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原発性アルドステロン症の治療による予後(イタリア臨床データの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
PAの予後と心房細動.jpg
2018年のHypertension誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の治療と、
その予後の差についての論文です。

原発性アルドステロン症というのは、
副腎の腺腫もしくは過形成によって、
水や塩分を身体に保持する役割のある、
アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されて、
それにより血圧が上昇し、
血液のカリウム濃度が低下するという病気です。

以前は稀な病気と考えられていましたが、
最近では高血圧の患者さんに、
簡単なスクリーニングの血液検査が、
各種のガイドラインで推奨されるようになり、
実際には多くの患者さんがいることが分かって来ました。

原発性アルドステロン症の病態が明らかになるにつれ、
通常の本態性高血圧症と比較して、
その生命予後や心血管疾患のリスクなどが、
より悪いのではないか、
というデータが複数報告されるようになりました。

ただ、データの多くはカルテを後からまとめたようなもので、
患者さんを登録して長期間経過をみたようなものは、
殆どありません。

原発性アルドステロン症の治療は、
片側の腺腫であれば手術による治療が、
両側の過形成であればアルドステロン拮抗薬などの薬物療法が、
通常は行われています。
しかし、この治療により、
患者さんの予後が改善するかどうかについても、
そのデータは限られたものしかありません。

今回の臨床データはイタリアで行われた、
高血圧症における原発性アルドステロン症の頻度と、
その予後を検証した、
PAPY研究という臨床データを解析したもので、
通常の本態性高血圧と原発性アルドステロン症の、
長期間の治療による予後の差を比較しています。

対象となっているのは1125名の高血圧の患者さんで、
中間値で11.8年という長期の経過観察が行われ、
最終的に解析が可能であったのはそのうちの1001名でした。
その内訳は本態性高血圧として投薬治療の行われた894名と、
原発性アルドステロン症で手術が行われた41名、
そして過形成との判断で薬物治療が行われた66名です。
ほぼ11%が原発性アルドステロン症の患者さんだった、
ということになります。

治療を行なった本態性高血圧の患者さんと比較して、
血圧の数値は補正した上で、
原発性アルドステロン症の患者さんでは、
生命予後は悪い傾向を認めましたが、
有意な差はついていません。

心血管疾患の中で明確な差が付いたのは心臓細動のリスクで、
投薬治療を継続した原発性アルドステロン症の患者さんは、
本態性高血圧と副腎の手術後の患者さんより、
1.82倍(95%Ci: 1.08から3.08)
有意に心房細動の発症リスクが増加していました。
手術治療をした原発性アルドステロン症の患者さんでは、
そうしたリスクの増加は認められませんでした。

今回のデータは元々原発性アルドステロン症の、
高血圧の患者さんの中での有病率を見たものなので、
実際のこの病気の患者さんの数自体はそう多くはなく、
事例にバイアスがあるという可能性も否定は出来ません。
心房細動のリスク以外にはあまり差がなかったようなので、
本当にそれが治療の差によるものなのか、
判断はまだ難しいところだと思います。

ただ、中間値で10年を超える経過観察が行われたデータは、
この分野ではあまり例がなく、
原発性アルドステロン症を治療してアルドステロン値を正常化することにより、
将来的な不整脈のリスクを低下させる可能性を示したものとして、
意義の大きな結果であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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せん妄の治療に安全な薬は何か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リスパダールと非定型精神病薬の比較.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
せん妄の治療に使用する薬の安全性を比較した論文です。

せん妄状態というのは意識障害の一種で、
典型的なものは集中治療室で患者さんが突然暴れだしたり、
認知症の患者さんが、
夜中に混乱して騒ぎ出すような状態のことを指しています。

こうした時には所謂安定剤はあまり効果はなく、
むしろせん妄を助長することもあるので、
抗精神病薬と呼ばれるタイプの薬が、
使用されることが通常です。

この目的で多く使用されて来た薬の代表が、
ハロペリドール(商品名セレネースなど)です。

ハロペリドールはせん妄のコントロールに、
有用性の高い薬剤ですが、
その一方で錐体外路症状や不整脈の誘発作用など、
副作用や有害事象の多い薬でもあります。

そこで非定型精神病薬と呼ばれる薬が開発されました。
非定型精神病薬はオランザピン(ジプレキサ)やクエチアピン(セロクエル)、
アリピプラゾール(エビリファイ)などがその代表で、
錐体外路症状が少ないことが特徴です。

