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DPP4阻害剤と炎症性腸疾患リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
DPP4阻害剤と炎症性腸疾患.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
今最も広く使用されている糖尿病の飲み薬と、
炎症性腸疾患との関連についての論文です。

DPP4阻害剤はインクレチン関連薬と呼ばれる薬の1つで、
DPP4というインクレチンを分解する酵素を妨害することにより、
結果として血糖降下作用のある、
インクレチンの血液濃度を高める作用のある薬です。

血糖降下作用はマイルドで、
低血糖を起こしにくいという利点があり、
2型糖尿病の治療薬として、
日本では今最も多く使用されている薬だと思います。
高齢者でも使用しやすいというのも利点です。

ただ、この薬の問題点は、
DPP4という酵素は、
インクレチンのみの代謝に関わっている訳ではなく、
他の多くの細胞機能にも少なからず影響を与えているので、
それが別個の問題を引き起こすという可能性が、
完全には否定されていない、
ということです。

そこで1つ危惧されているのは、
DPP4と難病でもある炎症性腸疾患との関連です。

動物実験においては、
DPP4阻害剤による治療が、
炎症性腸疾患の病勢を和らげたという報告があります。
その一方で臨床的な知見としては、
炎症性腸疾患の患者さんの血液では、
DPP4 の濃度が低下しており、
その低下の程度と炎症の強さとの間にも、
関連が認められたという報告も複数存在しています。

ただ、実際の患者さんにおいて、
DPP4阻害剤の使用と炎症性腸疾患の発症リスクとの間に、
関連があるかどうかを検証した疫学データは、
これまでに殆どありませんでした。

そこで今回の研究では、
イギリスのプライマリケアのデータベースを活用して、
DPP4阻害剤の2型糖尿病の患者さんに対する継続処方と、
その後の炎症性腸疾患の発症リスクとの関連を検証しています。
18歳以上の141170名の糖尿病の患者さんのデータを解析した、
非常に大規模な疫学研究です。

その結果、
トータルで208件の炎症性腸疾患が診断され、
年間10万人当たり37.7件という発症率になっています。
そして、このうちDPP4阻害剤を使用している患者さんの発症率は、
年間10万人当たり53.4件であったのに対して、
それ以外の糖尿病治療薬を使用している患者さんでは34.5件となっていて、
DPP4阻害剤の使用により、
炎症性腸疾患の発症リスクは1.75倍
(95%CI: 1.22から2.49)有意に高くなっていました。

このリスクの増加は、
DPP4阻害剤の使用期間が長いほどより高く、
継続期間が4から5年で、
2.90倍(95%CI; 1.31 から6.41)と最も高くなり、
4年以上の使用では有意な増加は認められなくなっていました。

このように、
かなりばらつきはあるデータで、
本当にDPP4阻害剤が原因となって、
炎症性腸疾患のリスクが増加しているかどうかは、
断定的に言うことは出来ませんが、
今後より厳密な検証が必要な事項ではあると思いますし、
DPP4阻害剤の長期使用時には、
そうしたリスクについても充分留意する必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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