグループは偽薬を、
ウルソを使用していればそれに上乗せの形で、
12ヶ月の継続使用を行なっています。
全体の93%ではウルソが使用されていました。

比較のポイントは、
ALPという数値が最低でも治療前から15%低下して、
正常上限の1.67倍未満となり、
総ビリルビンが正常となることを有効としています。

治療により有効と判定されたのは、
オベチコール酸5から10ミリグラム群では46%で、
10ミリグラム群では47%であったのに対して、
偽薬では10%に留まっていました。
非侵襲的な肝臓の線維化の指標には、
3群間で有意な差は認められませんでした。

有害事象ではかゆみはオベチコール酸の使用で頻度が高く、
重篤な有害事象もオベチコール酸の使用で高かったのですが、
心不全や肝不全に伴う症状が多く、
あまりオベチコール酸の使用と、
因果関係が想定されるものはありませんでした。

この臨床試験では、
確かに一定の上乗せ効果がオベチコール酸には認められています。

ただ、実際には有効であったのは半数以下に留まっていて、
関連は明確ではないとは言え、
全体に有害事象が多くなっている、
という点にも注意が必要な結果でした。

この薬は日本においても導入が検討されましたが、
2018年2月の大日本住友製薬のプレスリリースによると、
その開発は中止されたようです。
そのプレスリリースがこちらです。
オベチコール酸.jpg
どういう事情かは分かりませんが、
少し残念な気がします。

さて、このオベチコール酸以外に、
ウルソデオキシコール酸の効果が不充分な場合に、
その上乗せとして検討されている薬が、
PPAR作動薬で、
現在中性脂肪の降下剤として使用されている、
ベザフィブレートです。

今回の第3相臨床試験では、
ウルソデオキシコール酸による治療効果が不充分であった、
原発性胆汁性胆管炎の患者さん100例を、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで50例ずつの2群に分け、
一方はウルソデオキシコール酸に上乗せして、
ベザフィブレート1日400mgと使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
24ヶ月の治療を継続し、その効果を比較しています。

ウルソデオキシコール酸は、
体重1キロ当り13から15mgが使用されています。
その6ヶ月以上の治療を行っても、
血液のALPやALTという肝機能の数値が、
正常上限の1.5倍を超えて上昇しているか、
総ビリルビン濃度が異常値であることが、
対象者の条件となっています。
ただし、総ビリルビン濃度が3mg/dLを超える場合は除外されています。

その結果、
治療終了の時点で全ての肝機能の数値が正常な比率は、
ベザフィブレート群が31%であったのに対して、
偽薬では0%で、ベザフィブレートの治療により、
明確な治療効果が認められました。
血液のALPの正常化率のみで見ると、
偽薬では2%に対してベザフィブレート群では67%で、
肝臓の繊維化の指標についても、
有意な改善効果が認められました。
有害事象としては筋肉痛や腎機能の低下が、
治療群では有意に高くなっていました。

このように完全に数値が正常化したのは3割ですが、
3分の2以上の対象者で治療効果は認められ、
ベザフィブレートというこれまで使用経験の多い安価な薬で、
明確な治療効果の得られた意義は大きく、
日本でも使用可能な薬であることも考えると、
今後の進捗を期待して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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