このためにせん妄状態の治療においても、
ハロペリドールのような古いタイプの抗精神病薬より、
非定型精神病薬が第一選択として使用される流れになっています。

ところが…

せん妄の治療などにおいて、
ハロペリドールより非定型精神病薬がより安全である、
という根拠はそれほど確かなものではありません。
せん妄や認知症に対する古いタイプの抗精神病薬の使用が、
患者さんの生命予後に悪影響を与えるというのは、
ほぼ間違いのない事実ですが、
それと比較して生命予後の改善に非定型精神病薬が結び付いた、
というようなデータはあまり精度の高いものがありません。
そのため、アメリカのFDAは定型と非定型の区別なく、
認知症へのこうした薬剤使用のリスクを警告しています。

古いタイプの抗精神病薬と比較した時の非定型精神病薬の安全性は、
あまり明確なものではないのです。

今回の研究はアメリカの複数の医療機関において、
心筋梗塞の急性期の入院中に、
せん妄などのために古いタイプの抗精神病薬である、
ハロペリドールを使用した場合と、
非定型精神病薬である、
オランザピン、クエチアピン、リスペリドンを使用した場合を、
比較検証したものです。
6578名の抗精神病薬が使用された患者さんのうち、
1688名はハロペリドールが使用され、
4910名は非定型精神病薬が使用されていました。

患者さんの背景などを補正して比較したところ、
非定型精神病薬と比較して、
ハロペリドールの使用により、
使用7日間の死亡リスクは、
1.50倍(95%CI; 1.14 から1.96)有意に増加していました。
具体的には非定型精神病薬の使用時に、
患者さん100人1日当たり1.1名の死亡があったのに対して、
ハロペリドールの使用時には1.7名と増加していました。

ただ、この死亡リスクの増加は、
治療開始4日目でピークとなり、
5日目以降では有意な差はなくなっていました。

このように若干の差が、
入院時のせん妄に対する両者の薬剤では認められましたが、
ハロペリドールの使用期間は、
非定型精神病薬と比較して短く済んでいるので、
明確にハロペリドールのリスクが高いとも言い切れず、
現状では両者の薬剤とも、
心臓病の患者さんには一定のリスクがある、
というように考えておくのが良いように思います。

ただ、臨床の現場においては、
こうした薬剤の使用が必要となることもまた、
稀なことではないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「悪人」(台本・演出合津直枝) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

朝からレセプト作業をしていて、
午後は上野の「ローエングリン」に参戦する予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
悪人.jpg
吉田修一さん原作の「悪人」を、
合津直枝さんが朗読形式に近い2人芝居に構成し、
美波さんと中村蒼さんが出演した舞台に足を運びました。

「悪人」は原作も読みましたし、
2010年の映画版も観ました。

原作は群像劇のような色彩が強くて、
映画ではヒロインとなっている、
深津絵里さんが演じる光代は、
原作では半ばくらいにようやく登場します。

ただ、映画版はそれを妻夫木聡さん演じる祐一と、
深津絵里さんの逃避行にかなり絞って描いていて、
映画としてはそれが成功していたと思います。

原作を読んだ時は全くそうは思いませんでしたが、
映画を観た時にはつかこうへいの「熱海殺人事件」との相似を感じました。

また深津絵里さんが抜群だったので、
印象としては他が消えてしまったという感じがありました。

今回の舞台は美波さんが光代を演じ、
中村蒼さんが祐一を演じる2人芝居で、
背後にモニュメント的なセメントの塔がある以外は、
セットは何もなく、
光代と祐一の出会いから物語は始まって、
祐一の独白として殺人の顛末は語られ、
ラストは他の関係者が祐一と光代に宛てた手紙を、
交互に読むという形で終わります。

その手紙の中に、
「あの人は悪人だったんですよね」
という原作でも映画でも決めになる台詞が入り、
映画ではカットされていた、
光代がバスジャックされるバスに直前で乗らなかった、
という話や、
祐一が付き合った風俗嬢に、
お弁当を作る話などが入っています。

