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高齢者の海馬神経細胞の再生とその性質 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
ちょっと別件の仕事があります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ヒポカンパスの神経再生.jpg
2018年のCell Stem Cell誌に掲載された、
海馬神経細胞の成人以降の神経再生について、
年齢との比較を行っている論文です。

僕が大学で教わった時には、
脳の神経細胞というのは、
10代からせいぜい20代前半くらいがピークで、
その後は神経細胞はどんどん減ってゆき、
決して増えることはない、
というのが常識でした。

この考えは、
脳の大部分の神経細胞については、
今でもほぼ正しいのですが、
脳の海馬と呼ばれる部分については、
そうではないことが1990年代の後半以降、
相次いで報告されています。

海馬においては中年期以降においても、
神経細胞の再生や新たな神経ネットワークの構築が、
部分的なものであれ行われている可能性が高いのです。
興味深いことにこれは猿やネズミの実験では証明されておらず、
ほぼ人間のみの特徴と思われています。

ただ、勿論正常な老化は、
海馬においても進行していることは、
臨床的には間違いのない事実ですから、
海馬のどのような機能が正常な老化で低下するのか、
そうした点の検証が重要です。

今回の研究では、
脳疾患の既往がなく、
脳以外の原因により死亡した、
14から79歳の28人の脳を解剖し、
海馬の神経細胞の状態を検証しています。

その結果、
海馬の神経再生の証拠と思われる、
神経細胞に分化する前の前駆細胞や、分化途上の細胞が、
年齢に関わらず認められ、
海馬の容積自体も、
健康な老化においては年齢で差が見られないことが確認されました。

その一方で高齢者の脳では、
若年層と比較して血管新生や静止期の前駆細胞のプールは少なく、
神経可塑性も低下していることも確認されました。

つまり、
海馬における神経再生に繋がる潜在的な力は、
高齢になっても低下はあまりせず残存していますが、
実際の再生能力は低下が認められていて、
これがこの部位の自然な老化の本質であるように考えられます。

従って、
今後低下する部分を賦活するような治療に結び付けば、
脳の若返りという夢も、
決して単なる夢ではなくなる日が来るかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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