中村蒼さんは原作に合ったビジュアルと雰囲気で、
映画の妻夫木さんより祐一という役には、
合っているという感じがしました。
ただ、抑えた芝居で終わってしまうので、
もっと演劇的な見せ場があると良かったのに、
と言うようには感じました。

一方の美波さんは情緒的な熱演で、
なかなか良い芝居だったと思います。
ただ、正直魅力という意味では、
映画の深津絵里さんにはかないませんでした。

演出はシンプルな「文学と演劇の間くらいの舞台」
という趣向だと思うので、
その意味では悪くなかったと思います。

ただ、この物語は充分「熱海殺人事件」として成立するので、
もっと爆発的な感じがあっても良いし、
もっと演劇に大きく振れても良かったのではないか、
というように感じました。

祐一が光代の首を絞めるところで、
もっと大々的に泣かせの長台詞を入れて、
最後絶叫調になって音効をガンガン盛り上げても、
おかしくはないと思いますし、
そこまでしなくても、
もっと演劇にして欲しかったな、
というのが正直な思いでした。

これは2人芝居のシリーズのようですが、
ちょっとタレントさんのお稽古的な感じになっていて、
それを超えようという熱意を、
あまり感じない企画であることは少し残念でした。

ただ、原作はリスペクトされていて、
変な改変などはないので、
その意味では原作のファンには、
嫌な思いはさせずに、
思い出を反芻出来るような作品にはなっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごしください。

石原がお送りしました。
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劇団☆新感線「修羅天魔~髑髏城の七人 Season極」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が診療を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
修羅天魔.jpg
晴海市場前のIHIステージアラウンド東京で、
劇団☆新幹線の新作公演に足を運びました。

昨年から1年以上にわたって、
「髑髏城の七人」の複数のバージョンが、
多彩なキャストで上演されていますが、
花、鳥、風、月という4つのパターンが終了した後で、
「極」として新たにほぼ新作と言って良い作品が作られ、
今上演が行われています。

この「極」の後は、
これも旧作の「メタルマクベス」がまた、
幾つかのパターンで上演を繰り返すことになるようです。

この客席が回転するというキャパ2000人の大劇場は、
通常にはない広角の舞台と、
舞台を横にスライドさせる代わりに、
客席が動くことによって、
スムースな舞台転換が可能となる点に特徴があります。

ただ、キャパの割にかなり舞台は遠い感じとなって、
臨場感は乏しくなってしまうことと、
舞台の奥行があまり取れないので、
平面的な印象になってしまうという、
欠点もまたあるように思います。

今回で開幕以来5つ目の演出となり、
僕はそのうちの「花」と「風」と「極」という、
3パターンを観たことになりますが、
基本的な舞台セットの構造は、
変わっていなかったので、
今のところ集客は好調のようですが、
お客さんが一巡してからどのくらい戻って来るのかは、
ちょっと微妙な感じもします。

今回の舞台は天海祐希さんと古田新太さんの、
がっぷり4つの共演が売り物で、
天海祐希さんの堂々たる座長芝居などは、
矢張り素晴らしいとは思うのですが、
正直2人以外のキャストは大分小粒な感じは否めません。
かつての新感線は毎回オールスターキャスト、
という感じが売りであったのですが、
今回のようにバージョンを変えつつのロングラン、
ということになると、
公演毎に集客の目玉となるキャストを揃え、
それがあまり重ならないように調整するので、
どうしても層は薄い感じの座組になるのが苦しいところです。

この「髑髏城の七人」は面白い芝居だと思いますが、
ここまで沢山のパターンが上演されると、
もう何が何やら分からないという感じもあります。

基本的にはシリアスな物語構造なのですが、
敵の天魔王は強そうなのに、
その部下はおバカなキャラばかりというのが、
いつもどうも違和感があります。
徳川と天魔王の部隊の激突、
というような趣向にしては、
それぞれの人数は10人もいないくらいなので、
この劇場を埋めるという感じにはならず、
どうしても隙間風が吹くような戦闘シーンになる、
というのが切ないところです。

一度くらいは100人超くらいのエキストラを使って、
大々的な活劇を見せて欲しいと思いますが、
無理なのでしょうか。

さて、今回の「修羅天魔」は天海祐希の極楽大夫が主役で、
剣の活劇ではなく銃の名手であるという点や、
天魔王が信長の影武者であるだけではなく、
信長自身かも知れないということから、
本能寺以前の場面もあるという点、
ラストに天魔王が家康の本陣に斬り込む、
という場面が用意されている点などが、
これまでのシリーズとはだいぶ様相を異にしていて、
ストーリーもよりシリアスになっています。

従って、これはこれで面白いのですが、
シリアスさが前面に立つ分、
本物の信長かも知れない天魔王の部下が、
コミカルなおバカキャラ揃い、
というのがバランスを欠いていました。

極楽大夫が遠方から銃で天魔王を狙う場面を、
非常に広角の横長に見せる趣向など、
回転劇場ならではの面白い趣向もありましたが、
総じて消化不良の部分も多く、
この作品の決定版というより、
1つの変奏曲という感じの作品になっていました。

劇団☆新幹線の奮闘には本当に頭が下がりますが、
この劇場を使い続けることが本当に新感線にとって良いことなのか、
ただ疲弊してしまうだけではないのか、
ちょっと危惧を覚えるような思いもあったのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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DPP4阻害剤と炎症性腸疾患リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
DPP4阻害剤と炎症性腸疾患.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
今最も広く使用されている糖尿病の飲み薬と、
炎症性腸疾患との関連についての論文です。

DPP4阻害剤はインクレチン関連薬と呼ばれる薬の1つで、
DPP4というインクレチンを分解する酵素を妨害することにより、
結果として血糖降下作用のある、
インクレチンの血液濃度を高める作用のある薬です。

血糖降下作用はマイルドで、
低血糖を起こしにくいという利点があり、
2型糖尿病の治療薬として、
日本では今最も多く使用されている薬だと思います。
高齢者でも使用しやすいというのも利点です。

ただ、この薬の問題点は、
DPP4という酵素は、
インクレチンのみの代謝に関わっている訳ではなく、
他の多くの細胞機能にも少なからず影響を与えているので、
それが別個の問題を引き起こすという可能性が、
完全には否定されていない、
ということです。

そこで1つ危惧されているのは、
DPP4と難病でもある炎症性腸疾患との関連です。

動物実験においては、
DPP4阻害剤による治療が、
炎症性腸疾患の病勢を和らげたという報告があります。
その一方で臨床的な知見としては、
炎症性腸疾患の患者さんの血液では、
DPP4 の濃度が低下しており、
その低下の程度と炎症の強さとの間にも、
関連が認められたという報告も複数存在しています。

ただ、実際の患者さんにおいて、
DPP4阻害剤の使用と炎症性腸疾患の発症リスクとの間に、
関連があるかどうかを検証した疫学データは、
これまでに殆どありませんでした。

そこで今回の研究では、
イギリスのプライマリケアのデータベースを活用して、
DPP4阻害剤の2型糖尿病の患者さんに対する継続処方と、
その後の炎症性腸疾患の発症リスクとの関連を検証しています。
18歳以上の141170名の糖尿病の患者さんのデータを解析した、
非常に大規模な疫学研究です。

その結果、
トータルで208件の炎症性腸疾患が診断され、
年間10万人当たり37.7件という発症率になっています。
そして、このうちDPP4阻害剤を使用している患者さんの発症率は、
年間10万人当たり53.4件であったのに対して、
それ以外の糖尿病治療薬を使用している患者さんでは34.5件となっていて、
DPP4阻害剤の使用により、
炎症性腸疾患の発症リスクは1.75倍
(95%CI: 1.22から2.49)有意に高くなっていました。

このリスクの増加は、
DPP4阻害剤の使用期間が長いほどより高く、
継続期間が4から5年で、
2.90倍(95%CI; 1.31 から6.41)と最も高くなり、
4年以上の使用では有意な増加は認められなくなっていました。

このように、
かなりばらつきはあるデータで、
本当にDPP4阻害剤が原因となって、
炎症性腸疾患のリスクが増加しているかどうかは、
断定的に言うことは出来ませんが、
今後より厳密な検証が必要な事項ではあると思いますし、
DPP4阻害剤の長期使用時には、
そうしたリスクについても充分留意する必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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中年期の運動の心不全予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心不全に対する運動の効果.jpg
2018年のCirculation誌に掲載された、
中年以降の運動習慣が、
その後の心機能に与える影響を検証した論文です。

40から50代の時期において、
事務仕事などで殆ど運動をしないことが、
その後の心機能の低下に結び付き、
心不全のリスクとなることは、
多くの疫学データからほぼ明らかな事実です。

この場合に生じやすい心臓機能の変化は、
左室の拡張能の低下です。

左室というのは、
心臓のポンプ機能の中心として、
全身に血液を送り出す働きを持っていますが、
その機能は大きく、
縮む力(収縮機能)と広がる力(拡張機能)とに分けられます。

心臓の働きが低下する心不全は、
進行すればその2つの機能のいずれもが低下しますが、
その初期の段階においては、
収縮機能のみがもっぱら低下する場合と、
拡張機能のみがもっぱら低下する場合とに分けられます。

拡張能の低下は収縮能の低下よりも、
簡単に測定することが難しいのですが、
加齢や糖尿病などで発生する心不全は、
その多くが拡張能の低下から始まると考えられています。

僕自身も大学の医局時代に、
心エコーの拡張能の指標を測定して、
糖尿病の状態やコントロールとの関連を、
調べるような臨床試験をしていたことがあります。

さて、運動には、
心機能の低下を予防するような、
効果があることが知られています。

それは、中年以降からの運動でも、
有効なものなのでしょうか?

今回の研究はその点にフォーカスを絞ったもので、
運動習慣のない45から64歳の健康成人61名を対象として、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方は運動プログラムを定期的に行ない、
もう一方はそのままの生活を継続して、
2年間の効果を比較検証しています。

運動はその時期により時間は強度は異なりますが、
最大心拍数の95%に達するインターバルトレーニングを含み、
週に5、6時間は運動する結構ハードな内容です。

その結果、
運動群ではコントロール群と比較して、
最大酸素摂取量が増加すると共に、
心臓の拡張機能の改善が認められました。
勿論コントロール群ではそうした改善は認められませんでした。

このように、
40代以降からの運動が、
心機能の改善に繋がり心不全を予防する、
という知見は非常に興味深く、
勿論身体に無理を掛けないように慎重な対応は必要ですが、
運動の効能は今後より大きく注目されることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第31回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
31回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
4月21日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「最新版過敏性腸症候群の基礎知識」です。

過敏性腸症候群は心と身体の狭間で発生する病気の代表で、
以前は原因の不明なお腹の不調として、
患者さんがたらいまわしになることが多かったように思います。

ただ、最近は1つの病気としての地位は確立し、
大病院に専門外来まで開かれています。

しかし、それでは患者さんの症状に対する苦しみが、
解消したのかと言うと、
決してそうは言えないようにも思います。

適応の薬の幾つかが処方されれば、
それで終わりというような診療が実際には多く、
「それでは効果がない」と訴えでも、
スルーされるか、
これ以外の方法はない、と、
逆切れされるようなことも多いと思われるからです。

もとより過敏性腸症候群と呼ばれていても、
それが単独の病気ということではないので、
問題はその病態をどのように分類し、
その原因に合わせた治療に結び付けるのか、
と言う点にあるように思います。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。
今回はいつもより少しマニアックな領域に、
踏み込んだお話が出来ればと考えています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
4月19日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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早期胃癌治療後のピロリ除菌の効果(韓国の介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ピロリ除菌の胃癌切除後の効果.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
早期胃癌の内視鏡切除後に、
ピロリ菌の除菌治療をした場合の有効性についての論文です。

噴門部以外の胃癌の90%は、
ピロリ菌の感染が原因と考えられています。

ピロリ菌の感染が持続することにより、
胃の粘膜は萎縮し、
腸上皮化成と呼ばれるような状態となると、
そこから高率に胃癌が発生します。

ピロリ菌の除菌を行なうことにより、
胃癌のリスクはトータルで35%は減らせることが、
これまでの臨床データをまとめて解析した論文で報告されています。

ただ、ある程度萎縮性胃炎が進行した状態であっても、
ピロリ菌の除菌にコストに見合うだけの有効性があるのか、
と言う点についてはまだ見解は分かれています。

2008年のLancet誌に報告された有名な日本のデータでは、
腸上皮化成を来したような高齢の萎縮性胃炎の患者さんでも、
除菌治療をすることによりその後の胃癌のリスクは、
65%低下したという結果になっています。
ただ、その後台湾で得られた臨床データでは、
高度の萎縮性胃炎の患者さんでは、
ピロリ菌の除菌による胃癌の予防効果は確認されていません。

今回の研究は韓国の国立癌センター的施設における、
単独施設のものですが、
ピロリ菌感染に伴い発症した早期癌を内視鏡切除した患者さんを、
クジ引きで2つの群に分け、
一方はピロリ菌の除菌治療を行ない、
もう一方は偽薬による治療を行なって、
それを患者さんにも主治医にも伝えないという、
この分野ではこれまでにあまりない、
厳密な方法による臨床試験を行なっているものです。

396名の患者さんが登録され、
中間値で5.9年の観察期間中に、
治療後1年以降に診断された新たな胃癌は、
ピロリ菌除菌群では7.2%であったのに対して、
偽薬群では13.4%で、
除菌治療はその後の胃癌の発症リスクを、
50%(95%CI: 0.26から0.94)有意に低下させていました。

組織学的検討を行なったサブ解析では、
萎縮性胃炎の改善は、
偽薬群では15.0%でしたが、
治療群では48.4%に認められました。

このように比較的萎縮が進行した胃粘膜であっても、
ピロリ菌の除菌を施行することにより、
その後の胃癌の発症は5割抑制されていて、
除菌の適切なタイミングは未だ確定したものはありませんが、
少なくとも早期胃癌の術後での除菌治療は、
有効な治療であると考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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運動が歯周病を改善する? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
歯周病と運動の効果.jpg
2018年のTherapeutics and Clinical Risk Management誌に掲載された、
運動や食事などの生活改善が、
歯周病に与える影響についての論文です。
筑波大学の歯科口腔外科教室の研修者らによる日本の研究成果です。

歯医者さんに掛かる病気の代表は、
虫歯と歯槽膿漏(歯周炎)です。

この2つでは何となく虫歯の方が主体で、
虫歯が悪くなると、
歯肉炎などを伴う、というように考えがちですが、
実際には虫歯より遥かに怖いのが歯周炎で、
しかもこの2つの病気はその原因が異なります。

虫歯はグラム陽性通性嫌気性菌の感染症ですが、
歯周炎はグラム陰性嫌気性菌の感染症です。

虫歯は歯垢のコントロールにより予防が可能ですが、
歯周炎は原因も明確でない上に、
慢性化すると治療も決定打がなく、
歯を失うことになる可能性は、
歯周炎の方が遥かに高いのです。

この歯周炎と糖尿病などの生活習慣病には、
関連が深いことが以前から知られていました。
これまでにはっきりしているものとしては、
糖尿病以外に心血管疾患と誤嚥性肺炎、
また非アルコール性脂肪肝炎との関連も報告されています。
歯周病はまた生活習慣病の元とも言える肥満や内臓脂肪の増加とも、
関連のあることが報告されています。
そのメカニズムはまだクリアには分かっていませんが、
インスリン抵抗性が炎症性サイトカインの増加などに結び付き、
歯周の炎症や細菌の増殖を促すとも言われています。

それでは、
生活習慣を改善して肥満を改善することにより、
歯周病にも改善が見られるのでしょうか?

今回の研究はその点を明らかにする目的で、
年齢が31から64歳、
BMIが25以上の肥満男性で、
定期的な運動習慣のない71名を登録し、
そのうちの50名は運動プログラムを実施し、
残りの21名は食事指導のみを実施して、
12週間の治療を行ない、
その前後での歯周病の状態と、
運動プログラムを実施した場合と、
食事療法のみの場合との比較を行なっています。
運動は有酸素運動もしくは加圧運動を、
週に3回継続して行っています。
食事療法は1日の摂取カロリーの目標を、
1680キロカロリーに設定して指導を行なっています。

その結果、
運動療法群においては、
12週間の治療の前後で、
あまり体重の変化は認められませんでしたが、
歯周病の重症度の指標である、
歯周ポケットの深さが4ミリを超える比率は、
治療前の14.4%から5.6%へと有意に減少していました。
また、BOPと呼ばれる検査時の歯周からの出血率も、
39.8%から14.4%に減少していました。

つまり、運動療法を施行することにより、
特に歯周病の局所の治療などを行うことなく、
対象者の歯周病の状態は改善していたのです。

そして、興味深いことに食事療法群では、
より体重減少には効果が認められたのですが、
歯周病の指標の改善は認められませんでした。

歯周病の運動による改善効果は、
体重やLDLコレステロール、空腹時のインスリン値とも、
関連が認められました。

つまり、運動による内臓脂肪の減少や脂質代謝の改善が、
歯周の炎症にも良い影響を与え、
歯周病を改善するという可能性が示唆されたのです。

今回の結果は例数もそれほど多くありませんし、
試験のデザインもそれほど厳密なものではありません。
従って、今回の結果をもって、
歯周病に運動が有効、というようには言い切れないのですが、
それほどの関連がなさそうな、
歯周病と運動との間に関連があり、
食事との間にはそれほどの関連がなかったという結果は興味深く、
今後の更なる検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ラッキー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ラッキー.jpg
90歳の1人暮らしの男の日常を、
淡々と綴った侘び寂び系の映画、
「ラッキー」を観て来ました。

「パリ・テキサス」が印象深く、
数多くの映画に脇役として出演した、
実際に90歳のハリー・ディーン・スタントンが主役で、
監督はこちらも名脇役として、
多くの映画に出演しているジョン・キャロル・リンチが、
初のメガホンを握っています。
更にはデビット・リンチ監督が、
役者として重要な役を演じている、
というおまけも付いています。

内容はジャームッシュの名作で、
2017年の私的ベストワン映画「パターソン」に良く似た構成で、
何気ない主人公の日常を、
繰り返しジャズのセッションのように描き、
それが微妙にアドリブのような変化を見せて、
印象的なクライマックスに至り、
主人公の心が大きく変化するのですが、
ラストは再び同じ日常の繰り返しに戻る、
という物語です。

「パターソン」に描かれた地方都市も印象的でしたが、
今回は西部劇の舞台のようなアメリカ西部の砂漠で、
朝の自宅の体操と一杯の牛乳から始まって、
行きつけのコーヒーショップ、
牛乳を買う店、行きつけのバーを、
順繰りに巡るだけの日常が繰り返されます。

ただ、人間ですから当然その繰り返しにも終わりがある訳で、
ある事件から主人公はその「終わり」が近いことを感じ、
そこから日常は変わらないながらも、
「人生の最後」への考察が始まるのです。

この辺はテーマ的にはウディ・アレンの、
「ハンナとその姉妹」に似ています。
あの映画でも主人公がひょんなことから、
人生の虚しさに気付いて葛藤を繰り広げるのですが、
ラストはマルクス兄弟の古いコメディを見て、
「生きることを笑おう」というある種の悟りに至ります。

そしてこの「ラッキー」でも、
主人公は色々の葛藤の末に、
「生きることは無だ。だから笑おう」
という結論に至ります。

どうなのかなあ…

個人的には如何にもステレオタイプで薄っぺらな感じがして、
この結論にはあまり乗れませんでした。

何処かのCMみたいでしょう?

悪い映画ではないと思うのです。

構成も緻密に出来ていますし、
主人公はとても魅力的で、
取り巻く個性的な町の人も良いですよね。
映像も美しいですし、キャメラと音効も素敵です。
ずっと仏頂面のおじいさんが最後に笑うんですから、
上手く手来ていますよね。
「赤い部屋」とか、
ちょこっとデビット・リンチ的な世界が、
アクセント程度に添えてあるのも良いのです。

ただ、もう少し周辺にドラマがあっても良いかな、
と個人的には思いました。
途中のパーティーの歌は、
勿論良いと感じる人がいることは分かるのですが、
ちょっと牧歌的過ぎて蛇足に感じましたし、
結局最終ヒントは日本兵と戦った思い出ですか…
ということになると、
少し切ない気分になるのです。
まあ、仕方ないのですけどね。

ディテールは非常にアメリカ的なので、
映画館で1回で全て理解するのは難しいとも感じました。
またテレビ画面で見かえすと、
印象は変わるかも知れません。

そんな訳で個人的にはそれほど乗れなかったのですが、
鑑賞する価値は充分にある、
非常に個性的で美しい映画だと思います。
「パリ・テキサス」の好きな方には、
確かに交互に観るととても味わいが深いのです。
人生の放浪を詩的に感じさせます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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